敵はハウトゥーファンタジーに乗っていた通りに来た。西の方角から50人、15時に。
騎士長は俺の要望通りに動いてくれた。おかげで俺は高い場所から指示を出し、滅び行くドミーナ王国兵の姿を眺める事が出来た。
「お前を信じていなければ今頃スフィーダは滅んでいたな」
俺と同じように高い場所から指揮を執っていた騎士長は嬉しそうにしていた。この光景を見て喜ぶ辺り、やはり騎士長と俺は似ている。
「でしょう?」
「しかし、お前のたてた作戦はやはり面白いな。それに効果的だ」
俺がたてた作戦とは敵をスフィーダ王国に招き入れ、予め家を解体して燃えるように細かくした木材を大量に散りばめた石床の場所まで進行させ、火矢を放つというものだ。
ドミーナ王国の兵は石床を踏んだ時点で終わりだ。前も後ろも火に囲まれる。半端に甲冑を背負ってるのが裏目に出たな。重たくて火の中を走り回る事なんて出来ない。ちょっと可哀想だが、ドミーナ兵の蒸し焼きの出来上がりだ。
こちらは高い場所から火矢を放つだけで無傷で勝利出来る。最高に楽な仕事だ。栄養失調で弱った兵でも十分にいける。
「いやー壮観ですねえ騎士長! これが作戦の重要性ってやつですよ」
「最高だな」
そして、俺の作戦はこれだけに留まらない。こいつらを追い払ったらまた次の兵がやって来る。根本的な解決をしなければならない。ならばどうするか。ドミーナからなんもかんもむしりとってやる。
「騎士長、1人偉そうなのを捕虜にしてください」
「お前……その顔、まだ何か企んでいるな?」
「わかります?」
「当然だ。どうも俺とお前は似ている気がする」
騎士長もそう思っていたとは。この人とは仲良くやっていきたいものだな。
「俺もそう思います。悪いんですけど、準備があるんでここは任せます。捕虜の準備出来たら教えて下さい。作戦室にいるんで。それじゃ」
火は完全にまわり始めた。もうほぼ何もしなくても勝っただろう。勝ち戦を眺めているのもいいが、時間は有限だからな。次の行動を決めていこう。
次はやっぱりドミーナを溶かすかな。やっぱり目には目を歯には歯ををでいきたいな。でも正攻法だとやられるのは間違いなくこっちだ。さーてどうっすかな。
「メアリー。ハウトゥーファンタジーでドミーナ王国の食糧事情を調べてくれ」
「んーっとね。今は食べるのに困ってないみたいだけど、元々自給率が低いみたい。土地がやせ細ってるのねー。何年後かにここと同じような状況になるみたいよ」
「ひょっとしていろんなところに戦争ふっかけてない?」
「なんでわかったの? 今はウォーム王国ってところとモントーネ村に戦争を仕掛けてるみたい」
勝った。ドミーナのトップはアホか間抜けだな。飯が欲しいからっていろんなところに戦争ふっかけてりゃ国力が落ちるだろうに。こりゃいけるぞ。戦争に多くの兵が駆り出されてるって事は重要施設もごく一部を除いて手薄って事だ。落とすのはたやすい。
この手の食糧確保方法だと各地に食料庫を作ってるはずだ。通常なら重要施設に分類されるが、ドミーナのお花畑トップは1つ1つは大して重要だと考えてないはずだ。1つでも落とせばスフィーダの兵はある程度回復する。
「この辺にドミーナ王国の食料庫があるはずだ。場所と警備の数を」
「すごーい。ほんとにある。北東にあるわ。警備は12人。距離もそんなに離れてないわ」
ちょろい。ちょろすぎる。ちょっと行ってちょっとで帰ってこれる。スフィーダ王国の問題が1つ解決する。後は土地を取り返すだけだ。
「これで俺のスフィーダ王国での地位は確立されたも同然! 流石俺様。素晴らしいな」
「ふふっ。公平様、楽しそうですね」
「最高だ。智将ってのはこうじゃなくちゃ。時にアンジェ、お腹空いてないか?」
作戦の準備で昼を食べている時間が無かった。味の薄いスープでも食べるのと食べないのとでは雲泥の差がある。
「え? 空いてないと言えば嘘になりますね」
「ほれ、これ食べな」
さっき部屋に戻った時に持ってきた豆パンを渡した。例のごとく賞味期限が今日までなのだ。さっさとお買い物スキルを獲得しないと現代備品が底をつく。この後の食料庫襲撃でも使うしな。俺もコッペパン食べよ。
「本当に、公平様には驚かされます。今こうしてドミーナ兵を追い払っているだけでもすごい事なのに、この後は食料を確保するつもりなんですよね? 驚きです」
「それこれも全ては嫁、もといアンジェと俺の生活のためだよ」
嫁を育てて世界を救え。しゃくだけど、俺の好きなように生活するためには、天使の言った通りに色々と救わなきゃならないようになっているらしい。
「嫁……ですか。嬉しいです。公平様に出会わなかったら、今頃私はスフィーダ王国と共にこの世を去っていました。何もかも、全てあなたのおかげです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。もっともっと頑張ってアンジェに良い暮らしをさせてあげるからね」
「私も、もっともっと公平様の役に立てるように、公平様に尽くしますね」
その後、特に会話も無く、もそもそとパンを食べていると、騎士長が嬉しそうな顏をして入ってきた。
「おう、勝ったぞ。捕虜も確保した。喜べ、隊長だ」
「お、本当ですか。捕虜と話しをさせてください」
「そう言うと思ってもう連れてきてある。来い!」
「……クソっ!」
現れたのは顏のところどころにすすを付けた若い男だった。この若さで隊長って事はそれなりに将来を期待されてるんだろうか。まあ、どうでもいい。俺が欲しいのは情報だけだ。
「やあやあ残念だったね。簡単な戦だと思ってた? 君の名前は?」
「……」
「黙ってちゃわからないなあ」
捕虜の尋問とか当然やった事無いからなあ、どうすればいいんだろう。こんな時騎士長ならどうするのかな? そう思って俺は騎士長を見た。
すると、騎士長は俺に向けて軽く笑った後剣でドミーナ兵の首を薄く切った。
「お前にも国に家族がいるだろう? ん? 死にたいのか?」
「し、死にたくない。話したら殺さないでくれるのか?」
成る程こうするのか。さっきまでのふてぶてしい態度はあっという間に消え去って、今はとんでもなく低姿勢になってる。
「それは君の態度次第だな。さあ、さっきと同じ質問だ。君の名前は?」
「ハ、ハデル」
「よしよしハデル君。この辺に食料庫あるよね?」
「え、な、なんで知って……」
「君は聞かれた事だけ答えればいいんだよ。場所と警備してる人間の数を教えて?」
俺達は聞かなくても知ってるけど、騎士長は別だ。兵を動かすためにはここで言質を取らなければならない。面倒だが、必要な行為だ。これも信頼さえ勝ち取れば省ける工程なんだけどなあ。
「ほ、北東に12人態勢で警備してる」
「俺達とってもお腹空いてるんだけど、食料庫奪うの協力してくれる?」
「そ、そんなの!」
「出来ないの?」
俺は黙ってハデルを見つめた。ハデルの瞳が忙しなく動いている。迷っている証拠だ。追い打ちをかけよう。
「せっかく君だけは生かしてあげようと思ってたのに」
「や、やる! 協力します!」
「うんうん、そうだね。その方がいいと思うよ。そしたら騎士長、ハデルはとりあえず牢に入れて、俺達はこの後の事を話しましょう」
「わかった」
騎士長が入り口に立っていた兵に命令を出してた。すると、ハデルは2人の兵に脇を抱えられて、部屋から出て行った。
「しかし、お前、中々のゲスっぷりだな」
心外だな。まさか騎士長にそんな事を言われるとは。せっかくスフィーダ王国のために働いているの酷いよ。
「せめて智将っぷりだと言ってください」
「はっはっは。悪い悪い。それで? 何か策があるんだろう?」
「いえ、ありません。普通に攻めましょう」
「だが、兵がいないぞ。皆腹が減ってまともに戦えない」
「そこで今回の作戦が役に立ちます。ドミーナ兵が乗ってきた馬があるでしょう? あれ食べましょう。ちょっと焦げてるかもしれないですけど、食べれない事はないと思います」
「馬を!? 食えるのか?」
ああ、この世界じゃ馬は食い物じゃなくて乗るものとしてしか認知されて無いんだな。やっぱりこの辺の思考の差は武器になる。
「ええ。美味しいですよ」
「食えるのか……だとすればなんとかなるかもしれないな。火も石床だからすぐに収まるしな」
「食べて少し休んだらすぐに仕掛けましょう。弓で夜襲です。それが終わったらドミーナ王国を無力化します。協力してください」
「お前……」
騎士長は半ば呆れていた。無理を通り越して無茶だとでも思っているんだろう。だけど、いけるんだな、これが。どうやって説得しようかな。
「大丈夫です。公平様なら出来ます」
アンジェが自信たっぷりに言ってくれた。
「俺達ならやれます」
俺も自信たっぷりに言い切った。
「しょうがない、協力してやる。戦乙女のお墨付きだしな」
そう言って騎士長は兵に馬を食わせに行った。彼を失望させないように必ずドミーナ王国を溶かさなければ。気合を入れよう。
「こーへー。さっきの戦闘であなたにも経験値が入ってるわよー」
「どれどれ」
『戦乙女アンジェ。愛情度25 レベル3 育成度125』
『里中公平 育成能力40 経験値550』
しょっぱいな。たったの50しか入ってねえじゃん。育成能力も上がってないし、アンジェの育成度もほぼ上がってない。やっぱりご飯を食べさせるだけじゃダメだな。もっと色々試してみよう。