148日
朝日が目に染みる。素晴らしい目覚めだ。
数日前の出来事。アンジェのダスクエリアにデビルと名乗る謎の女が現れて俺達にケンカを売ってきた。世界を滅ぼすだの世界を救うだのなんだの言っていたが、俺のやる事はただ1つ。国を大きくして沢山の嫁をゲットする事。ただそれだけ。この思いを揺るがしてならん。
「ふ、ふん! だから、ホーリーにこの間の事聞きたいだなんてちっとも思ってないんだからね!」
決まった。ちょっと顏を斜め上にして言ったのが功を奏したのか、今のはどこからどう見ても、どう聞いてもツンデレだっただろう。だからどうしたという話しだが。
「あんた、傍から見たらすごい痛い人よ?」
聞こえるはずのないの声が何処からか聞こえてきた。今我の部屋には我一人なのだぞ? 声がするなんて、こんなの絶対おかしいよ!
「誰だ!? え!? ホーリー!?」
なんでいるんだよ。ここ、ダスクエリアじゃないぞ。普通にユグドラシルなんですけど。というよりも、気持ちの良い朝の気分をぶち壊しにするのはやめてほしい。
「べ、別にデビルの事を説明しに来た訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」
「ウルセノダマレノペルケテルミーノ。パクんじゃねーよ。何しに来たんだ」
「今しがた言ったじゃない。あんたの疑問に答えてあげようと思ってわざわざ来たのよ。感謝なさい」
「ふ、ふん! 別に、あんたなんかに感謝するいわれはないんだからね! というのはまあいいや、ツンデレは置いておいてだ、長くなるんだろ?」
「やーん。犯されるー♪ たすけてー。この人私を部屋に閉じ込めて監禁しようとしてるのー。いやーん♪」
「ホントに犯すぞこの野郎!」
ホーリーと話しているとどういう訳か会話の9割がコントになってしまう。何故なんだ。考えたくもないが、まさか似た者同士だからか? くそう。朝から無駄な体力使わせやがってよお。
精神的に重い足を引きずって、歯を磨く。皆も朝起きたらまず第一に歯を磨くべきだ。寝起きの口内の細菌はうんこと同等だそうだ。つまり、寝起きですぐご飯を食べるということは、うんこを食すと同じ事のなのだ。これテストに出るから、覚えとくように。
「待ちくたびれたんですけどー。あんた歯磨くのに時間かけ過ぎ。どんだけキレイキレイしてんのよ」
「うるせー。エチケットは大事なんだぞ? てか、何食ってんだよ?」
外での歯磨きを終え、ハルの作った朝飯片手に部屋に戻ると、ホーリーはどこから取り出しのか、ポリポリと丸い何かを両手で持ってかじっていた。まるでハムスターだ。
「これ? 天界ビスケット。結構美味しいのよ? 私のかじりかけあげる」
「なんでだよ! 普通に余ってんだからそっち寄越せよ!」
俺はツッコミつつ、朝食の乗った盆を丸テーブルに乗せて、座った。すると、
「でも私のかじりかけ食べたいでしょ?」
と言いながらホーリーがかじって半分程の大きさになってしまったクッキーをこちらに差し出しながら、太ももが密着する程距離を詰めて来た。
「超食べたいっす! ……なんて言うわけねえだろ! いいよ、俺は腹が減ったから普通にご飯食べるよ。朝からお菓子って気分じゃないし」
「ノリツッコミご苦労様。美味しそうね。ポリポリ」
「ポリポリとか口で言うな。というかビスケットのクズが飛ぶだろう。離れろよ」
「イヤ」
即答かよ。白いミニスカートにニーソックス、胸を強調するかのごとくピッタリのサイズのセーターを着ているホーリーは、朝から見るには非常によろしくない。
むっちりと肉付きのいい太ももが、薄手の作務衣を着ている俺の太ももに密着している。これは非常によろしくない状況だ。
というかあれな。天使のくせに服装は随分と馴染み深いものを着てるのな。ダスクエリアで会う時は、大きな白い布切れみたいなので体を覆って、それっぽい格好してるのに。
こっち来てからそんな服着た女の子見るの初めてだわ。皆地味な色のスカートとかだから、妙に新鮮だ。何度も言うが朝から見るのは非常によろしくない。
「ん? この格好? 可愛いでしょ? あんたの元の世界の女の子参考にしてみたんだけど、その反応を見るに悪くないみたいね。惚れてもいいのよ?」
「惚れねえよ。てかマジ離れろ。朝からこの状況はその……色々マズイ」
あ、マズイ。今の完全に失言だった。俺の言葉を聞いたホーリーはものすごいニヤニヤした顏でより一層俺に体を近づけてきた。
太ももどころかその豊かな胸も当たりそうですYO!
「んん~? 何がマズイのよ? 言ってみなさい? ほらほら。うりうり~」
「うるせえ! 俺の体に触るな! くそう……もういいよ。いただきます」
もう俺はホーリーを引き剥がすのを諦め、朝食をいただく事にした。せっかくの料理も冷めてしまったら美味しくなくなっちゃうからな。
どれどれ、まずは鶏肉と葉野菜のバンバンジー風でも食べますかね。……うーん、実に美味い。次は、牛肉ごろごろ鶏がらスープ。硬めのパンをスープに浸してーの。
「おいちー」
「あ、その魚美味しそう。あーんして」
やっと静かになったと思ったら、また急にこんな事を言い出した。しかもよりにもよって、大切にとっておいた俺の魚の煮付けをご所望ときた。どんだけ~。
ちなみにこの間ホーリーは片時も離れずに俺に密着しながら、天界ビスケットをポリポリしつつ、たまに天界牛乳をぐびぐび飲んでいた。
「一口だけな。ほれ」
国で俺しか使えないのに、わざわざエルフに作ってもらった高級箸で、皮ごと身を掴んでホーリーの口に運んでやった。小さな口をもぐもぐとさせていた。
生意気な事言わないように口にチャックしてたらやっぱりこいつは相当可愛い。カンナといい、なんでこう残念な女に限って魅力的なんだ。
「おいしー。もう一口もう一口」
くそう。なんて無邪気な要求。これは答えざる負えない!
「うーん、おいちー。牛肉スープもちょーだい。さっきから気になってたのよねー」
そうしてホーリーの要求通り食べさせていると、気が付けば半分以上をホーリーに食われていた。俺の朝飯が……。
当の本人は満足気に「げふー」とか口で言ってやがる。なんて厚かましい女だ。一瞬でも可愛いと思ってしまった俺を殴りたい。
「お前ホント何しに来たんだよ。人の飯奪いやがって」
「そんなにカリカリしないの。ほら、天界ビスケットと天界牛乳あげるから。今なら天界クッキーも付けちゃう。どれもカルシウム豊富で体にいいのよ?」
「どれも食いかけじゃねえか! せめて新しいのを寄越せよ!」
「でも私の食べかけ食べたいでしょ?」
「おお神よ……」
「アーメンハレルヤピーナッツバター」
「人のセリフパクんじゃねえ! クソビッチめ!」
「あら、失礼ねー。私誰にも体許した事ないわよ? あんたみたいなヤリチンじゃないし」
「朝から生々しい会話すんじゃねえ!」
「そっちから振ってきたんじゃない」
ええい、くそう。なんで朝もはよからこんなにツッコまにゃならんのだ。ホーリーと会話するのに俺だけじゃツッコミが追いつかん。そもそも俺ツッコミキャラじゃねーっての。
「なんでもいいから、デビルだかってやつの話しをせんかい!」
「もうちょっと構ってくれたっていいじゃない。あんた自覚ないみたいだから言うけど、私と会話出来るって貴重なのよ? いや、ホントもう超貴重なんだから。それもこんな体密着させてお話なんて、ホント貴重なんだから。なんてったって私、天使だから」
うぜえ! 天使って皆こんな感じなんか? いやそんなはずはない。こいつが例外なだけだ。神話に出てくる天使とかはもっと、正しく導いてくれる。間違っても人の朝食をねだってくるような輩ではない。
「わかった。じゃあ貴重な、いやホントもう超貴重な体験をさせていただいている天使様にご質問です。あなた一体ここに何しに来たんですか?」
「んー? 嫌がらせ」
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