嫁を育てて世界を救え!~異世界転移物語~   作:妖怪せんべえ

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32話 勇者王誕生!

さてさて、そんなこんなでいつものメンツを引き連れてアンジェが掘り当てたという温泉までやってきた。

 

 重点的に開拓が進められている俺の部屋から20分程歩いた場所にあり、立地は最高と言える。

 

「すげーな」

 

 騎士長の感想はもっともだ。俺も思わずそう呟いてしまった。カンナも俺の後ろからひょこっと顏だけを出して、関心している。

 

 軽く2、30人は同時に入れるであろう広さの大浴場が出来上がっているのだ。湯気に混ざるわずか硫黄の匂いが子供の頃に行った温泉街を思い出せた。

 

 ここを中心に浴場施設を作ろう。ちゃんと冬でも楽しめるように屋根もつけて、将来的に番台をたてて経済も回るようにしよう。

 

 後は、川を探してひっぱてきて冷却設備を作ろう。そうすれば風呂あがりに冷たい牛乳なんかを楽しむ事が出来る。これは間違いなく立派な娯楽施設になるぞ。

 

「公平様、私やりました!」

 

 褒めてと言わんばかりに胸を張るアンジェの頭を撫でた。いや、しかし実際偉い。懸念されていた娯楽施設の1つが、労せず手に入った形になった。

 

 一体どうやって掘り当てたのだろうか。周辺に多数のクレーターが見受けられる事から、なんとなくの察しはついた。その疑問は口にしない方がいいようだ。

 

 最近のアンジェは嫉妬というものを言動でも態度でも表すようになった。元々その気は見受けられたが、カンナとパーティーを組むようになってからその傾向がより一層強まった。

 

 恐らくは今回も俺が何かをやらかして、そのストレスの発散のために周辺の地形を作り替えるという作業に勤しんでいたのだろう。その過程で温泉が見つかったのは、アンジェにしてみれば超ラッキーだ。

 

「とりあえずはそうだな。周辺のクレーターを修復して、温泉に入れるようにしよう」

 

「はい!」

 

 嬉々としてクレーターの修復作業に向かうアンジェ。あの様子ならば、下手に人間の手を貸すよりも早くクレーターの修復が終わりそうだ。

 

「その間我々は簡易の脱衣所でも作りますかね」

 

 俺と騎士長はこの後起こるであろうイベントに心踊らせながら脱衣所の製作に精を出した。もちろん顏には出さずに、だ。

 

 

 

 さて、そうして簡易の脱衣所の製作も終わり、周辺のクレーターの修復も完了した現在、エルフ含める、国の全ての女が温泉に浸かっている。と、なれば男どものする事など決っている。

 

「覗きだあああああ!」

 

 国から有志を募って集まった、自称勇者の群れが雄叫びをあげた。もうわかっていると思うが、勇者の群れには俺と騎士長もいる。と、いうか有志を募ったのは主に俺と騎士長だ。

 

「いいか? 大浴場の構造自体は簡単だ。周囲を覗き防止用のついたてに守られているだけだ。そのついたても作る際に覗き穴を作っておいた。だが問題なのは――」

 

「――カンナが仕掛けた呪い及び罠の数々」

 

「そうだ。目標はここから500メートル先にいる。どこにどんな呪術が仕掛けられているのかは俺にもわからない」

 

 一応さっきカンナに聞いておいたのだが、なぜ知りたいの……? と言われてバカ正直に答える奴はいない。つまり、知らないのだ。

 

 無理に聞けば教えてくれただろうが、それでは意味がない。覗きとは困難の先に見える桃源郷を楽しむものなのだ。男のロマンなのだ。

 

「重要なのは仲間意識だ。いいか? 俺達はチームだ。誰も見捨てるな!」

 

「応!」

 

 勇者達の気合のこもった一言と共に、俺達は進軍を開始した。現在位置は目標まで400メートル。罠があるとすればここら辺からだ。

 

「うあっ!」

 

「どうした!?」

 

「う、うんこだ! 犬のうんこを踏んじまった!」

 

「なんだって!?」

 

「お、オレはもうダメだ……。お前らだけでも桃源郷へ行ってくれ!」

 

「何を言っているんだ! たかが犬のうんこを踏んだだけじゃないか!」

 

「うるせえ! 自分の事は自分が一番わかってる。いいから行け。どうした行けよ! 走れええええ!」

 

 くっ。すまない、名前も知らないエルフ。お前の想いは決して無駄にはしない。俺達は必ず桃源郷へ辿り着く……!

 

 だが、俺達に振りかかる苦難がこれしきで終わるはずもなく――。

 

「うあっ!」

 

「どうした!?」

 

「ワイヤートラップだ! 皆止まれ!」

 

「なんだって!?」

 

 ワイヤーなんてどこから出てきた。これはあれか? 覗き回に付き物のご都合主義か?

 

「大丈夫だ。ワイヤートラップであれば、引っかからない限り問題はない。またぐんだ」

 

「応!」

 

 カチっ! ドーン!

 

「うわああああ」

 

「なんでだあ!? なんで空からタライが落ちてくる!?」

 

「うわああああ」

 

「どうした!?」

 

「なんか魔法陣が……」

 

「くそお……くしゃみが止まらねえ……!」

 

 むごい……。周りを見渡せば、ちんこマシーンの餌食になった人、呪術で動いているであろう尻叩きマシーンに永遠とせっかんをされているエルフ。

 

「待ってろ! 今俺達が助けてやる!」

 

 無事なのは俺と騎士長だけだった。桃源郷まで残り、50メートル程だというのに、志半ばで諦める訳にはいかない。

 

「バカ野郎! 俺達に構うな!」

 

「でもっ!」

 

「いいから! お前達が見たものを! 俺達に! 伝えてくれ!」

 

「くっ……!」

 

 俺達は目に涙をためながらその場を後にした。後ろは振り返らない。決意が折れてしまいそうだから。涙は流さない。戦友達はまだ生きている。

 

「いっけえええええええ!」

 

 それが俺と騎士長、どちらの叫びだったのかはもはやわからなかった。そこにあるのは、ただ純粋な覗きたいという男の欲望だけ。俺達は光になった。

 

 バキバキッ。俺達の想いに呼応するかのように、大浴場を囲っていたついたては1人でに倒れ始めた。

 

 見える! 俺達にも目標が見える!

 

「うお!? なんじゃお主ら? そんなところで何をしとるんじゃ?」

 

 血走らんが如き勢いで目を見開いていた俺達の網膜に焼きついたのは、モントーネ村の村長の股間だった。

 

 俺達はこれを墓まで持っていく事を約束した。犠牲になるのは俺達だけでいいんだ。勇者はそうしてひっそりと歴史の闇に消えていくんだ。

 


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