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9日目
時は流れて9日目。いつものメンツである俺、メアリー、アンジェ、騎士長の3人プラス一匹? はいつものごとく馬車に揺られていた。
目的地はウォーム王国。後回しにしていたドミーナ王国の扱いについて協議しに行くのだ。ちなみに、現在スフィーダ王国とウォーム王国は正式に協力関係を結んでいる。
日々の疲れを癒やすためにスフィーダにて1日の休養を楽しんでいる内に、どうやらウォームに送った使者が再び書簡を持って戻ってきたらしい。内容はまあ、要約すればこれからケンカしないで仲良くやりましょう。ってな感じだ。
なんでこんなにあいまいな協定にしたかというと、後になって柔軟な対応をとる事が出来るからだ。最初にガチガチに決めてしまうと、少しでもルールから逸脱した事態に陥った時に対応が後手に回ってしまうからだ。
有事の際にのんきにトップ同士でここはあーでアンタんとこはこーでしょ、なんてやってたら時間の無駄どころか国の危機だ。そんなのは勘弁だからな。
「ところでさ。一昨日からカンナの姿が見えないんだけど、誰か知らない?」
一昨日の夜に会話してから顏を見ていない。元々神出鬼没なところがあったから気まぐれでいなくなっているのかもしれないけど、流石に2日も見ないとちょっと心配になってくる。
「そういえばいませんね。影の薄い方ですから気付きませんでした」
ん? アンジェさんや、なんか言い方がトゲトゲしくない? 俺の気のせい?
「お前達と一緒に戻ってきたんじゃないのか? 一緒に行ったんだろ?」
「そうなんだけどね、シャラからこっちに戻ってくる時には既にいなかったんだ。また馬車の荷台に隠れてるんだとばかり思ってたんだけど、まさか置いてきちゃったのかな?」
「あの方に限ってそれはないでしょう。地獄に落としても這い上がってくるような方ですから。どうせまたフラッと姿を見せるに決まってます」
「お、おい。お前らケンカでもしたのかよ。随分カンナの事を毛嫌いしてるじゃねえか」
あ、バカ。どうしてそうヤブを突こうとする。ヘビならぬはんにゃが出るぞ。
「そんな事はありませんよ? ただちょっと公平様に対して馴れ馴れしいかなって思う時はありますけど」
「ひっ!」
言わんこっちゃない。またアンジェが笑顔のままで背中にはんにゃを浮かべているじゃないか。これは余計な事は言わない方がいいだろう。こっちにまで飛び火しては敵わないからな。クワバラクワバラ。
「で、だ。ドミーナの事についてだけど、皆の意見も聞いてみたいんだ」
俺はタイミングを見計らって言った。正直なところ、俺は悩んでいた。このままドミーナを滅ぼしてドミーナの全てを資源として利用していいものかと。
確かにドミーナのトップはクソだった。あのクソっぷりを見るに、王家の人間、ないしはその側近ももれなくクソだと考えて問題ないだろう。だが、ドミーナの国民に罪はあるのか、という話しになった時、答えはノーだ。
結局はトップの命令にイヤイヤ従わせられていたのだから、しょうがないといえばしょうがない。だがそれはあちら側の都合であり、こっちには関係が無い。こっちから見たらドミーナは侵略国だ。国民全てが敵と思っている人も少なからずこちらにいる。家族を殺された兵士とかね。
ドミーナの民全てを奴隷として侵略された国の復興やなんかに充てた場合の効果は凄まじいものがある。が、それだと人道的な見地から見ると、外道になってしまう。だが、奴隷とした時の効果はないがしろに出来ない。
ああ。相反する思いにがんじがらめだ。まるで三角関係で友情をとるか愛情をとるかで悩んでいるみたいだ。今ならわかる。三角関係に陥ってるキミ、決断するのって難しいね。
「どうするったって、なあ。あんだけドミーナを滅ぼすって息巻いてたのどうしたんだよ?」
「んー。事ここに至ってドミーナの人が可哀想になってきてさ」
「可哀想、ねえ……。魔王らしくもない」
「茶化すなよ。迷ってんだよ。確かにドミーナって国を滅ぼす事に抵抗はないさ。けどさ、滅ぼすからってドミーナの全てを失くすのもどうかと思ってさ」
「だからってドミーナを残す訳にはいかないだろう。いろんなところから反発が起きかねない。最悪、せっかく手に入れつつある地位も失うかもしれないんだぞ?」
俺は肩をすくめてお茶を濁した。地位って言ったってなあ。俺は元々そんなものに興味はない。ただ、自分の国を作って好き勝手やりたいだけだ。その過程で周りが勝手に俺を持ち上げてるだけだ。
それが必要な事だっていうのはちゃんとわかってる。だけど、今はそれが邪魔してる。侵略国の民を思いやっている辺り、俺は悪になりきれない、ただの人間だ。
「公平様はどうしたいんですか?」
「俺かい? 俺は……そうだな、敵とか味方とか関係なく手を取り合ってもらいたい」
「なら、もう答えは出ているじゃないですか。後は、公平様がどうやってそれを実現するかじゃないですか?」
そっか……。そうだよな。俺は俺なりに、俺に出来る事をやればいいんだ。同じ生き物なんだ。やってやれない事はないさ。なら、やる事は固まった。
「ありがとう、アンジェ。俺決めたよ」
「私はどこまでもついていきますから」
そう言って微笑むアンジェは、やはり俺の嫁だった。
ウォーム王国に着いてからの物の運びはスムーズだった。恐らく、ブリッツ王が事前に根回しをしていたのだろう。ウォームに着くなり、すぐに王宮へと連れられ、少し豪華な部屋――客間だろうか――に案内された。
「おお、公平。よく来てくれた」
約3日ぶりに会うブリッツ王は、以前に比べてずいぶんと元気があるように見えた。彼の頭を悩ませていたドミーナの問題が一段落した事が要因だろう。
「こんにちわ。ブリッツ王」
ブリッツ王は挨拶もそこそこに、従者に軽食と飲み物を用意させ、こう切り出した。
「ああ。知っていると思うが、我が国はスフィーダと正式な協定を結んだぞ」
「ええ、聞き及んでいます。ありがとうございます。これでスフィーダも安泰です」
「そうか。それはよかった。私としてはお前がこの先何を見せてくれるか楽しみでな。そのためにスフィーダには生き残ってもらわねばならないからな、援助は惜しまないぞ」
俺は世辞ともとれるブリッツ王の言葉に曖昧な笑みで答えた。代わりに、先程馬車で考えていた、つまりは本題へと話題を移行させた。
「ブリッツ王としてはドミーナの民をどう扱うつもりですか?」
俺の問いにブリッツ王は溜息ともとれるような動作で息を吐き出し、用意させた飲み物を飲んだ。そして、再び息を吐き出した。
ミルクティーに似たものだろうか。ゆらゆらと湯気を立たせているそれに、俺は初めて興味を持った。ブリッツ王が口に含んだのを見て、俺も一口飲んだ。やはり、ミルクティー似ていた。恐らくこれはこちらの世界のミルクティーと見ていいだろう。
「答えにくい事を聞くな。王としてとる行動であれば奴隷、といったところか」
「やはり、そうなりますか。他に方法はありませんか?」
「無理だろうな。下手に丁重に扱うと国民からの不満が上がりかねん」
だよなあ。やはりブリッツ王も俺と同じ考えを持ち、同じ考えに至ったか。即ち、ドミーナの民に罪はないが、奴隷として扱わなければならない、だ。
ここに来るまでの俺であれば、それを選ばざる負えなかっただろう。だが、今は違う。アンジェのおかげで、俺は1つの方法を思いついた。
「特区、という言葉はご存知ですか?」
「いや、知らんな。また、面白い事を言うつもりか?」
ブリッツ王は唇の端を少し釣り上げた。この人は、新しい概念を知るのを心底楽しんでいるのかもしれない。だから、俺のような新たな知の伝導者に対して礼節を持って対応してくれているんだろう。
「特別区域。そのままの意味です。一部区域をドミーナのためのものとするんです」
「ん? それは特別扱いになるぞ」
「いえ、それは我々の立場から見た時だけです。事情を知らない者からしたら、拘置所か何かだと思われるでしょう。……少し、長くなります」
俺はそう前置きして特区についての説明を始めた。
本来特区というのは経済特別区という意味で使われる場合が多い。だが、今回に限っては文字通りの意味での特区として考える。
まず、ドミーナの民が侵略された国々の民からは奴隷として扱われていると思ってもらう必要がある。そのため、通常の奴隷と同じように国の公益事業へと従事させる。だがその実それらは一般的に行われている労働とさして変わらないものとする。
ただ一点、労働の対価として支払われるものを特区でのみ意味をもつものにするのだ。それによってドミーナの民が得られた労働の対価はドミーナの民にのみ価値が発生するようになる。そうすれば、目に見えて彼らは奴隷として扱われていると思わせる事が出来る。
ドミーナの民が通常と変わらない生活を送るために、特区の中に極秘で食材や娯楽品などを輸入する。労働の対価として得られたものを料金として徴収しそれらと交換する。つまりは、特区の中でのみ完結する商いの態勢をつくるのだ。
もちろんドミーナに住んでいた頃よりはしょぼくなってしまうけど、これによってちゃんとドミーナの民の人権を確保する事が出来る。
ウォームの立場から見ても格安で公益事業へとあたらせる人材を確保する事が出来る。上に立つものが秘密を守る事が出来れば、だが。
「……なるほどな」
俺の長話に付き合うのに疲れたのだろう。王は椅子に座りなおし、すっかりと冷めてしまったミルクティー二口程飲んだ。
「区域を設けるのはウォームになるでしょうから、決めるのはブリッツ王です。私はブリッツ王の決定に従います」
ブリッツ王はしばしの間沈黙した。俺の提案は人道的だが、同時にリスクもある。奴隷の反発というリスクは減ったが、今度はウォーム王国民の反発というリスクが出てきた。全く、難しい話しだ。
腹を決めたのだろう。ブリッツ王が口を開いた。
「公平の案でいこう。ただし、ウォームの民には特区の存在を知らせる」
「あなたならそう言うと思ってました。ただ、全部教えるつもりですか? それはあまりおすすめしませんよ」
「そうだな。奴隷の扱いに関する実験を行うとでも発表するさ」
「そうですね。それがいいと思います。これ以上は……明日以降ですね」
気が付くと、すっかりと窓の外が赤く染まっていた。ずいぶんと長い事話し込んでいたようだ。意識すると、腹も減ってきた。
「そうだな。ところで、クロサレナの事だが」
難しい話しは終わりだと言わんばかりに、ブリッツ王は急に声のトーンを変えて言った。内容もカンナの事のようなので、世間話のようなものだろう。
「はいはい。カンナがどうしました?」
「カンナ? 公平が前にここを発ってからクロサレナの姿が見えなくてな、どこに行ったか知らんか? 魔法師の訓練教官なんだがな」
ブリッツ王はその後もあいつはよくフラッといなくなるから困る、と言っていたが、俺はそんな事は聞いていなかった。
あいつ、ブリッツ王に何も言わないで付いてきたのか。これは……素直に俺に付いてきましたと言うべきか? いやいや待て待て余計な事を邪推される。
俺がカンナに懐いていると知れば、ブリッツ王は間違いなくカンナをだしに俺を使おうとするだろう。そうなった時俺は断れる自信がない。なんだかんだ言いつつもカンナがいる日常に慣れてきてしまっているからな。
「いえ、私は知らな――」
知らない。そう言いかけた時、誰かがバンっと扉を開いた。いつかの騎士長を思い出した。そして、あの時は面倒な知らせを持ってきた。その例に倣うと今回も恐らく――。
「ちょっと公平! あなた今私の事知らないって言おうとしたでしょ! どういう事よ!?」
ああ、やっぱり今回も面倒を連れてきた。しかもなんかカンナのキャラおかしくなってるし。ああ、天使様、私はどうなるのでしょうか、なんて現実から逃避しようとしても、この場にいる誰もがそれを許さなかった。
「さて、色々と説明してもらう事があるみたいだな? 休憩がてら喋ってもらうとするかね。何、安心しろ。時間はたっぷりある。お前のためにここ2、3日分の公務は済ませてあるからな」
「そうですね。公平様は何か私達に言うべき事があるようですし」
ブリッツ王は悪ガキのような笑みを浮かべ、アンジェは笑顔で背後にはんにゃを出現させていた。
助けを求めて騎士長を見たが、彼は我関せずといった様子でメアリーと話し込んでいた。
「は、はは……。カンナ……」
「ふんっ! いい気味よ! 私の事知らないって言いかけた罰よ」
カンナ、マジでどうしたんだ。キャラ変わりすぎですよー、とはこの状況では言えず、俺は口を開いたり閉じたりしながら言い訳を考えていた……。