小説を読もうの方に一日連続3回投稿企画実施中。
投稿時間は7時、12時、16時となっています。
差し支えなければ小説を読もうの方に、感想、ブックマーク、ポイント評価お願い致します。作者のやる気に繋がります。
7日目
何事も起こらず翌朝。馬車を出ると眩しいまでの朝日が俺を迎えた。今日は快晴だ。何かいい事が……そんな事を思わずにはいられないような天気だった。
「あ、公平様起きましたか。朝食の準備が出来てますよ。食べられますか?」
アンジェが朝食を作っていた。たき火に乗せられた鍋がコトコトと揺れて、いい匂いを発している。見るに、どうやら肉煮込みのようだ。中身はきっと昨日狩った魔物の肉だ。
確か……昨日狩ったのはイノシシみたいなのと、巨大なウサギだったか。ウサギはエルフに提供しちゃったからイノシシか。てことは要するにぼたん鍋みたいなものか。そういや俺食べた事ないな。癖があるっていうけど、うまそうだ。だけど。
「今はいいや。村長んとこ行って結果を見てくる。ご飯はその後食べるよ」
「あ、じゃあ私も付いていきます」
「いや、アンジェは休んでて。昨日の連戦で疲れてるでしょ? 休む事も仕事だよ」
「……わかりました。気をつけてくださいね?」
アンジェは心配性だ。ちょっとそこの村に行くだけだというのに付いてこようとする。このまま付いて回る癖がエスカレートしてしまうと、終いには下の世話までされそうだ。要介護系主人公なんてダサすぎるからな、それだけは勘弁だ。
さて、付いて回るといえばカンナだ。彼女はもう付いて回るとかそういう次元じゃない。ストーカーを超越した何かだ。
昨日の晩、アンジェとメアリーが寝静まってからも、俺は妙に目が冴えていて眠りにつく事が出来なかった。そこで、夜風にでも当たろうと思い外に出た。そこまではよかった。
3分ぐらい片膝立てて座って風に当っていたんだけど、ふと誰かと話したくなり、ずっと背後に感じていた視線の主へと声をかけた。
「カンナ。いるんでしょ? こっち来なよ。少し話し相手になって」
俺がそう言うと、カンナは馬車の影からモソッと姿を表して、ゆっくりとこちらに近づき、俺の右隣りに体育座りで座った。夜風で冷えていたのか、カンナの体温がやけに温かく感じたのを覚えている。
「この間はありがとね」
「なんの事……?」
「ほら、俺が倒れた時、看病しててくれたじゃないか。なんかちゃんとお礼を言ってなかった気がしてさ」
「ああ、その事。私は当たり前の事をしただけ……感謝されるような事じゃない。だってあなたは私の運命の人だもの」
「あ、そ、そうなのね……」
「ずうっと……あなたの事を看ていたわ……。ふふ、あなたはあの時7回目の寝返りで、ベッドから右手を出したの。苦しそうだったわ……。私がその手を握ってあげるとね、あなたは嬉しそうな顏をして穏やかな眠りに落ちたのよ? ふふふ……」
「あ、ありがたいけど、怖いよ。普通の人がやったら感動ものだけど、カンナがやると何か別の意味を感じる」
「え……」
「ああ、いや。別に責めてるつもりはないんだ。看病してくれた事は本当に感謝している。本当だ」
「公平はどんな娘がタイプなの……?」
「え? うーん。そうだなあ……ツンデレ、とか面白いかも」
「ツンデレ?」
「うん。普段はちょっとツンツンしてるんだけど、2人きりになった時とかふとした瞬間にデレるやつ。べ、別にアンタの事なんか好きでもなんでもないんだからね! みたいな」
「……わかったわ」
「え、ちょ! 行っちゃった……。なんかすごいイヤな予感する。というかイヤな予感しかしない……」
だもんなあ。こんな調子でわずかな会話ですらストーカー感がにじみ出ている。カンナはものすごくスタイルが良くて可愛いから許されるけど、これで相手がクリーチャーだったらと思うと変な汗がにじみ出てくる。
「難しい顏をしてどうした、人間」
考え事をしながら歩いていたらいつの間にか目的地の元村長の家へとたどり着いていた。思考に耽ると周りが見えなくなる癖なんとかしないとなあ。
「人間はやめてくださいよ、ジュースさん。僕の名前は公平です」
「そうだったそうだった。悪いな、人間」
こいつ覚える気ないな。悪びれもせずに言いやがった。エルフがプライドの高い人種だというのは事前にハウトゥーファンタジーで知ってたけどさ。けどさ、人間はないでしょう。せめて固有名詞で呼ぶべきだと思うんだ。
「意思は固まりましたか?」
「ああ。村を移動させる。条件はしっかりと守るんだ、そっちもちゃんと守れよ」
「ええ、もちろんです。それじゃ、決まりですね。今日明日中に人と馬車を送ります。それまでに準備をしておいてくださいね」
「わかった。もう発つのか?」
「やる事が山積みなんですよ」
「そうか。気を付けてな、人間」
「だから人間って呼ぶのは……いや、やっぱもういいです。何かあったら現地の人間に言ってください。そうすれば、時間はかかりますが僕のところまで来ると思うので。それじゃ、僕達はもう行きますね」
これで、我が王国に移民第一弾が訪れる。エルフの方々には大した開拓は期待してないけど、最低家を作って狩りをしたりして小規模の生活環境は整えてくれるだろう。今はそれで十分だ。
本格的な開拓は奴隷と、何よりもドワーフが来てからだ。ドワーフが来たら、そうだな……銃の生産が優先されるか。多分、銃ぐらい売ってるだろ。天使もそこまで意地悪くないはずだ。見本となる品が手元にあればドワーフならなんとかなるさ。その点は大して心配していない。
やはり問題なのは経験値だ。ライフガードが1000という事は、銃はアメリカだと大体日本円に換算すると4万から高くても10万以下だ。てことは都合40万から100万の経験値が必要となってくる。それにプラスして予備のパソコンを購入すると、大体初期費用として120万くらいの経験値が必要となってくる訳だ。
シャラに着くまでの連戦でたった4万くらいの経験値しか稼ぐ事が出来なかった。これは何か対策を考えないとならないな。
家の防衛設備に関しては問題ないだろう。どっかから奴隷を連れてきて、防衛設備建築という労働を与えてやればいいだけだ。報酬は住むところと十分な食事。これだけでも奴隷なら喜んで飛びついてくるさ。
今後の展望を考えながら歩いていると、馬車の入り口に腰掛けて空を眺めているアンジェが見えた。
アンジェは俺の姿を確認すると小走りで近寄ってきた。
「おかえりなさい。どうでした?」
「うぃっす。バッチシだ。飯食ったら一回スフィーダに戻ってウォームへ行こう」
「はい。私もご飯まだなので一緒に食べましょう」
「あれ? 食べてなかったの?」
「はい。1人で食べるのは寂しいですから」
「1人? カンナは?」
「それが、朝から姿が見えないんです」
そういえば俺も見てないな。どっかに隠れてるんだろうか。まあでもカンナの事だ、その内ひょっこり顏を出すさ。いや、ジメッと顏を出すという表現の方が正しいか。