後書きの方にちょっとした企画の概要が書かれています。
よろしければそちらの方も合わせてご覧ください。
「相当な経験値が必要って言われてもいまいち実感がわかないんだけどよ、これ一本でどんくらいなんだ?」
騎士長はライフガードを指さしながら言った。
「1000」
「1000はキツイな……」
「……経験値が欲しいなら私が獲ってくるわ」
「ありがとうカンナ。だけど、いいんだ。経験値を稼ぐのは今じゃない。もう少し先でいい。当面は、ここら辺を開拓する事に心血を注ごうと思う」
せっかく手に入れた念願の領地なんだ。行動はさっさと行わないとな。
さしあたって重要なのは家の防衛工事だな。この世界にコンクリートがあるのかは知らんけど、とにかく固い壁で周囲を覆って、暫定的な防護柵としよう。
「よし! もうお買い物スキルの話しは終わり! この後の事を話し合おう」
俺は残っていたライフガードを一気飲みした。当然ながら炭酸飲料なので若干むせった。その姿を見たアンジェが心配していたが、強引に話しを進めた。
「騎士長は家の防衛工事の指揮を執って。俺とアンジェ、それからカンナは周辺の敵を片付けながら、昨日の魔物の移動で被害を受けた集落があるはずだから、そこを見て回ろう」
「あいよ。ま、家の事は任せろ。バレないように鉄壁の要塞にしてやるよ」
「頼んだよ。くれぐれも情報が他所に漏れないようにね。後、完成は早ければ早い程いいから、じゃんじゃんスフィーダの木材を使っちゃって。王様には俺から伝えておく。他にも必要なものがあったら言ってね。獲ってくるから」
現在スフィーダは木材が余っている。しかし、それ以外となると贅沢にじゃんじゃん使う訳にはいかない。だから、必要なものがあったら他所から奪ってくる、という選択肢しかない訳だ。
もっとも、アンジェとカンナがいるから大抵のところから獲ってくる事は出来るけど、後々になって遺恨が残る可能性があるからあまりやりたくないというのが本音だ。
「大口叩いた手前悪いがすげえのを期待されても困る。精々が木製の柵と物見やぐら、トラップの類で限界だ。もちろん鉄製の壁を作りたいって言うんだったら、素材さえあれば出来るが」
まあ、そんなもんだろうな。もともと過度な期待はしていなかったから、落胆はしていない。今の吹きさらしの状態よりマシになるなら御の字だ。
鉄製の壁が出来る頃には俺の領地はもっと栄えてるさ。少なくとも人が住んでいないなんて状態はないな。
「柵には大した期待してないから大丈夫。それよりも万が一の時頼りになるのは騎士長達な訳だから、兵士達には十分な食事を与えておいてね」
「あいよ。いつ頃戻るんだ?」
「そうだな。多分明日には帰ってくるよ。ウォームとの交渉もあるしね」
「わかった。そしたら、馬車持ってけよ。寝床に困るだろ」
「そうさせてもらうわ。んじゃ、行ってくる。アンジェ、カンナ、行くよ」
「はい」
「……ん」
そう言ってそれぞれアンジェが俺の左隣り、カンナが右隣り一歩後ろのポジションに移動した。そして始まる豪速球のキャッチボール。
「カンナさん。あなたもっと後ろの方に行って公平様の背後を守ってはいかがですか?」
と、笑顔のアンジェ。背後に見えるはんにゃは特殊能力か何かかな?
「アンタこそ、さっさと前に行って公平の道を切り開きなさいよ……」
ジトッとした目でカンナ。溢れ出る陰気なオーラは平常運転だな。
「いえ、せっかくの申し出ですが、私には公平様に付き従うという誓いがありますのでお断りさせていただきます。私と違ってあなたは公平様に近づく理由がないでしょう?」
「公平の近くにいると魔力が高まる……」
「お前ら、頼むから仲良くしてくれ……」
「まあその、なんだ。女の子に好かれるのはいい事じゃないか。羨ましいぞ?」
騎士長さん、肩に手を置きながら同情したような顏で言われても全然羨ましいようには見えないんですがねえ。
その後、アンジェとカンナが休戦したのを見計らって、俺達は騎士長に見送られながら家を後にした。
「しかしあれだなぁ」
「……?」
俺の独り言に隣で魔導書を手にし、魔物に雷の魔法を放っているカンナが反応した。
「いや、ずいぶんな数の魔物がいるなあと思ってさ」
そう。家を出て少しもしない内に最初の軍団に遭遇した。その後も少し進む度に魔物の軍団に遭遇している。魔物を倒しては少し進み、少し進んでは魔物と戦いといった具合で全然前に進めていない。
お買い物スキルに使えるから経験値を稼げるのはいいけど、このままでは目的地に着くまでに日が暮れてしまう。しかしだからといって無視する訳にもいかない。この辺をうろうろされてるといつ家を攻撃されるかわからないからだ。
さっきあのままスフィーダに戻っていたら……と思うとゾッとしない。今度こそ家が崩壊してしまうところだった。
「そうね……。私はこの辺の事はあまり詳しくないから断定は出来ないけれど、多分この魔物の数は異常よ……」
「だよなあ。俺という存在が来た事によってこの辺の因果が変わってしまったのか。はたまたただの次期によるものなのか」
「因果?」
先程からうるさい程鳴り響いていた雷の音が途絶えた。代わりに、アンジェが放つ肉を断ち切る音が聞こえてきた。
「あれ? 知らない?」
「ええ、教えて」
しまったな。カンナの興味をひいてしまったようだ。魔導書を閉じて完全に話しを聞く態勢になっている。
まあ、魔物の数も減ってきてるし、そもそもそこまで強い訳じゃないみたいだし、アンジェ1人でも大丈夫か。
「えっと、なんてーかな……。」
俺はポリポリと頬を掻いてお茶を濁した。因果なんてもんは個人個人によって解釈が変わってくるもんだ。カンナに俺の価値観を押し付けていいものかと悩んだが、俺は結局自分の考えを伝える事にした。
「俺の世界には因果応報って言葉があってね。簡単に言うと善い事したら善い事が訪れて、悪い事すると悪い事が起きるっていうやつなんだ。ただここで出てくる意味の解釈は人それぞれなんだ。結果ありきで物事を説明するか、経過で物事を説明するかっていう事なんだけど……ついてこれてる?」
「問題ないわ。続けて」
「この結果ありきで物事を説明するか、経過で物事を説明するかっていうのは、結果があって原因が生まれる、原因があって結果が生まれるっていう風に言い換える事が出来るんだ。だから、今回のケースに当てはめると――」
「――魔物が大量に発生しているから公平の家がここに落ちたのか、公平の家がここに落ちたから魔物が大量に発生したのかって事でしょ?」
「そうそう。流石カンナ、理解が早い。ただ何度も言うけど、解釈は人それぞれだからね」
「興味深いわね……。魔物が大量に発生しているから公平の家がここに落ちたと仮定すると、恐らくは安定が目的ね」
「安定?」
「そう。魔物が大量に発生したせいで周辺の秩序が乱れてしまう。だから、それを排除する力を持った公平をここに落とした……ううん……公平がここに落ちる事が決まっていたから魔物が大量に発生した……? でも、それだと結局は結果が収束してしまう……」
「そう。カンナの疑問はもっともだ。俺の解釈の最大の問題点は結果が収束してしまう事にあるんだ。これだと考える事自体が無意味になってしまう」
文系の俺は答えの出ない問いは比較的好きだが、これに関していえば、出来れば深く考えたくない。世界に飲み込まれそうになるからだ。
どうせ答えの出ない問いなら、おっぱいはなぜそこに存在するのか? とかの哲学の方が考えていて遥かに楽しい。
「考えるだけ無駄ね。でも……とても興味深い話しだったわ。ありがとう公平。いつか私はこの問いに答えを出すわ……」
「期待してるよ」
さて、話しに一区切り付いたところでちょうどアンジェが魔物を倒し終えたし、また進むとするかね。
近々、一日に時間別で3回投稿するという企画を画策しています。
何分準備に時間がかかるのですぐに、という訳にはいきませんが、ちゃんと行います。
何曜日にやってほしい、何時と何時に投稿してほしい等ありましたら感想欄にお願い致します。
※こちらはあくまでも小説を読もうの方の企画になります。ハーメルンの方でも行うかは未定です。もし、興味がありましたら小説を読もうの方に覗きに来てください。