嫁を育てて世界を救え!~異世界転移物語~   作:妖怪せんべえ

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13話 crisis beat

源平合戦の頃は戦は神聖なものとして考えられていたらしく、戦いの前には選手宣誓のようなものがあったらしい。それを破ったのが源義経だった。

 

 当時の常識、人道ともいえるようなものを気にせずに純粋に敵を滅ぼす事だけを考え実行した豪傑。結果平氏は滅び源氏は生き残った。

 

 ひょっとすると今俺のやっている事は伝説の源義経と同じ事なのかもしれない。だとすれば今俺達がやっている事は、外道とでも言えるか。

 

「まあそんなのどうでもいいんだけどねえ。うひひひ」

 

 笑いが止まんねえ。作戦が予定通り完璧に進んでる。ほとんどの兵は城門前に集結して囮部隊と交戦してるし、ドミーナ王も中途半端に町中まで来てたから身動きがとれない。後は混乱に乗じて別ルートから王国内に侵入した俺達が8人の護衛に囲まれているドミーナ王を殺せば作戦成功だ。

 

「相変わらず悪いかおー」

 

 メアリーがふわふわと俺の目の前まで飛んできて言った。

 

「もういいんだ、俺善人じゃないし。俺は救いたい国だけ救うし、俺は俺の都合で動く。俺は天使のコマじゃない。1人の人間なんだ、自分で考えて行動するさ」

 

「公平様。兵の準備が整ったようです」

 

 アンジェが戻ってきた。アンジェにはドミーナ王殺害用の兵に準備をさせる指揮をとってもらっていたんだけど、どうやら終わったみたいだな。

 

「よーし。そんじゃまあ、やるか。突っ込め!」

 

 俺の叫びで12人の兵がドミーナ王に向かっていった。王の護衛をしていた8人の兵士が反応するが時既に遅し。完全に奇襲の形になったし、人数もこっちのが多い。最初に3人のドミーナ兵がやられた。が、やはり王を守るだけあって精鋭らしい。すぐに態勢を立てなおして反撃してきた。

 

 もうちょい人数を連れてくればよかったか。相手はたった4人なのに3人もやられてしまった。流石に精鋭だけある。強いな。

 

「私も行った方がいいですか?」

 

 俺の護衛をさせていたアンジェが言った。確かにアンジェが行けば終わるだろうけど、蹴散らすまでの間俺は完全に無防備になってしまうしなあ。まだいいだろう。

 

「うんにゃ、もうちょい待って」

 

 多分もう少ししたらドミーナ王は馬車から出てくる。自国で食料を作るなり、貿易をすればいいものを他国から奪うという発想しかない無能の事だ、きっと根はチキンだ。とすれば、自分の護衛が苦戦を強いられている今、彼はこそこそと逃げようとするはず。

 

 ほら、あんな風にな。羽織っていた派手な装飾の施されたマントを脱ぎ捨てて、俺達にデカイケツを向けながらおしっこを我慢している時のような動きで逃げようとしている。

 

 ひょっとするとちびってるかも。あのザ・チキンの動きを見ているとそんな風にも思ってしまう。

 

「今だ。行くぞアンジェ」

 

「はい!」

 

 俺達は小走りで回りこんで、王の逃げ道を塞いだ。俺達の存在に気付いた王は面白い程にビクッと体を大きく体をふるわせた。

 

「残念でした。お前はもう終わりだ。俺のいる国に喧嘩を売ったのがそもそもの間違いだったな。なんか言い残す事はあるか? 遺言くらいは聞いてやる」

 

「か、金ならいくらでもやる! だから見逃してくれえ!

 

 なんだかなあ。ドミーナ王のテンプレのような言葉に俺は思わず頭を抱えてしまった。無能でチキンだとは思っていたけど、まさかここまでとは。

 

「そ、そうだ! お前たちにこの国の永住権をやろう! それだけじゃない貴族権もやる。だから!」

 

「お前のようなやつのせいで、生きるべき人間が死んでいったと思うと、吐き気がする。やっぱり遺言なんて聞かないわ」

 

「そ、そんな! 何が望みだ!? わしがなんでも叶えてやるぞ!?」

 

「もういいよ、お前。死ねよ。アンジェ」

 

「はい」

 

「ひ、ヒイ! 許し……」

 

 アンジェの錆びついたハルバードが、薄汚い豚の首を切り落とした。最後に何かを乞うていたような気がしたけど、誰があいつを許すというのか。少なくとも俺は許さん。

 

「ドミーナ王は死んだ! 作戦終了! 脱出するぞ!」

 

「ドミーナ王は死んだあ! 死んだぞお!」

 

 作戦通り、俺の連れてきた兵は周りに聞こえるようにわざと大きな声でドミーナ王の死を告げた。そして、思惑通り次第にそれは周囲に事実として伝播でんぱしていった。

 

 周囲のドミーナ民が精鋭兵を含めて硬直している。今がチャンスだ。脱出しなければ。

 

「アンジェ!」

 

「はい!」

 

 アンジェが錆びついたハルバードを石床に思い切り叩きつけた。すると、石床は砕け、周囲に大量の煙をまき散らした。

 

 最初のアンジェからは信じられない力だ。これでまだ低レベルで育成度も低いとか、この先アンジェはどうなるんだ。この時点で確実に人は超えてるぞ。末恐ろしいな。

 

「あっ」

 

 どうやら石床にクレーターを作った代償にハルバードが折れてしまったようだ。ポッキリと中程から折れていた。これは修理は困難だろう。

 

「大丈夫。後でもっといいのをプレゼントしてあげるから、今は逃げるよ」

 

 気がつけば連れてきた兵は僅か5人になっていた。俺の見ていない内に7人もやられていたようだ。俺達は互いにカバーしあいながら侵入した穴を目指して走った。

 

 ドミーナ王国は他国を侵略する事ばかりに重点をおいていたせいで内政がごちゃごちゃになっていた。それに付随して王国を守る最後の壁である城壁も壊れてもろくなっていた。俺はそこにつけ込み、ハウトゥーファンタジーを使って人に見つからない位置に穴を掘ったのだ。しかも穴は王が足止めをくらったここからほど近い場所に掘った。

 

 運が味方をしたとしか思えない。他国侵略に自国の民を軽視してる罰があったんだ。やっぱり日頃の行いは大切だぜ! 俺も気をつけなきゃ。

 

「おっしゃ! 見えてきたぞー! 皆後少しだ、頑張れ!」

 

 穴がどんどんと近づいていく。それと同時に俺はなぜか違和感を感じた。何かが変だ。おかしい。違和感の正体はなんだ? 思いだせ、俺達が侵入した時の光景を。

 

 確か……そうだ、民家があったんだ。今はどうだ? 民家がほとんど倒壊している。中に兵を潜ませる事が出来るような――

 

「まずい! 皆止まれ! 罠だ!」

 

「え――」

 

 俺とアンジェは止まる事が出来たが、残りの5人が止まる事が出来なかった。崩した民家に設置していたのだろう。バリスタ専用の巨大な矢が兵を貫いた。その後にぞろぞろと現れるドミーナ兵。一転してピンチだ。

 

「公平様下がってください」

 

 どこにこれだけの数を隠していた? 優に30は超えてるぞ。いくらアンジェでも無傷という訳にはいかないだろう。おまけにハルバードはさっき壊してしまった。万事休すだ。

 

「待て待て。ここで俺達が戦う意味は無い。ドミーナ王は死んだぞ?」

 

「だからどうした。王が死んだからといってお前達を逃がすとでも思っているのか?」

 

 ですよねー。絶体絶命だ。パトラッシュ、死のカウントダウンが見えるよ。

 

「公平様、いざとなったら私を捨てて逃げてください」

 

「ばかやろう! そんな事出来る訳ないだろ!」

 

「でも!」

 

 ドミーナ兵が剣を携えてこちらにゆっくりと近づいてきた。どうせ死ぬなら、かっこ良く死にたい。無駄かもしれないが、アンジェを抱きしめて背を盾にしてみた。

 

 すぐ近くに甲冑が鳴らず音が聞こえる。終わりか……。そう思った時、強烈な爆発が起きた。

 

「な、なんだ!?」

 

 空に魔法陣のようなものが浮かび上がっていた。そこから次々とドミーナ兵目掛けて雷が落ちていた。

 

 おいおいおい。剣と魔法とファンタジーなのは知ってたけど、実際に魔法を見るとすごいな。なんだよあれ、天災レベルじゃん。あれちょう欲しいんだけど。

 

「なんだか知らんがチャンスだ! 逃げるぞ!」

 

 見た感じ狙っているのはドミーナ兵だけだ。どうせ逃げれないんだ。ならば突っ込むあるのみ! 穴目掛けてひたすらに走った。背後でドミーナ兵の断末魔が聞こえた。

 

「公平様、怪我は無いですか?」

 

「ああ、大丈夫。アンジェも……大丈夫みたいだね」

 

 なんとか穴の外まで辿り着く事が出来た。ここまでくればもう安心だ。少し歩けば本隊の馬車隊が待っているはずだ。

 

 それにしてもさっきのあれはなんだったんだ。あれがなかったら死んでたかもしれないけど、なんだか不気味だな。

 

「……?」

 

 まただ。背中に妙な視線を感じる。昨日もあったんだよな。なんなんだ。ストーカーか? いや、ないか。自分で考えて苦笑してしまった。俺をストーキングするような物好きはいないよな。

 

 本隊の馬車が見えた。やっと帰れる。時間にしてわずか4時間の出来事だったけど、とても長く感じた。今は休もう。

 

「うふふ……ふふふ……あなたは傷つけさせない……ふふ」

 

 馬車に乗り込む時に声が聞こえたが、声の主は見当たらなかった。空耳か? 疲れてるしな、そのせいか。

 

 固いはずの馬車のシートが柔らかく感じた。俺が眠りに落ちるまでそう長い時間はかからなかった。




皆様の反響次第でこの作品を早く終わらせるか続かせるか、決めようと考えています。

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