妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

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自分の頭の中ではこの世界に来たのはウィルマがワイト島にきておよそ1週間くらいと想定しています。

人物紹介のところ、主人公の紹介を追加しました。
自己解釈を説明しないまま、書いていたためご指摘をいただきました。
至らぬ点がありまして、ごめんなさい。


第5話 テストフライト

「改めて、本日からワイト島で居候させてもらうことになったフレデリック・T・バーフォード大尉だ。よろしくお願い致します。」

晩御飯の時に改めて自己紹介をした。隊長が予め手を回していてくれた(フェアリィ空軍の事やどういう経緯でこの世界に来たのか、何故見た目が異なるのかなど。)お陰でそれほど混乱もなく受け入れてもらえた。その点は感謝している。

「階級は大尉だが、基準が恐らく違うので階級は気にせず普通に話しかけてくれて構わない。そっちの方がお互色々らくだろう。」

この世界じゃ、20代で中佐の人もいるらしい。全く悪夢でしかないな。それでいて目の前の日本人、いや扶桑人の角丸は中尉だ。この世界で本気で生きてくならばきっと俺の持っている基準や常識というのは本当に捨てなければならないんだな、と改めて実感させられた。

さて、とりあえずの挨拶を済ませたつもりなのだが誰も俺に話しかけてこない。これは良そうなのだが俺との距離を測りかねているのだろう。そりゃそうだ。いままで少女しかいなかった部隊にいきなり身元不明の男がやってきたんだ。隊長はよかったがこいつらもいきなりフレンドリーというわけにはいかないだろう。というわけでまずはこちらから話していくことにした。

「何か質問はありますか?」

これがベターだろう。できるだけ彼女らのもつ疑問を解消し、少しでも警戒感を解いてもらう。別に持つ分には一向にかまわないがそれが実力行使という目に見えるものになるとかなり厄介だからな。

さて、目の前の少女たちの様子はというとまずはお互いの顔を見合わせていた。誰が一番に質問を始めるのかを探っていたのだろう。そしてまず目の前の赤髪の少女が手を挙げた。

「あなた、使えるの?隊長の話じゃ今日、ストライカーユニットに乗ったばっかりなんでしょ?」

といってきた。

「ところで、君の名は?」

「リベリオン陸軍所属のフランシー・ジェラード少尉よ。それで、どうなの?」

「いけるんじゃないか?まだここの辺りはそんなに飛んでいないが伊達に飛行時間は長くないし戦闘経験はかなり積んでいる。コツをつかめば行けると思う。」

「はぁ、頼りないわね。今まで何機落としたの?」

「80は超えていると思う。詳しい記録はもう消えてしまったがな。」

「「「80!?」」」

全員が目を丸くしている。

自分としてはパイロットは20年以上、FAFには14年くらいいるので累計すればそれくらいかという感覚である。恐らく彼女らは見た目と実際の年齢が噛み合っていないのを忘れているのだろう。見てて面白いからいいが。

といっても初期のジャムは非常に機動性が悪く、積んでいるミサイルを一機1発で発射しても全弾命中することもよくあった。だからその間に一気にスコアを稼いでしまったためこんないい記録が残っているわけであってこの直後からこう上手くはいかなくなった。

だからずるをしているといわれるとその通りではある。だからあまりこの数字には誇りを持っているわけではない。

 

「まぁ、このスコアは戦闘機にのってのスコアだからストライカーユニットじゃあ勝手が違うから期待はしないでくれ。今日、3機撃墜できたのもある意味まぐれだしな。」

実際、今日は急いで出撃したせいで操縦はいまいちよくわからなかったためgarudaに任せていた。飛んでいる間は収集された情報を確認していたし、攻撃だってミサイルだったしな。ただ、ミサイルも頻繁に使うと色々不味いので緊急の時以外は使わないようにするつもりだった。そのため、自分のなかではストライカーユニットの操縦訓練が急務と言えた。

「隊長、出来れば近いうちにストライカーユニットにのって訓練飛行をしたいと思っているのですが。」

「大尉ってあのユニットに慣れていないの?」

割り込むように声をかけてきたウィルマよりもさらに白色に近い銀髪をした少女。

「ラウラ・トート。階級は少尉。それで、どうなの?」

雰囲気からこの場では絶対にしゃべらないだろうなと思っていた彼女から声をかけられて少し驚いた。

「あぁ、機種変換みたいなものをしてな。あの機体自体にまだ慣れていないんだ。」

「そう。」

そういうとラウラは興味をなくしたかのようにそっぽを向く。

「それで?隊長、どうなんだ?」

「えーと、明日なら特に何もすることがないから・・・いいわ、明日の午後一番に飛んできて、それとできるだけ短時間で自分のユニットをものにしてね。」

「もちろん。」

形は変わったがあれは紛れもなくずっと乗ってきた愛機。変わったのは見た目と動かし方、それ以外はきっと変わっていないはずだ。なら乗りこなせるはず。

・・・そう信じたい。

「午前中は何かあるのか?」

「いえ、特には何もないわ。午前中の方がよかったかしら?」

「いや、このままでいい。」

どちらにせよ、新しく変わってしまったメイヴの総点検をどこかのタイミングで行いたいと思っていた。午前中の時間ならオーバーホールするわけじゃないから問題ないだろう。

「もうこれでいいか?」

「はい。」

そう小さな声で手を挙げるおとなしそうな彼女。

「自由ガリア空軍所属のアメリー・プランシャールです。お一つ質問してもいいですか?」

「あぁ、構わないさ。」

だが俺がいいといったのにただもじもじしたまま何もしないアメリー。

どうしたのかと、皆が不安に思い始めた頃、ようやく口をひらいた。

「大尉が好きな女性のタイプって何ですか?」

「へ?」

予想外な質問に俺はまた戸惑う。

「アメリー!へーそんなことに興味あったんだ!」

と目を輝かせながら身を乗り出しているのはビショップ軍曹。

「へ、あ、あの、その・・・皆さん質問しているのに私だけで来ていなかったのでそれじゃあ嫌だったので・・・。」

と顔を真っ赤にするアメリー。

「まぁ、お年頃ですからね。あ、私も気になるかも。隊長さんは?」

「え、私ですか?うーん、確かに私と同世代の殿方がどういった好みを持っているのかというのは私も全く分からないので・・・。」

「なるほど、隊長さんも興味ありと。」

「興味があるとは言っていません!」

「でも気になるんでしょう?」

「まぁ、そうですけど・・・。」

と急に楽しそうにしゃべりだす少女たち。

「楽しそうだな。」

「なに他人事みたいにしているんですか、大尉。あなたの好みを聞いているんですから。さ、答えて!」

その積極的なビショップ軍曹に思わず後ずさる。

「何引いているんですか?ブリタニア紳士の名が泣いちゃいますよ?」

「紳士ってそういうものか?」

「そういうものです。女性の質問には誠心誠意をもって答える。そうでしょ?さ、さ、どんな人がタイプですか?」

そういわれてもな・・・。適正年齢になったと同時に軍に入り、陸を経て空を目指した俺にとって青春=軍の仲間であってそういった経験はない。もちろん一夜限りの形だけならあるがそんな長期間関係を持った異性などいなかったし興味もなかった。今の今まで空こそが俺の人生そのものだと考えていた自分にとってその話題考えたこともなかった。

そんな悩んでいる俺にしびれを切らしたのか軍曹がさらに追い打ちをかけてくる。

「ならこの5人の中なら誰ですか?」

「そう来るか。」

「ええ、来ます。」

よっぽど興味があるのかその圧迫感はすごい。もう壁に背が付いているというのに目を輝かせながら迫ってくる。

「ちょっと待ってくれ。」

さすがにこれ以上来られると困るのでいったん肩を押して距離を取る。そのうえで全員を見渡す。

誰だろう。

そのとき、なぜだろうか。一瞬で目の前の少女、ウィルマ・ビショップ軍曹が目に入った。

よっぽど先ほどの行動力が俺のどこかに印象深く残っただろうな。

「君かな。ウィルマ・ビショップ軍曹。」

「へ?わたし?」

「あぁ。」

俺がそういうと彼女はこちら側に背を向けて思いっきり手を伸ばす。

「ウィルマ・ビショップ軍曹!なぜか選ばれちゃいました!」

まるで酔っ払いだな。思わずそう感じてしまうほどのノリだった。皆、拍手をしてたたえているようだがその様子はどこか苦笑いだった。

「ちなみに私のどこがいいと思いました?」

「そうだな・・・。」

改めて彼女を上から下まで眺めて俺はふとどうして彼女を選んだろうと思う。

どうしてだろうな。

「なんとなくだ。」

「えーそれじゃあ、隊長でもよかったのかー。残念。」

そういって肩を落とす軍曹。

「そんな女の子に期待を持たせるだけ持たせてあとは捨てる大尉なんて嫌いー。」

舌をだしてそっぽを向く軍曹。

「・・・・。」

俺が何も言わなまま沈黙を保っていたことに気が付いた彼女がこちらに顔を戻す。

「どうしたの?大尉?」

「え、あ、なんでもないさ。少し考え事だ。」

「もしかして・・・。」

「いや、それはないさ。」

「まだ何にも言ってないよ!」

「言いたいことはわかるさ。」

「はいはい、仲がいいことはいいことだけれどこれくらいね。もう遅いから続きは明日にしましょ。」

「うー、隊長。いいところだったのに。大尉、絶対明日ね。」

「明日何をするんだよ・・・。」

そう騒ぎながらほかのアメリーたちを連れて皆、食堂から出て行ってしまった。

パタン、とドアの閉じる音を聞いてようやく一息つけた。

あの時、どうして俺は何も言えなかったんだろうな。不思議だ、普段は何も言えなくて詰まることなんてほとんどないのに。

だが、確かなことが一つだけある。

 

あの時、彼女がそっぽを向いたときに宙をふわりと舞った長い銀髪を俺は綺麗だと感じた。

 

今はそれ以上のことはわからないが、とにかくそう感じたのだった。

 

 

急に静かになった部屋で俺は新聞を読みながらラジオを聞いていた。時計が22時を指した辺りで外の空気を吸いに建物の外を出た。その時、建物案内で紹介された角丸中尉がいる司令官室の明かりがついていることに気が付いた。ほかの奴らの声が聞こえないところを見るとおそらくもう寝てしまったのだろう。

中間管理職が一人、夜遅くまで頑張るのは世界が変わってもそういうのは変わらないのだなと変な関心をしながら俺は彼女と話すために手土産をもって部屋へと向かった。

 

コンコン

「バーフォード大尉だ、少し平気か?」

「大尉?どうぞ、開いてるわよ。」

ガチャ。左手でカップを二つ持ち、右手で扉を開ける。

「失礼する。」

「散らかっていてごめんなさいね。あらいい香り。」

隊長はコーヒーの香りに思わず笑顔になる。

「ここ、いいか?」

カップを机の上において空いている椅子を彼女の前に置く。

「ええ、構わないわ。ここにあるのは一応、見られても平気なものだし。それで、こんな時間に何の用?」

「外に出たとき、ここの部屋の電気がついているのが見えてな。中間管理職のつらさを知っているものとして見過ごせなくてな。少し、息抜きはどうだ?」

「ありがとう、大尉。気が利くのね?」

「もちろん。これでも英こ・・・いやブリタニア紳士だからな。」

それなら納得です。と隊長は言ってくれるがこれまでそんなこと一度もしたことがなかったので少し変な感じがする。

 

「そういえば、隊長は扶桑皇国出身なんだよな?」

「そうだけど、それが?」

『扶桑皇国についてすこし話が聞きたいと思ってな。』

『!あなた扶桑語話せるの!?』

突然、ここいらでは聞けない母国語を聞いたためかあって以来、一番の驚いた表情を見せてくれた。

『そんなに驚くことか?』

『えぇ、この言葉を聞くのも随分と久しぶりの気がしてね。』

彼女はそういうと俺から視線をそらし別の方を向いた。

その目線の先には隊長のほかに数人の扶桑人の姿が。

『ここは長いのか?』

『まだ1年もたっていないわ。けれど随分と長く過ごしている気がするわ。』

そしてため息をする隊長。たぶんこれ以上聞いても何も答えてくれないだろうから俺は話題を変えることにした。

『隊長。』

『何かしら?』

俺は声をかけて視線をこちらに戻させる。こういうのはしっかりと正面を見て言うべきだ。

『俺をここに入れてくれて、感謝している。本当にありがとう。』

頭を下げて謝意を伝える。このことは心からの本心だ。

『いいのよ。もう決めたことだし。』

『だがこれだって全くのノーリスクというわけではないだろう?』

『まぁ、それはそうなんだけれど。書類の書き換えとかは昔の親友に任せてね、何とかなりそうなの。』

その一言に思わず絶句する。

『大尉ってそんな顔もするのね。もしかして気にしている?』

『当たり前だ。書類の書きかえって・・・そのリスクがどんなものか別世界にいた俺にだってわかる。なんでそんなことを?初めて会ってからまだ数日もたっていないだろう。』

思わず慌ててしまうが彼女はそんな俺に対して妙に落ち着いていた。

『私はここが最後だからね、だからなんでもできるのよ。』

『それは、どういう意味だ?』

『秘密。とにかく、大尉は気にせず今の環境に順応することに専念してね。』

そうしてみんなで仲良くできれば今の私はそれで幸せだから、とつぶやく隊長。

『中尉。』

だから俺は隊長になんて言えばいいのかわからなくなってしまう。だから素直な感謝を。

 

 

『ありがとう。』

 

 

『なんかそんな純粋な感謝を言われたのも随分と久しぶりな感じがするわ。』

『ここで感謝以外の言葉が俺には思いつかないからな。』

 

『隊長。』

『ん?なに?』

俺は彼女一人にすべてを背負わせるなんてことはできなかった。確かに俺は自分のことしか考えない。ほかの奴を気にしていては生きてはいけない。そういう考え方の下で生きている。だがこう話が進んでいるのならば全くの別だ。隊長が経歴に傷がつく覚悟で俺を救ってくれた。ならばやるべきことは一つ。

『もし、隊長に何か起きれば俺は必ず助ける。』

 

俺の言葉に目を丸くしている隊長。そしてすぐ苦笑いになる。何が嫌なのか今の俺にはわからない。

『まるで騎士様みたいね。』

『茶化さないでくれ、隊長。俺は本気だ。』

 

『なんでそんなこと言ってくれるの?あなたはそれを受け入れるだけでいいのに。』

何故だって?そんなの決まっている。

「それが俺の流儀だからだ。」

助けてもらったのならば俺の持ちうるものすべてでその恩を返す。それが俺の流儀だと思っている。

『わかった。それならありがたく受け取っておくわ。』

『本当だぞ?忘れるなよ?』

『もちろん。』

そしてそれからしばらく話が続き、置時計の24時を知らせるメロディーまで絶えることはなかった。

 

Another view -Sied Kadomaru-

「”それが俺の流儀だからだ”、ねぇ。私よりも年下っぽい顔してそんなこと言うのね。」

今さっき、出て言った彼の言葉を口に出して思い出す。

私が彼に協力しようと思ったのは私自身がもうウィッチとしての経歴がダメになってしまったのだからこれ以上なくなるものがないと思ったからだ。

かつては「魔弾の射手」なんて名前で呼ばれていたこともあった。あの頃が私のピークだったのかななんて今となってようやくわかった気がする。そしてあの爆発事故に巻き込まれて重傷を負って以降、今ではこんな僻地に配属になり軍では活躍できない私なんてやめるに辞めさせられないお払い箱みたいなものなのだろう。

だから負傷している彼を見て思わず自分に照らし合わせてしまった。今の彼なら普通に復帰できるしこの年ならばまだ十分に活躍できる。こんな今の私と違って。

一瞬自分の経歴が、彼の素性は?と、確かに思った。だけれど不思議と電話を掛けるその手は早かった。けがを負っているのに不確定な無線の通信だけを聞いて助けに来てくれた彼。だから大丈夫だとすぐに私は確信した。手回しもすぐに済んだ。

大尉は一時的にブリタニア軍から派遣された新型ユニットの試験官ということになった。これならユニットを操っていても基地内にいても問題ない。かつての名声がこんなところで活躍するとは思っていなかった。

だから手配が終わった後の私は満足していた。彼がもしかしたらここで皆のことを助けてくれるような存在になってくれるかもしれない。仲間が一人増えるというのは悪くない話だ。みんなへの負担が減るし結果的にはいいだろう。

ただ少し残念なのは彼自身がそのことに罪悪感を覚えていることだった。私が自己満足でやったことなので、ただその立場に彼は甘えてくれていればそれでよかったのに。それだけが心残りだった。どちらにせよ私はやったことを後悔なんてしていない。だからもしこの件がのちに問題になったとしても一人で蹴りをつける、そう心に決めるのだった。

 

Another view end -side Kadomaru-

 

次の日

ユニットの整備をやろうと思ったのだがビショップ軍曹がいろいろ教えてくれるそうなのでそちらの方を優先させた。昨日の時点でと部分には問題なかったので今すぐやるべきことがない以上、そちらの方が大事だ。

そして戦闘訓練が始まった。まずは射撃。

うつぶせ状態、足を広げてた状態での、射撃訓練。

一からやり直す気分でいたがどれも、かなりいいスコアが出せたと思う。

「中距離も遠距離も可能ってすごいわね、普通はどちらかに特化でもしないとやっていけないと思うんだけど。」

「狙撃は得意だからな。」

「パイロットなのに?」

「昔な、SASにいたことがあってそこで習った。」

「SAS?」

「知らないならそのままの方がいい。」

「えー、教えてくれたっていいじゃん。」

そうやって寄ってくるビショップ軍曹。同じ狙撃銃を操る者として純粋に興味があるのか触らせてほしいと詰め寄ってくる。なんとなく嫌だったので今は触らせていない。なぜか壊されそうな気がしたからだ。

それにSASの話だってどこの時代にあるのとは目的がかなり違うと思うからな。

「機会があればな、それより射撃はこれくらいでいいだろう。次は座学だ。よろしくな、ビショップ先生。」

さっき、軍曹と呼んだらせめて今日は先生と呼べと言われた。

 

ビショップ軍曹改めビショップ先生の魔法の授業はかなりわかりやすかった。”さすが、一番の年長者だな”、と言ったら厚さ5cmの教本を投げてきやがった。ウィッチとは何なのか、どういう理論のもとに空を飛んでいるのか、魔法の役割とその仕組み。さながら小説に出てくるような世界で現実味はなかったが目の前にいる少女たちはそれを使って命を懸けて戦っていると考えると急に現実感が出てくる。

 

久しぶりの訓練生気分は2時間ほど教わり次は格納庫近くまで移動し、固有魔法を使ってみることに。

「それじゃあ、まず展開してみて」

「まずは手本を頼む。」

「こればっかりはすべての始まりだからね。実際にやってもらわないと。イメージとしてはエンジンを始動させるスイッチを入れる感覚。きっかけを作ってあげればあとは勝手に動いてくれくれるの。」

なるほど、イメージがエンジンの始動か。そして俺が思い浮かべるのはピストンがゆっくりと動き出すあの風景。

そうだ、いきなり動き出すのではなくゆっくりと、だが確実に早くなるあのイメージだ。

そしてしばらく集中すると何かが繋がるような感覚が起きた。まるでエンジンに火が入った感覚だった。

そしてその直後に俺の足下に魔方陣が展開された。

「見たこともない文字ね。」

「俺事態がイレギュラーだからな。」

「なるほど。それじゃあ、さらに集中してみて。」

目を瞑ってさらに集中する。エンジンの回転数をさらに上げるイメージ。車ならもうすぐレッドゾーンだ。

と思ったその時一瞬くらっとなる。何だと思って目を開けたら

 

世界が止まっていた。

 

まるで自分一人だけが世界から取り残された感覚。

身体どころか視線を動かす事すらかなわない。本当に魂だけが体から外れてしまった感じだ。

慌てて回転数を下げるかのように意識的に集中を落とす。やがてゆっくり胸の何かが穏やかな感覚になり世界がゆっくりと動き出す。そしてだんだんと加速していき体が自由に動かせるようになった。

「?どうしたの?」

俺が足をもつれさせ、慌てて体を支えてくれるビショップ軍曹。

助かった、ありがとう。といって彼女から離れる。

「大丈夫?」

「何か一瞬くらっとしたら世界が止まったんだ。で、もう一度集中したら何かが沸き上がる感覚を感じたんだ。で、目を開けたら元に戻ってた。」

「うーん、よくわからないな。」

説明がうまくできない。アドレナリンが出ているせいで感覚が鋭敏になっているようだ、と言ってもおそらく通じないだろうし。

「まるで、世界から俺が取り残されているような感じだった。走馬灯みたいな?」

「それは、感覚が加速しているせい。」

思わぬ事実に驚きながらも声の主の方へ振り向く。

「ラウラ?」

「それってどういうこと?」

オストマルク空軍、だっけか?後で聞いたのだが彼女も昔はエース部隊にいたらしいが何らかの理由でここに来た人らしい。どちらにせよ元エースならその話の信ぴょう性はぐっと上がる。

「私も初めて能力を使ったときそんな感覚に陥った。」

「体が動かなかったんだが、それはわかるか?」

「それは多分頭だけが加速されているためだと思う。」

「なるほどね、流石だな。優秀なだけある。」

「そんなことない、私は優秀じゃないし、私も似たような経験をしていたから助言ができただけ。」

「わかった、どっちにしろ助かったよ。ありがとう。」

「別に」

まるでいうべきことはすべて行ったといわんばかりに話を切り上げると彼女は建物へと戻っていってしまった。

「じゃあさしずめ俺の固有魔法は思考加速ってところか。ところで、ビショップ先生の固有魔法は?」

「あたし?、私は魔弾かな。どんなのかは秘密」

ずるくね?

「ところで、使い魔はなんなんだろうね?」

「わからん、それに気にならないからな。」

「私が気になる。だから、調べてあげる。」

「さいですか、手つきが嫌らしいのですが…」

「気にしないの。」

結局いろいろなところを触られてほんの小さな耳みたいなのができていることが分かった。

「面白い!こんなの始めて見た!扶桑の絵本に出てきた鬼みたい!」

「お、鬼だと?」

先生は終始感動していた。

鬼と言われた俺は地味に傷ついていたが。

 

午後、訓練飛行。

1日ぶりのストライカーユニット。

昨日とはすこし違う感覚だな。

タキシングして滑走路へ。

イメージするのは先ほどと同じようにエンジンの回転数を上げる感覚。だけれども能力を使うときとは違うただ市速度を求めるかのような感じだ。

そして俺のイメージ通りにユニットは速度を上げていく。その加速度の感覚、周りの風景の流れる速さはいつもの光景とそう変わらなかった。

そして離陸。

心の中でイメージするだけで何もかも動く。便利だが、いざとっさの判断が求められたときはこれはこれできついかもしれない。

 

基地の近くに設定された訓練空域は風の流れもよく、まさに初めて戦闘のことを考えることなく自由に飛ぶにはふさわしい気象条件だった。

 

「それじゃあ、大尉。どんな感じに飛びたい?訓練生時代を思い出すような基礎の復習から?」

一瞬、それにしようか悩んだ。だが駄目だ。俺はこの時代で生きていくと決めたんだ。ならできるだけ早くこのユニットを今までのように使いこなせるようにならないといけない。すでに一回飛んだことで多少コツはつかんでいる。ならそこまで戻る必要はないだろう。

「いや、その必要はない。軍曹、君の好きなように飛んでくれ。俺はそのコースを正確になぞって見せる。それでどうだ?」

「私はそれでもいいけれど、平気?そのユニットまだ使い始めてそんなに時間たってないんでしょ?」

「平気だ。それに自分の限界はわきまえている。無理だと思ったら素直に離脱する。もっともそんなことは起きないと思うけれど。」

「へー。面白いじゃん。」

俺の言葉に不敵に笑みを浮かべる軍曹。

 

「それじゃあ、ついてきて!」

 

俺を置いていくかのように軍曹は一気に急降下を始めた。

フライングしてまで突き放したいか。

「いいだろう、ついて行ってやるさ。」

 

彼女のユニットについている翼から発生している飛行機雲をコースの目印として俺も急降下を始める。

だんだんと速度が上がっていくとともにユニットから発生する振動が大きくなる。それとともに進路にふらつきが出始める。必死に制御しようとしてもそれが逆に振動を助長させるような動きにつながる。そして一瞬で、俺の意図しない力が働き、振動がすぐに収まった。

おそらくgarudaが介入したのだろう。ここでもこいつの助けを借りることになるとはな。

そして軍曹が急降下の体勢から体を引き起こし、海面すれすれを飛ぶ。

速度が彼女よりも早くなっているため俺は軍曹が引き起こした場所よりもさらに手前で引き起こす。

強烈なGが俺を襲うが予想していていたよりもはるかに楽なものだった。レッドアウトもそれほど起きない。

これがビショップ軍曹が言っていたあの魔法による加護というものなのだろうか。

「てっきり海に突っ込むかと思った!」

「そんなへまはしない!」

「ならこれはどう!」

エネルギーを取り戻し再び上昇体勢に入る軍曹。

大勢の関係で上を見ることが厳しいため一瞬反応が遅れる。

すぐに出力の向きを変えて上昇体勢に入る。だが空戦では一瞬の隙が致命的。

その上昇に合わせて進行方向を見るが誰もいない。完全に見失った、はずだった。

だが経験からだろうか、自然と行き先が分かった。

左ひねりこみ

その単語が頭をよぎる。それなら俺が見失ったのも納得だ。そしてその機動が分かっているのなら行先に向かえばいいだけのこと。

身体を動かし左に少し上昇させる起動を取る。

そしてその直後、目の前に彼女が上から舞い降りてくる。

完璧な起動をしていたがゆえに前にしか注意を向けていない。ここは敵がいないから注意がそれたんだろうな。

そして後ろを振り向いた彼女と目が合う。

驚いた彼女に対して軽く手を振るとその表情が一変、怒ったようなものに変わった。

本気にさせてしまったかな?

やはりその予感は正しく軍曹はもう俺に何も言わずに回避機動を行うようになった。

こちらだって伊達にSAFで長い間過ごしているんだ。先ほどは一瞬見失ったがこの後は一度も彼女の背後から離れることはなかった。

 

「あああああ!くやしい!!」

もう限界、と俺に一報を軍曹が入れてきたことでこの訓練は終了となった。

「どうして?最初は振り切れたと思ったのに。」

「なんとなくだな、左ひねりこみで来ると思ったんだ。だからその回避する先にいれば必ずついていけると思ったら案の定、目の前に来たからな。あとはもう手を取るように分かった。」

俺のその種明かしに何度目かの驚いた表情を見せる。だがその表情もすぐに落ち込んだものに変わった。

さすがにかわいそうになってきたのでもう帰ることにする。

「帰ろうか、先生。」

「もう先生の所が嫌みにしか聞こえないよ。」

あー、これは完全に落ち込んでいるな。基地に帰っても口をきいてくれないかもな。

「あと、今日はいろいろ教えてありがとう。」

だから感謝が早いうちにしておくことにした。

「え?全然役に立たなかったんじゃない?」

「そんなことはない。初見のものばっかりで対応しにくかった。あっちじゃ、大体が見慣れたようなものばっかりだったし、あとそれとさ、今日1日付き合ってくれてありがとう。楽しかった。だから、俺が言うのもなんだが落ち込むなよ。」

 

何かを考えるそぶりをしてやがて笑顔になる彼女。

「ありがと、大尉。」

彼女の笑顔は夕日と重なってとても綺麗だった。

 

 

Another view -Sied Bishop-

くやしい。本当に悔しかった。その悔しさも彼のきれいな飛びようというか自分の情けなさが占めていた。

昨日あんなことがあったから年下のような年上の彼、バーフォードをこの空中訓練でギャフンと言わせてやるはずだった。

結果は失敗。

今まで培ってきたあらゆる機動を試したけどダメ。

地上にいるときとは別のまるで、獲物を狩るようなちょっと怖い目が常に私を見て追いかけてくる。

本当にバーフォード?と思ってしまった。

多少は怖気づいてしまったけれどそれなんかは理由にはならない。

それで情けない自分に落ち込んでいた。

声をかけてきたときも嫌みを言うのかと思ったら逆に感謝された。理由を聞けば、初見で対応しにくい機動をしてくれたからと、意外なことに1日付き合ってくれたからだそうだ。

私はどうってことはなかったのだけど彼なとってはかなり重要だったみたい。

すこし、彼に対する考え方が変わったかも。

よくわからない人から不思議でちょっと面白い人って感じかな。

この瞬間からだろうか、私がまたこの人ともう一度飛びたいと思うようになったのは。

 

Another view end -side Bishop-

 




つぎは2on2の模擬戦に使用と思います。


ちょっとずつ彼の過去も明らかにしていきたいです。
これからも暴走ゆえに道がそれることがあるため、できるだけ直していきたいと思います。

ご指摘、ご感想、誤字報告があればよろしくお願いします。

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