妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

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第48話 今日の狐のご機嫌は?

突然だが、ウィッチが使う弾薬にはいくつか種類がある。

まず通常弾丸。

一般的な歩兵が使う銃弾とまったく同じものを使用する。これの特徴は補給所に行けば自分が使用しているものと同じ種類の物であれば必ずといっていいほど在庫があることだ。たいていのウィッチはこれを使うことになるが一番威力は低い。

ワイト島ではこのタイプの物を使用していた。

次に、生成する過程でその弾丸に魔力をこめて作られたいわゆる魔力弾、と言うものがある。

生産量は通常の物よりは多くはないが、ウィッチが戦場にて機関銃などでばら撒いても問題ない程度には生産されているらしい。主に使用されている場所は最前線など特にウィッチとの戦闘が激しい地域で502もこれに該当する。

弾丸自体にある程度魔力がこめられていて、さらに自分の魔力と反応することでネウロイに相乗的かつ効果的な攻撃を行うことが出来ると説明を受けたが、残念ながらおれ自身が魔法に関する知識が少ないため具体的な事はよくわからない。

実際に使ってみると確かに差が実感できる、という認識である。

俺の場合は狙撃タイプなので威力よりも貫通性能を重要視する必要があるため、この魔力弾型のフルメタルジャケットタイプの弾丸を使用している。

そして、おそらくウィッチが使えるであろう最も威力が高いと思われるのが薄殻魔法榴弾である。まぁ、ウィッチの中には怪力能力をもって本来は車や戦車、艦船などに積むようなものを自力で持っていって撃つような規格外な戦闘能力をもつウィッチもいるみたいだがもちろんそれは除く。だって、おかしいじゃん。なんだよ40mm弾とかさ、88mmとか頭おかしいだろう。

それは置いておいて、こちらは威力重視の弾丸で着弾した瞬間に爆発することでダメージを与えるタイプである。初速は秒速800mを超えて、この時代の下手な機関銃弾よりもはるかに威力が高い。銃弾の重さも115gと重いのにも関わらず、だ。

 

さてなんでこの話題が出たのかというと話は2週間前に遡る。

ハインリーケが通信をしてこなくなった。以前のカードが送られてきた後の返信も来ない。夜間哨戒中も心配そうなハイデマリー少佐と2人で“まさか死んだ?”“そんなわけないじゃないですか。仮に死んでいたら大々的に報じられますよ。”“いや、国全体の士気が下がる可能性があるから隠しているのかも・・・。”“確かに。彼女の名前が新聞の一面に出るだけで売り上げが上がる、とまでいわれている国民的英雄でもありますからね。可能性は十分あります。”

なんて不謹慎な会話をした2日後、次の夜間哨戒シフトのときにハイデマリー少佐からハインリーケが風邪をひいたと聞いた。

あのハインリーケが風邪ですよ。とすこしテンションがなぜか上がっているハイデマリー少佐といつの間にかハインリーケの話で盛り上がっていた。彼女の過去や性格など面白い話が聞けたがもっとも収穫といえたのが薄殻魔法榴弾の存在を知れたことだろう。

すぐにどこの国で製造しているかを調べてみるとカールスラントのみだと知った。というかカールスラントしか大量生産に成功していないらしい。

さらにカタログを見ていると薄殻魔法榴弾で俺の狙撃銃の口径ともぴったりの弾薬を製造していることもわかった。やはりカールスラントにも俺と同じような狙撃銃を使うウィッチがいて彼女らの声を聞いて製造を開始したみたいだ。

早速少佐の元に行き、配備のお願いをした。

しかし、結果は”No”だった。

ただでさえ、物資がヴェネツィアに送られているというのにそんな貴重なものが地理的にも遠いサンクトペテルブルクにくるとは思えないし、何よりそんな物が配備されたら伯爵達が目を光らせながらそれを使いたいがために無駄に出撃し、浪費して挙句の果てにユニットを消耗するに決まっている。

と、言われた。曹長も“確かに、そんな未来しか見られない私達が悲しいです。”なんていっていた。

まぁ、俺としてもあったらいいな、使ってみたいなという感覚だったので申請は却下ということでこの話は終わるはずだった。

その1週間後、事態は大きく動いた。

 

カールスラントから配備された新型ストライカーユニット、Ta152H-1という高高度むけユニットのテストを行っていた。

普段、俺達が戦う時、高度6000ftを下回ることや21000ftを上回る事はあまりない。ところが、以前遭遇した30000ft以上を飛ぶ偵察機タイプがここ最近から見受けられるようになった。前にハインリーケやハイデマリー少佐たちと話した通りここサンクトペテルブルクはスオムスやバルトランド、オラーシャ北部へ向かうような高高度飛行ネウロイの転進ポイントに一番近い基地でもある。そのため、メイブの様なあっさり60000ft以上まで飛べるような機体ならともかく、他のやつらが使っているような低空、中高度での戦闘をメインにしたユニットだとこういった偵察タイプが飛ぶような高度までたどりつくまで時間がかかるorそもそも届かないというような事案が発生するようになったため、設計され、作られここにテスト配備された。

 

「大尉、現在の高度はどれくらいかわかりますか?」

今回のテスト空域はバルト海上空。

そこを俺と曹長は2人で飛んでいた。ここ最近は夜間哨戒で飛ぶことも増えて休んだ翌日の午後がフリーなためこういった役割に回されることが多かった。

「33000ft、資料によるとあと10000は上がれるはずだが調子はどうだ?」

「快適です。普段は地上にいることが多いのであんまり空も飛べないですし、そもそもここまで上がる必要もありませんから。それにしてもここは本当に綺麗ですね。さすが成層圏、雲ひとつない。ここからなら私の故郷も見えるかもしれません。」

「ここから遠いのか?」

「オストマルクとの国境付近のゲーラと言う町です。知っていますか?」

おれ自身、欧州の主要な都市なら職業柄覚えているが、さすがにそれ以外だとわからない。

とりあえず、地図で確認しようと思い取り出してはみたが・・・、

「なぁ、オストマルクとカールスラントの国境ってどれくらいあるんだ?」

「えっと、軽く300km以上・・・ですかね?」

曹長、そんな笑顔で軽く300kmって言われても、ペテルブルクと巣を往復した距離以上じゃねぇか。そんなのわかるわけがない。

「残念ながら今もそこはネウロイの勢力圏です。いま、私達の同胞が必死に国土奪還にいそしんでいるのに私は遠く離れたここでただそれを見ていることしか出来ない。

本当は今すぐにでも飛んで行って戦いに参加したいんです。伯爵もあんな風ですけど心の中ではきっと私と同じ気持ちだと思います。」

ネウロイに国を奪われるという経験をしたことがないブリタニア人や扶桑人など、そして俺には彼女らの気持ちを理解するという事はきっと出来ないだろう。

だが仲間が戦っているのに自分が遠くで何も出来ずにただもどかしくしていることしか出来ないこの気持ち、というのも最近ようやくわかってきた。

前の場所ではきっと理解できなかったことも少しずつ、わかるようになった今だからこそ言えることがある。

「Haste makes waste.下原が言うには“しいては事を仕損じる”という言葉があるらしい。」

「なんです?」

「焦りすぎるな。そんなんで注意力が散漫になっていざ人手が必要なときに負傷でもしたらどうする?急ぎたいのもわかるが、まずは焦らず自分の任務に集中するといい。

このユニットの試験データがもしかしたらベルリンのネウロイの巣の偵察に役に立つかもしれないだろ?」

「わかりますけど・・・。」

そういうと彼女の使い魔のキツネ耳が垂れ下がる。

「大尉もわかりませんか?このもどかしー気持ちが。なんというかSF小説みたいに一瞬で遠くまで瞬間移動できたらどんなにいいかって思っているんです。」

そんなのが出来たらウィッチを瞬間移動させるより爆弾の雨をネウロイの巣の上空に瞬間移動させたほうがはるかに効率がいい気がする。

「ま、俺が言いたいのはここの任務に本国が就かせているのもきっと意味があるはずなんだ。ノヴゴロドの巣がなくなればオラーシャ側からも巣に対して攻撃することが出来るようになるんだ。今していることで無駄なことなんて何もないんだから。」

本当ですかー?とつぶやいていたので“もちろんさ。”と答える。

思わぬところで、というのは意外と良くあることだからな。

「私が頼りない補給部隊の代わりに必死になって武器弾薬や食糧などの物資を融通して502に持ってくるのも?」

「あぁ、いつも助かっているよ。曹長がいなければ毎回残弾を気にしながら戦わなければならないかも知れない。」

「あの3人組が壊したユニットの代わりを手配してもらうために上に謝るのも?」

「もちろん。エースたちは一箇所に集まってこそだからな。解散されて戦力が分散されてはかなわん。」

「少佐の補佐を毎日して、書類と戦う日々なのも?」

「そうだ、管理職ってのはネウロイよりも書類との戦いがメインだ。部隊運営にはきっと曹長の働きも欠かせないはずだ。」

「・・・ちなみにブレイクウィッチーズが今までに全損したあのユニットたちは?」

「あれは無駄の塊だろうな。あれだけで何人のウィッチが飛べるのやら。あ、いや、意外と新人ウィッチ100人と奴ら3人の撃墜数って同じくらいかもな。」

「そうかも知れないのが憎たらしいところです。なので怒るに怒れない。」

「それは言えているな。」

そういうと少しずつ曹長の耳も元通り上を向いていた。少しは気持ちが晴れたのだろうか。

「さて、もう少し上に行きましょうか。」

そういうと曹長は右手を差し出す。

「?どうした?」

すると曹長は、

「レディをエスコートのするのはブリタニア紳士の役目ではなくて?」

一瞬、曹長の言っていることがわからなかった。

が、すぐに我に

「そうですね。これは失礼しました。ミス、ロスマン。」

俺は曹長の、のりに合わせて手を取った。

「それでは、どちらまで?」

「出来る限り上まで、まだ見ぬ場所まで私を連れてって!」

「了解。」

俺は彼女の速度に合わせながら一気に上昇して行った。

 

「ところでこれって楽しい?」

「もちろん、最高です!それに私は私が楽しいことなら何でも挑戦しますから!」

 

そして高度40000ftを超える。

外気温は-67℃を下回り魔法による加護がなければ生きることすら出来ない場所まで来た。

俺や曹長のユニットにも霜がつき始めていて彼女のユニットならあまりいたくはない環境のはずだ。

 

「もう雲があんな下にある。けど、残念です。空中に浮いているネウロイの巣はかろうじて見えますが、私の故郷までは見えませんね。」

「ブリタニアは影も形も見えないがな。」

「それは、そうですよ。ベルリンだってあんなに遠いんですから。」

曹長はじっとカールスラントのほうを見ていた。

俺達でさえ、ネウロイのことを考えずにただ遠くの景色だけを見る、なんていう余裕はないんだ。

あまり飛ばない曹長には久しぶりに眺める故郷に思うところがあるのだろう。

本当はそっとしておきたいが、ここではあまり時間がない。

下手をするとレシプロのエンジン内温度が下がりすぎて止まってしまうかもしれない。

現に先ほどから少しずつトーンが落ち始めている。回転数が下がり始めている証拠だ。

「曹長、時間だ。早くしないと最悪エンストを起こすぞ。」

「!・・・そうですか。大尉がそういうなら仕方ないですね。」

名残惜しそうにもう一度、遠くを眺めると曹長が先行して降下を始めた。

 

上昇しているときとは異なり、曹長は何も俺に話しかけてこなかった。

眼下に広がる海や陸地、雲との距離がだんだんと縮まっていく。

高度計の数字が目にも留まらぬ速さで減少していき、やがて18000を切り始めた頃で再びエンジンの出力を上げて体を引き起こす。

だが、曹長はそのまま降下を続けていた。

どうした?と声をかけようとしたそのとき、

バンッ!

少し低音が混じった爆発音とオレンジ色の光と黒色の煙が確認できた。

「曹長!」

よくみて見ると彼女の右ユニットから炎が出ていた。あれはまずい!

「おい、どうした!魔力供給を停止しろ!消火するんだ!」

だが声をかけても返事がない。

体を真下に、だがゆっくりと回転し始めた彼女に俺は危機感を覚えた。

「曹長!曹長!返事をしろ!」

見たところあれは完全に意識を失っているんじゃないか?

爆発の衝撃ゆえか理由はわからないが失神してコントロールを失い失速状態に陥っている彼女を今すぐにでも起こさないと大変なことになる。

一気に速度を上げて彼女に手を伸ばす。

「パウラ!」

くそ、冗談じゃない。

こんなところで死なれてたまるか!

あと30cm,20cm,と近づいたそのとき彼女の左ユニットが俺に襲い掛かってきた。

グヮン、と体が回りユニットが俺の右手に直撃する。

「ッ!」

冗談じゃない!利き腕だぞ、こっちは!

 

思わず離れてしまったせいで彼女との距離がさらに離れる。高度は既に12000をきっている。

もう一度だ!

右手の痛みをこらえながらもう一度アプローチを行う。

残り相対距離が2mのとこになったところで

-発動

ネウロイを攻撃するときよりは加速を遅くして最も安全に彼女を捕まえられるタイミングを探る。

まだだ、まだだ・・・今!

素早く懐に入り込み曹長を両手で抱えて、水平飛行に移る。高度は7500ft、かなり危なかった。

曹長が気を失ったためか魔力供給が途絶え、ユニットからの炎上は既に停止していた。

「曹長!」

声をかけても返事がない。

「おい!」

今度は体をゆすってみる。

するとようやく動く気配がした。

「あれ、ここは?ってええ!?いまこれってどういう状況ですか!?」

「落ち着け!」

ようやく起きたか。まったく、手間をかけさせてくれる。

ほんの一瞬だがこのまま起きなかったらどうしようかと悩んだが杞憂で終わってよかった。

「怪我はないか?」

「ちょ、ちょ、いまどういう風なのか顔が動かせないのでわからないです・・・。」

「何があったか憶えているか?」

「えっと、ですね・・・。降下している途中で、だんだん意識が遠のいていったのは憶えています。」

「どうしてこうなったのかは?」

「ごめんなさい、大尉。わからないです。」

「そうか。」

とりあえず、俺は今この間に起こったことを話した。

自身が気を失っていたこともそうだが、右ユニットの燃えていたあとを見てかなり驚いていた。

「本当に助かりました。もしこの場に大尉がいなかったら、私・・・。」

「今回は気にするな。というか、万が一こういった事故が起きたときのために俺がいるんだから助けるのは当たり前だろう?それに次が起きないようにすればいいだけの話だ。とにかく、目立った怪我がなくてよかった。」

「はい。ありがとうございます。」

そういうと彼女は俺の腕を強くつかんだ。

身長150cmの曹長が俺にはさらに小さな存在のようにも見えていた。

しばらく曹長は俺にしがみついたままだった。

彼女のユニットは両足とも魔力供給を停止しているため、俺のメイブが2人分を支えていることになる。

実はいつもよりも魔力消費量が多く、ちょっとつらい。

「ところでいつまでこうしているつもりだ?」

「もう少しだけ、お願いします。」

了解。と俺は答える。

ま、いくら実戦を何回も行ってきたとはいえこの歳だ。気が動転するのも無理はないか。

もう少しだけ、待ってあげるのもいいかもしれない。

いつも助けてもらっているお礼だと思えばな。

「(Ich beneide sie….)」

一瞬、伯爵が何かをつぶやいたのが聞こえた。

「何かいったか?」

「いえ、何でも。」

そういうと曹長は俺の胸に顔をうずめて再び黙ってしまう。

 

5分ほどしてようやく曹長は復活した。

「もう平気です。さっきまでは恐怖で心臓バクバクだったのに今ではもういつもどおりです。」

顔色も悪くない、耳も問題ない、これなら平気だろう。

「ユニットはどうだ?」

「・・・だめです。うんともすんとも言いません。」

「なら曳航みたくこのまま俺が基地まで連れて行くか。悪いが背中に回ってくれないか?このままだと前が見えにくい。」

「了解です。」

上手く動いてもらって背負った状態になり、銃を前に回してようやく前方の視界が確保できた。

「それじゃ、一旦帰るか。」

「そうですね。」

痛む右手を隠しながら基地に針路を向ける。

「あぁあ、これじゃブレイクウィッチーズのこといえませんね。」

「きっと帰ったら伯爵に何か言われるだろうな。」

伯爵のことだ。いつも壊して怒られていたので曹長が壊したと知ったら煽ってくるだろうな。

「これもきっとさっき大尉が言っていたHaste makes waste.ということなんでしょうね。本当に失敗しちゃったな。」

「これでわかっただろ?急ぎすぎると何かしら起きるんだって。」

「身をもってわかりました。」

「ならよろしい。」

俺達は曹長がユニット破損、俺は右腕負傷、と言うことで今日の飛行は出来ない、と少佐に後ほど言われるのだった。

 

医師の診断結果、右腕の尺骨が骨折を起こしていることがわかった。

しかし、だんだんこの世界に慣れてきた俺ですら驚いたのが医師の下した診断は全治一週間だってことだ。短すぎだよな。

もちろんその間は飛べない。8割治った状態で飛ばすよりも完治させて飛ばしたほうが後々にも言いという判断だ。

さっさとルマールの治癒魔法で直してもらってこいと言われ、食堂にいる彼女の元へ行くとなんと掃除中だった。

なにがなんとだって?

ルマールは両親が宿屋を経営していることから小さい頃から良く手伝っておりベッドメイクや掃除が得意である。また502で一番綺麗好きとも言われている。よってそれを邪魔されるとこの基地でも3本指に入るほど怖い(伯爵談)らしいので終わるのを待って声をかけた。

ふう、終わったとつぶやいたルマールは心なしか顔が輝いているように見える。

「ルマール、ちょっといいか?」

「何でしょうか?」

「さっき怪我してしまってな、治癒魔法かけてくれると助かる。」

「大尉が怪我ですか?またですか。あ、紅茶飲みながらでいいですか?」

「もちろん。」

自分の紅茶を作るついでに、作り置きのさめたコーヒーを温めなおして一緒に淹れてくれた。

「どうぞ。」

「ありがとうな。」

ルマールは棚からクッキーを取り出して机に置き、ひとつ食べてからはじめましょう、といった。それくらいの余裕はある。

「それで、どこを怪我したんですか?」

「右腕だ。医師の診断によると骨折しているらしい。ルマールが治癒魔法かけてくれたら固定するって話だっ・・・・。」

「何でそれを早く言ってくれないんですか!!!」

「ル、ルマール?」

ティーカップを雑に置くと顔を思いっきり寄せてきて、彼女は叫ぶ。

何故だろう?結局怒られた気がしてならない。

「骨折なら早く言ってください!すぐに治しますから!というか、何故いままで黙っていたんですか!?」

「だってさ、伯爵とかが“いいかい、隊長。ジョゼに話しかけるのは掃除中以外にするといい。なんせ怒らせるとかなり、いや言葉に表せないくらい怖い。”とか言っていたからな。」

「地味にバーフォード大尉も伯爵の真似が上手くなってきましたね。今の聴いて少し腹が立ちました、ってそうじゃなくて伯爵とか管野さんとかは私が楽しく掃除しているときにそういうのを何も考えずにすり傷とか一日で治るような軽い傷なんかで私の治癒魔法に頼るから怒るんです!

普通は、仲間が負傷したとき私は絶対に拒みませんから。ほら、早く見せてください。すぐ直してあげますから。まったく大尉ってばいつも変なところで気を使うんだから。」

「あぁ、わかった。」

まるでぷんぷんという音が聞こえてきそうな感じのルマールは俺の怪我している場所に彼女の手を当てて魔力を顕現、治癒魔法をかけ始めてくれた。

細胞が活性化しているのか、医学の知識はほとんどないためよくわからないがなんとなく治っていくのがわかる。

 

そんな魔法の神秘に改めて驚きを隠せずにいるとルマールが声をかけてきた。

「大尉、本当に死なないでくださいね?」

え、思わず顔を上げると彼女はなにやら神妙そうな顔をしていた。

「いきなりだな。いったいどうしたんだ?」

まったく関係ないが今のルマールの口調は昔映画で見た、出撃するパイロットに心配そうに声をかける女性を思い出させた。

「いま、大尉に何回治癒魔法をかけたっけと思い出していたんですけどなかなかに壮絶だなと思いまして。さっきも言ったように伯爵とかは擦り傷程度でよく来るっていいましたけど大尉の場合はおなかが少し抉れたり全身の傷に加えて衰弱状態だったり今日の骨折だったりと私が治癒魔法かけるときなかなかに重症ですね。」

あー、確かにそういわれればそうだな・・・。

ルマールに頼る時、そのほとんどがすぐに医者の手当てが必要だったりする。

そして魔法をかけてくれるとき、いつもルマールは嫌な顔ひとつせず行ってくれる。

軽いとはいえ(後で空腹になるとの事)代償があるのに。

「私を含めて、死んでしまわれると治せないんです。そこはわかっていますか?」

もちろん、わかっているさ。

「だから死なない程度に怪我して帰ってくるんじゃないか。」

「そういう問題じゃないんです!」

そう言うとルマールは俺の怪我をしている腕を強くつかんできた。

「そういう、問題じゃないんですよ・・・。」

もう一度同じ言葉をつぶやくルマールは少し悲しそうだった。

 

・・・今の軽口は失言だったな。

治りかけの腕に、彼女の手を通して強い痛みが走った。それはまるで彼女の抱える心の痛みだといわんばかりの物だった。

治癒魔法の使い手は戦場で兵士の治療を行ったりすることがある、と聞いたことがある。

文句ひとつ言わず治療してくれるルマールのことだからここに来る前の場所でもきっと同じようにしていたのだろう。たくさんの人を救い、そしてそれと同じくらいあるいはそれ以上にだめだった人もいるだろう。その“失敗した”経験はルマールの肩に俺達他人にはもちろんのこと本人ですら気がつかないうちに重荷として襲い掛かる。

それ故に些細な怪我でも心配してしまう、かつて救えなかった人たちのことが頭をよぎるから。

「すまない。それと本当に、ありがとうな。心配してくれて。」

だから謝罪と感謝を。

こんな俺の事ですら心配してくれて。

「わかってくれればいいんです。だからこんな怪我しないでくださいね?骨折だって下手すれば大変なことになるんですから。」

そう言って、ようやく手の力を緩めてくれた。

これも彼女の怒っているというサインだったのだろうな。

 

「ただ・・・。」

まだ話は終わっていないみたいだ。なにか憂鬱な話をするのは勘弁だなと思ったがどうやらそうではないみたいだ。

「もしも大尉が本当に私に感謝してくれているんだったら・・・。」

「だったら?」

ブルーな話ではなかったと安心したのも束の間。一瞬、何を要求するのかと身構えたが

 

「なにか甘いお菓子でも作ってください。」

 

・・・意外と普通だった。それにしてもお菓子か。本当に、お年頃って感じがする。

それも作ってくれか。どちらにせよおいしいお菓子が売られているお店なんてサンクトペテルブルクでは見たこともないから作るしかないのだろうな。

「まぁ、それくらいなら出来ないことではないが・・・。」

そういえば、ウィルマが何かしらのレシピを知っていたはずだから今度、教えてもらう。

そうだ、今夜あたりに声をかけてみよう。最近一緒に何かをするという機会が少なかった。夜間哨戒に呼ばれたり、当番が上手く合わさらなかったり、話はするがどうしてもロンドンにいたあの時よりは減っていた。

ちょうどいい機会だし、誰にも邪魔されずに何か作りたいな。

「ちなみに私はクッキーが大好きです。」

「スコーンじゃだめか?紅茶に合うし。」

「じゃあ、それで妥協してあげます。一日でも早い提供を期待していますからね。」

そういうとルマールは俺のための魔法に集中し始めた。

 

何も考えずにただ魔法を見ていると、5分ほどしてルマールが声をかけてきた。

「終了です。わたしの能力ではこれが限界ですね。あとは大尉の努力しだいです。」

「フムン、熱はまだあるが痛みはだいぶ引いた。これなら1週間で本当に完治してしまいそうだ。」

「そうですか!なら良かったです。」

手をパタパタさせながら“ひゃー、暑い”なんていっているルマールは再び席を立ち床下の保冷室からサンドウィッチを取り出すと食べ始めた。

暇だったからそんな姿をじっと見ているとさすがに気まずくなったのか半分差し出して

「・・・食べます?」

そんな事を言ってくれた。さすが、気配りの出来るいい子だ。

「いや、こういっちゃ何だが自然な流れでつまみ食いしているなと思って。うちのウィルマは“は!またおなかにお肉が!”なんて言っているから結構斬新だなって。

そこいらの女子よりも明らかに消費カロリーは多いはずなのになんで太るんじゃといつも嘆いているな。」

「うちのウィルマとか、さすが大尉は違いますね。」

「事実だろ?」

“はぁ、お暑いこと“と独り言を言った後で解説してくれた。

「私はこうやって治癒魔法を使うと体が火照っちゃうんですね。そうするととっっってもおなかが空くので食べないとやってられないんです。」

夜に食堂でなにか音がすると思ったらルマールだったのか。

てっきりねずみがいるのかと思って少佐に相談してしまったんだよな。ここは外より暖かいし、食糧もあるから間違いないと思ったのに。

ま、ペルシャ猫が腹を空かせて食べ物を漁りに来ていると考えてしまおう。

「ウィルマさんは大人って感じですからね。スタイルいいし。」

「ま、年齢もあるだろうな。20歳を超えているから魔力も落ちている。昔みたいに食べてもその分魔法を使えないから太ると感じているんだろうな。」

「なるほど。そういえば、大尉。ひとつ聞きたいことがあるんですけどいいですか?ちょうどウィルマさんの話になっていますし。」

「かまわないよ。」

“では”と姿勢をただし、こちらに真剣なまなざしを向けて聞いてくる。

 

「ウィルマさんをいつまで飛ばす気ですか?」

 

・・・ついに聞いてくる奴が出てきたか。

20歳という年齢だともう引退してもおかしくはない。今はシールドを張れるほど魔力を保持しているが数ヶ月前までは限界に近かった。いつ再び限界が来てもおかしくはないし、兆候だってある。見ている限り、シールドの展開速度が遅くなってきていた。

だが、俺とウィルマの間でここに来て一度もそんな話はしたことがなかった。

意図的に避けていたといってもいいだろう。だからルマールが聞いてきてくれたのはちょうどよかったのかもしれない。

「どんなに延長したとしても、今年末だろうな。」

これは俺が想定している彼女の限界だ。それに再び戦闘が激化することを考えればベテランの類に入るウィルマが502から抜けるのは厳しいだろう。ほんの噂だが扶桑から2人を新たに編入する計画があるらしいが少なくともそこまではいてもらわなければならないだろうな。

「決めているのなら、いいです。」

「望んでいた答えは得られたかな?」

「はい。というか、出すぎたことをしてしまい、申し訳ありません。こういった事は2人で決めるべきことなのに。」

「いや、平気だ。」

むしろ、決めるきっかけを作ってくれたことに感謝しているくらいだ。

ずっと、どこか逃げていた気がするからな。

ついでだ、今度お菓子のときに話してみよう。

「今度、じっくり話してみるよ。結果が出たら改めて皆に知らせる。」

「わかりました。ありがとうございます。」

そういうと、早足で食堂を出て行った。

・・・最後は気まずい結果になったな。そう思いながら俺はコップを流し置きすっかり忘れていた医者の下に向かうのだった。

 

後日、熊さんを含め整備員が事故の原因を調査した結果、右ユニットの炎上は過度の魔力流入によるオーバーフローだった。本来であればいくつもあるはずの安全装置が何らかの原因(おそらく低温のため安全装置が凍結し動かなかった)によって、動作不良を起こしエンジンの回転数が設計限界を超えてしまい、炎上したと思われる。

このことを記入した報告書を提出しに行ったのが事故発生の5日後、つまりはおととい。

一次報告書は当日に出していたため、これは最終報告となる。

 

俺が少佐との用事が終わり待機室へ帰る途中、司令部から帰ってきた曹長を見かけた。

だがどうにも様子がおかしかったので声をかけてみる。

「曹長、どうだっ「あーもう!許せない!」」

俺の声が聞こえていないのか独り言をつぶやきながら曹長は部屋へと戻っていった。

一体どうしたのだろうか?なにかあったに違いないのだがかなり“きてる”みたいだ。きっと物に当たらないのは曹長なりのプライドがあるからだろうけど、あれはなかなかにやばい。

どれくらいやばいかって?後ろのほうでその様子を見ていたいつもユニット壊している3人組が

「あんなに怒っている曹長は久しぶりだ。」と伯爵。

「さっき破損させちまったけど、なんていえば一番怒られずに済む?」と下原に相談しているのが管野。

「どうしようどうしよう前に壊したのがばれちゃったのかな?どうしよう!!」とノイローゼになりかけているのがニパ。

と、怒られてもへらへらしているこいつらですら本能で危機感を覚えているくらいである。

司令部から帰ってきてからずっとあんな感じなのできっと上層部と何かやらかしたのは明らかである。現在時刻は1650。今日の夜間哨戒は他の部隊の奴が行うので502全員で夜食を食べることになる。

つまり、このままではあの気分が最悪に悪い曹長と一緒のテーブルで食事をしなければならない。空気も最悪になるのは間違いない。

そのため早急に原因を究明し、解決策を見出さなければならない。

今日、夜間哨戒任務が入っていればそんな事を気にせず年頃な女子だけでどうぞごゆっくり、と全てを擦り付けることが出来たがそんな事は残念ながら無理だ。

スクランブル待機組みで緊急対策会議(仮)を開くことになった。

そして、会議が開始されると同時に

「こんなときのラル少佐だ!」

「ラル少佐はどこだ!?」

いきなり全てをなすりつけようと、人柱探しが始まる。対策とはなんだったのか。

ところが

「少佐は上層部と追加の会議があるそうで夕食の時間に戻るそうです。」

と、警備兵が話してくれた。

 

「何でこんなときに限って少佐がいないんじゃー!!」

「落ち着け、伯爵。こんなときに焦ってもしょうがない。」

「それじゃ、隊長。誰が・・・ってそうだ。次に階級が高い熊さんか隊長が行けばいいじゃないか!!」

「!!それがいい!」

管野が獲物を見つけたときのような目で俺らを見る。

その指摘にお互い顔を見合わせて。

「ここはこの部隊で一番勇気があふれて最高に素敵な紳士であるバーフォード大尉が。」

「ここは、レディーファーストで。そしてオラーシャ1の美女のポルクイーキシン大尉が。」

と同時に不毛な言葉をつむぐ。

ここでお互いが譲ったとしてもただただ無駄な時間になるのは目に見えている。

 

こんなときはウィルマ、いつもそばにいる君に助けを求めるしかない。

すかさず俺ら2人の間でしか使わないハンドサインの1つ、“カバーしてくれ。”で救援要請をする。

あごを机の上に乗せてぼーっと眺めていたウィルマが俺のサインに気づき体を起こす。

「同じカールスラント人のほうがいいんじゃない?特に伯爵は曹長ともここに来る前から知り合いなんでしょ?」

「え“!?」

ナイスだ!

俺がウィンクするとウィルマは“どうだ、すごいだろう!”といわんばかりの顔をした。

そこで俺とウィルマのやり取りを少し見ていた熊さんが

「そうですね、やっぱり階級なんかよりも長年の付き合いのほうがきっと曹長の悩みを解決する手助けになるはずです。」

と更なる支援攻撃を行ってくれた。

こうして5人(ニパはどこかに消え、下原はうとうとしている。)によう“こうどなじょうほうせん”が繰り広げられていると

ドンッ!!

普段そんな大きな音をしてあける必要のないドアがものすごい勢いで開いた。

「何を、しているんですか?みんな揃って。」

曹長と言う名の震源地がついにきてしまった。だが彼女が来るまでの空気は伯爵が対応する空気だった。このまま行けば・・・

「(You have!)」

伯爵、貴様!裏切ったな!?

「(バーフォードさん♪)」

熊さん、お前もか。いつも信頼していたのに。

そんな今までで一番かわいいような声で言われたって・・・。

気がつくとみなの視線が俺に集中していた。

まて、いつの間にお前達は俺に擦り付けたんだ?

そして、俺は能力を使っていないのに瞬時にあらゆることを考えていた。

ここで、全員が集まるにふさわしい何らかの理由を考えて・・・・、そうだ!

 

「なぁ、曹長。また伯爵がユニットを・・・。」

「アタック!!!」

伯爵が彼女から最も近くにあった本をこちらに投げてきた。彼女も本能でこれ以上言わせてはだめだと判断しての攻撃だろう。

文庫本サイズの本を手でキャッチして事なきを得たが、直撃していたらまたルマールの世話になるところだった。

だが、これも根本的な解決にはなっていない。

どうしようか再び考えようとしていたそのとき、

 

「そういえば、バーフォード大尉。」

 

俺の名前が呼ばれたとき

伯爵は小さくガッツポーズをして“yes!”とつぶやき

管野は右手を顔の前で立ててあちらの国の祈るポーズで“ご愁傷様”とつぶやき

熊さんは申し訳なさそうに“ごめんなさい”とつぶやき

ウィルマは“がんばって”と俺に囁いてきた。

「何でしょうか?ロスマン曹長?」

「ちょっといいかしら?」

もはや口調まで変わってしまっている曹長に階級差など関係なく指示に従う。

立ち上がり、いすを机の下に入れ曹長の下に向かう。

その途中でウィルマの横を通り過ぎるときにお互いのこぶしを軽くぶつけ合って

-いつも出撃前にするおまじないのようなもの-

彼女の元に向かう。

一旦出撃待機室からでて、廊下にて曹長の話を聞くことにした。

「それで、話とはいったい?」

内心すこし緊張しながらも曹長に話しかける。

「前に、バーフォード大尉は薄殻魔法榴弾がほしいということで補給申請していましたよね?」

「ええ、確かに。」

あれは、ハインリーケが使っているから俺も使ってみたいっていう単なるわがままみたいなものだから申請したこと自体、俺も忘れかけていた。

「あれ、私が許可します。というかさせます。何とかしてここに持ってきますのであさって、補給基地に行きますから同行してください。」

「へ?」

なぜ?というかあの場で開口一番で拒否したあの曹長がなぜ?

そんな俺の疑問に答えることなく曹長は話を終わらせる。

「話は以上です。それでは私はこれにて失礼します。お時間をおとりして申し訳ありませんでした。」

そういうとあっさり曹長は俺を解放してくれた。

また何かをつぶやきながら司令官室へ向かっている彼女を俺はじっと見ながら少し思うところがあった。

さっきはあんな風に擦り付け合いしようとしていたが、本当のところ何があったか少し気になっていた。ただ、積極的に関わるというのがあまり好きではないというだけだ。

前に40000ftで少し彼女の心に触れられた気がしたためか、それとも単に不機嫌な奴が部隊にいるとそれだけで士気が下がる、という士官の考えゆえか判らないがなぜあんなに不機嫌なのか気になっていた。

そうなると先ほどまでは修羅のように見えていた彼女は今ではただただ、何かつらいことを抱えて小さくなっている少女にしか見えなかった。

「曹長。」

「何です?」

不機嫌な声で振り向き、俺に返事をする。

「何かあったのか?話を聞こうか?」

「え?」

「その様子だと、司令部で上の奴になにか言われたんだろ?話してみれば楽になるかもしれないぞ?」

俺がそういうと15秒くらい固まってしまった。

・・・平気か?

そう思いはじめた直後、曹長は俺との距離を一気につめてこちらに来ると

「大尉!聞いてください!あいつらったら本当にほんっとうに私のこと・・・!!」

心のストッパーが外れたのか先ほどの怖い表情から泣きそうな顔に変わり一気に話を始めようとしてきた。

「待って、とりあえず食堂で何か飲みながら話を聞こう。それでいいか?」

「ッ。・・・はい。」

ああ、これは深刻だな。

肩をつかんでよく表情を確認してみると一瞬、曹長の顔がかつてワイト島で見た毛布に包まっていたあのときのウィルマに重なって見えた。きっと聞いてあげないと後で潰れてしまうかもしれない。

そっと曹長の体を回転させて背中を押し、歩かせる。

ふと後ろを見るとうえから伯爵、ウィルマ、ルマール、熊さんと4個の顔がこちらを見ていた。さっきおれの事を見捨てた人たちが今頃になって安全圏から見ているとはいい度胸だ。

あとで見ているといいさ。

 

そこからの曹長は凄かった。2時間止まらなかった。

「大体、どうしてユニットを壊したことが全部私の責任って話になるんですか!おかしいじゃないですか。急激な加速は事故の原因になるくらいわかっていますしもちろんそんな事はしていません。それなのになぜんか私がそんな事をしたかのようにいわれました。

挙句の果てには“新型のテストを曹長階級の奴にやらせるからいけないんだ。これだから下士官は責任感がない。502にはそんなやつらしかいないのか?”ですって?

確かにうちにはユニット壊しまくる人がたくさんいますけど、ちゃんとペテルブルクは守っているでしょ!

あなた達が優雅にワインを飲めるのは一体誰のおかげだと思ってるんじゃ!」

というようなことを30分1セットを4回ほど繰り返し最後のほうには

「こんなの、こんなのってあんまりですよー。大尉にはわからないでしょうね。」

といって机に突っ伏しながら泣き始めてしまった。

傍から見ていると申し訳ないが酔っ払いのようにしか見えないが、曹長は至ってまじめなはずなのでとりあえず背中をさすりながら励ましてあげる。

残念ながら月並みなことしか言えなかったがだんだん曹長の返答の声も小さくなっていき、やがて寝息を立て始めた。

その頃になってようやく俺に全てをなすりつけた人たちが入ってきた。

気まずそうに俺と目を合わせないようにしている3人とは別にウィルマが俺たちに近づいてきた。

「お疲れ様。」

「あぁ。曹長、相当まいっていたみたいだ。今日くらいは休ませて上げたほうがいいと思うな。」

「それじゃ、後は私達で何とかしておくね。」

「あぁ、頼んだぞ。」

そういうとウィルマとルマールが曹長の腕を抱えて部屋に連れて行った。

 

というのがあったのがおとといの話。

今日は補給物資を受け取るために支援基地へ向かっていた。3台のトラックに別れ先頭が整備兵3名、次が曹長と伯爵(あの身長で軍用トラックをよく運転しているな。)、最後が自分と言う感じに運転している。

「それで、今日は何を受け取りに行くんだ?」

『定期的に補充される缶詰などの食糧、各隊員から購入申請がありその中で受理された雑貨、例を挙げるならたとえば下原少尉は茶具セット、ルマール少尉がファッション雑誌とかです。それにユニット整備の際に部品劣化などで交換が必要になったものがあるのでそれの補充、最後に“私が現地で必要だと思ったもの“です。リストは出来ているので到着後すみやかに行います。』

最後のって、要はいつもやっている奴か。

ちなみにいまは曹長と俺はインカムをつけて会話している。

『大尉の言っていた“例の弾丸“も私がほしいと思ったものの類です。

あれには結構苦労したんですよ?』

「・・・具体的には?」

『上の、もちろんラル少佐ではありませんが、人の名前を使って要は上官権限でこっちに持ってこさせた上で、本来であれば本部保管にしておくはずの物が“なぜか”502で使用されることになっているのです。

どうせ上の人も補給基地の人もお互いが連絡を取る余裕などはないので気にしません。

これが昔いた普通の部隊だと怪しまれていましたがここは502、世界でも屈指の航空歩兵隊ですからね。』

「本当に危ない橋を渡っているんだな。」

『本当です。もし“あの件”がなければ私もこんな事はしなかったのですが。さすがにあれには私も許せなかったのでやっちゃいました。』

「ありがとうな。わざわざ。」

『いえ、私の自己満足ですから。それに大尉はその対価に見合った成果を上げてくれますからね。きっと皆が満足する結果につながるはずです。』

 

30分ほどしてようやくついた。いまだに少しだがネウロイから受けた攻撃の傷跡が残るもほぼ問題なく支援基地としての役目を果たしていた。

整備兵3名と伯爵にはこいつの代替ユニットと交換部品及び定期補充物資の受け取りに行かせて俺は曹長の手伝いをする。

 

「さて、バーフォード大尉。こちらです。」

曹長の後についていき、いくつもの木箱の間を抜けてようやくたどり着いたそこには1メートル四方の大きな木箱が2つと縦2.5m、横、高さ1mほどの木箱が1つ置いてあった。

全ての箱には十字のカールスラントを表すエンブレムと”Hergestellt in karlsland”の刻印が押されていた。

「まず、これは大尉が使っている銃対応の12.7mm弾です。」

「おう。」

なに?まずって事は次があるのか?

「そしてこれは20mm用の弾丸です。12.7mmよりも炸薬が多いので威力が大きいです。もちろん弾薬はすべてカールスラント製なので性能も世界一です。」

「なぁ、曹長。俺は・・・。」

「えぇ。20mmを使える銃を持っていない、ですよね?もちろんわかっています。」

そういうと、彼女は最後の木箱のふたを開けた。

「これは私からのプレゼントです。命を助けてもらったり泣き言に付き合ってくれたりしてくれたお礼だと思ってください。もっとも私自身が身を切っているわけじゃないので痛くもかゆくもないんですけどね。」

その木箱の中には馬鹿でかい機銃が入っていた。

「MG 151/20機関砲です。普段は戦闘機に積んで使うものなんですけど、以前ヴィトゲンシュタイン大尉の話をしてくれましたよね?その後調べてみたらこの人もこの銃を現地改造したものを使っているそうです。なのでがんばって手に入れました。

改造はうちの整備班がやってくれるみたいなので数日中には出来るはずです。

ぜひ使ってください。私のコネや努力の具現みたいなものですから。」

曹長って、本当に某傭兵空軍部隊の武器商人みたいになってきたな。

よくこんなものを手に入れられたものだ。

「俺が使ってもいいのか?」

「もちろんです。あ、国籍の問題ですか?それはもうぜんぜん問題ありません。ばれた時は物資が足りないからって上のせいにすればいいですし。

それにいつも平気でやっていることですしね。」

いまさら御託を並べるなってか?

まぁ、威力が高い物がほしいから薄殻魔法榴弾を入手したかったわけで結果としてはさらに威力が高い火器を獲得できたのはそれはそれでよかったのかもしれない。

「なら、ありがたく受け取らせてもらうよ。助かる。」

「はい。たぶん12.7mmのほうは大尉の狙撃銃用ですからそう簡単にはなくならないはずですけど、20mmのほうはきっとばら撒く形になると思います。けれど心配しないでください。私が何とかしますから。」

これって確か一発あたりかなり高くなかったか?曹長が何とかするというと本当に何とかなってしまう気がするがさすがに何回もお世話になるのは気が引ける。

だから本当に必要なときのみ、使うことにしよう。

「なら、次に大型のネウロイが出現したら使ってみるよ。」

「はい、ぜひ使ってあげてください。」

そういうと曹長は大型の木箱を運ぶ専用の荷台を持ってきた。

「さ、早く運んで私達の基地に持って行ってしまいましょ。誰かにとがめられる前に。」

「それもそうだな。」

と、MG151/20が入った木箱を持とうとするとかなり重かった。/

「ちなみに銃本体だけで40kg超えますけど、平気ですよね?」

「まぁ、魔力加護があれば平気かな。」

これはきっと実戦では肩がこりそうだ。

そんな事を思いながら今度は2人とも魔力を顕現させて、身体能力向上の加護で何とかトラックに搬入するのだった。

 

『バーフォード大尉、聞こえるか?』

「ラル少佐?どうしたんですか?」

補給基地から帰る道を下り後は左折をして直線の道を行けば基地に帰れる、というところで少佐から通信が入った。

『至急、司令部に出頭してほしいそうだ。場所はブリタニア課で何でも書類が届いているから受け取れ、との事だ。』

「書類ですか、了解です。」

『すまないな、せっかく補給基地まで行ってからの帰りの途中だろ?私があと10分長くいればそんな面倒はさせなかったのだが。』

「いえ、問題ありません。曹長、そこで止めてくれ。」

『了解です。』

曹長も通信を聞いていたため、既に内容は理解しているが中間の整備兵2名は知らない。

一旦車列をとめて、片方1名に俺の代わりに基地に持って帰ってほしいことを伝え俺は東欧司令部まで歩いていった。

 

「連絡があったので参りました、502のフレデリック・T・バーフォード大尉です。」

「あ、バーフォード大尉ですか。了解です。隣の応接室に入ってお待ちください。」

そういうと、受付の人は置くまで走って行き、“課長!バーフォード大尉がいらっしゃいましたよ!”という声が聞こえてきた。

一体何なのだろうか、と思いながら隣の部屋に入り座って待っていると2分くらいして課長が入ってきた。

「やぁ、待たせてすまないね。あ、立たなくて結構。私が東欧司令部ブリタニア課、課長のアーヴィング・リース中佐だ。なんで私が出てくるかというとこの封筒にそれだけの意味があるからだ。この地域で活動する全てのブリタニア軍兵士の活動状況を私が知っておく必要があるため作戦指令書などを私が閲覧する義務と責任を負っている。だがな、この作戦指令書はこの印が書いてあるせいで私には閲覧する権限がない。つまりは“そういうこと”だ。

私は知る必要がない、と言うわけだ。さて、その命令書は私は退室するからその後で読むように。それと、心の準備を忘れずにな。では。

そうそう、そこの紅茶はあったまっているから好きに飲むといい。」

一気にまくし立ててリース中佐は俺に話す隙も与えずに部屋を出て行った。まるでこの書類を手放せてようやく一安心、という感じがした。

表には“作戦指令書”の文字と俺の名前、と“極秘”のマークが、裏にはブリアニア空軍、SIS、MI5、そして“ブリタニア王室”の家紋が記されてあった。

今までジャックから送られてくる指令書だって、こんなにマークがあった事はない。

「嫌な予感しかしないのだが。」

はさみで上の封を切り中の書類を取り出す。

 

 

王室命令 =作戦指令45503=

ブリタニア連邦君主の名の下にブリタニア王立空軍特殊戦術飛行隊第2飛行中隊第21攻撃飛行隊隊長フレデリック・T・バーフォード大尉に対し以下の命令を行う。

なお、当命令はいかなる命令より最優先行われるものとする。

・・・

 

俺はため息をついて、天を仰ぐのだった。

 




一週間で書けたのに編集にじかんがかかりおわったのが2358。
これからも月1で更新できるようがんばります。

ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。

タイトル間違えていたので修正。

次は遅くても7/1に更新します。文字数も増えて分けることに、、、

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