司令部は一旦体制を立て直すために部隊の再編を行う。
その過程で援軍として来ていた俺達には帰頭命令が降りる。
それと同時に俺には本国司令部に出頭するよう命令がおりたため、一緒に戦った仲間に別れを告げて、ブリタニアに向かうのだった。
ネーデルランド、アルンヘムン上空約20000m
ヴェネツィアからロンドンに帰る途中、時間調整のため少し寄り道をしていた。
アルンヘムンはネーデルランドと帝政カールスラントの国境近くにある町で現在カールスラント奪還を目論むカールスラント陸軍を主力とする連合軍とそれを支援する空軍及び一部海軍航空隊の前線基地となっている。
現在も膠着状態になっているとはいえ、ネウロイとの激しい戦いがいまも続いている。
そして、俺がここに来た理由のひとつでもあるとある部隊が攻撃を行っていた。
それは、地上攻撃ウィッチ。
俺と同じように空を飛びネウロイを攻撃するために動いているが、任務はまるで異なる。
彼女らの主任務は地上型ネウロイの撃破。
飛行型ネウロイとは装甲の厚さも異なりそれゆえ撃破するには我々空戦ウィッチとはまったく別の攻撃方法が必要になってくる。
俺もヴェネツィアや撃墜された後を含め何回か戦ったことがあるが、高速で動いている目標を攻撃するのと違ってほぼ止まっているに等しい目標を撃破するのは能力を使用していなければきっと手こずったであろう。
さて、この時代の地上攻撃ウィッチは主に2種類の攻撃法方を選ぶことができる。
まず1つ目。大型で大口径の対装甲ライフルを使用する。空戦ウィッチが使用するのよりもさらに大型で威力も大きいため振り回しにくいため俺達は使うことが難しいが、地上攻撃ウィッチなら可能だ。これであればたいていの地上ネウロイは破壊できる、今のところは。
しかし、中にはこれでも破壊できないタイプも存在する。
例を挙げるとすれば、海に沈んだ船にネウロイが取り付いて結果として超大型ネウロイになったパターンがある。
こういったネウロイを攻撃、撃破する方法が、背中に機関銃や狙撃銃を担いで開いた両手で爆弾を持って敵上空で放り投げる方法だ。
最初の一度しかチャンスがない上に爆弾を投下したあとは対地上型ネウロイに対して効果が薄い機関銃や狙撃銃しかオプションがなくなるしそんな状態で空戦型のネウロイと遭遇したら爆弾を放棄して戦闘か撤退かの2択しかなくなるなど欠点が多いが、装甲が厚いタイプのネウロイには非常に有効な攻撃手段だ。
ちなみにウィッチによって持てる爆弾の限界重量が異なるため、基地には1ポンド単位で重さが異なる爆弾がたくさん置いてあるらしい。ボーリングかよ。
こうやって地上攻撃ウィッチはこの2つの攻撃手段を敵によって使い分けて出撃している。
ただ、使い分けているとは言っても中にはそれぞれを専門に行う部隊もあるようで、今俺が見ている部隊も爆弾を持って急降下しながら投下、攻撃するいわゆる急降下爆撃に特化した隊のようだ。
無線を傍受していると、隊長機の指示の元で全機が一斉に急降下を始めた。
地上戦車隊の連中が無線でサイレンと言っているのが聞こえてくることからおそらく使用機材はスーツカだろうか。
そして全機が敵の対空レーザーを回避しながら所定高度で投弾し、反転上昇を始める。
投げられた爆弾は地上の大型ネウロイ1体あたり2個の割合で割り振られていた。
やがて爆弾は高度を落していき、ネウロイに着弾した。
隊長機を含む3機のウィッチが放った爆弾はネウロイに命中、うち1機はコアを破壊。
残りの3機が放った爆弾のうち2発は空中にてネウロイのレーザーに迎撃されて空中で爆発、1発は戦闘のネウロイの進行方向に着弾し、移動速度を少し遅らせることに成功した。
そこに地上戦車部隊や迫撃砲を運用する部隊などが集まったカールスラント陸軍が集中砲火をかけ、のちに撃破した。
それを見届けた地上攻撃ウィッチはそのまま基地に帰っていった。
おそらく爆弾を再度もって出撃するのだろう。
空戦ウィッチとは異なる戦い方を見られたのは参考になった。
まったくこの世界の戦い方は本当に変わっているな、というか俺の常識の範囲外のことがいくつも起きる。
そう改めてこの世界の常識と俺の世界での戦い方の違い痛感しながら俺はまた針路を本国に戻した。
ブリタニアの領空に近づくと哨戒飛行中のウィッチに身分を尋ねられ、それに答え、照合が終わると目的地を指示された。
そして管制塔の指示のもといつもの基地とは異なる、ハイ・ウィッカム空軍基地に着陸した。
どこかの資料ではこの基地には滑走路は存在しないと聞いたことがあるのだが、実際にはちゃんと1本だが存在していた。
ここにはブリタニア空軍ウィッチ軍団、戦闘機軍団、爆撃機軍団のそれぞれの司令部がある。
同じ建物に3つの本部があると混乱しないのだろうか。
いや逆に有事の際は色々なところに行かないでもこことロンドンにある航空省と連絡が取れれば問題ないからいいのか?
そんな事を考えながら格納庫に到着。エンジンの出力をカットし、ユニットを外すと魔力の保護が解除されてすこし寒さを感じた。
そんなに俺は寒がっているように見えたのだろうか?
「寒いのでしたら、こちらのジャケットをどうぞ。」
ふと、少女の声が聞こえた。
視界の左側の端から何か動くものが見えたので確認すると、背中には空軍のエンブレム、右肩には特殊戦術飛行隊のエンブレムがつけてあるジャケットを渡された。
差し出されたところを見るとどうやら俺が着ていいものらしい。
「ありがとう。ところで君は?」
「ダウディング空軍大将からの使いで、大尉を迎えに行くようにといわれました。」
そして、そのジャケットを差し出した少女が俺に敬礼していた。
彼女とは一度会ったことがある。STAF発足の会議直後にすこしばかし“お話”したあの少女だった。確か、名前は・・・。
「VFA-13、第1飛行中隊、第3飛行小隊所属のジーナ・オウレット中尉です。あの時はどうも。」
彼女は敬礼したまま自己紹介してきた。あぁ、そんな名前だったかな。
少し小柄で、生意気だったあの時の奴か。半年振りくらいだが、少し雰囲気が変わった気がする。
何と言うか強くなった?というか口調も変わった。ジャックの指示の元何個か作戦をこなしたのだろうか?
「あぁ、ずいぶんと久しいな。それと、雰囲気が少し変わったな。あのときより多少場数を踏んだんじゃないのか?」
ところが俺がそういうと彼女はため息をついてうつむいてしまった。
俺は褒めたつもり言ったはずなのにどうやら彼女にはそれが皮肉だと受け取られてしまったようだ。
「はぁ、確かに私もここ数ヶ月で何回か死にかけそうになりましたけど、何とか生きて帰ってきました。おかげでそれなりに経験をつめたと思ったのですがね。
その点に関しては大将に感謝しています。おかげで撃墜数も増えて、階級も上がりましたし。しかし、そんな私にとって最近上げた一番の成果もあなたにとっては多少で済まされてしまう程度なのでしょうね。」
どうやら俺が502でどんなことをしているのかをどの程度かはわからないが知っているらしい。
いったい誰に聞いたのやら。
そんな俺の疑問を気にせず彼女は話を続ける。
「大尉と話したとき、当時は私と撃墜数が3しか違わなかったから次あったときは差をさらに広げて見返してやろうと思っていたのに、気がついたら大尉ったらスコア100超えているじゃないですか。まさか、そんなスコア出すとは思っても見なかったし。
化け物ですか?ブリタニアで100を超えている人なんてほとんどいないというのに。
あのとき大尉に喧嘩を売った私を殴ってやりたい。」
一応上官なのだが、あの時と同様敬う気配を微塵も見せない彼女を見てこの部分は変わっていないのだなとつい思ってしまった。
「だったら今殴ってやろうか?」
俺が冗談めかしにそういうと彼女は苦笑いしながら、“遠慮しますよ、痛いのは苦手だし”と返してきた。
「それでは行きますか。ついてきてください。」
俺はうなずいた後、ユニットを警戒モードに移行させて中尉についていく。ちなみに俺は“とりあえず、本国に帰って来い。”としか言われていなかったのでブリタニアについてからの指示は特に与えられていなかった。最初は良くわからなかったがおそらくそれからは彼女についていけ、という意味も含まれていたのであろう。
入国したので必要な書類に移動しながらサインして、窓口に提出する。
そして、そのまま彼女についていくと駐車場に出た。
まぁ、空からロンドン中心部からここまでの距離は大まかに把握していたので車での移動が妥当なのだろうな。
そして俺は意外にも助手席に座るよう促されてその通り座ると中尉が運転席に座る。
運転できるのか?と聞くともちろん、と得意げな顔で返された。
ちなみにウィルマよりも上手かった。
基地を出て相変わらずの田舎の風景に懐かしさを覚えながらも眺めているとふと、行き先を聞くのを忘れていたことに気がつく。
「それで、どこまで行くんだ?」
「航空省ですよ。そこで大将がお待ちです。何でもヴェネツィアでの話が聞きたそうですよ。」
俺の問いかけにオウレット中尉は顔を前に向けたまま答える。
「それと速やかに報告書を作るようにとの指示が大尉には出ています。なんでも明日の1000に首脳陣、各省庁、陸軍、海軍、空軍、SISを含めた国防会議が開かれて今後の戦略を話し合うということでそこで使用される資料で参加する人に現状を説明する際に必要なため、だそうです。具体的な会議内容は私には知らされませんでした。何か質問は?」
「ここ最近、何かブリタニア空軍で動きは?」
俺はダッシュボードの中に入っていた今後の動きとやらが書かれた資料に目を通しながら中尉と話す。
ここ最近、ジャックが何をしているのかはあまり教えられなかった。
知らせる必要がないため、とも取れるが俺としては同じ部隊に所属しているほかの人員がどのような作戦を行っているのか気になっていた。
「STAFのFSQ(第1飛行中隊)はあまり動きがありませんでした。防衛を主任務とするうちはここ最近攻勢に転じている欧州ではあまり活躍の場がありませんからね。ここ最近はスクランブルで助けが必要な部隊の援護に行ったりアグレッサー(仮想敵)を行ったりと雑用ばっかりでした。ですがヴェネツィアが陥落し、又こう着状態に陥っている戦線を鑑みると何かあるかもしれません。他の隊員も上手くいけば活躍できるかもって張り切っていました。
SSQに関してはVFA-21、まぁ、大尉達が502で活躍しているところや、第3飛行小隊が潜水艦に乗り込んでスエズ方面を強行偵察したり、かなり動いているようです。なんせ、いま本国にはSSQのメンバーは大尉一人だけで残りは全員国外ですから。
TSQはジェットストライカーユニットの量産型をどうするかの方針を立てるためのテストをしているそうです。が、魔力消費量の関係から上手くは言っていないみたいです。技術陣の方が燃料タンクならぬ魔力タンクと言う魔力を事前にためておくことが出来る素材の開発にいそしんでいるとか。これくらいです。」
なるほど、意外と活躍しているんだな。
それにしてもVFA-23の潜水艦を使った強行偵察か。船を撃沈する必要がないこの世界で潜水艦が存在するのはなぜか、とずっと思っていたがなるほどな。潜水艦を使うことでネウロイの制空権内でも敵に見つかることなく懐にもぐりこめるのはかなり有効な戦方だよな。
もっともそのアドバンテージもネウロイが対潜警戒機なんて物を作り出すまで、という短い期間だけだろうが。
「あと、ブリタニアに襲来するネウロイの数もかなり減ってきたので航空省内部では防衛に回していた戦力を国外の欧州奪還作戦に回してはどうかと言う声も上がっているみたいです。」
確かに敵が来ないのにその戦力を無駄にしておくのももったいないし。
というか、こいつ・・・。
「ずいぶんと、詳しいのだな。」
「ええ。ここ最近はずっとヴェネツィアの件で私達はずっと航空省にこもりっぱなしでしたから大将や上官の方たちといろいろ話す機会があったので。」
「ヴェネツィア?お前らや仲間は行っていないだろうに。」
「大尉が行っていたじゃないですか。私達は大尉や現地ブリタニア軍からもたらされた情報を元にそれを解析して、現状がどのようになっていて現地司令部がどのような指示を出したのかを分析して今後に生かす、という作業を行っていました。何日にもわたる大規模襲撃なんてここ最近じゃ珍しかったんで。」
なるほど、現役のウィッチによるネウロイの行動分析か。
確かにジャックならそういうネタには喜んで飛びつきそうだもんな。
ふと顔を上げると遠くに時計台が見えていた。いつの間にか市街地に入っていたようだ。
空は相変わらずの曇り。
こういう時、一気に雲の上の空にまで上がりたい。
フェアリィの空とは異なる青く澄み渡る地球ならではの色はいつ見ても見飽きない。
地上で見る色と20000mで見るのとはまったく違う顔を見せるからな。
「どうしました?」
「いや、ロンドンは相変わらずの曇りだなと。」
「そうですね。ここ最近も雨や曇りが続いています。こういう天気は好きじゃありません。」
「俺もだ。」
まったく、嫌な空だ。
航空省及び空軍司令部がある建物に着くや否やすぐに俺は彼女と別れ、ジャックの部屋に連れて行かれた。
いつもの部屋とは異なり広めの会議室に案内された。
部屋に入ると5人ほどがいそいそと書類を製作しており、その一番奥にジャックがいた。
「バーフォード大尉、ただいま到着しました。」
「おう。ヴェネツィアから直帰、ご苦労だった。早速だが急いで報告書を製作してくれ。詳細は中尉から聞いていると思うが今日の1700までに完成させてくれると助かる。それと出来上がり次第順次こちらに送ってくれ。」
「了解です。」
ジャックのすぐ隣の机に俺は陣取り、早速タイプライターで報告書の製作にはいる。
普段は手書きだが今回は作戦日数も長かったこともあり、いつもよりも量がはるかにおおい事からタイプライターを使用しての作成となった。
ひたすらに打ち続け、2時間かけてようやく終わりそれをジャックに渡す。
意外と早かったな、と感想を受けチェックをされた報告書はそのまま近くの奴に渡された。
聞くところによると俺の報告書は明日の会議資料にまるまる使われるということでこれからコピーに入るとの事だ。え、まるまる使うなんて聞いていないのだが。
ここにいる人員も全て明日の会議のための資料作りのためにジャックが集めた人員なんだとさ。
もちろん俺も報告書が終わったからといって帰れるわけでもなく資料作りを1900まで手伝わされた。
1930をもって一旦解散となり残りは明日終わらせるということになった。既に参加者が読むべき資料に関しては、作成は終了しており後はコピーして、まとめるだけなので残りは他の奴の仕事だ。
俺はもちろんこのままホテルかどこかでゆっくり休む、なんて事はできずそのままジャックと話すことになった。
明日の会議前までに俺からも直接話を聞きたいらしくてとりあえず、報告書に書いたことも詳細に語るようにした。
「ところで、502のほうは順調か?」
「まぁな、何とかやっているよ。」
1時間ほどで終わった口頭による報告後にジャックがそんな事を聞いてきた。
「ノヴドロゴ方面のネウロイの巣破壊作戦はどうだ?何か思いついたか?」
「残念ながら明確にはまだだ。今はどこから進入するのが一番感知されないか、どうやって敵の防空火器をくぐりぬけようかなどを資料から探したりしているところだ。」
だが資料がいかんせん少なくてどうしようか悩んでいるところだった。
これ、2年前の情報じゃん。って事が何回かあったほどだ。
俺が502に派遣された主目的だって本来はネウロイの巣の破壊作戦の立案だったし、行き詰っているところをジャックにでも相談しようと思っていたところだった。
何かあと一押しがあればいい案が思いつきそうなのだが。
502の誰かにでも聞きたかったがそんな事は口が避けてもいえないしな。
「ま、そんなところか。だがその様子だとあまり上手くはいっていないみたいだな。そこでだ、こいつを上手く活用は出来ないか?俺としてもぜひともこいつの活躍する場を提供してあげたいと思ってな。」
ジャックがそういうと、ひとつの封筒を渡してきた。
それにはブリタニア空軍の文字が入っていた。
「確認しても?」
「もちろんだ。」
俺はそう促されて封筒の中身を確認する。
そこにはとある航空機のスペック表が入っていた。
ブリタニア空軍の開発局が数ヶ月前に試作機が初飛行したとある爆撃機だ。
昔空軍の教本なんかで見たことがある機体だ。速度性能や高高度性能、低空での操作性を高く評価されたその機体は・・・。
「イングリッシュ・エレクトリック・キャンベラ?」
「そうだ。どうだ?上手く使えないか?」
確かに、使える。
だがこの機体は確か史実だと1949年あたりに初飛行したはずなんだが・・・。
そこのところをジャックに聞くとこの世界では特に航空分野において技術の進歩が特に早く、ストライカーユニットでは上手く行かないジェットストライカーエンジンだが航空機に積むほうのエンジンはかなりいいところまで出来ていたのでそれに力を入れて何とか試作し、飛行の成功をさせることが出来たそうだ。
・乗員数3
・最大離陸重量は55000lb
・動力はロールスロイスエイヴォンR.A.7 Mk.109を2発装備
・航続距離は5540km
・実用上昇限度は15000m
俺が確認しうるネウロイが飛べる最大高度よりも3000m高い高度を飛べる。
性能はまず問題ないはずだ。
これなら、巣からのインターセプターを気にせず攻撃が出来る。
だが、問題はいくつかある。
まずは、ネウロイの巣の防御をどう突破するかだろう。
ネウロイの巣の周りはかなり硬い物質で覆われおり、地上攻撃ウィッチを含めてもどのような攻撃手段を用いたとしてもウィッチが普段持っている武器ではその防御を突破する事は難しいだろう。
先ほど資料作りの間に確認したとある報告によると、1940年代に人類が撤退する際、たまたま戦艦の砲弾が巣に直撃したことがあった。しかし35.6cmの砲弾が直撃したにもかかわらずコアの露出にはいたらなかったらしい。そして次の砲弾が着弾している頃には修復の大部分が完了していた。
つまり艦船から砲撃でネウロイの巣を破壊したければ砲弾を正確に直撃させるだけの命中精度に優れた砲とその砲弾を一箇所に集中的に狙えるための各艦艇同士での連携、そして修復される前に次を叩き込むために連続して発射するために出来るだけ早く砲弾を装填するための装置とその連射に耐えられる砲身、最後に自分をネウロイから守れるための防御力が必要になる。
もちろんこれが全て備わっている艦隊などこの世界に1つも存在しない。
よって艦砲射撃による巣の破壊は困難なのだ。もっともノヴゴロドの巣は射程圏外だが。
ではウィッチの能力を使ったらどうだ、という話になる。
おれ自身が固有魔法に詳しいわけではないのでなんともいえないが、少なくとも俺のようなパッシブの能力では話にならないだろうな。
ではウィルマのようなアクティブな攻撃に使える能力だとどうなるのかというと、ヴェネツィアで俺が到着する前に試した奴がいるらしい。
彼女の名前はアンジェラ・サラス・ララサバール中尉、504所属のヒスパニアの空戦ウィッチだ。彼女の固有魔法は魔力炸裂弾。効果は名前の通りだが、実際に行ったところ大型ネウロイのコアを一撃で破壊する程度の能力で到底ネウロイの巣の防壁を突破するのはかなわなかったそうだ。
そうなるとやはり普通の攻撃方法しかないのだろう。
なら攻撃方法はどうする?
カールスラントのV2はまだ使える状態ではないだろう。
となると、一番効果がある攻撃方法は爆撃か。
だが爆撃って言ったって都市を破壊するのではなく、空中に浮かぶ小さな目標に攻撃するんだ。
そう当たるわけでもないだろう・・・。
いや、キャンベラの離陸限界ぎりぎりまで乗せた大型爆弾を投下して、それをウィッチがシールドを張ってネウロイの攻撃からも守りつつ誘導するのはどうだろうか。
454kgの爆弾を6発搭載できるらしいがそれよりも大きくて威力がある爆弾を1発、積んで投下するという事は出来ないだろうか?
たしかロシアがツァーリボンバの実験を行ったとき、爆弾が機体に収めることが出来ず、はみ出したまま離陸した、と聞いたことがある。
速度や上昇高度などの性能が落ちるだろうが、それに見合うだけの威力は見込めるだろう。
そして航空機を何機も使い、それこそ同時多発的に異なる方向から一点に集中攻撃したとしたら?
かなりのダメージを与えられるはずだ。
だが、問題はその誘導するウィッチとネウロイの巣を護衛する奴等だ。
護衛するネウロイを何とかして切り離す必要があるし、万が一爆弾で破壊し切れなかったら?おびき寄せるなんて初歩的な作戦に引っかかってくれるか?
何か決定的な一撃を与える方法・・・。
ああ、そういえば502に肉弾戦でネウロイを撃墜するような馬鹿がいたな。
弾丸のように飛べば飛ぶほど威力が落ちるのと違い、あいつは直接攻撃する。
なら最後のとどめ、ネウロイの巣の防壁が消え去った中心、ネウロイの巣の心臓部を破壊できるんじゃないか?
頭の中で一斉に何かがつながりだした。今までなんとなくだが思い浮かべてきた構想がここに来て急に形になりだした気がする。
「・・・い・・・お・・い・・・」
そうだ、なんで思い浮かばなかったのだろうか?この世界には形や運用法が違うとはいえ、俺の知っている兵器がちゃんと存在しているのに。
まったく、俺は・・。
パンッ
「おい、平気か?」
ジャックが俺の顔の前で手を叩いた音で一気に現実に引き戻された。
「あぁ、問題ない。それよりもいい考えが思いついたんだ。聞いてくれないか?」
「?それはかまわないがずいぶんといきなりだな。」
「ジャックの助言でな。我ながらいいアイディアだと思うんだが。」
「ほう、なら聞こうか。」
そして俺は今思いついたことを話す。もちろんただの絵空事でしかないが細部を調整すれば十分いけるのではないかという自信があった。
「面白い。大まかな道筋としてなら問題ない。
まさかこの話からここまでつなげるなんて思っても見なかった。」
「ジャックも似たようなことを考えて、俺にこの資料を見せたんじゃないのか?」
「いや、俺が考えていたのは普通にB-29で爆弾の雨を降らせようかとかそんなことしか考えていなかった。お前のほうがよっぽど効果があるはずだ。こちら側でも検討してみるよ。」
B-29か、あれもなかなかだがこいつと比べるといくらか見劣りしてしまうな。
限界高度といい、速度といい、量産型だから仕方ないな。
だがB-29だってリベリオンの切り札だと思っていたのだが。
「ん?気になるのか?それはだな、リベリオンがここ最近物資の支援だけで人員をあまり送り込まなかったせいで存在感が薄れてきているからだ。だから切り札を送り込んで少しでも、って考えているんじゃないか?現に506のB隊だってリベリオン人が大半を占めているし501にも1人送り込んでいるだろ?」
なるほど、結局は政治的な思惑か。
この欧州戦線も欧州各国のみで戦線を維持できるほど余裕があるわけでもない。
リベリオンから送られてくる物資は半端じゃないし現に俺が使っている12.7mm弾もリベリオン製だ。この国ひとつあるかないかでずいぶんと変わってくるもんだ。
リベリオンはそれを承知でさらにさらに発言力を上げたいと思っているんだろう。
この戦争が終わった後の戦後処理の件も含めて。
あの時あれだけ支援したんだから、もちろんわかっているよな?と。
そして、欧州のほとんどの国はその要求を受け入れざるをえない。
そしてそれを阻止するのがブリタニア、とジャックは考えているらしい。
そのためにネウロイの巣の破壊という各国へのアピールもかねてなんとしても成功させたい。だからノヴドロゴの巣を破壊できるのか、その調査のために502に俺を送ったのだろう。現状もっともネウロイの情報を集めることが出来るメイブを持っているから。
「とにかく、リベリオンのこちらへの進出する姿勢を危惧しているのは何も俺だけじゃない。そしてそう感じている勢力は国内外に多数存在する。だから明日の会議ではなんとしても他のやつらから支援を取り付けたい、そう考えていたから正直俺が考えていたものよりいい案をお前が出してくれて助かったよ。」
「助け舟を出してくれたのはジャックじゃないか。とにかく助けになったのなら何かの手当てを出してもらいたいものだな。」
「わかった、考えておく。それともうひとつ。さっき話してくれた作戦の概要をまとめたものを作ってくれないか?
明日の会議でぜひ議題に出したい。俺は根回しをしてくるから明日の朝までには完成させられるか?」
せっかくいい案が思いついたんだ。
少しばかり疲れてはいるが忘れないうちに形にしとかないと・
「あぁ、もちろんだ。任せてくれ。」
「ありがとう、それじゃあ後はよろしく頼む。23時ごろには一旦帰ってくるから何かあればそのときによろしく。」
そういうとジャックは執務室から出て行った。
フットワークが相変わらず軽い。さてと、俺も始めるか。
食器類を外に出し、タイプライターを引っ張り出して作業を始める。
こういう作戦の資料を作るのは初めてではないので、思ったよりも時間はかからなそうだ。
大型爆撃機を使用してその機体が持ちうる一番重い爆弾1個を数機が運び、ネウロイの防壁を物理的に突破する。
この作戦自体前例がないし、爆弾が着弾するまでの制御及び護衛をウィッチが担当するというのももしかしたら危険極まりない、といって切り捨てられるかもしれない。
だが、いままでガリアのネウロイのコアとシンクロさせて結果的に破壊できた例を除けばいままでネウロイの巣を破壊できた成功例はそう多くない。
扶桑で破壊した例でもウィッチの力は必要だった。
やはり、いかに協力して作戦を遂行できるかが鍵になってくるだろう。
上の連中も初めての正規の手段を踏んだ欧州方面のネウロイの巣破壊作戦をブリタニアが指揮を取る、ということになったら食いついてくるかもしれない。
ま、そこのあたりのメリットを明日ジャックに説明してもらえれば幸いだな。
俺は頭の構想を誰にでもわかるように、書き始めた。
時間は限られているが、やれるだけの事はしよう。
遅くなってしまいすみません。
作っては消して作っては消してを繰り返していたら
こんなにも遅くなってしまいました。
ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。
パイロット1人育てるのにF-2だと、5年で5億4千万円かかるそうです。