妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

44 / 60
第40話 帰頭3

Another view side 502JFW

下原少尉からのネウロイの報告を私は司令室に入ったと同時に受け取った。

地上型ネウロイを発見したのが0700。

地上型ネウロイが消滅したのがその10分後。

そして、大尉との更新が途絶えたのは0700。

私はこの2つの案件が無関係だとは思えなかった。

仮にこの2つの事柄がつながっていたとしたら?

大尉は無線で何かが起きたようなことを言っていた。

それがネウロイに襲われたことを指していたとしたら?

ネウロイがいたのがエリアR(ロメオ)は以前遠征にも使っていた場所だ。

無線が設置されているはずなのでそこで交信したのかもしれない。

交信が切れたのもネウロイの攻撃を受けた、と考えれば全てがつながる。

「曹長!」

廊下で兵士と話し合っていた曹長を緊急の案件だと呼び出す。

「少佐?どうされました?」

「もしかしたら大尉の場所がわかったかもしれない。」

「え!?少佐、どういうことですか?」

私は自分の考えを曹長に伝える。

朝の交信のこと、下原からの報告を総合的に考えて彼の居場所を推定できたことを話した。

「・・・なるほど。確かにそれなら納得できます。」

「と、なると急いで捜索隊を出さねばな。仮に負傷しているとなると時間がかかりすぎるとまずい。」

「ですが、夜間ウィッチは今の時間では既に全機帰頭しています。魔力的に考えても捜索は不可能でしょう。そうしますと我々で向かうしかありません。」

「今日の出撃可能時刻は?」

「日の出時刻が0828なので0815には可能です。

エリアRでしたらここに到着するまで1時間30分はかかりますので予定到着時間はもろもろを含めて10時ですね。」

「そうだな。とにかく曹長は速やかに書類の製作に入ってくれ、私はメンバーの選定に入る。」

「わかりました。」

ようやく見えた希望だ、手放してたまるか。

そう思いながら私と曹長は作業に入った。

 

Another view end side 502JFW

 

 

 

そのままスキー板で時々加速をつけながら今までの道のりを一気に進む。

これなら今日中にサンクトペテルブルクまで一直線となるE105が通る町、リュパニまで到着できそうだ。

今日の天気は曇り、それも雲が厚いタイプだ。

経験から考えるにこれから数時間、下手すれば数十分後には雪が降り始める。

風はそこまで強くないから吹雪なんで状況にはならないだろうが少し不安だ。

怪我の件もある。出来るだけ無理はしたくないが兼ね合いが重要だな。

 

俺は今、昔は道だったところを走っているため今までとは景色がかなり変わっていた。

たとえば左には道の端を表す棒が立っており、約3kmごとに標識が立っている。

道端には戦車やトラックなどの軍用自動車が放置されていた。

昔はここに人間が住んでいた証拠ではあるのだが、今となっては虚しさを感じる。

ここまではもちろん順調だったのだが、ここに来て少し進軍速度が遅くなってしまった。

それは昼を食べ終わりひたすら進み続けて後、リュパニまで12kmというところで発生した。

 

滑っているとふと変なにおいがした。

犬の様子も少しおかしかった。

そして遠くのほうにでこぼこした地形や少し赤黒色の模様が見えたのでそれを確認する。

双眼鏡で見てみると何体かの動物が転がっていた。

道の凹凸、動物・・・地雷か?これだと遠回りをしなければいけないな。

強行突破して地雷を踏むなんて事はしたくない。

ただ、迂回ルートはないため森を歩いて遠回りするしか方法はないみたいだ。

スキー板を外して雪用の靴に履き替える。森の中じゃスキー板で移動できないので仕方がない。

「疲れたか?」

「ワフ。」

「ここの地雷原を抜けたら一旦休憩にしようか。」

「「ワン!」」

そういって、右側の森を抜けるルートを取る。

どこまで地雷が埋まっているのかわからないのでかなり遠くまで進路を変えた。

1時間はロスしたことになるが、背に腹は変えられないからな。

 

弧を描くような遠回りの道なき道を歩き始める。

時々コンパスと地図、あとは目印を確認しながら現在地を把握し、常に自分がどこにいるのかわかるようにしておく。

ちょうどいま俺が歩いているところが中間辺りになるのか。

そしてE105に出られれば後は一直線となり障害となるものも今までよりも一気に少なくなる。

そうすればさらに進軍速度も上がるから楽になるかもな。

リュパニにも何か物資が余っているかもしれない。缶詰なら数年持つものがあるから、もしかしたら食えるものが残っているかも。

通信機があれb

 

 

カチッ

 

 

体の動きと思考が一瞬にして全て停止した。

今、俺の右足は何を踏んだ?

馬鹿な、こんな事態が起きないようにわざわざ遠回りをしたというのに。

鳥が運んだ?

いや、何らかの事情でここまで流れてきてしまったのだろうか。

どちらにせよ、今俺はほとんど動くことが出来ない。

冷や汗が出てきた。

落ち着け、落ち着け。

頭の中の地雷に関する知識を総動員する。

踏んだ瞬間に爆発するタイプではなかった、という事は加圧式か。

一度重さがかかることにより、スイッチがオンになり重さが離れると爆発する。

この時代の地雷だから仕組みはそんなに難しいものではないといいが。

ただ、不安なのが設置してしばらく時間がたっているのでどこかが劣化してそれが爆発につながるのではないかという点だ。

「動くなよ、伏せ!」

そう命令すると、犬は伏せたままじっとしてくれた。

一度深呼吸して気持ちを整える。

いまここで失敗するとせっかくここまで生き残ったのに全てが水の泡だ。

疲れが何も解体に影響しないことを祈りながら作業を始める。

まず、リュックサックを下ろしその中からナイフを取り出す。

次に右足の周りの雪と土を払って地雷を露出させた。

しゃがんで表面のカバーを抑えているゴム製の押さえをナイフで切り取る。

そしてゆっくり慎重に解体を始める。

この時代の地雷の仕組みは幾分簡単だった、せめてもの救いだな。

何せ解除されることを裏手にとって解体のために導線を切った瞬間に爆発するタイプもあるくらいだしな。

 

半分の工程が終わったくらいだろうか。いつのまにか雪が降り始めていて肩に少し積もっていた。

その雪を肩を少しゆすって落したことで意識が外に向いた。

今まで手元に集中していたためか回りに注意が向いていなかった。

おかげで遠くから何かの音が聞こえてきたことに気がつけた。

だんだん音が大きくなり、その正体がなんだかわかった。

これは・・・レシプロ機!?

思わず顔を上げると、遠くから2人のウィッチが飛んでくるのが見えた。

すぐさま、リュックの中にしまってあるフレアガンを取り出すため、手を伸ばそうと思ったがそれが不可能だと気づく。

いま、手を離すと信管が作動する可能性がある。

埋設されてしばらくたっているから信管が壊れているかもしれないがそんな賭けには出たくなかった。

犬が空に向かって吠えているがあの高さじゃ、自機のから発する音でかき消されてしまうだろうな。

結局彼女らは道路の上空を飛び、やがて北に去ってしまった。

 

俺自身の不幸をこれほど呪ったことはない。

捜索隊は通常、一度飛んだ場所は二度と捜索しない。

通例なら、もうここには来る事はないだろう。道路に沿って飛んでいたという事はそのまま俺が使おうとしていたルートを使ってペテルブルクに戻ったはずだ。

つまり、俺が発見される可能性は限りなくゼロになったということか。

・・・続きをやるか。

その後30分かけて無事に地雷を無力化した。

ただ、そこにあるのは安堵ではなく今までの肉体的な疲労と精神的な疲労だった。

 

「行こうか。」

そういうと犬たちも付いてきてくれた。

 

 

Another view side 502JFW

 

司令部は我々が計画した作戦書を正式に承認した。

以前よりも巣から距離が遠くなり、なおかつ生存可能性が高かったことが理由だった。

捜索メンバーにはB隊とリトビャク少尉が付いた。エイラには待っていてもらう。

4人を緊急招集してブリーフィングルームで作戦の説明を行う。

「よく聞け。大尉は現在、エリアRのチェソボ=ネティリスキー付近にいる可能性がある。

詳細は時間がないから後で話すが下原が手がかりを見つけた。

私はその手がかりが大尉につながると信じている。

君たちにはその現場に向かってもらい、状況を確認してほしい。

なにか質問は?

・・・・よし、任せたぞ。

大尉を見つけ出してくれ。」

「「「了解。」」」

ようやく捜索に動けるということでB隊の面々の士気も十分。

きっと何かしらの成果を挙げてくれるだろう。

 

4人は0815に離陸、エリアRに急行した。

「大尉、そこにいるといいですね。」

「うん・・・。」

私はここ数時間で事態が急変しすぎていて、すこし思考が追いつかなかったので皆についていくのに精一杯だった。

とにかく、今は目的地に向かいことだけを考えていた。

 

迂回しながらようやく目的地に到着した。

雪がもう降り始めていてそんなに長い時間は捜索できないことも示していた。

空から見た様子だと家が既に焼失していたり、壊れている家もあり人の姿は確認できなかった。雪のおかげである程度延焼が防げたのかもしれない。

私たちはとにかく下に降りて捜索することに決めた。

「とりあえず、降りてみますか?」

ルマールの提案に皆がうなずく。

「そうだね、北方向から着陸しよっか。私とウィルマ軍曹で下に降りるからジョゼとサーニャは上空に残って警戒に当たってくれるかな?それとなにか空から見つけることが出来たら教えてくれる?」

「「了解。」」

現在もっとも階級が高い伯爵の指揮の下、捜索が始まる。

私と伯爵が下に降りて以前止めた場所と同じところでユニットを外す。

靴に履き替えて辺りを歩くとすぐに色々なものが見つかった。

部屋の中には放置されたままの錠剤、洗われた痕跡のないフライパン、血の付いたベッド。

どう考えても人間が使ったとしか思えない証拠がたくさん見つかった。

「うーん、どうやらここに人がいたとしか思えないよね。」

「そう・・・ですね。」

「でもこれは隊長さんが使った明確な証拠ではないね。」

「なにか、特定できるものがあればいいんですけど。」

その後、壊れてほとんど原型をとどめていない無線機が見つかった。

仮にリョウがここにいたとするならあの時交信が切れた理由が説明できる。

でも私の胸には一抹の不安は残ったままだった。

 

いつの間にか家の捜索から外の捜索に切り替えていた伯爵がまた証拠を見つけたようだった。

地面には爆発した後があったがどうやらそれではないらしい。

指差すその先には木に寄り添うように銃が立てかけてあった。

すかさず、少し積もっていた雪をはらって識別番号を確認すると以前一緒に取り付けたブリタニア空軍のマークと番号が刻印されていた。

間違いない・・・彼の銃だ。

「どう?」

「大尉の物で間違いありません。」

「そっか、ならある程度は絞り込めたってことだね。」

「そうですね・・・。」

でも、なぜリョウが銃を放置したのかわからなかった。何か原因があるのかも。

伯爵と話しながら銃を調べ始める。

「というか、現場を見るからに隊長さんが一人で地上ネウロイを撃破したと見るのが妥当だね。」

「確かにそうですけど・・・。」

本当に、生身の体でネウロイと対峙したの?

リョウったら本当にすごいんだね。

「まぁ、絶対に不可能って訳ではないよ。実際に、エイラの姉さんも似たような事したっていう武勇伝を聞いたことあるからね。」

「そうなのですか?」

「あくまで又聞きだけどね。」

アウロラ中尉もすごい人なんだな。

銃をよく見てみたら銃身が曲がっていたりスコープが壊れていたり同じ狙撃銃を使う身として一瞬でこれでは使えないな、とわかった。

「それじゃあ、今大尉は何で自分の身を守っているでしょうか?」

「ブリタニア空軍でも予備の小型自動拳銃を配備しているんだよね?」

「はい、私も一応持っていますが・・・。これだけで不十分だと思うんですよね。」

「だよね。でもこれより北ではここ数年、地上型ネウロイの発見報告はないから鉢合わせないことを祈るしかないね。」

「ですね。やはり、大尉は見つかりませんでした?」

「うん。残念ながら。現状を鑑みると周りを捜索していなかったってことは既に隊長さんは移動しているって事だよね。というか、撃墜した場所からここまで移動しているところを見ると最初から基地まで歩いて帰る気だったんじゃない?」

まぁ、リョウならその可能性もある。

もしかしたら、通信機を取りに行くためにここまで来たのかもしれない。

どちらにせよ、今日の朝までは彼がここにいて既にどこかに行ってしまった事は確かだ。

「それじゃあ、どこにいったんでしょうか?」

「そうだね・・・。」

『伯爵、軍曹。だんだん雪が強くなってきました。早くしないと帰れなくなってしまうのでそろそろ引き上げましょう。』

「了解、すぐ戻るよ。」

『大尉は見つかりましたか?』

伯爵と私はユニットを置いた場所へ歩きながら上の2人と会話する。

「いや、残念ながら。だけど、朝までいたっていう証拠は見つけた。移動手段が徒歩だと考えればそれ程遠くまでは行っていないはず。詳しくは上がってから話すよ。」

『了解です。待ってます。』

「それじゃあ、私たちも急ごうか。」

「了解です。」

ユニットに速やかに履き替えてエンジン始動。

回転数が上がり進路上に問題なし、離陸。

速度を上げる。

『敵発見、伯爵たちから11時方向。私がやります。』

サーニャの報告の直後、遠くの地面の山がいきなり膨らんでいきなり地面が破裂した。

そこからネウロイが一体、湧き出てきた。

この状態では私たちは攻撃できない、かといって離陸を中止することも出来ないのでこれは確かにサーニャに任せるしかないね。

離陸、体が地面から離れ始めるのと同時にネウロイが完全にその姿を現した。

しかしそのネウロイは攻撃することなく消滅した。

姿を現したの同時にサーニャのフリーガーハマーによる攻撃がヒット。

わずか数秒で爆散してしまった。

こういう時、やっぱり援護が要ると助かるね。

「って、地上型ネウロイってああやって出現していたんだ。知らなかった。」

「まぁ、私たちは主な戦場は空からだからね。サーニャ、ありがとう。」

『いえ、それが仕事ですので。』

 

しばらくしてサーニャとルマールと合流した。

「さて、これから大尉を探さなきゃいけないけどこの天気だとさすがに時間がない。よって帰るついでに昔道路があった場所をたどって北上して探索と帰頭を同時に済ませちゃおうと思うんだけど、どうかな?」

「いいと思います。」「そうですね。」「私もそれがいいです。」

「ok。さて、大尉が行こうとしている目的地の候補地は二つある。

ひとつは私たちの基地、もうひとつは集積基地。

ここからだと私たちの基地へは直線距離は短いけどいろいろ障害がある。集積基地へは直線距離は長いけど安心して進めるみたい。どちらも大尉が選択する可能性があるんだよね。

だから私と軍曹が502、サーニャとジョゼは集積基地方面にむかうルートを担当する。それでいいかな?」

「「「了解。」」」

「よし、それじゃあ雪が激しくなる前にとっとと隊長さんを見つけてあったかい暖炉にでも当たろうか。」

そういって二手に分かれて捜索を始める。

「少し高度を下げようか。視界がだんだん悪くなる。危ないと思ったらとにかく高度を取るんだよ。」

「了解。」

道路にそって北上を始める。

北上し始めて15分程たった頃真っ白な地面が一部赤だったり黒だったりするところを見つけた。

「伯爵、あれなんでしょうか?」

「あれは、地雷を踏んでしまった動物だと思う。」

「地雷・・・、そんなものも設置してあるんですか?」

「そうだね、あの時はみんな逃げるのに必死でいつか帰ってくるときのことなんて考える暇もなかったんだ。」

そして、私はその不安を抱いてしまった。

「大丈夫だよ、大尉はきっとそのこともわかってるはずだから。」

「そうですよね。」

そういって私はその不安を記憶の隅に追いやり彼を探すことに集中した。

まさか、そのすぐ下に探し人がいるとも知らずに。

 

結局基地にたどり着くまでに発見することが出来なかった。足跡も雪によってかき消されてしまいどこに行ったのかすら把握できなかった。

捜索は明日へ持ち越しということになった。

ただ、事態は少しずつ前進している。それだけが唯一の救いだった。

 

Another view end side 502

 

 

 

レシプロ機は再び戻ってくるという事はなかった。

解体後、地雷原を遠回りして道に戻り無事にリュドボに着いた。

しかしそこにあるのはただの廃墟。予想はしていたがいざ、この姿を見るとさすがにくる。

家だって旧前線基地ほどではないが骨組みしか残っていない場所も多い。

何とか風から体を守れる場所を見つけ、そこをキャンプ地とした。

まだ日の入りまで時間はあるがこれ以上進むと安全に夜を越せる場所がなくなるのでここにする。

とはさすがに何もしないというのもいけないなと思っているとたまたま鹿が通りかかった。すかさず犬達に追いかけるよう指示。

散々追い掛け回した上で最後に俺が鹿の頭をハンドガンで打ち抜いて狩猟は成功した。

燃料や食力を新たに確保して、あまった物は犬にあげた。

出来ればこうやって定期的に狩猟が出来ればいいのだが、そう上手くはいかない。

 

火を起こして燃えるものがあったのでそれに火をつけて暖をとる。

疲労困憊、炎に当たっているとだんだん暖かくなってきたので寝る支度をして寝袋に入る。

眠りにはすぐに落ちることが出来た。

 

 

遭難5日目

目を開けると真っ黒なものが見えた。

何だ!?

あわてて起きるとその正体は犬だった。

・・・鼻か。

時計を見ると0710、完全に寝坊だ。

急いで支度を始め、雪を火にかけて水を用意する。

犬に肉を分けて俺は残り2つとなった非常食の1つを食べる。

今日はなんとなくこちらを食べたい気分だった。

準備が出来たので火を消して出発する。

燃料はあと二日もしたらなくなる。

よく持ったほうだが、あと二泊三日でこの距離を突破する必要がある。

このスキー板がもし壊れでもしたら踏破は絶望的、なんとしてでも慎重にかつ速めに進まなくては。

 

ひたすら進む。

今日も昨日に引き続き空は雪模様でこれでは飛行機は飛べない。

今日中に飛行禁止空域を脱出する予定だがどうやら見つけてもらえる可能性は明日に持ち越しだな。

それにしても犬たちは元気だな。あまり食料を分けてあげられていないはずなのに元気に走っている。

俺を追い越して先に行ったかと思えば待っていて追いつけばまた先に行く、というのを

もう何回も繰り返している奴もいる。

そんなに楽しいものなのか?

まぁしっぽ振っているし、楽しいならいいか。

雪のせいで思うように速度が上がらなかったり、また地雷原を発見したせいで余計に長距離を移動した。

また、この辺りは斜面が多く上るのに時間がかかるという想定外の事態も起こったりした。

 

日の出まであと二時間という頃、出発してからすでに20kmを踏破した辺りで犬の様子がおかしくなった。

しきりにそわそわして道から外れるルートを取り始めたのだ。

「おい!」

ただ、犬はそいつらだけで行ってしまうのではなく時々こちらを振り返っては進んでいた。

まるで俺についてきてほしいかのような仕草さだった。

仕方ない、行くか。

 

道から外れて5分ほど移動すると洞窟が見えてきた。

ここに何があるんだ?確かに一晩過ごすのにはちょうどよさそうだが。

一匹が俺の服を引っ張ってきたので付いていく。

「わかったから、ほら。ちゃんと行くから。」

スキー板を外して洞窟の中に入る。

 

そしてそこに広がっていた光景を見て俺は全てを悟った。

洞窟の奥に壁に寄りかかるようにして既に息絶え長い年月がたったであろう人たちがたくさんそこには眠っていた。

「そうか。ここにいる人たちがお前さんたちの元ご主人、ということか。」

おそらくはここにいるという事は上のほうで行方不明の期間が規定を超えたということで既に死亡とはなっているだろう。中が空っぽの墓が設置されている人もいるだろうな。

近くで落ち込んでいる犬の頭をなでながらつぶやく。

「・・・また絶対に基地に帰らなければならない理由がひとつ増えたな。」

とにかく身分が明らかになるものを回収しないと。

一番近くにいたカールスラント陸軍高官の制服を着た彼の手に手帳があったので慎重に取り出す。

ぱらぱらめくっているとおそらく遺書だろうか、死ぬ直前に書いたと思われる手紙を見つけた。

 

それによると彼らが亡くなったのは今から5年も前らしい。

撤退を余儀なくされひたすら北に向かっていたところだった。

15人の兵士と4名の負傷したウィッチを載せたトラックはここの手前10kmでネウロイの攻撃を受けて大破してしまいそこから徒歩で移動していた。

と、そこで犬ぞりを使って移動していたオラーシャ軍の伝令兵1名と合流、一部荷物を載せてもらい移動を再開した。

しかし吹雪が強くなり洞窟へ避難。

安心かと思われたが一向におさまる気配もなくそれが3日も続き、ただでさえ満身創痍だった仲間はどんどん息絶えていった。

出発したときに全員で生きて目的地に着こうと約束したのに、どうやらそれは守れそうにない。

ウィッチたちにはそう長くはもたないであろう俺たちをおいてユニットで先に行けと何度も言ったのに付いていくといって聞かなかった。

今となっては遅いが銃で脅してでも行かせるべきだった。

結局あと数時間もすれば全員戦死するのは間違いない。

最後に、残されるすべての人へ謝罪を。

本当にすまない。

そう書かれていた。

 

 

戦争で華やかしい戦果を上げる奴らの裏にはこういう光が当たらないまま一生を終える奴もいるんだよな。

まずは生き延びないとな。

とにかく、今は彼らの身分がわかるものを回収しないと。なんとしても彼らの者を正しい持ち主の元に届けたい。犬たちにもその恩を返すことも含めて。

この時代だ、DNA鑑定なんてものはないから一度回収すると誰が誰だかわからなくなる可能性があったのでこの手帳に位置と番号を書いて証拠が残るように記録した。

もてるものといえばドッグタグ程度かな。

捜索していると手帳やかばん、缶詰(膨らんでいるが)などかなり色々なものが見つかった。

そして一番の収穫といえばこの犬ぞりの道具だろう。

犬につけるところ、土台、紐、放置されていたとは思えないほど劣化が少なかった。

おそらく洞窟の奥のほうにあったため外気にあまりさらされなかったためだろな。

明日からの移動でこれを使えるといいな。

ふと時計を見るともう日の入りの時間だった。

一旦作業を中止して、火をつけ暖をとる。

今日はここで一晩しのぐか。

犬たちと食事を取り作業を続行する。

2250に15人分のドッグタグの回収、位置の記録を完了した。あと個人を特定できる私物を彼らの持っていたなかで一番おおきなかばんに収納して今日は終了とした。

明日はいつも通りの時間に出れるな。

今日は体を横にするとすぐ眠れた。

 

 

“おい!”

・・・?

“起きろ!“

・・・人の声?あわてて体を起こす。

“ようやく起きたか。”

ここは・・・酒場?

どうやら俺は机でうつ伏せになって寝ていたようだった。

まて、状況が理解できない。

“ここがどこだかわからない様子だな。無理もない。まぁ、とりあえず飲むか?”

先ほどからの声の主は俺の正面に座っていた。そしてその男が俺にグラスを差し出してくる。

「まぁ、いただくさ。」

口の中に飲み物の味が広がった。それと同時に意識もはっきりしてきた。

「気に入ったか?これは俺のお気に入りなんだ。」

「悪くはないな。」

「そりゃ、良かった。」

周りには俺を含めて21人、広さはそれなりにあるから窮屈ではなかった。

一人で飲んでいる奴もいれば数人で盛り上がっている奴もいる。あっちには曹長と同年齢っぽい奴らもいた。

「ひとつ、聞きたいんだが。ここはどこだ?それとお前は?」

「まぁ、焦るなって。これだからブリタニア人は。紳士なのはわかるが厳格すぎるのはどうかと思うぞ。」

「・・・カールスラント人であるあんたには言われたくないさ。それに話がつながってないぞ。」

「言うなぁ、お前さん。気にするな。」

そいつは笑いながら俺のグラスにワインを注いできた。

「まぁ、それはあとにしよう。そんな事はいつでも話せるし、重要性はそれほどない。それで、最近の情勢はどうだ?」

話を変えやがって。まぁ、いいさ。後でじっくり聞けばいい。

「悪いな、このままだとペテルブルクはまたネウロイに取られちまう。早くこの状況を変えたいな。」

「そうか、ペテルブルクは取り戻したのか。」

「?」

「いや、こっちの話だ。カールスラントはどうだ?」

「相変わらず変化なしだ。一進一退だがこちらは進展なしだ。というかカールスラントのことならお前さんのほうが詳しいんじゃないか?」

「こちらにも事情があってな。」

「そうか。」

ワインを飲みながら色々なことを話していく。二本目を半分あけたところでふと何かに気づいたようだった。

「どうした?」

「どうやらあっちにあんたと話したがっている奴らがいるんだ。ほら、行くぞ。」

席を立つよう促され、そいつの後ろについていく。

案内されたのは奥のテーブル席だった。既に4人の少女が座っておりちょうど2席分あいていた。

「ほら、連れてきたぞ。」

「あ、隊長!ありがとう!一度でいいから話してみたかったんだ。」

「あんた、隊長だったのか?」

「あれ、言わなかったか?まぁ座れよ。」

席に座ると別の飲み物とポテトを差し出された。

「ありがとう。」

「いえいえ。」

そういうと4人の少女が俺をじっと見つめてきた。

変な沈黙があってなんとなく気まずい。隊長と呼ばれた男は別のほうに目を向けて酒を飲んでいた。こちらの事は一切関わらないとでも言いたげだった。

「・・・なんだ?」

「男のウィッチなんて初めて見たからどんなのか気になったんです。」

「ご感想は?」

「普通。」「普通だね~。」「どこにでもいそうね。」「言われなきゃわからないわ。」

いきなりひどくないか?

ま、そんなもんか。それをきっかけにたくさん質問を投げかけてきた。

「ジェットストライカーユニットってどんな感じなんですか?」

「速いし、レシプロじゃ体感できない世界を楽しめる。」

「「「「へー!」」」」

「それにしてもジェットか。俺たちが知らない間にそんなものまで出来ていたのか。」

ポテトをつまみながらそいつはしみじみ語っていた。

「結構有名な話だと思うんだが。聞いた話だと数年前くらいから噂にはなっていたそうじゃないか。」

「・・・まぁ、俺らは噂に疎いからな。悪いな。」

「いや、それならいいさ。」

「それで、どんな任務に就くんですか?」

「普通と変わらん。」

「502ってどんなところですか?」

「みな優秀だ。俺も付いていくので精一杯だ。」

「パウラって知っていますか?」

「曹長のことか、よく世話になってるよ。」

「パウラってまだ曹長なんですか?」

そういうと、みな笑っていた。曹長のこと知っているのか。

「パウラだったらもっと上いけるのにねー。」

「きっと物資横取りしてるのがいけないんだよ。」

曹長・・・お前・・・。

昔からそうだったのか。

「ウィトゲンシュタイン少尉は知ってますか?」

別の娘が話してきた。少尉?

「あの、のじゃ!のじゃ!言う奴か?」

「そうです。あの人元気にしていますか?」

「元気だが一匹狼気取っているみたいだぞ。幸いにもフォローしてくれる人がいるみたいだが。」

「そうですか、なら良かった。」

「伯爵はまだユニット壊しています?」

「最近はおとなしいな。だが壊すと俺が責任おわないといけないからこのままでいてほしいな。」

「たぶんそれは無理でしょうね。」

「だろうな。」

お互い思わず苦笑いをしてしまう。共通の知り合いがいると意外と話が盛り上がる。

そいつが変人だと余計に。

その後も15個くらい質問に答えた。

「ありがとうございました。初めて男のウィッチと話したけどそこまで変な人じゃなくてよかった。」

「うんうん、そだね~。」

なんかいつの間に打ち解けていたな。

久しぶりに人と話して俺の少しハイになっていたからかも知れない。

「それじゃあ、一旦戻るか。続きは君たちに任せて俺はこいつとまた飲むさ。」

「男同士の大事な話ですか?」

「そんなもんさ。いくか。」

「了解。」

そういって俺が席を立つと、一人が俺に話しかけてきた。

「あの!」

「なんだ?」

「もし、パウラと伯爵に会ったら・・・。」

「会ったら?」

「第4飛行隊のことはもう心配しないで大丈夫って伝えてもらえますか?」

「・・・わかった。絶対に伝えとくよ。」

「それと、姫様にもお願いします。」

「了解した。」

「「「「よろしくお願いします。」」」」

そういうと彼女たちは敬礼してきたので俺も答礼して4人に別れを告げ、元の席に戻る。

「どうだ?あいつら可愛いいだろう?」

「まぁ、元気だったな。」

「まったくだ。本当ならこんなところでくたばる必要なんてなかったのにな。」

彼はため息をつきながらタバコに火をつけ遠くを見ていた。その目には無念と悔しさがにじみ出ていた。

うすうすだが、俺はこいつらの正体に見当が付いていた。

噂に疎い、なのに俺のことを噂以上に知っていた、最近の出来事をしらない。それだけで十分だ。

おそらくは彼らの無念さが集まってこうなったのだろう。

この世界には魔法があるんだ、こんな奇跡みたいなことがおきたっておかしくない。

 

「それがずっと気がかりだったのか?」

「そうだ。それだけじゃない。俺が判断を誤らなければこういうことにはならなかった、ずっと苦悩しているさ。さっきはあんなふうに話せたがずっと胸に何かがつっかえている感じがする。」

「吹雪は想定外だった。それも普通じゃ数時間で納まる奴なのにそのときは何日も続いたんだろう?なにもあんたに責任が全部あるわけじゃない。ただ運がなかったんだろ?」

「あぁ、だがな。」

「あんたが言いたい事はわかる。たとえ想定外だったとしても結果的に全員を助けることが出来なかった。違うか?」

「・・・その通りだ。」

彼が酒を飲み終わるのを待って話を続ける。

「だが、仮にその吹雪のなか出て行ったとしてもどうせ結果は同じだった。あんたが洞窟に残る判断をしていたから俺はあんたらを見つけることが出来た。それを見ればあんたの判断は間違っていなかったさ。」

「違う!!」

突然グラスを机に叩き彼は叫んだ。おかげでグラスは割れ、周りの視線が全てこちらに向く。

「お前さん、部下はいるか?」

「3人を指揮下においている。少なくとも6日前までは。」

「隊長がなすべき職務はなんだ?」

「部下への命令と彼らの命を守る責任。」

「そうだ。俺はそれを守れなかった。

あんた部下を失った事は?」

「あるさ。最初は落ち込んだ、俺もあんたみたいに苦悩した。」

「なら・・・。」

「だがそのうち感覚が麻痺してくるとその悲しみさえ感じなくなる。」

驚いた顔をしてこちらを見てくる。

かまわずに俺は続ける。

「そいつは運がなかった。そう割り切り始める自分がいるんだ。あんたはこっち側に来ちゃいけない。その気持ちを忘れないことが何よりも部下への弔いになる。違うか?」

「だがな・・・。」

「あんたは部下の事を考えて、行動した。

その死を他の要因に擦り付けることなく自分で負っている。もう充分なんじゃないか?

そういうと、その男は言葉に詰まってしまいお互いが無言になる。

するとバーにいた一人が突然声を上げる。

「俺は、隊長と一緒に戦えて光栄でした!あの時の事は仕方なかったんです。もう一人で抱え込まないでください。」

「そうです!隊長は何でもこなす人ですばらしいですが、少しは我々にも話してもらいたいです。」

「なぜ自分ひとりで全てをこなそうとするんですか?」

一人、また一人と彼らが声を上げる。

「なぜだ、何故皆は俺を責めない?俺はあんたを死なせたんだぞ?」

「決まっているじゃないですか?なぁ?」「あぁ。」

 

そして口を揃えてこういった。

「隊長を信頼していたからだ。」

 

「隊長は常に俺たちの味方だった。上が無茶な命令をしたときも真っ先に抗議に行きましたよね?そんな隊長だったから俺たちは付いていった。

だから俺たちがあの時、結果的には死んだが隊長を恨む要素なんてどこにもないんだ。」

そうだ、そうだと回りも続けて同意する。

「わかってくれましたか?俺たちの気持ちは。」

 

「あぁ。・・・・ありがとう。」

 

しばらくしてようやく落ち着いたみたいだった。

「ずいぶん慕われているじゃないか。あんたが一人で抱え込んじまったからこんな結果になったんじゃないか?」

「・・・そうかもな。否定はしない。」

「というか、結局あんたらで解決しやがって。俺は必要なかったんじゃないか?」

「そんなことはない。」

「俺はな、あんたが来るまではずっと部下と話せないでいた。自分で距離を開けていたからな。だけどあんたのおかげでようやく距離を縮められた。きっかけをくれたのはあんただ。」

それなら良かったんだが。

結局おれの言いたいことだけをぶつけてあとはこいつらだけで解決したように思えていたが。

「それで、あんたはもう思い残す事はないのか?」

「いや、あるさ。もちろんこいつらにも。じゃなかったらこんなところにこないでさっさと天国に行っているだろうよ。」

「それじゃあ、時間のある限り聞こうか。」

「俺の持っていた手帳とタグを家族の下に届けてほしい。それと妻と娘にすまないと伝えてくれ。」

「わかった。」

「俺も!母さんにタグと形見の・・・。」

結局20人近くの要望を憶えることになった。最も、大抵は所持品を家族の下に届けてほしいということだった。

ただ、何人かは戦友に渡してほしいといっていた。ウィッチはそんな感じだった。

 

「さて、お前たち。こいつに何か伝え忘れた事はないか?」

誰もなにも言わない。

「了解した。それでは・・・っと名前を聞いていなかったな。」

「ブリタニア空軍、フレデリック・T・バーフォード大尉だ。さっきはないがしろにされたが今回は答えてくれよ?」

「もちろんだ。カールスラント陸軍、エッケハルト・リーネン少佐だ。バーフォード大尉、俺に懺悔の機会をくれて、そして皆と再会する機会をくれてありがとう。」

「こんな奇跡は俺が起こしたわけじゃない。それこそ神様に感謝すべきだ。俺はただ通り過ぎようとしていたが犬が連れてきてくれたんだ。」

そういうと、皆が驚いていた。

「そうだったのか。我々が紐を外した後、ちゃんと生きていてくれたのか。それじゃあ彼らにも感謝だな。」

「そうしたほうがいい。」

「大尉、それともうひとつ。俺の腰にナイフがあるはずだ。それを君に持っていてもらいたい。」

「いいのか?家族の元に届けなくて?」

「かまわん。大尉が受け取ってくれ。それは俺からの感謝の印だと思ってくれればいい。」

俺は頷いて

「わかった。」承諾した。

「それじゃあ、出口はあっちだ。」

少佐が指差す方向に、入り口と思われるドアがあった。

「そこから出ればきっとこの世界から出られる。大尉、あとは任せたぞ。」

「了解。」

そういって俺は彼らの部下の間を通り、ドアノブの手を掛ける。

「大尉。」

「なんだ?」

後ろを振り返り答える。

「ありがとう。」

そういうと少佐と彼の部下が敬礼をした。

俺も敬礼をして元にもどし、扉を開く。

まぶしい光に思わず手で顔を覆う。

するとだんだん意識が薄れていった。

そして完全に途絶える直前

-さらばだ、また会おう。

そんな声が聞こえた気がした。

 

 

Another view side ???

行ったか。

次第に俺の意識も薄くなっていく感じがした。

「君たちは本当に良かったのか?」

なんとなくだが聞きたい気持ちになった。

すると俺の副官であった少尉が答える。

「当たり前です、それこそ今さらですよ。」

周りの皆も頷いてくれた。

「そうか、ならよかった。」

そして意識も朦朧としてくる。

この感覚は以前の死ぬ直前に似ている。

だが、あの時とは違い今はもう後悔などはない。

ただ、未練が少し。こいつらと一緒にもう一度朝日を見たかった。

そして家族にも会いたかった。

でも、もういいんだ。あとは大尉が何とかしてくれる。

時間をかけてでも受け入れてくれることを願うか。

そして俺は目をつぶる。

さようなら、みんな。またどこかで。

 

Another view end side ???

 

 

遭難6日目

現在時刻、1110

ずいぶんと長い夢をみた。いや夢だったのだろうか?いつの間にか太陽も上がっていた。

こんな悪条件でよくこんな眠れたものだ。

まるで自分が経験したことのように思えた夢、ということにするか。

とにかく記憶が薄れぬうちに昨日の作業の続きをする。

一時間掛けて詰められるだけの荷物を全て集め、かばんに入れる。

朝食を済ませ、最後の出発準備として犬ぞりが使えるかどうか試した。

犬は特に嫌がることなくすんなり付けてくれた。

全て、問題なし。それじゃあ・・・っと忘れそうになってた。

一番近くの少佐のマークをつけた亡骸から言われたとおりの場所からナイフをケースごと取り出し、俺の腰につけた。

「それじゃあ、さらばだ。」

そういって前を向くと後ろで音がした。

あわてて振り返るとその亡骸の顔の骨の位置が少しずれていた。

なんらかの影響で動いてしまったのだろうが、なんとなく俺には彼なりの返答なのかもしれないと思っていた。

「GO!!!」

「「「ワン!」」」

俺が指示を出すと犬たちは一斉に走り出す。

残りの距離を考えて、上手くいけば今日中にペテルブルクにたどり着けるだろう。

 

 

 

走ること6時間、途中紐が切れるというアクシデントもあったが何とか応急修理を済ませて休憩を6回ほど挟み移動した。

すでに太陽は沈んでいる。犬にも疲れが見え始めている。

あと少しだ。

もう少し、俺たちは進み丘の上に着いた。

そして、俺の眼下には人工の光がもたらすきらめきが広がっていた。

ようやくここまで来た。あと少しだ。

最後の坂道を俺達は下り始めたのだった。

 




次回で遭難は終わりです。
3話くらいでまとめようかと思ったらこんなに長くなってしまった。

ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。