妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

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今話については登場人物に不満がある方もいらっしゃるかもしれませんが、ごめんなさい。
自分としてはいつかは出したかった方の一人なのです。





第32話 遠征(下)

三日目

戦闘っていうのはいつも突然起きる。

それは昼ご飯の用意をしているときだった。

『502B隊へ、緊急通達。オラーシャ空軍第42飛行隊がエリアS(シエラ)Nのチュドボ上空で交戦中、そこから救援要請だ。報告によると大型1、中型3、小型多数の中規模編隊だ。至急、援護に向かえ。』

「ルートαの防衛は?」

『カールスラント空軍JG35がスクランブル発進して哨戒に当たっている。』

「了解。急行する。みんな、ランチタイムはいったんお預けだ。援護してやろうぜ。」

「「「了解!」」」

牛舎の扉を開けて出られるようにする。ユニットをはいて、システムチェックを行う。今回は問題なく動いているから安心して飛べる。

最後にでた伯爵が扉を閉めて全員がそろったところで離陸する。

離陸後、いつもとは違い今回は全力飛行で援護に向かう。チュドボまでおよそ40km、そんなに時間をかけずに援護に向かえるが援護を待っている彼女たちのことを考えて俺だけ先行する。

戦時中とはいえ、502が援護に向かったのに間に合わなかったという事態になればあとあとまずいからな。

とはいっても音速を超えない程度の速度だが。

レーダーでも既に敵影を捉えており目視でも確認できる距離になってきた。

さて、どこから攻めるべきか。

大型1、中型2、小型6か、より取りみどりだな。

「502Bリーダーから42飛行隊へ、現着。自己紹介は後にしよう。どこから片付ければいい?」

『42リーダーです、援護感謝します。大型機の対処をお願いします。』

「了解した、残りの3機は後から来るからそれまで持ちこたえてくれ。アウト。」

大型機の中央部に向けて射撃を行い注意をこちらにひきつける。いいぞ、こっちに向かってきた。

「バーフォードより502B隊全機へ、大型はこちらで片付ける。後の奴は42飛行隊を援護しろ。」

『『『了解!』』』

装甲が厚い分連続して当てなければならない、まぁやってやるさ。

502B隊全員が交戦を宣言。彼女ら3人いれば援軍としては十分だろう、俺がこいつさえ片付ければの話だが。

第42飛行隊からある程度距離を稼いだので戦闘を始める。

 

大型との交戦はよく考えたら数回しかないがさすが図体がでかい分、いままでのネウロイより攻撃が激しい。

機動性、速度共にこちらが上のため当たることはないがその欠点を補うほどの火力を持ってこちらに攻撃を仕掛けてくる。これじゃあ、機関銃じゃ攻略は難しいな。

普段、数人で連携してようやく撃墜できるというのもうなずける。

だがこちらとてプライドがある。オーバースペックの機体に乗っているんだから一人で落としてやる。

双発型の航空機をしたネウロイだ。ためしにエンジン部分に攻撃してみたがすぐ修復が始まってしまった。いったい、こいつらはどうやって飛んでいるのかが一番の疑問だな。ジャムだって推進機構があるというのに。

コアの位置はネウロイの先端部分、普通の飛行機ならレーダーが積んでいる部分にあり移動はしない。

なら前方から突っ込んですれ違いざまに攻撃するか。速度を上げて敵の前に出て距離を離す。ある程度離れたとこで反転して一気に距離を詰める。

そしてお互いの距離が本当に近くになった瞬間

-能力発動-

Garudaの指示を元にその部分を狙う。

-解除

攻撃

着弾

だが、すれ違いざまに攻撃したのは俺だけではなかった。超至近距離で敵の表面が赤くなる。あわてて体をひねるが左脇腹をレーザーがえぐる。

そして回避しようと動いた際に左脚部がネウロイと少し接触する。

ネウロイとユニットの接触部分で火花が散る。

そして通過、再び両者の距離が離れ始めた。

7G旋回を行って再び追いかける。

左脇腹に激痛が走るが今はそんなことはかまってられない。

敵はすでに修復を始めている、追撃をかけてコアを破壊しなければならない。

今度は敵から見て右から左へ正面を横切るコースで攻撃する。

エンジンの出力を上げてほんの一瞬にかける。イメージするのはかつて零とシステム軍団が模擬戦を行ったときの出来事。武装していない雪風を援護するためにTS-X1はミサイルに増槽を当てた。資料でしか見てないが今なら能力もあるからやれるかもしれない。

音速近くまで速度を上げ敵正面で体を奴に向ける。急激なGが体を襲い先ほどの傷口がさらに開いた。

かまわない、肉を切らせて骨を絶つ!

-能力発動

スコープの倍率を最大にまで上げてコアの表面を確認し、かつGarudaによる表面の解析を行って最も効果的にダメージを与えられる部分を探し出す。

ここだ、ほんのわずかな一部分だが露出している部分がある。着弾までの時間を考えても十分弾丸はコアに到達する。ユニットから発生する振動や手振れを全て考慮に入れて標準をあわせる。

あとは撃つだけ。距離70m。

-解除

攻撃

処理速度を加速した状態で電気信号を送ることで通常では0.2秒行動を起こすのにかかるのをさらに短縮して電気信号を送ることが出来る。

端から見れば神業のような攻撃も、からくりがわかれば誰でも出来るようなものなのだ。

正確に誤差1mmで着弾、ビンゴ。

コアから煙が出てその5秒後に爆発した。

「大型はこちらで処理した。そっちはどうだ?」

『中型があと1、小型が3だ。さすが八人いるとたくさんいてもすぐに終わるね。』

なら、こちらは高みの見物とするか。

502の三人はどこにいるかすぐにわかる。なんというか飛び方が綺麗だ。

普段はあんな感じの伯爵だって戦闘になると全くをもって変わる。見たところネウロイのレーザーを避けてシールドを張るのは最小限にしているようだ。シールドだって欠点はある。

攻撃を受ければレーザーの攻撃を防ぐことが出来るがそちらに集中しなければならない。特に混戦状態だと一方向のみに集中するというのはまずい。42飛行隊の奴らはそれが顕著だ。回避よりも防御に専念しているように見える。まぁ戦闘機乗りとしていまだシールドを張るのに違和感を覚える俺だからそう感じるのかもしれないが、実際502の奴らのように防御より回避が上手い奴がエースになる素養を持っているのかもしれないな。

しいて不安要素を挙げるとするなら “奴”がユニットを壊さないかどうかだ。

42飛行隊の3人が小型二機を撃墜、ウィルマ、伯爵が援護してルマールが中型を撃墜か。

「状況はクリアだ。全目標を撃破を確認した。」

『502リーダーへ、了解で・・・って大丈夫ですか!?その傷!』

「あぁ、かすり傷だ。情けない。」

そういうが、ユニットにまで血が垂れている。帰ったら治療しないと。

『大型を一人で撃墜するほうがすごいと思いますけど。さすが502の皆さんです。助かりました。』

「・・・次は助けられないかもしれない。今回は君たちの運がよかっただけだと考えてくれ。普段なら今日の二倍の時間がかかっていたんだから。」

『わかりました、肝に銘じておきます。』

「ならいい。全員帰頭するぞ。」

「「「了解。」」」

FOBに進路を取る。

しばらくして彼女らが話しかけてきた。

『隊長、その怪我平気かい?』

「わからないな。ルマール、とりあえず帰ったら治療頼む。」

『了解です。』

出血量は減ってきたところを見ると傷口は閉じたのかもしれない。しかしいまだ痛みは完全には引かない、鎮痛剤は持ってきていたっけ?

『というか、隊長さっきは厳しめだったね。なにか思うところがあったの?』

「実力のない奴はすぐ死ぬ。ただ、今の戦況を考えれば多少の喪失すら看過できない状況だ。ウィッチの増強に数年前から力を入れているとは言え、相応の実力をつけるには最低でも数年かかる。だから死なない程度にがんばってもらいたいんだよ。特に最前線の奴らには。」

『へー意外と考えているんですね。』

「まぁ全滅でもされるとこちらの責任問題にも発展しかねないから釘を刺しただけだ。仕事も増えるしな。」

『なるほど、だいたいわかったよ。』

 

FOBが近づいて着陸態勢に入る。水平飛行から体を引き起こす。ランディングアプローチに入る。

着地

衝撃が痛みを伴って伝わってくる。

ユニットを所定の場所においてそのまま別の部屋に移動して、近くの長椅子の上に寝る。

「それじゃあすこし傷口見せてもらいますね。」

彼女は素早く俺の服を切り裂いて患部をみる。

「バーフォードさんが怪我をするなんて珍しいですね。ちょっとみる限り血は止まっていますけど、とにかく治療しますね。」

そういうと両手を突き出して治癒魔法をかけてくれる。

どういう状態なのか見ることはできないがだんだん何かがふさがる感覚はある。それと痛みが少し引いた。これが治癒魔法か、SF風に言うなら医療用のナノマシーンがもし開発されていたらこんな感じなのだろうか。

「大体終わりました。ただ、私の能力では応急処置程度しか出来ないのでとりあえずガーゼをつけて包帯を巻きますね。それと帰ったら必ずお医者さんに見てもらってくださいね。」

体を起こして傷口に注意しながら上着を脱いでいる間にルマールが救急キットからガーゼと包帯を取り出して保護するためにそれを巻きつけてくれた。

「ありがとう。ルマールがいなかったら今回のはまずかったな。それにしても医療について詳しいんだな。」

そういうと彼女は少し黙ってしまった。しばらくして話してくれた。

 

「慣れていますから。アフリカでは医者が足りなくて私みたいな治癒魔法が使えるウィッチはよく戦闘がなかった日は駆り出されたんですよ。そこでは嫌でもいろんな人を見てきましたからね。」

 

「すまないな。それと助かった。」

「いえ、いつもは助けてもらってばかりですので大尉の助けになれて少し嬉しいですし。それでは失礼しますね。」

ルマールが部屋を出ると外で待機していた伯爵とウィルマが入ってきた。

ウィルマが俺の荷物を持ってきてくれたところにさすがパートナーだと感じた。

「わお、隊長って脱ぐとすごいんだね。」

「うるさい。」

まぁ、自分でもそう思う。あちこちに傷のあとがあったりする。

「それで、傷がどうなったの?」

「応急処置程度だそうだ、だから帰ったら医者にみせる医者に見せるようにと言われたよ。」

「なるほど、服はどうするの?」

「予備があるはずだから、それを着るさ。血のついたやつは焼却処分する。」

「仕方ないね。」

血のにおいで動物が来るかもしれないのでそうするしかないだろう。

「それじゃあ、報告は私たちでやっとくから。」

「いや、俺がやる。」

そういって立ち上がったとたん痛みで思わず姿勢を崩してしまう。

あわてて二人が支えてくれた。くそ、まるで介護されている老人だ。

「まぁ、今日は休みなって。たまには隊長も私たちに頼ってよ。」

「そうそう、バーフォードも働きすぎだからね。とりあえず着替えたら呼んでよ。」

「・・・ありがとう。」

そういうと、二人は出て行った。代えの服に着替えて血のついたズボンとシャツを袋に入れる。

袋とかばんを肩に掛けて部屋を出る。

「大丈夫、もう平気だ。」

「本当?」

「あぁ」

伯爵はもう本部への定時連絡のためいなくなっていがウィルマはそのまま残って荷物を持ってくれた。

リビングに戻りルマールから遅い昼食をもらう。

その後も出撃待機時刻まで来なかったので今回は俺が定時連絡を行い、今日の業務は終了となった。明日は1000にここを出発することになった。本来なら朝一番で帰る予定だったのだが今晩から日の出近くまで雪が降る予報が出ているので時間が遅くなった。

晩御飯はいつもどおり1900に取った。

食事を終えてコーヒーを飲みながらみんなと雑談する。

「傷口はどうですか?」

「まだ痛むが基本的には問題ない。すこし血がにじんでいるが気にするほどではないだろう。」

「ならよかったです。」

治癒魔法か、こういった医療設備が完璧ではないときに負傷したときものすごく役立つな。

あらためて魔法の凄さを知った。

「それで、結局今日は何があったんですか?どういう顛末で怪我をしちゃったんですか?」

「大型を落そうと思ったらカウンターを食らった。それだけだ。」

「それだけって・・・。」

「何か問題でも?」

「普通大型っていったら私たちでも数人で連携して倒すようなレベルですよ?いったいどうやったんですか?」

「普通に狙撃しただけだ。悪いがそれ以上は軍事機密だ。それこそウィルマやほかのブリタニア空軍の奴らにも言えないレベルだ。」

二人の視線がウィルマに向くが彼女は首を振って“私も知らない。”とアピールする。

「そうですか、ならこれ以上は聞きません。ただ、無茶はしないでくださいね。」

「そうだぞ、隊長の代わりに報告するのも面倒くさいし。」

「まぁ、バーフォードのことだからまた無茶するだろうけど、死なないでね?」

口々にみんなが言ってくる。

「すまなかったな。これからは死なない程度に無茶するさ。」

「なんですかそれ?」

「まぁまぁ、隊長も反省しているみたいだし。隊長も今日はもう休んだら?」

「そうさせてもらうさ。俺にかまわず話していていいぞ。」

「わかりました。お休みなさい。」

「お大事にー。」

「おやすみー。」

こうして俺は先に休まさせてもらった。

 

四日目

0945

502基地に帰るための最終チェックを行っていた。今回の遠征では通信機、ルマールや伯爵が持ってきた荷物の中で長期保存が可能なもののみを残して後はお持ち帰りということになっている。

必然的に伯爵の荷物が一番重くなるため、彼女のほかの荷物を分担して持っていくことになった。といっても大部分は帰りが武器と個人の荷物以外運ぶものがないウィルマが担当になった。

さっきまでは雪によって入り口が埋もれたのでそこの雪を脱出するのに必要な分だけをせっせと取り除いている。ただ一度速度が出てしまえば後はずっと浮いたままなので航空機と比べて取り除かなければならない雪の量は圧倒的に少ない。

こうして定刻の1000までに全てのやるべきことを終えられたので離陸する。

あとは我が家まで一直線だ。

『ひゃー、今回の遠征もいろいろあったねー。なぁ隊長。』

「まぁな。空で怪我したのも久しぶりな気がする。」

『そんなこと気にしなくていいんじゃない?私なんてしょっちゅうだし。』

『爵はもっと自重しなさい!』

『それはちょっと難しい相談だな~。』

なんてたわいもない話をしながらペテルブルグまで飛ぶ。

エリアM(マイク)中央を飛行中に本部から指令があった。

『本部から502リーダーへ、応答しろ。』

「こちら502リーダー、敵か?」

『いや違う。呼び出しだ。貴機は進路を変更してロンドンに向かえ。統合軍本部からの召喚命令だ。』

「了解した。」

『隊長なにか悪いことしたのかい?』

「わからん。とにかく俺は急遽ロンドンに向かわなければならなくなった。クルピンスキー大尉、現時点より502B隊の指揮は君がとれ。復唱。」

『了解、これより502B隊の指揮を取ります。』

「というわけだ、しばらくいなくなる。いつ戻るかはわからないから少佐にはよろしく言っといてくれ。」

『任せなさい。』

『お気をつけて。』

『急な長旅だけどがんばってね、あとお土産よろしくね。』

「了解。じゃあな。」

そういって左旋回、速度制限を解除して速度、高度ともに本来の値にまで一気にあげる。

 

 

 

ヨーロッパ大陸を離れてしばらく北海上空を飛んでいるとブリタニア連邦がみえてきた。

管制官の指示のもと、司令部に最も近い基地に誘導されそこに着陸する。

そのまま格納庫に向かい、ユニットから降りると迎えが来ていた。素早くユニットから端末を取り出したところで話しかけられた。

「STAF VFA-21隊長、フレデリック・T・バーフォード大尉ですね?ヒューゴダウディング空軍大将がお待ちです。こちらへ。」

そういって車に乗せられる。ジャックの奴、何かあったと見るべきか?いや、電話ではいえないような内容か?

そのまま司令部にまで連れて行かれそのまま空軍大将のいる部屋まで向かう。

「VFA-21隊長、フレデリック・T・バーフォード大尉、召喚命令に従いただいま参りました。」

「入っていいぞ。」

「失礼します。」

そういって入るとジャックは相変わらず書類を読んでいた。さすが管理職の最上位にいるだけあって少佐と比べ物にならないくらい多い。

「さて、ジャック。呼んだ理由を教えてもらいたいものだな。大方電話じゃ話せないような内容なんだろ?」

「いきなりだな、まぁいい。錆とねずみどっちがいい?」

何だよそれは。

「錆は?」

「陸軍の奴がへまをしやがった。」

身内の錆ってか。

「詳しく。」

「一ヶ月も話だ。もともとはベルリンやオストマルクなどにある複数の巣を502、504、506、508などのを含めた同時多方面侵攻作戦が計画されているのだがその一環としてブリタニア陸軍のモントメゴリー将軍がライン川空挺突破作戦を実施したんだが失敗した。9月あたりから作戦自体は行われていたのだがガリア解放にあわせてさらに増援を送ったにもかかかわらずだ。原因は事前偵察や準備が足りなかったと釈明しているらしい。」

聞いて呆れた。情報戦の重要さをこの世界の誰よりも深く理解しているであろう俺たちからすれば失敗して当たり前だ。手柄を急いだ結果失わずにすんだものまで吹き飛ばしやがった。

「銃殺刑ものだな。」

「俺だってそうしたいが、今回は謹慎処分で終わってしまった。以前にあげた戦果が影響だろう。ただ、アフリカでは15:1じゃないと攻撃しないような慎重なやつだったんだがな。何がこいつを無謀な作戦を実行させたのやら。」

「わからんな。それにしてもずいぶんと遅い報告じゃないか。」

「海と陸が手を組んで隠してたんだよ、偶然俺の耳に入って調査してみればこのざまだ。結局カールスラントやうちの航空戦力がライン川を挟んでネウロイと対立しているのが現状だ。よかったニュースといえばカールスラントがここでジェットストライカーユニットの実験をしているという情報とそのユニットの大まかな性能がわかったくらいか。」

それはそれは優秀な駒だこと。

「それで、ねずみって言うのは?」

「これだ。」

そういってひとつの書類を渡される。

表紙に“Top secret”と書いてある。が気にせず読む。

とある作戦の概要が書いてあってので5分ほどで全て読み終わった。

「で、こんな馬鹿な作戦を行おうとしているのはどこのどいつだ?」

「聞いて驚くなよ、地中海方面司令部だ。」

はぁ、思わずため息が出る。

「・・・・トラヤヌス作戦か、トラヤヌスって確かローマの皇帝だよな?」

「あぁ、五賢帝の二番目の奴だ。一時はメソポタミアまで征服した男だ。」

なるほど、ネウロイを支配してやるぞ、っていう思いが込められているのか。

「ネウロイとのコミュニケーション作戦か。よくこんな作戦書が手に入ったな。」

「各地に優秀な目と耳がいるんでな。」

MI6だろうか?

工作員とやらは戦争の混乱にまぎれて難民として各地に入り込んだのだろう。

「しかし、どうしてこんな作戦を?しかも極秘で?」

「いま、統合軍の中に戦争派と穏健派がいるんだ。詳しいことは面倒くさいから言わないが戦争派はうちの陸軍が失敗したせいで一時的に勢いが収まっているんだ。その隙を突いて穏健派が点数稼ぎをしようと考えているのだろう。」

「しかし、これ成功するのか?ネウロイとのコミュニケーション作戦って言ったって前例がガリアでの宮藤少尉の件を含めてほとんどないだろう?」

「確かにな、だが奴らには前例があれば十分なのだろう。しかも動く部隊は504だ。成功すると見込んでいるのだろう。」

「それで、ブリタニアとしてはどうするんだ?」

「まぁ静観だな。失敗してくれれば御の字、成功してくれればネウロイがどのような奴か手がかりがつかめる。」

なるほど、どちらに転がってもこちらの利益になるのか。ジャックのことだから成功したときでもあらゆる手段を用いてどんな内容だったかは知ることが出来るだろう。失敗したらそれを追求してさらに発言力をあげるのか。

「それで?俺を呼び出したのはこんな話をするためではないだろう?もっと別なことがあるんじゃないか?」

「あぁ、そうだ。これからが本題だ。この書類を届けてほしい。」

そういって書類を渡される。

「どこにデリバリーするんだ?」

「いま、扶桑の欧州派遣艦隊がオラーシャのリバウ軍港にいることは知っているな。そこにむかって現在扶桑の空母“飛龍”とその護衛のために数隻の軍艦が航行中だ。場所はグダニスクの北60kmのところだ。その船に乗っているVIPまぁ、艦隊司令長官だがこいつを届けてほしい。すでに話はつけてあるからいきなりズドンはないだろう。お前の速度ならリバウ軍港に入港する2時間前には着くはずだ。」

「了解した、まったく人使いが荒いな。」

「あきらめろ、そういえば怪我をしたと聞いたがその調子じゃ問題なさそうだな。」

「相変わらずお早いことで。」

「それじゃあ、頼んだぞ。あと、これも渡しておく、暗号表だ。何かあったときに使え。」

「了解。」

そういって部屋を出る。そのまま司令部を出ると先ほど迎えにきてくれたやつが俺を見て敬礼したのでその車に乗って基地に戻る。

再びユニットに乗って滑走路から離陸してロンドンを離れる。そういえばパスポートなしで入国していたけどよかったのだろうか。

北海を東に進みバルトランドの領空を侵犯しながらバルト海に出る。進路を南に変えて扶桑の艦隊を探す。

約10分ほどで見つかったので艦隊のレーダーにあえて見つかりやすいように電波を発信して通信を行う。

「こちらコード“ガルーダ”、荷物を届けに来た。着艦許可を求む。」

『確認する、少し待て。』

二分ほど空白があった後に許可が下りた。前方から二つの反応、誘導という名の監視目的のウィッチか。殺気丸出しで前方と後方に一機ずつ張り付いてきた。

大きく旋回して空母の後ろにつく。まったく、面倒を掛けさせやがって。ただでさえ休みたかったのにロンドンに向かえと言われ、その上デリバリーまでやれと言われて・・・・なんかいらいらしていたのでユニットのシステムを全開にする。

大出力のルックダウンレーダーを作動させる。通信にノイズが入り交信が不能になる。そして空母の索敵レーダーもマスキングを掛けられて使い物にならなくなる。

そのまま速度を一気に上げて空母の上を通過。この速度には監視ウィッチも追いつけずに距離を離される。

旋回してもう一度空母の後ろにつく。今度はちゃんと着艦する。

ギア-down

アレスティングフック-down

マニュアルアプローチ開始

オートスロットル-off

アンチスキッド-off

スピードブレーキ-ext

着艦。

爆音を巻き散らしながら甲板に降りた。エンジンをアイドル状態にして近くのあいているユニット置き場に止まる。

全てのシステムをオフにする。ようやく空母のレーダー及び通信設備が回復する。

近くにいる乗組員に声をかける。

「ブリタニア空軍特殊戦術飛行隊第21攻撃飛行隊隊長のフレデリック・T・バーフォード大尉が書類を持ってきたと艦隊司令長官に伝えてくれ。長官に直接渡すように上から言われているともな。」

「は、はっ!了解しました!」

海軍式の敬礼をして走ってどこかにいってしまった。

それにしても周りのほとんどの奴らの視線がそれぞれの作業をしながらもこちらに向けてくる。

注目されるのも嫌なものだな。それほど珍しいのか。

しばらくすると先ほどの乗組員が帰ってきた。

「長官がお話しするそうです。どうぞ、こちらへ。」

「他国の軍人が入っていいものなのか?」

「長官が許可されたので。」

「それならわかった。」

そういって艦橋に案内される。ここは日本語もといい扶桑語で話すべきだろう。

「はじめまして、ブリタニア空軍特殊戦術飛行隊第21攻撃飛行隊隊長のフレデリック・T・バーフォード大尉です。ヒューゴダウディング空軍大将からの命令を受けて書類を届けに参りました。」

「扶桑海軍、遣欧艦隊司令長官の山口多聞海軍中将だ。ほう、君は扶桑語も話せるのか。」

「はい、問題なくこなせます。」

思わず姿勢が伸びる。そうか、本来ならミッドウェーで死んだはずの人がこの世界では生きているなんてことは普通にあるのか。

「ダウディング大将からは君のことは聞いていたが、なるほど。いい目をしている。死線を何度も越えてきたようだな。」

「恐れ入ります。それと、これが渡す書類になります。確認をお願いします。」

封を開けて中身を確認した上で受け渡しのサインをくれた。

「では、自分はこれで。」

「まぁ待て。君とはすこし話をしてみたい。あぁ、ここは任せたぞ。ついてきたまえ。」

話?何を話すんだ?

よくわからないま艦橋の外に出る。

「ダウディング大将とは知り合いでな、先日ブリタニアに寄港したときに君のことを教えてもらったんだよ。」

「何と言ってましたか?」

「大切な部下の一人だと言っていたよ。」

よかった。変なことを言ってなくて。

「さて突然だが、君はこの戦争についてどう思っている?」

戦争?いきなりなんだろうか?

「どうとは?戦術論の話でしょうか?」

「それも含めてだ。」

フムン。ならいつも少佐とかに言っていることを言えばいいのか。

「一言で言えばずさんですね。戦争は情報が左右することをわかっていない者が多すぎる。彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず、という言葉がある通り敵について知ろうと行動している者が少ないと思います。」

「ふむ、なるほど。ではどうすべきだと思っている?」

「ブリタニアでは最近ネウロイ心理学という分野が出来たました。今までの行動から敵が地球で何を求めて行動をしているのか、そしてどうすれば敵の一歩先を進めるのかを研究しているそうです。自分はこういうのが世界に広まるべきだと感じています。」

長官が俺のをじっと見てくる。

何か思うところがあったのだろうか。

「面白いな、普通の軍人なら敵の殲滅あるのみというのが大部分の意見だった。敵を知る必要があるといったのは君とダウディング大将が初めてだよ。」

「まさか、扶桑にもいるでしょう。ただその声が潰されているだけですよ。」

「そうだろうか?まぁ、そうだといいがな。」

 

その後風を直接感じながら空を飛ぶのはどんな感じか?とかオラーシャは寒いか?502の管野の暴れっぷりは健在か?など普通の会話を10分ほどして最後にジェットストライカーユニットが見たいと言うので甲板に降りる。

「なるほど、これが噂のジェットストライカーユニットか。名前はなんと言う?」

「メイブ。」

「我が国で作ることは可能かな?」

「無理でしょう、時間と金を湯水の如く使えばいつかは可能だとは思いますが。制御や整備するのもレシプロ型と比べ物にならないほど大変ですし。さらに魔力も何倍も必要となりますよ。」

「開発のやつらもそこがネックだと言っていたよ。君も魔力が多い方か?」

「はい、能力もそれほど魔力を消費しませんので思う存分飛ぶのに魔力を回せますしね。」

「では、最後に。君が着艦するときに発生したノイズは君かな?」

「ええ、何か問題でもありましたか?」

「いや、特には。」

自軍の欠点を他軍にばらすほど愚かではない、ということか。

「では、自分はこれで失礼します。また生きていたらお会いしましょう。後武運を。」

「君もな。」

そういうと、艦橋に戻って行った。

発艦許可が降りたので離艦、一旦旋回しアフターバーナー点火、艦橋のすぐそばをとれるだけの速度を取って飛行する。一瞬、中将と目があった気がした。

そのまま艦隊を離れて502JFWの基地があるサンクトペテルブルグへと進路を取り、帰投する。

またいつか、会いましょう。山口多聞中将。




昔の有名な人を誰が出したかったので出せて良かったです。
嫌な人はごめんなさい。




ご指摘や感想があればお願いします。

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