妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

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今回も日常会です。


第9話 部隊の裏事情

ブリタニア空軍試験飛行中隊

それが今の俺の所属らしい。もちろん、そんなものは存在しない。

ジャックが予算をやりくりして何とかつくった架空の飛行隊だ。それにしてもどうやって隠してたのだろうか?ジャックの手腕に驚きながら、今度聞いてみることにしよう。

 

いま、俺は機体の整備をしている。正式に書類上ではここに配属になった俺。つまりは彼女達と同様に命令があれば飛ばなければならない。ワイト島では毎日出撃命令が下る、なんてことはないがいつでも飛べる準備はしておかなかければならない。そしてジェット機というものは繊細だ。レシプロ機なんかよりも遥かにパーツ数が多いためその分、構造が複雑でより壊れやすくなる。だから日々の整備が大切なのだ。より長く、こいつと一緒に飛ぶために。

そういえば、聞くところによるとウィルマがここに来るまで4人はあまり仲が良くなかったらしい。当たり前だろうな。

リベリアンらしく気の強いフラン、逆におどおどしているアメリー、常に1人で行動しようとするラウラ、怪我の療養のために来たのに左遷されたと勘違いして焦っている隊長。まとめるとなるとかなり大変そうだ。まぁ特殊戦のあの何とも言えない空気もまた凄かったな。

ところが、ウィルマが来てから状態は変わったらしい。

 

隊長曰くアメリーは成績はいいのにその性格ゆえにあまり上手くいかないことがあったがウィルマに色々と教えてもらってだいぶ自信を得た。曰くフランはある日を境に急に棘が丸くなったというか他人に対して優しくなり始めたらしい。フランに聞いてもはぐらかされたがどうやらウィルマさんが関わっているとのこと。

そして、隊長自身も励まされたらしい。誕生日会の前偵察飛行中に色々と言われてようやく目が覚めた、と言っていた。

そんな中に俺というイレギュラー要素が入ってきた。隊長は最初俺が宇宙人だと、思ってたらしいな。まぁ、あながち間違ってはないが。

3日ほど前だろうか。俺を拾って迷惑してるか?と聞いた。隊長は

「そんなことはないわ。確かに初めは困惑したわ。けれどだんだん時が経つに連れて私達のことも考えて行動してくれてる、って思えるようになった。間違えてたら教えてくれる、他のメンバーのサポートもしてくれる。だから迷惑何かじゃない。むしろ感謝してるわ。」

と言ってくれた。

感謝してる、か。久しぶりに聞いた気がする。というか、最近ウィルマとの距離が近くなった気がする。僚機になったからかよく話すようになった。内容は日常会話だけだ。ただ、この基地のなかでは一番話しているかもしれない。ジャックを除けばこの世界で唯一俺の家族の事を話した人だもんな。よく考えたらたくさん話したし話してもらったな。

あと、最近変わったことと言えば空中戦の事をウィルマ、アメリー、フランと時々隊長を加えて話すようになった。前はウィルマだけだったので、人数が増えるといろいろな事が聞ける。あんな形のネウロイをみたや、一度に10個のネウロイが襲ってきて大変だったとかだ。逆に俺も戦闘技術、それも出来るだけ少なくだが彼女らに話している。それでもはじめて聞く戦術だったと言ってたこともあった。

さて、左エンジンは問題なかった。次は右か。

ん、誰か来たな?あれは

「ラウラか。ユニットの整備か?」

コクン。

返答なしか、まぁ想定の範囲内だ。

彼女も整備を始める。

カチ、カチ、カチ、時計の針が進む音と時々金属と金属がぶつかったときに起こる音だけが響く。

15分後

「ん、アンカの調子もいいみたいね。」

「アンカ?機体の名前か?」

独り言らしくいきなり、話を振られて驚いている。

「そう。あなたも名前をつけているでしょ?」

「まぁ、そうだな。機体の名前はメイヴ、俺がつけたわけではないが妖精の女王の名前なんだ。結構俺はいい名前だとは思うな。」

まぁ、こいつ単体の名前はつけてないな。落とされることはまずないと思ってはいるがもし損失でもしたらなんか立ち上がれなくなりそうだからな。

「それにしてもそのユニット、変な形。」

「人の機体を貶すのか?」

作業をしながら少し苦笑いで返答する。確かにラウラや他の奴がのるレシプロ型のストライカーユニットと比べれば確かに変な形に見えるのだろうな。

「ごめんなさい、そんなつもりで言ったわけでは」

「わかってるよ。最初似たような感想を俺も持ったしな。メイブ、風の女王にふさわしい機動力を得るために少し不思議な形になったんだよ。ただ、ストライカーユニットになる前はかっこよかったんだぞ?まぁ、今の姿じゃ想像できないだろうがね。」

「…そう。ということはその形には意味があるの?」

珍しく食いついてくるな。

「そうだ、詳しくは言えないが綿密な計算に基づいて設計されてる、らしい。」

このユニットを履くようになってから気づいたのだが、翼や他、各種機構は飛行中ちゃんと作動している。

試験飛行のとき、アフターバーナーを点火して最高速度で飛行していた時も翼が回転して後進翼になっていた。上昇、下降、旋回するときもちゃんと翼、補助翼は動いていたし。ただこれが飛んでいるとき本当に意味があるのかは謎だ。あとは、何故か推力偏向ノズルが新たに付いていた。上下左右に動いているからこれも上手く作動してあるのだろう。1つ面白いのがギア(車輪)が車のように動くことだ。元々メイブのギアにはモーターが内臓してあって自力で動くことが可能だったがストライカーユニットでも装備されていた。これの何が面白いかって?一言で言えば"まるでセグウェイ"。

左右1本ずつ、計2本のギアが自分の思うように動かせる。しかもそれなりにスピードが出る。制御は慣れればあとは、楽勝だと遊んでいたら(暴走していたら)隊長に怒られた。

 

それ以来、使ってないな。ただ思いがけない遊び方が見つかったのは収穫だろう。

「ジェットストライカーユニットには興味がある。聞いた話だと魔力の消費が激しいというのは本当?」

「そもそも、基準がわからないから何とも言えないが多分普通のよりは多いんじゃないか?」

「乗ってみたい」

「さすがに、それは許可できないな。これは俺の愛機だし、ラウラもアンカとやらを他の人にさわられるのは嫌だろ?」

心当たりがあるらしく、シュンと肩を落として落ち込むラウラ。

「残念。」

また、沈黙が続く。あれ以上食いついてこなかったということはよっぽど乗って見たかったのかもな。

 

10分後、フランが来た。最初、顔だけを出してきてこちらを伺うかのように辺りを見渡したあと、ようやく中に入ってきた。

「ラウラにバーフォード、あなた達何やってるの?」

「「整備。」」

言葉に話しかけるなオーラを漂わせるがフランは話を続ける。いや気づいていないのか。

「整備兵に任せればいいのに。」

「いざというとき困るのは自分。整備してあげれば必ず答えてくれる。」

「確かに、キレイね。」

そう言ってさわろうとする。あっ、あれはまずいな。愛称をつけるくらい大事なユニットだ。ラウラに許可なく触るのは絶対に許さないだろう。

案の定、ラウラがフランにチョップを食らわせた。

「いたーーーい!!」

フランが叫んだ。そして一瞬の間をおいて隊長が走って入ってくる。どんな魔術使ったんだよ。

「どうしたの?」

「ラウラがぶった!」

「私のアンカに触ろうとしたのを防いだだけ。私は悪くない」

「えっと、あ!バーフォードさん。説明してくれる?」

2人がそれぞれのいいわけを口にするがそれだけではいまいち状況が把握できない隊長は俺に説明を求めてきた。

「あーまぁ、事態は簡単だ。遊びにきたフランがラウラの許可なく彼女のアンカにさわった。それを是としないラウラがフランを叩いた。そんな感じだ。」

簡単な説明だったが状況をわかってくれた隊長。その様子だとこれも初めてではないのかもな。

「あはは、なるほどね。それよりラウラ、もうすぐ哨戒飛行の時間だから準備してね?」

「………了解。」

ムスッと不満な表情を浮かべながらも離陸の準備に入る彼女。

あの2人に哨戒飛行を任せて平気なのか?

 

俺の懸念をよそに15分後隊長らは行ってしまった。

「大丈夫なのか?」

先程のあのやり取りを知っているからこそ、不安に感じて思わず独り言を呟いてしまった。直後、後ろからウィルマが話しかけてきた。

「平気だと思うよ。隊長はラウラと仲良くしたいと思っているみたいだし。今日の哨戒飛行はそのためにあえて飛んだんじゃないの?」

「なぜわかる?っていうのは俺より長くいるお前には愚問か。」

当たり前じゃない。と俺に言ってくるウィルマの顔は自信に満ち溢れており、おそらく自分の意見に確信を持っているのだろう。

「仲良くしたいっていうのはさっき聞いたから。隊長自身がラウラとコミュニケーションをあまり取れていない事を気にしていたみたいなの。だから今日、空で少しでも糸口を見つけられたらとでも考えたんじゃない?」

「なるほどね。心配のし過ぎか?ラウラもそれなりに腕はあるみたいだし。」

「悩みすぎると老けるわよ?」

「もう既に老けてるよ。まぁ何かあればすぐ連絡が来ると思うし、隊長が帰ってくるまでユニットの試運転でもしようかな。」

「付き合うよ。」

「助かる、側で出力調整のメモをとってくれ。」

「了解」

こうして、しばらくエンジンの出力を確認したりセグウェイごっこをして暴走していると、無線が入った。

ネウロイと交戦を開始したとの事だ。ラウラが独断専行しているらしい。あいつ!

「援護は必要か?」

《待って、ここは私に任せてほしいの。ここでしか、やれないことをやらなきゃいけないから。》

「わかった。だが隊長」

《?》

「幸運を」

《ありがとう。》

こうして無線は切れてしまった。ウィルマが走ってきた。なんかこう、見てると凄いな。

「それで、隊長は?」

「すべて、任せてほしいと。ウィルマの言った通りだよ。策とやらに任せてみようと思う。」

「あなたの律儀に貸し借りを返す性格から強行してでもいくと思った。」

「さすがにそこまでやぼじゃないさ。」

ばらしたつもりは無かったんだがこいつにはわかっていたか。何か全てを見透かされた気分になるな。

 

そして、1時間後2人は帰ってきた。行きと違ってなんというかオーラが行きはむわーとした感じだったのが帰りはほわーとした感じになっている。んー、上手く言い表せないが収穫はあったのだろう。

「お疲れ様、隊長。どうだった?」

「撃墜2だけど、それ以上にラウラと少し仲良くなれた気がする。」

「ならよかった。部隊員同士の連携がとれないとめんどくさくなるからな。」

 

それから数日後ラウラが他人と話すようになった。飯を食べた後もすぐ部屋に戻らず手伝うようになったし、コミュニケーションを取るようになった。

よかった。彼女はまだ"こちら側"には来てなかったか。

無感情にただ命令に従う、そして腕もいい。もしそんなウィッチがいたら簡単に捨て駒にされるだろう。

彼が懸念していたのはその事だった。

 

なにはともあれ、ようやく5人と一人の不思議なウィッチーズの友好関係ができたのである。

 

 




今回はラウラ回です。
文字少し少なめです。
お気に入り25件ありがとう!
次回は戦闘を入れます。

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