妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

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第7話 Happy birthday!!

模擬戦を終えてから1週間たった。

出撃も1回しかなく、ネウロイは2機墜としたのでこの世界での撃墜数は5、総撃墜数は158といったところか。この世界でも5機を超えるとエース扱いになるのだろうか?

ただ、今となってそんなエースの称号なんかよりももっと気に掛けるべきことがあった。

 

2週間後とはいえ、いまだに何一つ連絡がここに来ない。なにかしらのコンタクトがあってもいいのだがと思うが残念ながらそれらしきものは何もなかった。隊長がすべて握りつぶしている可能性もあるが、俺宛の連絡となればさすがに無理なはずだ。とにかく、今はあらゆることを想定しておかないとな。ユニットに乗っていないときは俺を守ってくれるのは腰にある小型拳銃だけだ。せめてこいつだけでもちゃんとしておかないとな。

そんなことを思っていると後ろからビショップ軍曹がきて、耳もとでこうささやかれた。

「2100に私の部屋に来て。理由は来てから話す。」

「なんだよいきなり?」

「じゃあ、そういうことで。」

行ってしまった。まるで風のように着て一瞬で去ってしまう。

まだ、時間はあるし部屋に戻って本でも読むか。

ちなみに今読んでいるのは扶桑海事変からここ最近までの戦いを詳細に記してあるものである。ほとんどこの世界についての知識がない自分に少しの助けにでもなればとビショップが貸してくれた。あいついいやつじゃん。読んでいて気付いたのだが、面白い事にもとの世界で男だったやつがこっちじゃ少女になっていることが多々あった。あと、剣でネウロイと戦っているやつがいるとか。全く何がなんやら。

それとだいぶストライカーユニットについてもわかってきた。ウィッチという彼女たちの魔力をエネルギーに変換して飛ぶ魔法の箒といったところか。燃料を増槽として搭載してさらに長距離飛べるユニットもあるようで個々のあたりはハイブリットエンジンなのか不明だが研究が進んでいるらしい。ジェットストライカーユニットも存在しているらしいがいまだ試作段階。そもそもストライカーユニットが一連を通してもっとも魔力を使うのは始動の時らしくその時に使用者の大半の魔力を奪ってしまい活動可能時間は5分程度なのだとか、ってこんなこと書いてあるのを読んでも平気なのか?まぁ、貸してくれた奴だし平気なのかもな。そう自分に言い聞かせて先を読み進めることにした。

 

2100

ビショップの部屋にいくと隊長以外全員がいた。ビショップ軍曹が声をかけたのはどうやら俺だけじゃなかったらしい。空いていた椅子に腰かけると今回の発起人である彼女が話を進めだした。

「それでは第2回戦略会議を始めます。今回の議題は、隊長の誕生日を祝おうの会、題して20の誕生日おめでとう!!!の会についてです。」

「それで、誕生日はいつなんだ?」

「明後日」

「なぜここまで引き伸ばした?」

思わず、ビショップの頬を引っ張ってしまった。そういうものって1週間前くらいから綿密な計画を製作してから隠密に進めるものじゃないのか?今のこの状況を見る限りそんなのかけらもないんだが・・・。

「いはい、いはい!」

彼女が涙目を浮かべ始めたので放す。

まぁ、ここまで来てしまったのならしょうがない。残された時間で迅速に行わなければならないだろうな。

「それで、予定は?」

「うー。明後日は私と隊長が哨戒飛行だからいない間に料理や飾りつけをしてもらいたいなと考えてます。」

「食材は揃っているのか?」

「明日、皆で買い出しに行きます。ちなみに隊長は明日呼び出しを食らったそうで出頭しなければならないみたいなのであません。」

その言葉に思わずはっとなる。まさか、彼女に先に手を出すつもりでは?

「その出頭の内容は?」

だからどうしても聞いてしまった。最悪そちらの方もやらなくてはならなくなる。

「隊長の怪我についてだそうです。行先は扶桑大使館みたいですよ。」

扶桑大使館か。あの声の主に扶桑語の訛りは微塵も感じられなかった。つまりは、おそらく違うだろう。よかった、迷惑はまだかけていないみたいだな。だが警戒はしておくべきだろう。隊長が帰ってきたらさりげなくでも聞いてみるか。

「わかった。じゃあ、人員の振り分けは?」

「料理がうまい人ー?」

俺とアメリーが手をあげる。

「えっ、あんた料理できるの?」

「失礼な、あっちじゃ暇なときは作ってた。食堂もあったが作るのも悪くないと思っていたし、男子ご飯何て言うのもあるしな。」

「嘘でしょ、てっきり全くできないと思っていたから。」

「なんだ?失礼じゃないか?」

「まぁまぁ。それじゃあ、残りの人たちで装飾を行いましょっか。」

「「「はーい。」」」

こうして、配置は大まかに決まった。

 

2230

喉が渇いたので食堂にいくと隊長と鉢会わせた。いつもの服で相変わらずこの時間も仕事を続けているのだろうか。

「こんな時間まで仕事か、大変だな。」

「責任者だしね。あっ、ちょっとついてきてもらえる?」

「?」

隊長に呼ばれて俺は彼女に連れられて司令官室までついていく。今日は呼び出されてばかりだな、と思っていると彼女から茶封筒を渡された。

「これは?」

「給料かな、ここに来てすでに5機墜としているでしょ?だから。」

手渡しの袋の中に入っているなんて初めてだ。もう一つ上の世代、こいつらにとっては下の世代では・・・ってちょっと待て。

「いいのか、曲がりなりにも部外者だぞ?」

「いいのよ、浮いた分をやりくりしたから。それに私たちと一緒に戦ってくれているあなたに何も対価がないというのはさすがに私が気まずいから。」

「だが、これは俺が好きでやっていることだ。隊長がここに受け入れたことに対する対価であってそれで相殺できるほどだ。だから隊長、君がわざわざ身をこれ以上、切る必要なんて無いんだ。」

「それでも。私たちは感謝しているから。初めてあなたがネウロイを撃墜したとき、ラウラはあなたが助けてくれたことに感謝していたわ。それに前の模擬戦も、参戦していたみんなにいい影響を与えているみたいなの。いままでほとんど私たちと話そうとしてくれなかったラウラも少しずつだけれど他愛もないことを話してくれるようになった。フランはつんつんしているけれどあなたの実力は認めているみたいよ?アメリーも負けていられません!って張り切っていたしウィルマさんも”彼が来てからさらにここの基地がにぎやかになって楽しい。あの人にはすごく感謝しないと。”って言っていたわ。そして、それは私も同じ。あなたとウィルマさんが来るまでのここは連携をとるのも苦労していたほどなの。自分の主張が強すぎたり、逆に全くできなかったり、そもそも話を聞いてくれなかったり、ね。

だからウィルマさんも含めて私はあなたにこの”ありがとう。”という気持ちを伝えたい。

あなたは確かに恩を感じてくれているから今のままで十分かもしれないけれど、私はダメでどうしてもわかってもらいたいからね。だからこういう給料、という形をとったの。

どちらにせよあなたも、外に出たときに自由に使えるお金が多少は必要でしょ?

だからこれはどうしても受け取ってもらいたいの。」

・・・そんな顔で言われたら俺はもう反論できない。彼女が恩を感じてくれている、それは俺もだ。だからこそ、彼女にそれ以上背負ってほしくなかったから働いたつもりだったのに・・・。

だが彼女がそう言うのならありがたくもらうとしよう。現金は明後日に備えてほしいとは思っていたからな。

「・・・すまない、助かる。この借りは出撃して戦果をもって隊長に返すさ。」

「わかった、期待しているわ。

あなたは初めて飛んだ時と今日飛んだ時を比較してもかなり動きが綺麗になってきているのがわかるわ。短いこの間でこれだけ動きがよくなっているんだもの。きっと将来すごいウィッチになりそうね。」

「あぁ、そうなれるといいな。隊長。」

「ん?」

頭を下げて彼女に感謝を伝える。

「ありがとう。感謝している。」

「もう、いいのよ?好きでやったことだから。」

「それでもだ。」

「はいはい。わかったから今日はもう早く寝なさい?」

「子どもじゃないんだから。」

「子どもじゃない。十分。」

そういって俺は隊長に背中を押されて部屋を出された。右手に握りしめていた茶封筒をみてもう一度その扉にむかって声をかけた。

「ありがとうな、隊長。」

 

 

次の日

俺とアメリーは買い物をするために市場まで向かっていた。車を借りて俺が運転する。この車型は初めてだったが意外と乗れた。初めて聞くエンジン音に新鮮味を感じながら市場の近くに車を止めてその先は徒歩で向かう。

「それで、何を作るのか?」

「ガリア料理にしようかと、バーフォードさんは?」

「扶桑食かな。ブリタニア料理よりは隊長の受けもいいと思うし。ただ、食材が揃うかどうか。」

「扶桑食できるんですか?」

「それなりにはできるさ。母親が扶桑人でな、ほら髪が黒いのもそのせいだな。けど、ガリア料理とあうものってあるのか?具体的に何作るんだ?」

「ええっとですね、…。」

「なるほど、それは中々良いかもしれないな。ただこれは作り方がわからない。代わりにこれはどうだ?」

「あ、いいですね!それじゃ、デザートはどうしましょっか?」

「それはだな・・・。」

こうして、フルコースの案を練っていく。

 

 

明日作る際に必要な食材を買い終わったところで最後に収入もあったことだしあるものを買った。それは

「洋服ですか」

「今までは整備の人のを借りてたけどさすがに不味いと思って3着もあればローテーションできるし。」

「なるほど。それとその細長い布は何に使うんですか?」

「ズボンの内側にボタンと共に着けることで半ズボンにもながズボンにもなるように少し改造するんだ。」

「へー。そんな事も出来るんですか。器用ですね。」

「まぁな。」

車の後ろに買った食材や洋服を乗せて運転席に座る。

エンジンをかけて基地へ帰る。

運転席の前にガラスがあるだけであとは外が丸出しのこの車、風を切るこの感覚が気持ちいい。フェアリィでは絶対に経験をすることが出来なかったのでこれはかなり楽しい。

「大尉ってすごいですね。」

「いきなりなんだ?アメリー?」

海を右手に走っていると助手席の彼女が声をかけてきた。

「ほら、戦闘もできてあっという間に部隊のみんなと仲良くなってそれだけじゃなくて料理や裁縫もできるなんて。」

「まだ裁縫と料理の腕はここでも通用するとは限らないだろ?」

「それでも、あの場で手を挙げたってことはそれなりにはできるんですよね?」

「まぁ、昔の仲間には受けが良かったな。」

そもそも一緒に飲むときに何かないのか!と言われて片手間で作ったのがきっかけだった。それから何回かやっているうちに調理の奴らにも声をかけられるようになりだいぶ腕が上達していった。書類を代わりにやってもらう対価として作るのはかなり割のいい仕事だったからな。

「私は今でも話すのが苦手で、だけど何もしないっていうのも嫌で・・・。」

「そうか?その割には今俺に話しかけてきたり昨日の料理担当決める時も積極的だったじゃないか?」

「いまは、その・・・全く話さない沈黙が続くのが嫌でこうやってお話ししているんです。迷惑、でした?」

「いいや、そんなことはない。対向車がいない道を走っているとだんだん暇になってくるからな。ちょうどよかったよ。」

「ならよかったです。」

「ま、アメリーはさ。」

「はい。」

俺は前を向きながら彼女のその不安を想う。確かに不安だよな。故郷を離れて言語の違う国にその歳で一人で来るのは。

「あいつらが好きか?明るく何事も率先していく軍曹、無口だけど頼りになるラウラ、生意気だけれど根はやさしいらしいフラン、そして皆をまとめるたまにおっちょこちょいなことをするけれど頼れる隊長が。」

「もちろんです。」

よかった。ここで言葉を詰まらせるなんてことはされなくて。そんなことされたらなんて助言したらいいのかわからなくなる。

「ならいいじゃないか。あいつらはそんなこと気にしないさ。自分の好きな時、好きなタイミング、好きなことを話せばいい。もちろんたまには話を聞いてやるとかな。あいつらのことだ、お前を嫌いになったりなんかしないさ。」

「そうですか?」

「人間関係なんてそんなもんさ。まぁ、つい最近までそれすらも俺は嫌っていた節があるがな。」

SAFは人との付き合いが極端に減る、そんな気がする場所だった。新しい最新の機体、最新の設備、最強のAI、それを渡されても結局動かすのは俺だ。あんなところにいては気がめいってしょうがない。それがここに来て、急に話すようになった。はじめは戸惑った気がするが今は慣れてだいぶ話せるようになった気がする。

「意外ですね。」

「だろう?俺だって意外に思っているんだ。ま、物は試しだ。帰ってからでもいい、少しでも自分から好きな話題を話してみるといい。きっとすぐに楽しく思えるさ。」

「わかりました、怖いけれど、やってみますね。」

その決意の表情をしたアメリーと後ろの青い海の合わさった風景というのが妙に印象に残った。彼女ならやれるだろう。一度失敗した俺とは違って。

 

基地に帰ってきた後は下準備を行う。

料理は明日からで間に合うのでそうする。ちなみに俺が前菜、スープ、サラダを、アメリーがメイン、デザートをすることになった。ただ、ガリア料理と扶桑食が混在すると言うカオスな状態になっているが平気なのか?

まぁあくまでも、なんちゃってフルコースのようなものなのでよしとしますか。

ちなみに前菜は刺身の盛り合わせ。魚は明日の朝一番で買ってくる。

スープは味噌汁。何にしようかと相談したら味噌汁がいいとアメリーが言っていたので採用。昔飲んでみて美味しかったらしい。てか、フルコースに味噌汁ってどうなのよ?ちゃっかり味噌もあるし。隊長が扶桑人ということで権限を使って何とか入手したのかもな。故郷の味というのは外国に行った時ほど大切に思えるものだ。

デザートはフルーツの盛り合わせとケーキ。

アメリーが担当するのはわからん。教えてくれなかった。

こうして、料理組は準備完了。明日はこの下準備をもとに一気に作り上げるだけだ。隊長が帰ってくるまでにこちらは準備を終えることができたので地下の食糧室に隠しておく。

内装組も隠れながら着々と準備を進めているらしい。

次の日。

隊長には朝食の食糧が足りないことに今日気が付いた、ということにして車を飛ばして市場で行われていた朝市で今日必要なものを買いそろえた。

朝御飯を済ませ隊長を追いやって準備開始。

3時間前

ケーキ製作開始。作るのはカラメルクリームのプリンケーキ。

残り2時間。

アメリーのメインの料理が始まる。

鶏の赤ワイン煮だそうです。

残り1時間。

ケーキが大体できたので前菜製作に取りかかる。

魚を捌くのも久しぶりだな。

残り15分

全ての準備を終えた。食堂に顔を出してみるとすでに装飾、テーブルのセッティングは完了していた。

「軍曹。そっちは?」

「完了!お料理はどうです?チーフ?」

「チーフ?」

「そ、料理長みたいなもんでしょ?」

「まぁ、そうだが。こっちも問題なし。あとは・・・。」

「帰ってきた!」

外を監視していたフランが隊長の載る車を視認した。俺と軍曹はお互いにうなずいて自分たちの場所につく。

「ただいまー。」

おかえりなさい!それとおめでとう!

ここに所属する俺を含めて全員がクラッカーとともにそう叫ぶ。

「え、え、え?」

混乱している隊長をビショップが背中を押していつもの場所に座らせる。そしてハンドサインで”GO”の指示を受け、俺とアメリーはキッチンに戻る。

「始めようか、アメリー。」

「はい。失敗できませんね。」

「もちろんだ。」

ビショップの「それでは、隊長の誕生日パーティーを始めたいと思います!」という声が聞こえ、こちらも最終工程を始めた。

こうして始まりました。

1品目

魚の刺身の盛り合わせ。

本当は枝豆豆腐を作りたかったのだが過去に2度失敗したことがあるのを思い出してやめた。

てか、扶桑料理かな?

2品目

トマトファルシ(トマトの中に詰め物をしたもの)

3品目

ここで、味噌汁。

空気読んでない感が半端ないが、評判はよかった。

4品目

鶏の赤ワイン煮

アメリーが頑張ってたやつやん。

てか普通に美味しい。

最後

ケーキとフルコースの盛り合わせ。

1ホール作ったら凄い量になったが皆に配ったら見事になくなった。女子恐るべし。

結果は大成功だろう。隊長も喜んでいたし。

「こんなこと、してもらったのは随分久しぶりで本当にうれしい。」

と、隊長はそういうとうれし泣きをしてしまった。

ラウラが背中をさすりアメリーとフランが声をかけているのに対して俺は端でその様子を見ていた。新参者の俺は後で行けばいいだろうし今は昔からここにいる彼女たちの時間にするべきだろう。

「これって大成功だよね?」

いつの間にか俺の隣に立っていたビショップ軍曹。

「あの様子を見る限り、な。」

「料理もすごくよかったよ?」

「アメリーの腕がよかったからな。」

「もう!どうして自分の成果を認めないの?」

・・・俺の?まぁ、確かに自分の作ったものは自信のある物しかださないしこれをまずいと言われたらへこむレベルのものだと自負している。

「だって、これを企画したのは君だろう。」

「優秀な人たちが指示に従ってくれたからね。チーフ。」

「俺は・・・。」

「だからさ、そういうの、やめよう?せっかく頑張ったのに自分の努力を否定するのは。ほら、あれ見なよ。」

その指さす先にはいつの間にか泣き止んだ隊長がみんなと仲良く話している姿が。

「あの笑顔を作ったのは、大尉なんだからさ。」

やがて俺たちに気が付いた隊長が手招きをしてこっちにおいでと誘う。

「ほら、いこ?」

俺の手を取り歩き出す軍曹。

「軍曹、ありがとう。」

俺のことを認めてくれて。

「そうそう、そんな感じに何も考えずに素直に感謝を受け取ればいいの。」

ま、こんなのも悪くないな。そう思えるようになった。

後ほど、少しアメリーとフランが喧嘩になりかけたとき隊長が金剛力を使って爪楊枝を飛ばしたら爪楊枝が壁に大穴を開けると言うすごい技を見せてくれた。

お陰で静かになったが隊長の笑顔が少し怖かった。

 

あと片付けを終えてリビングでうとうとしていたらビショップが紅茶を入れてくれた。軍曹が飲んでいるのはコーヒーだったのでわざわざ別に作ってくれたみたいだ。

「ありがとう。」

「いいわよ、これくらい。あとこれ、隊長さんが渡しておいてって。」

渡された手紙をはさみで口をきって取り出し、読む。

 

『出頭命令

10/2

フレデリック・T・バーフォード大尉、ウィルマ・ビショップ軍曹、両名に対し空軍司令部に出頭を命じる。

ブリタニア空軍 ヒューゴダウディング空軍大将』

 

その文を読んだ瞬間、眠気が一瞬で飛んで行ったのが分かった。ブリタニア空軍の空軍大将?どうやら俺と話したあいつはここの最高地位にいる人間らしい。そいつから直々にお呼び出しを食らうとはさすがに俺も予想外だった。ブリタニアかカールスラントあたりかなと予想していたがまさかこんな奴だとはね・・・。そして俺と連名という形で書かれているビショップ軍曹にも違和感を覚えた。なぜこいつの名前まで?

「何て書いてあった?」

「ほら、見てみろ。あんた宛でもあるぞ。」

「えっ?何々?………………何で!?」

「何か悪いことでもしたんじゃないのか?」

「身に覚えがないんだけど。私、命令違反だけはできるだけしないように過ごしてきたからね。それが自慢なの。」

「そんな自慢されても困る。ま、明日になったらわかるさ。気長に待とう。」

さて、吉と出るか凶とでるか?そんなことを言った手前、俺の心は不安が徐々に占めるようになっていた。

 

次の日

隊長にはブリタニア軍の上層が呼び出しがあったことを伝えずに、外出する。彼女のことだ。きっと知れば手を打つだろう。だが、ここまで来たらあとは俺がやるべきだろう。

模擬戦以来の僚機となったビショップ軍曹を連れて基地を出る。

「空軍司令部ってどこにあるんだ?」

「ロンドンだね。」

ちょっと遠くない?

「ビショップが行きの運転してくれないか?どうせ場所わからないし。」

「了解。」

ジープは俺たちを乗せて、動き出す。まるで俺の心情を表すかのように曇りのこの天気に若干、鬱気味になりながらも軍曹から話をまずは聞こう。

「それで、空軍大将とやらはどんな人なんだ?」

「んー、一言で表すならいかにもブリティッシュなおじさん。」

「曖昧だな、あったことは?」

「2回くらいあるよ。あと501を作った人でもある。」

501か、あのアイディアは素直によく思い付いたなと思う。ヒューゴダウディング空軍大将、訓練生時代に”歴史”の授業で名前を聞いた記憶がある。何をしたかまでは覚えていないが俺の世界でも”男”として生きていた人物だ。

「それで、会った感想がブリティッシュなおじさんというわけか。」

「部下思いでもあるよ。いつもみんなのことを心配してくれていたし。うーん、これ以上は口で説明するのは難しいかも。」

「フムン、なるほど。後はあってからのお楽しみか。」

「そういうこと。」

 

車で3時間。途中、船による移動も兼ねているためやはり直線距離ではそれほどなくても意外と時間がかかる。

それにしても、のどかだな。もうすぐロンドン市内とのことなのにまだでかい建物が見えないんだが、てか羊が放し飼いになってるよ。噂には聞いていたがこれ程とは。さすがは田舎空軍と、どやされるだけあるな。俺自身、ロンドンに行くときは飛行機でここよりもさらに近い基地で降り立って外が見えにくいトラックで移動していたためこんな風景はあまり見たことがなかった。

というか、俺がこの世界に来て初めての遠距離外出だな。今までいい意味での自宅警備員やってたわけだし。

そんなこんなで、景色を眺めているとすぐ市内にはいって行き、そこからは軍車両専用車線を使いかなりの速さで移動していき無事に空軍司令部に着いた。

車を所定の位置に止めて下車。

入り口の衛兵に手紙を見せて待つこと数分、大将の秘書がやって来た。

「こちらです、大将は会議が長引いているのであと5分程かかるとのことです。それではこちらへどうぞ。」

「ありがとう。」

秘書に連れられて向かう先は最上階にある空軍大将のみが使うことができる部屋だった。窓から外を眺めてみるが風景は昔見たのとそれほど違いがみられなかった。まぁ、観覧車がないのは大きいな。 さすがブリタニア空軍司令部、出る飲み物は紅茶か。基地にあるのよりもはるかにいいのを使っているのが素人の俺でもわかる。

それにしても、

「さすがは大将、秘書持ちか。」

「それは、そうでしょ。仕事も半端なく多いと思うから、1人じゃ足りないかもね。もしかしたら第2秘書とかいたりして。」

「あり得るな。俺だったら絶対にいらないな。ずっといられると逆に窮屈に思ってしまいそうだ。」

「あーわかるかも。仕事ができそうな人だと余計にね。息苦しそうで嫌かも。」

「確かにな。」

そんな雑談をしていると5分程でドアがノックされた。

「大将がお入りになります」

別軍隊とはいえ、上官だ。一応、礼儀はわきまえているつもりだ。

俺と軍曹は立ち上がって大将を迎える。

ガチャ

紺色の制服を身にまとい、部屋に入ってくる空軍大将。

「遅くなってしまい、申し訳ないね。私はブリタニア空軍ダウディング大将だ、突然の呼び出し失礼したね。ウィルマ軍曹、フレデリック大尉。」

「いえ、問題ありませんって大尉?」

俺がただ何もせずに立ったままになっているのに怪訝に思った軍曹が話しかけてきた。

だが俺はそれに返答できないくらい頭が真っ白になった。いやどっちかと言えば殴られたような感覚に陥っていた。話したくても口がうまく回らないような感覚。

馬鹿な、何故ブリタニア空軍の大将なんてしているんだ?

でもこの声は間違いない、聞き間違えるはずかない。

もし違ったら?最悪銃殺か?

いや、あの事を知っていた時点で間違いない。

ここは、攻めるべきだろう。あらゆる可能性を頭の中で模索し、そして俺は一つの解にたどり着く。今目の前にいる人間は、あいつなんじゃないかと。

 

「ダウディング空軍大将殿、失礼ですが”ジャック”という名前に心当たりはありませんか?自分の知っている元上司であなたに特徴がそっくりなのですが。」

 

 




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