迎えた次の土曜日。
「時刻は午前9時30分ちょうど。一夏、数馬、準備はいいか」
「ばっちりだ」
「同じく」
自宅に友人2人を招き入れた俺は、3人揃ってとある部屋の前で息を潜めている。
この壁を1枚隔てた先に、いつものように私服姿の彼女がいるはずだ。
今朝の朝食でも完全スルーされていたが、今日でそれも終わりになる……と、思いたい。
「よし」
作戦の立案者兼実行隊長の弾が大きく息をつく。
そして次の瞬間、カッと目を開いて立ち上がった。
「行動開始! ものどもかかれーっ!」
「おう!」
雄叫びとともにドアを蹴破る勢いで突入する俺達。
直後、こちらを見て硬直しているラウラさんの姿が目に入った。
「目標発見! 取り押さえろ!」
「うおおおーっ!!」
「とりゃああ!!」
そんな彼女の隙を突き、俺達は電光石火の動きで飛びかかる!
*
数分後。
「ぎ、ギブギブギブ! 離して、お願いだから!」
そこには、仲良く床に叩きつけられた男3人の姿があった。
最後まで抵抗していた弾が間接技に屈したところで、彼女はおもむろに立ち上がる。
……というか、強すぎない? いくら元軍人といっても、体格で勝る3人で不意打ちすればなんとかなると思っていたんだが。
「……なんのつもりだ」
ラウラさんの視線は、俺に向けられている。
思いっきり非難の感情が含まれているのに、久しぶりに彼女の声を聞いたことにちょっぴり喜んでしまっている俺がいた。
「いや、その」
「私にもぜひ聞かせてもらいたいものだな」
起き上がって返事をしようとしたところで、背後のドアが開いて誰かが入ってくる。
「千冬姉」
「半月ぶりに家に戻って来たら……なんだこの状況は? 何がどうなったらこうなるんだ」
無残にのびている俺達を見下ろし、呆れた調子で尋ねる千冬姉。どうやら今帰って来たらしい。
「実は、ラウラさんを外に連れ出そうと思ってさ。ほら、気分転換になるだろうって」
2人を交互に見ながら、俺は事情を説明する。
「でも、俺が普通に誘っても多分断られると思ったんだ」
「ほう。それで?」
「実力行使で家から引っ張り出すことになった」
「短絡的すぎると思わなかったのか?」
「今思い始めたところ」
冷静になると、あれだ。この作戦、無茶苦茶だ。昨日遅くまでスカイプで語り合って、深夜のテンションで話が変な方向に進んで、その上ほとんど寝なかったからハイテンションが維持されたままだったんだ。そうじゃなきゃ、さすがに3人のうち誰かは反対するだろう。
横を見ると、弾も数馬も決まりが悪そうに頭をかいていた。あいつらも俺と同じ気持ちなんだと思う。
「まったく。中学生というのは何を考えるかわからんな」
「う、面目ない」
ため息をこぼして、千冬姉は俺、弾、数馬と視線を動かしていき。
「……ただ、最初の考え自体は間違っていない」
最後に仏頂面のラウラさんを見て、そう言った。
「ラウラ。この3人と一緒に外出してやれ」
「……しかし」
「家に籠りきりなのも考え物だろう。なに、本当に嫌になったらすぐに帰ってくればいいさ。仮に強引に引き止められても振り切れるだろう」
意地の悪い笑みを浮かべる千冬姉。そりゃまあ、『俺達<ラウラさんひとり』の不等号は今しがたはっきりと証明されたからな。軍人の体術舐めてました。
「……教官が、そう言うなら」
返事を渋っている様子のラウラさんだったけど、やがて諦めたように小さくうなずいた。
当たり前だけど、全然うれしそうじゃない。
「きちんとエスコートしてやれ」
「ああ、ありがとう。千冬姉」
俺にだけ聞こえるように耳打ちしてから、千冬姉は部屋を出て行った。荷物とかを片付けに行ったのだろう。
「……とりあえず、作戦の第一段階は成功ってことでいいのか?」
「本番はここからだけどな」
弾のつぶやきに答えながら、ゆっくりと腰を上げる。
ちらりとラウラさんに視線をやると、自然な動作で顔を逸らされてしまった。
*
「………」
並んで歩く俺達3人。その一歩後ろで、ラウラさんは規則的に足を交互に動かしている。
この前買い物に付き合ってもらった時と同じく、周囲の光景に興味を抱く素振りもなし。ただ無感情に、義務的について来ている感じだ。……事実、そうなんだろうけど。
「で、これからどうする」
「昨日立てた予定だと、とりあえず街に出てデパートだったか」
数馬の質問に対し、昨夜の作戦会議の内容を思い出しながら答える。
彼女の好みとかそういったことは一切わからないので、とりあえず物がたくさんある場所に行こうという安直な発想だ。でも、他に思いつくこともなかったので仕方がない。
「それについてなんだが」
なんて考えていると、隣を歩く弾が指を1本立てて口を開いた。
「服を買うのはどうだ」
「服?」
「ほら、今のラウラちゃんの服装、女っ気がねえじゃん?」
3人して後ろを振り向く。
「ジーンズに白シャツ1枚……確かに、地味っちゃ地味だな。顔は可愛いけど」
「基本、いつもあんな感じだしなあ」
千冬姉も私服にはあんまり気を遣わないし、ファッションに関心を持たない人はああなのかもしれない。
「あれじゃせっかくの素材が活かしきれていない。もうちょっと女らしい格好した方があの子自身のためにもなる」
「そんなこと言って、本当は外国人がオシャレした姿が見たいだけなんじゃないん?」
「そこは否定しない」
否定しないのかよ。
「けど、実際普段着ないような服着たら新しい自分に気づくとかあるかもしれないだろ」
「む……」
顔を見合わせる俺と数馬。一理、あるのか?
「つーかお前ら、ラウラちゃんのおめかし見たくないのか! 俺は見たい!」
「わかったわかった、だから大声で騒ぐな!」
「一夏の言う通りならあまり服持ってないみたいだし、まあ悪くないんじゃないの」
家を出る時に結構な金額を千冬姉から手渡されたので、金銭的に困ることはない。
他に具体的な案があるわけでもないし、弾の言う通りにしてみるのもいい。
いいんだけど、問題があると言えばある。
「それで、誰がラウラさんと一緒に店に入るんだ?」
女性用の服が売っている場所に、男が入るのは抵抗がある。
しかし、ラウラさんひとりを向かわせるわけにもいかない。服を選ぶのは店員さんに一任するとしても、誰かが付き添う必要がある。
「………」
無言で互いを見つめる俺達。
次の瞬間、全員が一斉に右手を掲げた。
「最初は」
「グー!」
「じゃんけん――」
「あれ? あなた達こんなとこで何やってるの?」
聖戦が始まろうとした矢先、前方から女の子の声がした。
視線を向けると、見知った顔が3人並んでこっちに歩いてきている。
左から、
「というかその子誰!? めちゃくちゃ可愛いんだけど!」
「外人さんだよね? すごい、肌しろーい」
「また織斑くんがひっかけてきたの?」
俺達の背後にいたラウラさんに気づいた彼女達は、たちまちわーきゃーと騒ぎ始めた。ていうか最後、またひっかけてきたってなんだそれは。
「実は――」
誤解を解くために軽く事情を説明する。
するとなぜか、3人の目がキランと輝き始めた。
「つまり、この子に似合う服を用意するんだよね」
「だったら私達に任せて!」
「白人さんの服選びなんて初めてだなー。わくわくする」
素早い動作で移動すると、棒立ちのラウラさんの両腕をガシッとつかんだ。
「な、なんだ、お前達」
「さあ行こう!」
「おー!」
「可愛い服選んであげるからね」
さすがのラウラさんも、女子3人のかしましパワーには成す術もないようで。
毒気を抜かれた表情で、抵抗することなく連れて行かれてしまった。
「……女の子ってすげーな。初対面なのに」
弾がこぼしたつぶやきに、俺も数馬も何度もうなずいた。
とりあえず、もうじゃんけんする必要はなさそうだ。
*
40分後。
「おお」
「おおう」
「おおおうっ!」
店から出てきたラウラさんの姿に、男3人揃って感嘆のため息をこぼす(ひとり叫んでるけど)。
白いワンピースに身を包み、右手首にピンクのシュシュをつけている彼女は、自分の体をあちこち眺めながら落ち着きのない素振りを見せていた。
「ほらほら、男子の反応も良好みたいだよ」
「どう? 感想は」
「……股が、風通しが良すぎる」
あまり聞いてはいけないようなつぶやきが漏れたような気がするが、知らないふりをしておいた。
「ま、股だと……!」
「想像するな、馬鹿」
隣のエロいやつに軽く拳を入れつつ、俺は改めてラウラさんに視線をやった。
……やっぱり、可愛いよな。
「ねえねえ織斑くん。次どこ行くかとか、もう決めてるの?」
「えっ? いや、まだだけど」
ぽけーっとワンピース姿を眺めていたら、急に灯下さんに声をかけられた。
「ならさ、私達で目的地決めちゃっていいかな? ラウラちゃんを連れて行きたいところ、結構思いついちゃってるの」
「そうなのか。じゃあ、そうしてもらおうかな」
野郎だけであれこれ考えるより、女の子達に任せてしまった方がいいような気がする。ラウラさんが海外の生まれで、しかも特殊な環境で育ったのだとしても、女子特有の感性とかはあるだろうし。
「ありがとう」
そう言ってはにかんだ灯下さんは、ラウラさんのもとへ戻って彼女の手を引き始めた。あとの2人も、それにならって先へ進んでいく。
置いてかれないように、俺達もあとを追った。
――それから先は、まさに女子パワーの独壇場だった。
ランジェリーショップやらクレープ屋やらゲーセンやら、ラウラさんはいろんな場所に引っ張りだこにされていた。
困惑しながらも、最初は鬱陶しげな態度を見せていた彼女だったが……
「この音ゲーはね、こういう感じでリズムをとって」
「……こうか」
「おおっ、うまい! 初めてなのにすごいねラウラちゃん」
「このくらい、たいしたことでは……待て、頭を撫でるな」
なんだかんだ、勢いに押されて普通に遊んでいた。楽しんでいるかどうかはわからないけど、部屋にずっといるよりははるかにいいと俺は思う。
「しっかし……これ、俺達必要ないよな」
「あの強引さは女同士だからできるんだろうな」
音ゲーから別のゲームに移動する彼女達を見つめながら、弾と数馬が素直な感想をこぼす。
男子3人、女子に置いていかれてUFOキャッチャーに興じている状況である。俺はクマのぬいぐるみを狙っているのだが、どうにもとれる気配がない。
「そうだな。でも、やれることが全然ないってわけじゃない」
「そうなのか?」
「女子が暴走したら止めるって役割がちゃんとあるだろ」
ラウラさんは他人とコミュニケーションをとるのも久しぶりだろうし、遠慮がなくなりすぎるとトラブルが起きる可能性がある。
だから、冷静に場を判断できる人間は必要なんだ。
……まあ、人里さん達がその辺全部わかったうえで気をつけてたら、本当に出る幕ないんだけどな。
「なるほどねえ」
それでも、俺の言葉に弾は理解を示したようだ。数馬も同じらしく、小さく一度うなずいた。
じゃあ、きちっとエスコートするとしよう。千冬姉にも言われたことだしな。
*
あちこちまわっていたら、あっという間に夕方になってしまった。
「ラウラちゃん、またね」
「今日は楽しかったよ」
「ばいばーい」
「………」
笑って別れのあいさつをする3人に対し、ラウラさんは無言のまま。でも完全に無視しているというわけではないようで、ちゃんと目線は彼女達に向けられていた。
「じゃ、俺達も帰るわ」
「あんまり役に立てなくてすまん」
「そんなことないさ。最初に協力してくれたのはお前らなんだから」
俺が自分の間違いに気づけたのも、こうやって行動することができたのも、弾と数馬がいてくれたおかげだ。
……2人のアドバイスが大事になるのは、むしろこれからだし。
「じゃあな、みんな。今日はありがとう」
それぞれの帰り道に散っていく一同。
「あ、そうそう。織斑くーん」
そんな中、灯下さんだけが何かを思い出したらしく戻ってきた。
「なに?」
「ラウラちゃんのこと気にかけるのはいいけど、あんまり行き過ぎると鈴が悲しむよ?」
「へ? なんで鈴が出てくるんだ?」
「それは自分で考えて。また学校でね」
……行ってしまった。なんだったんだろう。
「………」
いや、今はラウラさんのことを優先しよう。
女子達がいなくなって、彼女は再び表情を硬くしている。さっきまでは、ほんの少しだけ感情が表に出ていたんだけど、やっぱり俺に対してはまだ怒っているようだ。
「ラウラさん。もうちょっとだけ、俺に付き合ってくれないか」
そんな彼女の目を見て、俺は静かにそう告げた。
返事はなかったが、俺が足を動かし始めると黙ってあとについてくる。どうやら、拒絶される心配はなさそうだ。
「この坂道を登っていくと、高台にある公園に出るんだ。そこから見る景色がきれいだから、君にも見せたいと思って」
歩きながら、ひとりで勝手にしゃべり続ける。黙っていると、彼女が心を閉ざしてしまうような気がしたから。せっかくみんなが作ってくれたチャンスを、無駄にしてしまうような予感があったから。
「ほら、着いた。ここは夕焼けの時間帯に来るのが一番いいんだ」
都合のいいことに、公園には俺達以外の来客はなかった。大事な話をしても、盗み聞きされる心配はない。
……今朝の段階で、俺の中の考えはある程度まとまっていた。
今日一日ラウラさんを見守って、その考えは完全に固まった。
だから、勇気を出して言おう。
「あの、さ」
無感情な瞳で、眼下に広がる街並みを眺める彼女。
……また、あんな顔をさせてしまうかもしれない。今度こそ、とりかえしのつかないような怒りを買ってしまうかもしれない。
それでもこれが、今の俺に出せる精一杯の答えだ。
「この前は、ごめん。下手に元気づけようなんてしちまって」
彼女の視線は動かない。俺が話しかけても、相変わらず景色を見ているだけ。
でも、きっと俺の言葉を聞いてくれているはず。そう信じて、口を動かし続ける。
「あの時……俺は、君に同情していた。かわいそうだと、思ってた」
ラウラさんの体が、小さく震えた。視線が、ちょっと下がる。
「勝手に同情されて、迷惑だったよな。嫌な思い、させちゃったよな。だから、ごめん」
思い切りよく、俺は彼女に向かって頭を下げた。
俺の思いは、受け入れてもらえるのだろうか。
「………」
答えは、何も返ってこない。
拒絶、ということか。
「やっぱり、許してもらえ――」
「最初に待っていたのは、侮蔑だった」
諦めかけたその時、彼女の視線が俺に向けられた。
目を細めて、何かを思い出すかのような、そんな顔をしていた。
「もともと、態度がよくないだの付き合いが悪いだの言われていたからな。事故が起きた直後は、力を失った私をあざ笑う者ばかりだった」
嫌な過去を語っているはずなのに、不思議と彼女の表情は穏やかだ。
感情のコントロールができているのか、それとも……
「そのこと自体は、別にショックでもなかったのだ。実力があるから許されていた態度は、実力を失えば否定されるに決まっている。十分理解できることだったし、私もその時は這い上がることに必死で、奴らの反応を気にする余裕もなかった」
「………」
「だが」
それとも、彼女の心の傷の本当の原因は、別にあるということか。
「時間が経つにつれ、私と周りの連中の差は広がるばかりだった。私が同じ場所でもがいている間に、奴らは教官の指導によって実力を伸ばしていった。次第に、連中には余裕が生まれ始めていた」
ギリ、と歯ぎしりする音が聞こえる。
いつの間にか彼女は、悔しさと悲しさがないまぜになったような、ひどい顔をしていた。
「そうなると、変わるのだ」
「変わる……?」
「奴らの態度がだ。今まで私を嘲笑していた連中が、今度は私に同情の目を向け始めた。努力が報われなくて、かわいそうだとな」
落下防止用の鉄の柵を、思い切り殴るラウラさん。当然手は赤くなるが、まったく気にする様子も見せない。
「愕然とした。私はもう、奴らに憐みを受けるほどの存在になってしまったのかと。見下される価値すらなくなってしまったのかと!」
静かな口調は、叫びに変わっていた。
あの日俺に対して心を閉ざした彼女は、再びその感情を曝け出したのだ。
「つまらない、中身を失ったプライドだというのは自分でも理解している! それでも私は、周囲の同情の視線に耐えられなかった……!」
柵を握る彼女の手に、どんどん力がこめられていく。何かをこらえるのに、必死なように見えた。
「お前に悪意がないのは、私にもわかっている。だがどうしても、感情が制御――」
「もういいよ。もう、話さなくていい」
今にも泣きだしそうな顔をしているのに、これ以上辛いことを話させるわけにはいかない。そんな思いを抱いた瞬間、俺の口は自然に動いていた。
「十分聞かせてもらった。ありがとう」
すべてを理解したわけじゃない。
でも、これ以上聞いたところで、彼女の気持ちの全部がわかるわけでもない。
俺はラウラさんじゃないから。そんな経験、味わったこともないから。
「……俺は今も、君に同情してしまっている。多分、これは簡単になくせるものじゃない」
意識でどうにかなる問題じゃないから、変えるのはきっと難しい。
「でも」
顔を曇らせる彼女を、しっかり見つめたうえで俺は言う。
「でも、同情だけじゃない」
「なに……?」
ラウラさんの顔が上がり、互いの視線が交錯する。
「俺がラウラさんに関わろうとするのは、同情だけが原因じゃない。……というか、他の理由の方がでかいくらいだ」
自分の気持ちをしっかり整理したら、案外簡単に答えは見つかった。
だいたい、もっと早く気づくべきだったんだ。
弾も数馬も、女子達も言っていたんだから。俺だって、彼女を最初に見た時感じていたじゃないか。
「……その、理由は?」
期待しているような、怖がっているような。
どちらかはわからないけど、おずおずと尋ねてくるラウラさん。
だから俺は、はっきりと言ってやった。
「可愛いから」
「………は?」
「だから、可愛いからだって」
ぽかん、と口を開けるラウラさん。どうやら予想外の答えだったらしい。
……俺も、こうやってはっきり言うのは正直照れる。
「可愛い子がさ、ずっと暗い顔したままなのって、もったいないだろ? 男ならみんなそう思う」
「………」
「俺は、ラウラさんに笑ってほしいんだ。きっと、今よりずっと、か、可愛くなると思うから」
やばい、どんどん恥ずかしくなってきた。周りに他に誰もいないのが救いだ。
「可愛い子の笑顔が見たい。それで、仲良くもなりたい。俺達くらいの年齢の男は、だいたいそんな感じなんだ」
だから俺は、彼女に関わろうとするんだろう。
ガキっぽいと思われるかもしれないけど、事実ガキだし何もおかしなところはないはずだ。
「……なんなんだろうな」
俺の言葉を黙って聞いていたラウラさんは、しばらく経ってようやく口を動かしてくれた。
「お前の言うことは、よくわからん」
困惑が顔に出ていたけど、それだけじゃない。
「よくわからんが……そんなことを言われたのは、初めてだ」
満面の笑み、とまでは全然いかないけれど。
少しだけ。ほんの少しだけ、彼女は微笑んでくれていた。
「お前の言葉の意味……これから、考えていこうと思う」
俺を、受け入れてくれたということでいいのだろうか。
だとしたら、とてもうれしい。
「ありがとう、ラウラさん」
でも、お礼を言ったらなぜか難しい顔をされてしまった。
「……その、ラウラ『さん』というのはやめろ」
「え? じゃあ、ボーデヴィッヒさん?」
「………」
睨まれた。というかめちゃくちゃ眼光が鋭い。
「さん付けするなと言っているのだ」
「ああ、そっちか……でもいいのか? 馴れ馴れしいかと思ってたんだけど」
「お前には、私と対等に接してほしい。だから、余計な単語は付けるな」
そんな風に上目遣いで言われると、断る理由がなくなってしまう。
別にさん付けでも対等だと思うんだけど、いちいち難癖つけるのは野暮ってもんだ。
「わかった。ラウラ」
「ああ、それでいい。……感謝する、一夏」
その日、俺は初めて彼女に名前を呼ばれた。
女子3人組に関しても数馬と同じく実質オリキャラ状態です。特典小説に出てきただけなので描写が少なすぎる……
補足しておくと、彼女達は鈴と仲良しだった同級生です。本編に書いてある通りですけど。
感想や評価等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。