黒子のバスケ ―太陽のColor Creation―   作:縦横夢人

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遅れてすいませんでした!!
やっとできたんで投稿!!
まだ見てくれてる人いるかな……


第8Q 黄色の誘い

 

 

 第8Q 再開

 

「よっ、と」

 

 壇上から降りてきた黄瀬涼太はそのまま黒子に向かって歩いて行く。周りには先程返した女性達以外に誰もおらず、どうやら一人で来たようだ。だが誠凛メンバーを前にしても気にした様子もなくすいすいと通り抜けて黒子の前に立った。

 

「な、なんでここに? 試合はまだ先だぞ」

 

「いやー次の相手が黒子っち(・・)が入った誠凛って聞いて挨拶に来たんスよ。中学のとき()の次に一番仲良かったしね!」

 

 そう黒子に同意を求めるが、

 

「いやフツーでしたけど。それにその言い方だと一番って言いませんよね?」

 

「ヒドッ!?」

 

 どっちなんだと周りが困惑する中、部員の一人が黄瀬たち≪キセキの世代≫が特集された雑誌を広げ説明するように読み上げた。

 

 

 ≪黄瀬涼太≫

 中学二年からバスケを始めるも、恵まれた体格とセンスで瞬く間に強豪『帝光』でレギュラー入り。

 他の四人と比べると経験値の浅さがあるように思うが、コートに入れば多彩な技を魅せる様はまるで熟練者。同じ≪キセキの世代≫共に練習したため感化され急成長したのだろう。未だ進化していくオールラウンダーな選手だ。

 バスケを始めた切欠を聞くと、「自分もある人に魅せられて憧れたんス。だからその人に近付こうと」と意味深な言葉を呟いた。

 ちなみに現在モデル活動もやっており、期待の新星と呼ばれている。

 

 

「……イケメン死ネ」

 

「……リア充爆発シロ」

 

「あんたら顔コワいっスよ?!」

 

「そういや黒子のことは書いてないのか? 同じ帝光だから取材されただろ?」

 

「いえ、僕もその場にいたんですけど気付かれず忘れられました」

 

『切ねーーーー!!』

 

 そんな会話が続く中、黄瀬が気付いたようにそわそわしながら周りを見回す。

 

「ところで噂で聞いたんスけど()、帰ってきたんっスよね! どこにいるんスか!」

 

「はい、彼ならもうすぐ――」

 

 と、そこで校舎に続くドアがバンッと開かれる。

 

「うぇ~い、疲れたぁ~。終わったよ~クロ~」

 

 そこには先程数学担当の先生に連れて行かれた太陽が身体を引きずるようにして戻って来た。どうやらちゃんと課題を仕上げて解放されたようだ。

 

「うぅ~頭が痛い~」

 

「はい、よく頑張りました。大変だったでしょうがその分いいことがあります。ほら、懐かしい人が来てますよ」

 

「へ?」

 

 下げていた頭を上げ黒子達の方を向くと、そこでやっとお客が来ていたことに気付く。さらにはその顔を見てビックリしたように目を丸くする。

 

「……お、おぉ、」

 

「……きぃ(・・)?」

 

 お互い見つめ合う様に固まっていたが、沈黙を破るように太陽が呟いた。対して黄瀬は何かを我慢するように下を向きうずくまる。

 そして同時に駆け出した。

 

「ぉおぉぉぉおおおおっ!! 太陽っちーーーーーーーーーー!!」

 

「黄ぃーーーーーーーーーー!!」

 

 話は太陽から(と言っても説明不足だったので黒子から)聞いていたので、感動的な再会だ。思わず日向たちの目元も緩んでしまう。

 二人とも満面の笑み(+黄瀬は涙目)で手を広げ近付く様は何かのドラマのように見える。太陽まで涙目に見えるのはそのせいだろう。現にそれ以外の人間にはゆっくり走るという矛盾を目にしていた。

 感動的な再会まであと8m――

 

「ハハハハハ!」

 

「アハハハハ!」

 

 5m――

 

「ハハハハハ」

 

「アハハハ(ガッ)、あ」

 

 3m――

 

「ハハ、ハ、は?」

 

「あらら?」

 

 1m――

 

「わっ、ちょっまぁぁああ!!?!?」

 

「あーーれーー」

 

 0m――

 

「ブフォあべしッ!!?」

 

「あぅ」

 

 ――衝突

 

 まぁ簡単に説明すると、

 二人が駆け出す

 ↓

 太陽が踏み外して躓き、頭から前へI can Fly~!

 ↓

 黄瀬が慌てて気付くがもう、どう~にも止まらない~♪

 ↓

 太陽が頭から黄瀬のボディにクラッシュ!!バンディクゥ~ッ

 

 と、こんな感じである。

 

「~~~~ッッ!!?!?」

 

「うぇーい……大丈夫か、きぃ?」

 

 が、実際太陽の頭は石頭なので黄瀬だけがとばっちりをくらったのである。

 

「おいおい大丈夫かよ二人とも……」

 

「心配ないと思います太陽君は石頭ですし、黄瀬君は……」

 

「ゴホッ。はは、な、慣れてるっスから……ゲホ」

 

 ……日向たちはその言葉になんとも言えず、ただただ同情と賞賛の眼差しを送った。

 

「まぁそんなことよりも……」

 

「そんなことってヒドくないっスか!?」

 

「後ろ――」

 

 黒子の言葉を切るようにそれが黄瀬に向かっていく。黄瀬は黒子に言われて顔を後ろに向け――るよりも速くに身体が動いていた。左手が顔に向かって来たそれを受け止める。その後にようやく振り向き、改めて飛んで来たそれを見た。

 

「うぉぉお、あっぶな!! いきなりボールって何すかぁ!? てか痛いっス……」

 

「せっかくの再会中わりぃな……」

 

 黄瀬が涙目で見る先には火神。体からは太陽と対峙した時と同じ、いやそれ以上の気迫を漲らせ睨む様はまるで虎のようだ。

 

「挨拶だけで終わらすってのもアレだろ。せっかく来たんだ。いっちょ相手してくれよ“イケメン君”?」

 

「……それもそっスね! せっかくだし――」

 

 くるりと回って黄瀬は火神に、ではなく太陽に向かって言う。

 

「太陽っちに成長したオレを見てもらいましょっか!」

 

 刹那、空気が変わる。ほがらかだった雰囲気から氷の刃を思わせる冷たい雰囲気に変えた黄瀬は、コートに向かっていく。

 

「ウェっし! んじゃ黄ぃやろっか!」

 

「おい待てよ、オレがやるっつってんだろ!! 太陽はどいてろ!!」

 

「ん~、まぁ確かに太陽っちとの楽しみは今度の試合までとっときたいんで今回は我慢っスね」

 

「うぇ~、ずっりぃ~!」

 

「というわけっス! まぁオレもちょっとは頑張るんで、アンタも頑張って下さい(・・・・・・・)よ?」

 

「……あぁ」

 

 止ようとする間も、また≪キセキの世代≫であり今度の対戦相手の実力を見たいという思いに勝てるはずもなく、リコや日向たちはそれを無言で許可するのだった。

 不満たらたらな太陽も黒子に背を押されてコートから出される。

 

 次第に人が減り、コートの中には黄瀬と火神だけとなった。黄瀬が動きやすいよう制服の上着を脱ぐ中、火神の頭は屈辱の炎で真っ赤に燃えていた。

 

(くそっ、なめやがって!! 何が“頑張って下さい”だ!! 明らかにオレを下と認識してやがる。オレもあいつの匂い(・・)で強いとは感じてはいるが、そこまでの差があるとは思えねぇ。一発ドカンとかましてやらねぇとな!!)

 

 火神の思いを知ってか知らずか黄瀬は笑みを向けるだけだった。

 ダンッ、ダンッとリズムよくつきながら黄瀬はゆっくりと歩いていく。太陽に向けていた鋭く冷たい気迫はなりを潜め、鼻歌を歌いながら笑う様はまるで『ちょっとそこまで散歩行ってくる』といった感じだ。それまでもが、まさに()神に油を注ぐことになるが、その瞳の奥に宿るものを見て油断せずに構える。

 本気の黄瀬を見たことはないが、あんな瞳をしていながらこの態度。

 つまり――

 

(余裕……ってことかよッ!!)

 

 火神を歯牙にもかけていない、そういうことだった。ならそれなりのものを見せてやる火神を見て黄瀬は思いついたように言ってきた。

 

「あーそういやさっきあんた、いいもん見せてくれたっスね」

 

「あ?」

 

 訝しむ火神にそれ以上言葉を続ける気はないのかいやにゆっくりとした動作で入り込む黄瀬。周りも人間も意味がわからず首を傾げる中、黒子だけはそれを理解し気付いたのだろう。いつもの何事にも冷静で無感情を表した顔が少し揺らいだ。

 

「……まずいかもしれません」

 

「へ? なにがだよ黒子」

 

「ん~大丈夫じゃないか?」

 

「はぁ?」

 

 黒子の言葉に返したのは太陽だった。こちらはいつも通り能天気な笑顔で楽しそうに頭で腕を組んでいた。挟まれた日向は意味がわからず二人の顔を窺うしかなかった。

 そうした短い会話の中でも当人達はそれぞれの考え通りに動き出す。火神は持ち前のアメリカ仕込の技術と体格で。体格は同程度だが考えようによっては相手は(ボールをついているので)片腕が使えない。なので今のスペックならこちらの方が上になるので隙ができれば奪えるはず。

 そう思考しピッタリと張り付く火神だが、それゆえに気付かない、気付くはずがない。

 それは先程の練習で火神を相手にしていた二年生と同じ考えだと。そして自分も同じような思い以上の衝撃が襲ってくるとは。

 

「んじゃ、これはお礼ってことで」

 

「んなっ!?」

 

 やったことは単純。右へのフェイントを入れたで火神左への切り替えしにターンを加えて抜き去り、そのまま跳躍しダンクへ。

 それはくしくも火神が練習で見せた技をコピーしたかのようなもの。しかし火神のは体重移動による力強い切り替えしに対し、黄瀬のは火神以上のスムーズな体重移動でまるで風切りが聞こえそうなほどだった。

 やられた火神もそのことを含め驚いて呆然としていた。

 

(こいつ、オレの技を一回見ただけでッ?!)

 

 練習の時に見られていたとしても、その技は一回しか使っていない。しかも火神のものとは|キレ(・・)が違う。

 つまり黄瀬の持つ能力(ちから)は相手の技を一目見るだけで真似する

 

 “コピー能力”!!!!

 

 しかもそのまま黄瀬の体格とセンスにより倍増され相手以上の技で放たれる。

 自分の技を、自分以上の威力で返される。これは精神的にも衝撃を与えるものだ。

 だがもちろん火神がこの程度で潰れるわけがない。

 

「……まだ、だぁッ!!!」

 

 落ちてきたボールをキャッチした黄瀬に、獣のような鋭さと凶悪さを孕んだ手が伸びる。それを見た黄瀬が感心した様に頷くが、いまだその目に宿る余裕を崩そうともしない。

 それどころかちらりと太陽の方を見やり、声高らかに叫ぶ。

 

「太陽っち! ちゃんと見ててくださいッスよぉ!」

 

「うぇい?」

 

 疑問の声にも返さず迫ってくる手を前になおも自ら近付く。一歩、二歩、三歩と駆ける黄瀬に、太陽だけでなくリコや日向、そして黒子も目を見開いた。

 

「まさかッ?!」

 

「おいおい嘘だろッ……!?」

 

「……あれはッ」

 

 周りは何のことかわかっていない。それはそうだろう。彼らは主に火神や黄瀬の顔や手等の上半身を見ている。足を注視することもあるが、動きは足を視ずともわかる。それに今は1on1だ。スペースとり等のチーム技をやっているのだ。左から火神が、右から黄瀬がと2Dで見ているのと一緒なのだ。

 それに日向たちが気付いたのは偏に監督故に全体をみること、キャプテンであり精神的なPG(ポイントガード)故に選手一人一人を気遣うこと、その能力≪ミスディレクション≫の過程で観察することに長けている故に気付いたのだ。

 なにより“親友(とも)/|自分(・・)の”技を見間違うはずがない。

 

 腰を落として手をボールの横に添え――

 

「……おい」

 

 頭から突っ込むように身体を前に倒し――

 

「待てよ……」

 

 獣のような気迫をその身体から漲らせ――

 

「見たことがある……」

 

“ただ前を見ながら上げたその|脚(・)を――”

 

「それはアイツの……太陽のッッ」

 

 ――踏み出す!!!!

 

 

 

二重ガケ(ダブル・ドライブ)

 

 

 

 黄瀬の身体が分かたれ、火神を避けるように右へ左へと抜けていく。

 そして火神から後ろ5m先で一つになる。

 

 静寂。誰も声を発することができない。驚嘆からか、畏怖からか。人それぞれに衝撃を与えた。

 

 

 

 理解させられる。

 

“これが≪キセキの世代≫”だと

 

 ――それは人に絶望を与えるものだ

 

 

 

「どうだったっスか? 太陽っち!」

 

 破ったはやった本人だけだ。先程までの雰囲気を感じさせないほどの笑顔で霧散させ、黄瀬はそれはそれは嬉しそうに太陽に尋ねた。

 それにともない場の全員が言葉を洩らし出す。

 

「……おい水戸部、今の技って火神と……太陽の、だよな?」

 

【コクコク】

 

「≪キセキの世代≫ってのはそんなことまでできんのかよ、なぁ黒子!?」

 

「いえ、あんな人……知りません」

 

「はぁ!?」

 

 同じ≪キセキの世代≫の六人目(シックスマン)、黒子でさえも目を丸くして驚いていた。

 

「ボクも甘い考えをしてました。卒業してから分かれて数ヶ月しか経ちましたが、それから一度も会っていません。なのに――」

 

“予想を遥かに超える速さで進化する≪キセキの世代≫に、限界という言葉はないのかもしれない”

 

「こないだやっとできるようになったんっスよ!太陽っちの説明聞いても難しかったんで密かに自分で頑張ってたんっス。というかあれを「なんとなく」「クイっとすれば簡単」とか感覚でやってるのがありえないっス!?んでもまぁ青峰っちや緑間っち、さらには赤司っちにも真似できなかった技をついにオレが、オレだけができたんっスよ!くぅ~~何か超感動的っス。しかも太陽っち自身に直接見せることができるなんて!あ、そういえばオレ今海常高校にいて――」

 

 皆がざわつく中でも黄瀬は言葉を止めない、というかめっさ喋り出す。当の太陽が何かを我慢するように顔を下げ震えているのにも気付かずに。

 

「――ってわけで、太陽っちと下さい! あ、と黒子っちも!」

 

 その言葉で周りを冷ますの十分だった。

 

「さっきいやったあの人で大体ここの実力はわかりました。ショージキ拍子抜けっスわ。だからこそ言うんス。

 太陽っちも黒子っちもおいでよ! まだ春先だから間に合いますし、やっぱこれからも一緒にやりたいんスよ!」

 

 それにあの人達より優位に立てますから、という小さい言葉は周りに聞こえてなかった。それほどの危機感と、二人が行ってしまうという納得感を抱いたからだ。

 リコと日向は何とかしようと頭を高速で回し出す。

 

(まずっ!? いくら太陽君でもあっさり自分の技を真似られたら精神的にショックも大きいはず!!)

 

(そんな時にあの言葉だ。自分の仲間からの誘いに乗る可能性だってある!!)

 

 割って入ろうとする二人を止めたのは、意外にも黒子の言葉だった。

 

「でも、」

 

「?……でも?」

 

「で、どうっすか太陽っち?」

 

「……」

 

 手を差し出す黄瀬にやっと顔を上げた太陽は、ガバっとその手を取って言った。

 

「ウっっっェーーーーーーイ!! すっげぇな黄ぃ! オレビックリしたぞ!」

 

 ズ――コケッ

 

 全員がコケた。

 

「い、今さらっスか? 遅くね? まぁ太陽っちらしいと言えばらしいっスけど……」

 

「うん、頑張ったんだな。だが……断る!」

 

「断られたぁ!? 文脈おかしくね!? え、いやっ、どうしてっスか!?」

 

 太陽の言葉に最初は涙目だったが、理解できないと表情を変えて慌てて聞き返す。それは自分の誘いを断ったことを怒っているのではなく、このチームで太陽がプレイしていくことに屈辱がある顔だった。

 

「いや~やっぱ最初にした約束は守らねぇとな。ヘヘヘ!」

 

「!……(ありがとうございます、太陽君)

 ボクも丁重にお断りします。それに僕達は決めたんですよ。

 君達“≪キセキの世代≫を倒す”と」

 

「!? それは無理っス……と言いたいところっスけど、そっちに太陽っちがいる今ならわかんないっスね。

 でもオレ達も成長してます。ちょっとらしくないっスよ?」

 

 カチンときたのか先程火神に見せた時のように冷たく炎を思わせる目に変え睨んできた。それでも黒子は微動だにせず言った。

 

あの時(・・・)から考えが変わったんです。まぁ太陽君が来たのはいい意味で予想外でしたけど」

 

「確かに黄ぃと一緒にやるのも面白いんかもしれなぇな。けどまぁ――」

 

 

 

“ハハッ”

 

 

 

「!」

 

 黄瀬がその笑い声に気付き目を向けると、今まさに倒したばかりの――絶望を味あわせたはずの火神が笑いながら起き上がってきた。

 

「まだこんなのが四人もいんのかよ……ったくなんだよ」

 

 バッと上げた火神、自分達と同じ……いや太陽と同じ何かを秘めた瞳を宿しながら笑っていた。

 

「こっちにも面白ぇやつがいるからな」

 

 太陽も楽しそうに笑っていた。

 

「……あぁ、やっぱり」

 

“憧れ、焦がれる……”

 

 

 

“これが≪キセキの世代≫の始まりであり、彼らの光である”

 

 ――それは人に希望を与える

 

 

 


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