黒子のバスケ ―太陽のColor Creation―   作:縦横夢人

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 遅れました、すみません。
 もうすぐ期待のバトルなんで頑張ります。


第7Q 黄色

 

 

 

 第7Q 黄色

 

「フ~ンフフ~ン♪」

 

 誠凛高校校舎。リコは珍しく鼻歌を歌いながら進んでいた。彼女の顔は満面の笑みに彩られている。余程嬉しいことでもあったのか、文字通り小躍りするようにスキップしていた。

 しかしそんな彼女が通った後には、突如腹痛に襲われた男子生徒やお気に入りの髪留めが切れた女子生徒など、不吉の影が死屍累々のありさまで続いていた。

 彼女はそんなことを知らずに目的地へとまっすぐ、楽しそうにゆっくりと跳ねて行った。

 

 

 

 一方体育館。ここではいつものように誠凛バスケ部の練習が開始されていた。

 しかし今、場は静寂に包まれていた。一年生、二年生の全員が緊張の面持ちでいた。

 ――いや二人を除いて。

 

「ハハッ。やっと、やっっとお前とやれそうだな、太陽ッ!!」

 

「そうだな、火神!」

 

 向き合うは二匹の獣。

 一人は歯をむき出しにして笑いながら、その長身からくる手でボールをゆっくりと突く。その音は二人以外静止した世界にで高く響く。

 一人はこちらも特徴的な八重歯をむき出しにして笑う。身長は相手と比べるとまさに子供と言えるほど小さい。しかしその身には獅子のごとき威圧があふれ出ていた。

 

「まえに言った時からけっこう時間たっちまったけどな」

 

「ああ。長かった……本当に長かったぞぉ!! お前と闘おうとすると何故かいつも阻まれる。まるで何かの力が働いてるみたいだった……ッ!!」

 

 そういって火神は拳を握り締める。苦い思い出でもあったのか顔には汗が浮かんでいた。

 

「だがもう何の邪魔もされねぇ!! キャプテンからの許可も(無理やり)とった!! 今こそお前の力、見せてみろッ!!」

 

「ああ! そんじゃ、やるかっ!」

 

 そう言って構える。途端にピリピリと肌を刺す空気が辺りを覆い、獣二匹の迫力がゴゴゴッと音が聞こえそうなほどの圧迫感がのどを絞める。火花を散らす二人を見て、日向は重い空気の中伊月にこぼした。

 

「ついに見れるのか。本場仕込の帰国子女火神と、あの(・・)≪キセキの世代≫の原点として噂される太陽の勝負を。――伊月、お前どっちが勝つと思う?」

 

「……難しいな。火神にはあの体格からくる高さとパワー、そして本場仕込の技術とそれを可能にする脚があるからパワー一片というわけでもない。対して太陽は小さい身長を武器とした低空ドリブルと――うん、まぁいい意味で――子供らしいスタミナとスピードに加えたチェンジオブペース、そしてなによりボールを自由に操るハンドテクニックもあるし、意外と当たり負けしない力もある。

 火神は力による突破力、太陽は相手を惑わしかわす透過力って言ったところか。お互い野性染みたプレイでありながら全くの正反対だ。故にどっちが強いかわからない。――いや、どっち()強いからわからない、だな。

 まぁここはあえてどっちが強いかドッジ(ボール)で決めるべきだな(キリッ)」

 

「あぁ、確かにそうだ。あと最後でカッコいい解説が台無しだ伊月。シネ」

 

「しっ!?」

 

 自慢のダジャレを流され、痛い言葉で返ってきたのがショックだったのかガーンと頭垂れた伊月を放っておきながらも、日向自身も間近で闘ったことがある分それ以上の評価をつけていた。

 が、腑に落ちない点が一つ。

 

(リコが言うには火神はまだ強敵との経験が足りないからいいとして、太陽は≪キセキの世代≫と言われる前の帝光中五人と一緒に一年間もいたんだ。何かしらの力がなければまだ未覚醒の五人といえど勝てるわけがない。この前は手加減していた? いや、それはない。俺自身間近で見たからわかっているはずだ。アイツは本気でやっていたはず)

 

 だが何なんだこの違和感は?と考えていた日向はそこでふと気付いて近くにいた一年生部員を呼び寄せ聞く。

 

「あれ、そういやリコ――監督は? 確か練習試合申し込みに行ってなかったか?」

 

「え? あぁ、そういえばさっき見かけましたよ。OKだったみたいスね。なんかスキップして戻ってきてましたし……」

 

「そうか……ん?

 スキップして(・・・・・・)戻ってきた……?」

 

 それを聞いてギギギと錆びたブリキのように首を向けてもう一度その一年部員に問う。

 

「……スキップ、して?」

 

「あ、はい。嬉しそうにスキップしてっス」

 

「……スキップしてぇッ!?」

 

「あの、キャプテン?」

 

 一年部員に言葉を返すことなく日向はそのまま固まっていたかと思えば、急にダッシュで火神と太陽に向かっていった。

 

「オラァッ!! 最初っから飛ば「ストーーーーープッッ!!!!」すぷげらぁッ!!!??」

 

「うぇいっ!?」

 

 いよいよ火神が攻めようとした瞬間、日向がクロスチョップで火神に突っ込んでいた。その勢いはあの火神さえも吹っ飛ばすほどだった。

 

「うっ、くぉ、ちょっキャプテン何すんだッ……ですか!? 許可は取ったじゃないっすか!? 文句ないだ……ですよねッ!?」

 

「うぇいうぇい!!」

 

「シャラップ、だまらっしゃい!!」

 

「「うぇい!?」」

 

 日向は抗議する二人を黙らせ、全員に聞こえるように言う。

 

「注目ッ!! 全員戦闘態勢――じゃねぇ、練習再開するぞ!! どんな相手にでも対応できるようにしろ!!」

 

「ど、どしたんスかキャプテン?」

 

「お、おい日向? 何があった?」

 

「伊月、ヤバイ事態になった。気をしっかり持てよ?」

 

 日向は伊月の肩をガッシり掴み伊月に、いや二年生全員に聞こえるように言った。

 

「監督が……“スキップ”してたらしい」

 

 その瞬間二年生全員に衝撃が奔った。

 

「なッ」

 

『何だとぉぉぉぉおおッッ!!!??』

 

 叫んだ二年生が次々と地面に手を突き、倒れていく。

 

「せ、先輩?」

 

「スキップぐらいでそんなに……」

 

「バッキャローーッ!! 監督がだぞ!? リコがだぞ!? アイツがスキップだぞぉ!?」

 

「いや確かに似合わない、てか不気味に思いますけど……」

 

「不気味ですんだらどんなによかったか……」

 

 目に光がない日向は未だ理解していない一年生に告げる。

 

「全員覚悟しとけ……アイツがスキップしてるってことは、次の試合相手そうとうヤベーぞ。

 だからせめて、せめてどんなやつが来てもいいように練習しておくぞ!!」

 

 オォッ!!と二年生が決意して練習に入っていき残りの一年生が訳がわからず付いて行く中、火神が納得いかないと日向に叫ぶ。

 

「ちょっ、待ってくれよ!! オレはこの勝負のために散々待ち続けたんだ!! じゃ、じゃあせめて練習ってことで太陽と1on1で――」

 

「くぅらぁぁぁあああッ!! 虹織ぃッ!!!!」

 

「うぇい!?」

 

 火神は続きを求めたが、またもや何の因果か新たな騒ぎが舞い込んできた。

 体育館の入り口から先生(あれは数学だったか?)が現れ太陽に向かっていく。

 

「お前こないだ言った課題持って来てないだろ!! 残ってるのはお前だけだぞ!! あれは絶対提出と言っただろうがッ!!」

 

「あ、いや、タハハ。わ、忘れてた……」

 

「太陽君……」

 

「ヒイィィッ!? く、クロ!? そそそそんな顔でみないでくれ!! わかった、わかったからぁ!! ちゃんとやって出すよぉ!!!!」

 

 どうやら課題を出し忘れていたらしく連れ戻しに来たようだ。太陽は何とか納めようと言い訳しようとするが黒子に睨まれ素直に付いて行くことにしたらしい。

 

「まったく……おい日向! こいつ持ってくぞ!」

 

「あ、はい。どうぞどうぞ」

 

 日向はうぇぁぁ~、と猫のように首を引っつかまれて先生に連れて行かれる太陽を生け贄に(自業自得だが)ささげて練習を再開させる。

 

「は、はは。やっぱりこうなるのかよ……はぁ」

 

 あっという間の出来事に呆然としながらも、心のどこかで思っていた通りになってしまったことに涙する火神一人がその場にぽつんと残されていた。

 

 

 

「~~♪」

 

 青年が一人、鼻歌を歌いながら道を歩いていた。足はリズムを刻みながら目的の場所へと目指し、体がそれに合わせて弾む。目元までかかる髪を軽くかき上げれば、そこから見える整った顔立ちは嬉しそうに口角を上げていた。そんな彼の周りにいる女子は彼を見つめ、頬を朱に染める。髪をかき上げる仕草も合わさり、周りにいる女性全てがため息を吐いてしまう。彼はそれ程までにかっこよかった。そんな彼自身は周りに気付かず、いや慣れているのか気にせず目的地に進む。彼の頭には一人の男と一つの噂しかなかった。

 と、彼は足を止める。目の前には創られて新しいのか、白い壁が目立つ学校があった。

 

「っと、おーここが誠凛。さすが新設校だけあってキレーっスねー!」

 

 校舎を眺める彼に、学校から出て気た女子生徒までもが頬を朱に染め騒ぎ始める。そこで周りに気付いた彼はあちゃー、と苦笑いを浮かべ急ぎ目的の場所へと足を速める。しかしそんな彼の後ろを多くの女性が追いかける。中には友達に携帯で連絡している者もいるのでまだまだ増えるだろう。彼はため息を吐きながらも捕まったら最後!!と冷や汗を流しながら、逃げるように駆けていくのだった。

 

 

 

「は~いお待たせー!」

 

 全員が来た!!と思いながらバッと振り向く。リコは皆の様子に気付かないほど浮かれているのか気にする様子も無く話しを続ける。

 

「練習試合申し込んできたんだけど、最高の相手と組めちゃった。テヘ!」

 

 どこかで見たキャンディのマスコットキャラのように、普段の性格上似合わないウインクをしながら軽い感じで言うリコ。それがまた全員に嫌な予感をあたえるのだった。

 

「そこは――ってあれ?」

 

 ふといつもの調子に戻ったリコに訝しみながらもそこで日向達も気付く。周りが騒がしいのだ。

 

「んなっ!?」

 

 いつの間にかコートの周りに多くのギャラリーが集まっていた。練習はおろか試合の時でさえ応援に来る生徒は少ないのにこの数はありえない。しかも女子だけ。よく見れば他校の生徒もおり、手にはこの場には不釣合いな色紙やノート、そしてペンがセットで持たれていた。どうやらテンションが上がっているらしくこちらの様子にも気付いていないようだ。隣同士ではしゃいだり、携帯でどこかに連絡している娘もいる。

 

「いったいなんでこんなこと……」

 

「偵察……ってわけでもないよな。いくら去年関東大会で出場したとはいえ今までなかったし……」

 

「ッハ! まさかオレの魅力に今さら気付いてっ!?」

 

「んなわけあるかバーカ。オレに決まってんだろ!」

 

「お前にもねーよスカタン共!!」

 

 そんなやりとりをしながら入り口から順に原因の元を辿って見ていると――

 

 

「あーもー、こんなつもりじゃなかったんスけどね……」

 

 

 ポツリと、女子の中から一人の男の声が漏れた。

 そこには――

 

「あぁっ!?」

 

「……アイツは!?」

 

「な……何で……!?」

 

「おい監督!! お前まさか!?」

 

「ええ。何でここにいるのか知らないけど、今度の練習試合の相手は――」

 

 

「……お久しぶりです」

 

 

「海常高校が獲得した≪キセキの世代≫の一人

 

 ――≪黄瀬涼太≫

  (きせりょうた)」

 

 

「久しぶり! 黒子っち!」

 

 

 

 

「≪キセキの世代≫……だと?」

 

 

 


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