群霊少女と幻想記   作:鈴ノ風

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この作品は東方projectの二次創作です。
原作ブレイク、キャラ崩壊、独自設定、オリキャラ幻想入り、駄文乱文、そもそもプロットが不完全、その他諸々が含まれております。
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006 友達と

「そこで私の中からあふれ出るものを感じたわけだ。それがどうも永琳の言う能力ってやつでさ。その青色の液体を使って私は……あれ? どうかしたか、永琳」

 先ほど繰り広げられた、大妖怪・宵闇のルーミアとの激戦をわずかな興奮交じりに語っていた縹は、その相手たる八意永琳の不自然な沈黙に気付いた。

「…………」

「おーい、永琳。これでも自慢話してるんだから反応してよ」

 返答はない。永琳はむくれたまま、そっぽを向いた。

「何だい永琳。私をぶん殴って痛めた手のことなら、私に非はないよ」

 先ほど、永琳たち一行と合流した縹は、永琳に顔面を殴られた。

 それは縹の身を案じ、心配していた永琳の、照れ隠し半分、怒り半分の物理的説教だった。

 が、相手が悪かった。

 名の知れた大妖怪相手に、肉弾戦を仕掛けられるほど縹は強い。その体の頑丈さも並みの妖怪では及びもつくまい。彼女の皮膚は装甲並みに硬く、また本来ならば脆いはずの鼻の軟骨も、硬骨以上の強度を持つ。

 そんな顔を、天才とは言え未だ若く、しかも大して鍛えていない永琳が力いっぱい殴ればどうなるか。

 彼女は一通り殴り終え、うっぷんを晴らすと痛みを訴えだした。鍛えていない拳と、指や手首の関節を痛めたらしい。

 幸運なことに、永琳は元々荷物は全て護衛たちに預けていたため、いまさら手を痛めたところで移動に支障は出ない。

 しかし、例えものを持つことがなくても、手を全く動かさないわけではない。歩行の際には若干だが腕を動かし、同時に手も動く。それ以外にしても、休憩の際には座ろうとして手を支えにしてしまうし、かゆいところがあれば手で掻こうとしてしまう。そういったことはいくら注意してもどうしても発生し、そのたびに永琳は手の痛みを感じるのだ。

 普段意識せずにできることができない、というのは案外ストレスがたまる。まして今は非常時。苛立ってしまうのも仕方のないことだろう。

 だがしかし、いくら仕方ないこととはいえ、このように露骨に無視することはないではないか。縹にはそんな思いっきりストレスをぶつけられるようないわれはない。

 なんて。そんな風に考え、もう一つ二つ言ってやろうと思い立ったその時。

「……ああ、そうか。もしかして永琳、私がさっきのと戦ったことを怒ってるの?」

「…………っ!」

 永琳はその言葉に勢いよく振り返り、とっさに手を上げる。しかし先ほどの拳の痛みを思い出したのか、その手はすぐに降ろされた。

「分かってるなら、反省しなさい」

「そんなことを言われもさ。あの時はああする以外方法がなかったじゃないか。私じゃなきゃ絶対に勝てなかった。いや、勝てたことは偶然としても、時間稼ぎさえ無理だった。私がああしなきゃ、みんな全滅してたんだよ?」

「それはその通りだけど、もう少し自分を労わりなさい。迷いも躊躇もなく、死にゆくことを選ぶなんて」

「そんなこと言われても」

「あなたの命でしょ。大事にしなさい」

「……そんなこと、言われても」

 永琳の言葉には言ってやりたいこともあったが、それは飲み込んだ。

 現状で言ったら話がこじれるし、第一、わざわざ言うほどのこととも思えない。

「まったく。私は心配したのよ」

「悪かった、それは悪かったよ」

「分かっていますか? 私とあなたが一緒にいた時間は大した長さじゃありませんが、それでも仲良くなれたと感じているんです。それなのにあなたときたら、命には無頓着だわ、こちらの心配は右から左に流すわ。酷くないですか?」

「悪かったよ」

「まったく」

 ほほを膨らませながら、永琳は速足で歩く。

 縹と永琳の距離が少し離れた。さて、この距離を詰めるか否か。そんな風に悩んでいると、

「縹様」

 背後から、小さな声が掛けられた。

 ちらりと振り返れば、それは永琳の連れている護衛のひとりであった。

「縹様、どうか永琳様を責めないでやってください」

「いや、責めてないよ。言いたいことは私も分かるし」

「あのお方は、今まで友人と言えるようなお方がおられませんでした」

「…………」

 つまりボッチか。なんて言葉は全力で飲み込む。

「天才としての弊害でしょう。同世代の者たちは不気味がってあの人に近づきません。たとえ近づくものがあっても、それは彼女の持つ名誉や、地位を狙って来た者たちばかり。年上の者たちは皆それなりの権力を持っているため、話し合うときは肩ひじを張っていなければならない」

「大変だね」

「ええ。あのお方には、気楽に話せる相手が、いませんでした」

「それで、私が?」

「あなたと話すときは、永琳様も年相応の少女のようにふるまうことができます。やはり若いものには、同じような年齢の友人が必要なのでしょう」

「私、実年齢は永琳より下なんだけど」

「精神年齢の話ですよ」

「そうかい」

 間を置くように、息を一つ吐く。

「私は、彼女にとって友人か?」

「それに近いものではあると、私は感じました」

「そいつは、なんというか」

 名誉というか、うれしいというか。

 縹は、なんだか無性にこそばゆくなった。ほほをポリポリと掻いて、視線を護衛のとこからそらす。

「まあ、悪くない、気分だな」

「……縹様」

 背後の男が、姿勢を正すのを感じた。

 縹は恥ずかしがるのをやめて、振り返る。

「できるなら、これからも、あのお方の友として、一緒にいてあげてください」

 所々焼け焦げ、切り裂かれ、ほつれてしまった服を着た、男。

 乾いた黒い血を全身に浴びている、男。

 おそらくは永琳の付き人のような立ち位置であろう、その初老の男は、縹に頭を下げた。

「あの人にはきっと、あなたが必要です」

「……私は、妖怪だけど」

「知っております」

「妖怪としての生き方を、きっとこの先も続けるわけだけど」

「ええ、あなたは、生き方を曲げはしないでしょう」

「そんな人外に、あんたは大切な人を任せようっていうの?」

「あの人には、必要です」

 彼の瞳は、ただまっすぐに縹を見つめる。

 縹も負けじと、彼のその瞳を見つめ返すが、やがて。

「……まあ、都の対応次第だけどね」

 根負けしたように、視線を逸らした。

「ありがとう、ございます」

「例はいいよ。今後に関しては私は決めることも干渉することもできない。最悪、このまま今生の別れってやつになるかもしれない」

「…………」

「だとしても、少なくとも今は、あんたの願いを聞いてやるよ」

 振り返る。視線の先では、不機嫌そうに歩く、少女が一人。

「あいつといるのは、楽しいし」

 不機嫌な足取りで、しかし時折こちらをうかがう永琳。それを見て、呆れたように縹は肩をすくめる。

「んじゃ、行ってくるよ」

「どちらに?」

「ちょっと友達っぽいことしに」

 そう言って、男の姿を見ることなく、手を振った。

 それに男がどう答えたかは、縹は確認しなかった。そのまま、永琳に走り寄る。

 相手を怒らせてしまったなら、素直に謝って、仲直りするのが友情といものだと、縹は認識していたから。

 走り寄って、話しかけて、ほんの少し自分を曲げて、謝って。

 永琳もそれで気が晴れたのだろう。仕方がないと口にしつつ、笑顔を取り戻した。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 日が傾き、夕方の気配を感じ始めるころ。

 縹たちの前にそれは現れた。

「これが?」

「ええ、ここが目的地よ」

 そこは一見、何もない空間だった。

 そう、何もない。視界の端から端まで、何もない、岩の地面が広がっている。

 しいて特徴を上げるなら、何か丸い穴が、いくつもいくつも存在していることか。

 しかしそれだけ。本当に何もなく、ただ岩だけが広がっている。

「何、これ?」

 だが、そんなことはありえない。

 縹は少し先の地面を見る。土色と草色の大地が、あるところを境に灰色の岩に変わっている。

 巨大な岩を地面に埋め込んだとしか思えない、あまりにも鮮やかな境界線。同じ地平にありながら、そこは明確な異世界だった。

「いやそもそも、なんで岩の上に何もないのさ」

 風で土が流されて来たり、ゴミが流されて来たりして、普通なら岩なんて隠れてしまうはず。

 なのに、岩には何も積もっていない。塵や砂ならあるにはあるが、飾り程度の量だ。それも色合いが岩と同じなので、まぎれて一見すると気付かない。

「結界で周囲を覆ってあるの。あの岩と、その上空一キロほどはほぼ真空状態だから、何かが積もったり、舞い上がったりすることはないわ」

「結界はいいとしても、真空だって? ここは都なんだろ? 何でそんなものを作る必要がある?」

 おおよそ居住区とは思えない単語に縹は驚く。だが永琳の返答はよく分からないものだった。

「模倣をするのなら、細部までこだわらなければ。そういうことよ」

 言いながら、永琳はその手に持った携帯端末をいじる。

「模倣。ここはどこか別の場所の再現?」

「その通り。まあ、岩の地面まで再現する必要があったかについては、知らないけど」

 操作が終わったのか、永琳は顔を上げると、わずか上の方を見ながら携帯端末を耳にあてる。

「私よ、八意永琳よ。ええ、なんとか帰還したわ。被害? 見ての通り半分減ったわ。そこの妖怪には事情があるから手を出さないで。ええ、開けて頂戴」

 誰かと話した永琳が、携帯端末を下すと同時。

 目の前、岩の地面がゆがんだ。

「――――へえ」

 その上空、約一キロの範囲も同時に。

 歪み、揺らぎ、色彩が変かと反転を繰り返し、形状が増幅と減少を繰り返す。

 一分にも満たないうちに、岩の地面は消失した。

 代わりに出現したのは、いくつもの岩と、さまざまな色の粘土と、木で作られた巨大な城壁。

 赤が目立つ色彩の壁の中、縹たちの正面にあたる場所に、城壁とつりあった大きさの門が一つ。

 そこに描かれた模様を縹が観察する前に、門はひとりでに開いた。

 軋みを上げ、砂や砂利を引きずる音を立てながら、門が開く。

 門は完全に開くことはなく、十人ほどが同時に通れる程度で止まった。その隙間から漏れ出る光景に、縹は思わず息をのむ。

「なんと。さっきまで何もなかったのに」

 門の先、周囲とは全く違う明るさに包まれたそこは、街だった。

 門から奥へとまっすぐ伸びる大通り、それを囲む、色とりどりの大きな屋敷たち。

 大通りは大量の人間が行き交い、その喧騒がわずかだが、縹たちの下にも届く。

「ここが、目的地の」

「ええ。ようこそ」

 永琳が前に出る。一歩、二歩と。

 そして巨大な門と、その奥に広がる街を背にして、振り返った。

「われらが偉大なる故郷、そして地上に建てられた理想郷――『月の都』へ」

 




やっと到着。長かった

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