原作ブレイク、キャラ崩壊、独自設定、オリキャラ幻想入り、駄文乱文、そもそもプロットが不完全、その他諸々が含まれております。
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「――――っは!」
ルーミアの背後から再び闇が発生する。闇は生み出された端から鞭となって、縹へと殺到した。
縹は動けない。しかし闇を喰らう彼女の能力は違う。
その一部が枝分かれし、そしてそれぞれが迫る闇たちへと、まるで液体の棍棒のように振るわれる。
闇と、液体が衝突する。勝敗は例外なく、液体の勝利であった。
液体が闇を食らう。それだけにとどまらず、軌道を変え、別の闇へと振るわれた。
殺到する闇は縹にあたるよりもずっと前に、すべて消し去られる。
しかし、ルーミアは闇の生成を止めない。
一本がやられたなら二本生み、二本やられたなら四本放つ。
そうして闇はその数を加速度的に上げていく。
液体は確かに脅威である。何しろルーミア自慢の闇を、ただ触れただけでのみこむのだ。硬度自在で、硬い時など髪の毛よりも薄い状態で、直径一メートルの砲弾すら弾く闇を、だ。
「ッガアアアアア!」」
おおよそ人のものとは思えぬ咆哮が闇を震わせる。いかに妖怪と言えど、あのような狂気の叫びを上げるのは不可能だろう。
「――――それでも」
暴れ、液体によって闇を侵食する縹。もはや勝機などただの一片も移さぬ彼女の瞳は、果たしてそれを認識できただろうか。
わずか。ほんのわずかだ。
一センチにも、見たないだろう。
殺到する闇と、迎撃する液体たち。両者がぶつかる境界線が、ほんのわずか、動いていた。
縹の、方向へ。
「確かにその能力は凶悪。触れれば消すなんて嫌なお話。でも、私の方が上」
殺到する、殺到する。もはや数えることさえ馬鹿らしくなるほどの、鞭が。天文学的な数に増殖した、闇の鞭が。そのすべてが、縹に向かって振るわれ続ける。
「あなたの力は触れればいいけれど、それでも動きそのものは私より遅い。そうでなくても、瞬間的に出せる量が、桁違いよ」
闇を食らい、液体も増殖を続ける。しかし、あまり効率がいいとは言えない。
五の闇を喰らっても、増える量は一だけだ。闇の増殖量と比べると、雲泥の差。
「生まれたて、が一番の敗因でしょうね。そうでなければ私もきつかった」
高速で増殖し、高速で迫る闇の群れ。それに対抗するには、液体の動きと増殖速度はあまりに緩慢であった。
「ッアアアアア!」
だが、縹がそれを理解することはない。
怨霊たちの叫びが、その殺意が、彼女の精神を振り切らせ、彼女の心を狂気にゆがめるためだ。
殺戮と闘争に狂った彼女は、ただ目の前の敵を屠ることと、迫りくる障害を破壊することだけを強く強く考える。
だから、状況の優劣など、彼女の眼中には存在しなかった。
例え敗北必須の戦いであろうと、その心が揺れることはない。
「――――っは。化物ね」
ルーミアが思わず呟く。
人の街を四肢の指の数ほど潰し、幾百万の人間を、虫を踏み潰すように殺してきたルーミア。
人間からは恐怖と絶望の象徴として、宵闇の二つ名でささやかれる彼女でさえ、縹の姿にはおぞましさを感じていた。
あまりにも不気味なその姿故か、ルーミアの額を、汗が流れる。
「けれど化物。気づいてるかしら?」
じりじりと、少しずつ距離を縮める闇たちは、もうすでに縹の眼前へと迫っていた。
「あとわずか。先ほどの拘束が、あなたを殺すよりも、こっちの方が断然早い。残念ね。あなたの抵抗は、所詮負け犬の遠吠えに過ぎなかった。どれほど強力であろうとも、生まれた手に過ぎない妖怪風情に後れを取るほど――」
そして、ついに。
闇の一本が、液体の防衛を突破した。
液体は突破した一本を半ばから切断する。しかし闇は消えることなく、縹の頭に向かって矢のように飛んだ。
「――宵闇のルーミアは、甘くない」
縹の頭を、その脳みそを、飛来した闇は真っ二つに切り裂いた。
「ッガァア……」
奇声は、頭の切断とともに途切れた。
ただ、彼女を守っていた液体だけは、彼女の執念からか動き続けているが、それも時間の問題だろう。現に、二本三本と次々に闇の突破を許している。
縹の体は貫かれ続けた。頭を首を胸を腹を肩を腕を手を股を腿を膝を足を、闇は容赦なく襲い、串刺しにする。
骨は折れ肉は裂け、その体はバラバラの肉片となって、滴る血とともに零れ落ちた。
「っふう」
ルーミアはそれを確認し、一つ息を吐いた。
妖怪は強力で頑丈だ。場合によっては心臓を刺しても死なない時もある。
だがこうも解体されれば話は別。そこから蘇生する妖怪など、普通はありえない。
「楽しかったわ、名も知らぬ妖怪さん。久しぶりに、心の底から、戦いっていうものを楽しめた」
ひらり、ひらりとルーミアは手を振る。
それを見せるべき相手は、とうの昔に死んでいるというのに。
しかし。
「次は、一体どうしようかしら」
暇つぶしを終えたルーミアは、どこか退屈そうにつぶやく。
偶然見つけた|玩具≪はなだ≫は、彼女に十分な娯楽を与えただろう。そのために、ルーミアはもっと、もっと心躍らせ続けたいと願っているようだ。
しかし、そもそも。彼女は何を恐れたか。
「逃げて行った人間たちは、どうかしら。彼らの向かった先は、確かこの辺でも随一の技術力と軍事力を備えていたはず。あそこなら、まだまだ楽しめるかも」
手を叩き、思いついた妙案に、ルーミアは笑う。
無邪気に、楽しそうに。その結果生み出される死体の平原の陰惨さなど、かけらも感じさせない穏やかな笑み。
ルーミアは何をおぞましいと感じたのか。
ルーミアは歩み出す。
その先は、つい先ほど永琳たちが逃走した方向だ。
あれからまだ数分と経っていない。永琳たちの足では、未だ十分な距離を稼げてはいないだろう。
いつか追いつかれ、殺される。
あるいは、一人二人は生かされるかもしれない。生かして、手足をもいで、道案内をさせるかもしれない。
それが幸せなどと、そういえるものはこの世に一人としていないとしても。彼女を止められるものは、いない。
本当に?
彼女が殺したと断じ、背にしたものはいったいなんであったのか。
「…………キ」
何かが、呻く。
ルーミアは足を止めた。
「キ、ギ」
その額には、汗が浮かんでいた。
いやに冷たい汗が、いくつもいくつも、玉となって浮かび上がる。
「ギィ、ィィィギ」
「う、そ」
振り返る。ゆっくりと、ゆっくりと、古びて錆びついた機械のように、ぎこちない動きで。
ただ百八十度振り返るだけで、気の遠くなるような時間が経過する。
あるいは、それは真実を認めたくない彼女が、無意識のうちに体感速度を上げて生まれた錯覚かもしれない。
一瞬か、永遠か。判断の突かない時間の後、ついに彼女の視界に、それが写る。
血。一面の血。
赤く染まった大地の上には、無数の肉片が転がっている。
元の部位が分からないほど、バラバラな肉片は。
「ギギ、ギ」
「ガギ、ギャ」
「ガガ、ガガガ」
「グァギャガ」
そのすべてが、とぎれとぎれに笑っていた。
「――――ひ」
ルーミアの喉が、思わず引き攣った。
一瞬だけの悲鳴は、しかし冷や水をかけたように場を静まらせた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
肉片はかけらも動かず、先ほどまでの異常な光景などなかったかのように、死体として血濡れた地面に転がっていた。
「何も、ない?」
呟きに、自信などなかった。
ルーミアは心の底で確信しているのだろう。先の光景が、現実であると。
「そこまでバラバラになって、生きていける妖怪なんてありえない」
ルーミアの背後から闇があふれ出る。その量は、先ほど縹を屠った際のものより倍以上あった。
「私を化かすか! この稚児が!」
闇は分裂し、人の腕ほどの太さの鞭となり、死体へと襲い掛かる。
だが、その直前。
「ィ――――ギギャアアアアッ!」
地面に転がるすべての肉片から暗く青い液体が噴出する。
液体はほかの液体と混ざり合い、一瞬で一つの塊となる。卵状の、ちょうど十歳ほどの少女が収まる黒い塊は、闇が迫るのと同時にふくらみ、内側からはじけ飛んだ。
「ギャハハハハッ!」
その中から現れ、ルーミアへと飛び出す一つの影。
いや影などではない。それはバラバラになって死亡したはずの縹の姿だった。
彼女は哄笑とともに駆け出す。その片腕は、すでに背後へ構えられていた。
「っちぃ!」
縹は縦横無尽に駆け回りながらルーミアへ迫る。その動きはあまりに早く、その機動はあまりに複雑。追いつくことも先読みすることもルーミアには困難だった。
だから影は一点ではなく、広範囲に面の攻撃を仕掛ける。しかし、運よく縹を捕えられた闇は、彼女が手繰る液体に食い尽くされた。
「虫か何かか、あなたは!」
まるで地を高速で這い回る虫のように、縹は闇の鞭を回避する。避けられぬわずかな鞭も、その能力で破壊する。
「筋力だけじゃなくて、足の速さでも勝ってたってことか」
ルーミアの動体視力は決して低くない。大妖怪の彼女の目をもってすれば、拳銃の弾丸程度なら簡単にとらえてしまう。
なのに。そんな彼女の目をもってしても、縹の動きは追いきれない。
ここにきて、ルーミアの二つ目の弱点が露呈した。
地上での機動力は、足の速さがものをいう。身体能力で優る縹がルーミアより速いのは、当然のことであった。
視界の隅々を覆う縹の残像。それを見たルーミアは、飛び回るイナゴの群れを幻視する。
ああ、まさにそれは作物を食い尽くすイナゴのごとし。
イナゴが稲を喰らうように縹は闇を喰らい、人の抵抗をすり抜けるように闇の鞭を回避する。
ルーミアと縹。二人の距離は瞬く間に縮められた。先ほどとは真逆の攻防は、先ほどの倍以上の速さで終結した。
「――――っ!」
ルーミアの眼前に盾となって展開した闇を引き裂き、縹はついに互いの距離をゼロにした。
ルーミアは闇で大剣を生み出し、始めの時と同じように、上段に構える。しかし、今度は両手だ。
縹は初めの時と一つも変わらず、右手を後ろに構え、左手を前に出し盾のようにした。
そして、合図もなく、しかし攻撃は同時に放たれた。
最初の時とほとんど同じ攻撃は、ゆえに結果も同じであるはずだ。
「――――っは」
大剣は縹の腕を切断する。しかも今度は両手で構えている。片手と両手では剣に込められる力が全く違う。ルーミアの技量にもよるが、倍どころか四倍にも届くかもしれない。
だから、今度は肩の切断では済まされない。縹の攻撃程度では大剣は減速せず、彼女の体を正中線で真っ二つにする。
先ほどの出来事を思えば、それでも縹は死なないかもしれない。しかし、真っ二つにし、さらに追い打ちを掛ければどうだ。
肉片になっても生きていられるなら、肉片すらも残さなければいい。細胞の一つ一つにいたるまですべて潰し、ルーミアの妖力のすべてでもって残った残骸を焼き尽くす。
それでも蘇生するならば、それはそれでよし。
そう、考えているのだろう。だから、ルーミアの顔には未だ笑みさえ浮かんでいる。
戦いを楽しむ余裕が、残っていた。
「ギャハハハハ!」
しかし、狂気に染まり、哄笑を続ける縹は、ルーミアの想像の、大前提を崩して見せた。
平手が、大剣に激突した。それは本来よりもずっと早く、未だ振り下ろしている最中のことだった。
「――――な!?」
予想外に早い衝撃に、ルーミアが驚愕する。
しかし、驚くべきはこれからだった。
「ハハハハッ!」
大剣との接触により縦に裂かれた腕。それを即座にひっこめ、その勢いで縹は反対の腕を振るった。
その一撃は、勢いが足りず縹の攻撃にわずかに押された大剣を、さらに減速させる。
「バカ、な」
そして、右手と同じように切り裂かれた腕を、縹がひっこめたとき。
斬られたはずの右腕は、すでに完治していた。
それを振るわない理由は、殺意に狂った縹には、ない。
「ハハハハッ! ギャハハハハッ!」
叩く、叩く。大剣が減速し停止し弾き飛ばされてもなお叩く。
防御するルーミアの両腕を砕き千切り消し飛ばしてもなお叩く。
無防備になったルーミアの肋骨を砕き肺を貫き心臓を破り胸部を弾き飛ばしてもなお叩く。
叩いて叩いて叩いて叩いて、ルーミアの体が真っ二つになるまで叩き続けた縹は、
「――――ぁ」
大妖怪の底力で意識を保ち続けたルーミアが、縹の背後から手繰り寄せた闇たちをけしかけることで、ようやく攻撃をやめた。
背後より迫る闇を回避するため、縹は上へと跳躍する。
闇は勢いを止めず、ルーミアの叩き斬られた上半身と下半身を飲み込むと、そのままどこかへと逃げ去って行った。
縹が地面へと着地した時には、ルーミアの姿も、彼女を救いだした闇も、地平の彼方へと消えていた。
「…………」
縹は、ルーミアが逃げた方向を眺め続ける。
微動だにせず、ずっとずっと見つめ続け。
そして、一分、あるいは二分ほど経過した後。
「――――っふう」
緊張の糸を解くように、息を吐いた。
液体はすでに消え、彼女の瞳には、一片の狂気も残ってはいない。
「あー、クソッ。なんて強さだ。死ぬかと思った」
実際、普通なら死ぬ状況まで追い込まれたのだが。
「どーも私は特別らしい。いやはや助かったよ」
縹を構成するのは無数の怨霊たちだ。
彼らの構築するネットワークが縹という人格を形成している。だが同時に、怨霊の一つ一つが、縹という人格を記憶している。
だから縹は死ななかった。心臓を潰されようが脳を斬られようが、例え全身をバラバラの肉片にされようが、一つでも彼女のパーツが残っているのなら、縹が死ぬことはない。
今回のように、肉がほぼすべて消滅せずに残っている場合は、それらすべてが再び一つに集まって肉体を再構築する。
運悪くほとんどの肉体が消滅していても、周囲の物質を彼女の能力で吸収すれば、元通りになることが可能だ。
「能力、能力か。これが一番幸運だった」
縹は目の前に手をかざす。その手から、暗い青色の液体が浮き出てきた。
この液体こそ、彼女の能力。
「永琳にならって名づけるなら、『あらゆるものを飲み込む程度の能力』ってところかな」
繰り返すことになるが、縹は無数の怨霊からできてる。
彼らは互いに混ざり合い、喰らい合うことによって縹の中で渦を形成している。その渦は一種のブラックホールのように周囲の物質を巻き込み、粉砕して吸収し、己の一部とする力を有していた。
本来ならば、その力は縹の魂の内側でのみ働くため、外部に影響を及ぼすことはない。だが彼女の魂の一部を加工し、こうして液体状に分離すると、外部の物質を巻き込むことが可能になる。
それが彼女の能力。粉砕してしまうがゆえに無傷で飲み込むことはできず、混ざり合ってしまうがゆえに再構築もできない。破壊しかなさない、縹らしい力であった。
「うん。いいなこれ。きっといい。しかも自分の強化もできるときた」
最後の一戦。縹の攻撃がありえない早さでルーミアの大剣に届いたのは、それ以前に彼女の闇を大量に喰らい、縹の身体能力を強化していたからだ。
「おかげで傷も疲労も全回復。うん、楽しめたし結果オーライ」
そう言って、笑顔を浮かべる縹は、もはや先の戦闘に興味をなくしていた。
あの大妖怪は逃げ出した。あれ以上追っ手も、死にぞこないを殺すだけだ。そんなものは、つまらない。
「んじゃ、永琳追いかけますか」
そう言って、永琳たちが逃げた方向へと歩み出す。
先ほどのルーミアのように。しかし、今度は邪魔ものも、ありえない奇声も存在しなかった。
その後、無事帰還した縹の姿を見て、みっともなく泣きじゃくった永琳に、縹は顔面を殴られ続けたのだが、それはまあ、余談である。
こういう展開は、おそらくこの作品では二度とできそうにないので、気が晴れるまで書きなぐってみました。