今回は急ぎ投稿なので、また修正しようかと思います
斉藤弘樹
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(もうちょっと…ほんの少しだけ早く言ってほしかったな)
彼女はセーラー服を風に靡かせ、困ったような顔をした。
(ごめんなさい)
そして悲しい顔をして告げる、別れの意味である「ごめんなさい」という言葉を。
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コンコン と、ドアをノックされる音と、有紗の声で、俺は目を覚ました。
「おにいさーん!起きてくださ~い!」
かわいいかわいい姪っ子に起こしてもらえる という幸せシュチュエーションなのだが、あいにく今はそんな気分ではない。昨日盛大に振られ、あげく若い青春時代のことを思い出して超ナーバスな気分になっているのだ。
今は7時35分、朝食を抜けば少し余裕の時間だ。
「お兄さ~ん!会社!遅れちゃいますよ~~!!」
どうしたものかと考えていると、俺の頭の中で二つの勢力の戦闘の火蓋が切って落とされた。
急いで準備し、朝食を食べる「行動派」と、面倒だからこのまま寝過ごしてしまおうと思う「ゆったり派」…この争いは拮抗し、戦況はお互い一歩も譲らない膠着状態に陥っている。
「どうしよう…寝ちゃってるのかな…」
有紗は不安そうな声で呟くと、扉が開く音が聞こえた。
この瞬間、この膠着状態は一変、有紗の行動を観察してみたいという好奇心がほかの勢力をねじ伏せ、圧倒的な勝利を収めた。顔を見せないように、寝返りを打った振りをして有紗に背を向ける。
「お兄さ~ん…寝てるんですか~…?」
有紗は寝起きドッキリをする芸人のような小さい声で質問を投げかけ、足音を立てないようにベッドの横まで歩いている。
「寝ちゃってる…のかな…?」
きっと今頃どうしようか悩んでいる頃だろう、困った有紗の表情も見てみたいが、今は我慢だ。
「よしっ…!」
少し間を開けて、有紗は何か覚悟を決めたような口調で呟いた。
お…何をする気なんだ?よっぽどのことがない限り、お兄さんは布団から出てこないぞ~
次の瞬間、肩のあたりになにかが触ったように感じた。布団越しにだが、わかる。
間違いない………有紗の手だ
「起きてください~!」
軽くだが、体を揺すられている。察するに、これは「呼びかけても起きないなら、揺すって起こしてみよう」という考えだろう。
「おに~さ~ん!」
有紗の悲痛な叫びがで精神的にダメージを負ってきたので、もう起きようと思った時だった。
ここで俺は重大なミスに気付いた。起きたフリをして目を開けたとき、今の俺は有紗に背を向けてしまっている。つまり、目を開けた時に有紗の困った顔が見れない…!?
目を開き、身体を布団から起こす。
「うぅ…ミスった…」
「お兄さ…よかった起きた~!時間ですよ!時間!間に合わなくなっちゃいます!」
時間は7時53分 はっきり言ってもうギリギリの時間だ。でも今は別の意味で落ち込んでいる。
「玄関で待ってますからね!」
そういうと、有紗はそそくさと部屋から出て行ってしまった。ここ数年のうちの最大の不覚だ。布団から降りて、すぐにスーツ着替える。
「学校か」
ああ言う夢を見た後は、だいたい学生時代がどれだけ楽だったかを思い知らされ、そして後悔したような気持ちになる。携帯を充電器から外すと、あのえせ関西弁の人から何件もメールと電話が来ていることに気付いた。
「今更…」
メールを消し、鞄を持って家から出た。
~8分後~
玄関から出て、家の鍵を閉める。セーラー服を揺らしながら、はやくはやくと急かす有紗に追いつき、歩き始める。
「お兄さんのせいで友達との約束の時間に遅刻です…!」
有紗はこっちを見ようとはせず、頬を膨らまして怒った口調で話しかけてきた。
「ごめんな」
わざとやった なんて言えない、ごめんな有紗
「…知ってます。未来のお嫁さんを選びに行ってるんだ~ってお母さんから聞きました」
ムスッとした口調で有紗が答える…怒っていても、しっかり会話をしてくれるのは有紗のかわいいところだと俺は考えている。そしてご機嫌斜めの時は…
「そんなとこだな。そうだ「ご褒美」のことなんだが…」
「ご褒美!」
ご褒美で釣れば機嫌直すかな~と思って振ってみたが、効果は抜群だった。
腕を組み、子供の様な純粋で眩しい笑顔で距離を詰めてくる。何か柔らかい感触が腕に当たっているような気がするが、気にしない。
「どうしようかな~!えっと~!お寿司!お寿司が食べたいです!」
「わかった、わかったから落ち着け」
「あっ…ごめんなさい。あの…今日はレッスンがあるので、帰る時間が遅くなっちゃうかもしれないです」
「…わかった、気をつけてな」
今月分も払いの時に顔を合わせるのかもしれないのか…ちょっと気まずいな
「…?ご褒美楽しみにしてますね~!」
「おう、気を付けてな~」
組んでいた腕をようやく離し、有紗は学校に向かって走って行った。…腕にまだ残っている暖かさと、あの柔らかい感触は、しばらく頭から離れることはできないだろう。
斉藤 有紗 ―19時10分―
「はい、それじゃあ10分間休憩して!」
「「「「はい!」」」」
インストラクターである絵里さんが指示を出すと、その場にいた4人がその場で座り込む。
「疲れた~」
「かさね、先ほどテンポがずれていましたよ?」
「だってしずくちゃん早いんだも~ん!」
「かさね、もうちょっと前」
「うぅ…ごめんなさい~…」
このコースを選択しているのは かさねさん、しずくさん、理かさん、私の4人。私以外の3人は音ノ木坂のスクールアイドルをやっていて、私は彼女たちの練習に付き合っている形になっている。
「有紗、今日は体調が優れないのですか?かなり遅れていました」
「え…?」
「うん、かなりぎこちなかった。大丈夫?」
しずくさんが心配そう見つめてくるが…体調には何の問題もない。しいて言うなら、精神的なものだと思う。
「あ…いえ…」
「有紗も、絢瀬先生も元気ない」
今朝の…いや、昨日の夜から、お兄さんは今までないくらい、悲しい顔をしていた気がする。
「そうですね…何か考え事をしているような素振りでした」
「ねえ有紗、何かあったの?」
「えっと…はい、実は…」
斉藤弘樹 ~20時20分~
有紗と別れた後、仕事がなかなか手につかず、お昼を過ぎても半分も終わっていなかった。終わって帰ってくるころには結局この時間になってしまってた。
<ごめんなさい!もうちょっとで駅に着きます!>
有紗が愛用している子熊のスタンプがごめんなさいをしていた。
<<改札前で待ってるから、気を付けて帰ってこいよ~>>
有紗を放っていくのもあれなので、駅の改札前で待っていることにした。今朝の感触をもういち…いやなんでもない。
仕事のことを考える気も起きないので、駅の前でボーっとしていると、昨日のことを思い出してしまった。
負け惜しみのように聞こえるかもしれないが、別に一日でどうこうなる関係だとは思ってなかったし、そんなに期待していたわけでもない。
ただ、自分でもよくわからないところに中途半端にダメージを負ってしまっている。恋愛小説風に可愛く言ってしまえば、「心がモヤモヤしている」みたいな感じだ。
「なんか…納得いかない」
いかんいかん、このままじゃストーカーになってしまう。あのことは忘れて、早く独り暮らしをしよう。そこから相手を見つければいいだけの話だ。
そう、こんなめんどくさい思いをするのも全部「希さんが悪い」ってことにしとこう。それでこの話はおしまいにするんだ。
「あとは時間がどうにかしてくれるはずだ」
ラブコメ系の作家になれるんじゃないか?我ながらセンスあるな。と、くだらないことを思っていると
「お兄さ~ん!」
有紗は改札を通り人の波を掻い潜り、目の前に有紗が現れた。
「はぁ…はぁ…」
「ゆっくりでいいって言っただろ?あんなにあわてなくてもよかったのに…」
「ごめんなさいっ…遅れてしまって…!」
有紗の額からはほんのりと汗がにじみ、少し苦しそうに呼吸を整えていた。
「謝るのは俺のほうなんだけど…荷物持つよ、きついかもしれないけど…少し歩ける?」
「はぁ…はい…!」
学生鞄を肩にかけ、有紗の左手を取って、辛そうな有紗に歩調を合わせて横並びに歩く。
「ふぇ…?お兄さんっ!?」
ようやく気が付いたのか、有紗は目を丸くして、耳まで真っ赤にしながら驚いていた。
「いえ…あっあの……」
「レッスンを終わった後だから疲れてるだろ、持つよ」
「…ありがとうございます♪」
彼女の笑顔が絢瀬さんと重なって見えてしまったのもきっと、希さんが悪い。
~2時間後~
帰宅してそうそう、あれも頼みたいこれも頼みたい…と駄々を捏ねる有紗をなだめ、結局は出前の寿司に落ち着いた。
有紗は制服から、私服であるオレンジ色の七分丈ボレロ、ワンピースタイプのインナーに着替えた。俺はちらしをまとめていたからスーツのままだけど…
「マグロ…サーモン…イクラ…全部ぜ~んぶ!おいしそうです!そういえば…お母さんは?」
「草津の温泉旅行に行ってるみたいだ」
「温泉…がんばったらご褒美で連れてってもらえますか?」
「…考えてやらんこともない」
「やった!約束ですよ!」
「お…おう…いただきます」「いただきます!」
付属してきた割り箸を割り、金しゃりの「甲府」と、上鉄火丼を食べ始める。有紗はわさび抜きじゃないと食べれないらしく、すこしからかった後にさび抜きの「甲府」を頼んだ・
「有紗、まぐろ、一つ食べるか?」
「いいんですか?でもわさび…」
「大丈夫大丈夫、このマグロには入ってないから」
「ほんとなんですよね…?嘘だったら怒りますからね?いただきます」
恐る恐るだが、有紗は食べた。よし、食べたな。もちろん嘘だ。
「っ…っっ!?」
「な、鼻にツーンとくるだろ?はいお茶」
少し覚めたお茶を渡すと、有紗は一気に飲み干した。
「うぅ…ひどいです!」
「口で説明するよりも食べてみた方が早いと思ってな、食わず嫌いは許しません」
「お兄さんの嘘つき!ふーんだ!」
初めて…でもないか、どこかで見たことがあるが、有紗がこんなに怒るのは初めて見た。かわいい子ほどいじめたくなる…ってどっかで聞いたことあるけど、それに近い。
「ごめんごめん、悪かった悪かった」
「ふんっ!私さっき怒るっていいましたからね!今朝だってお兄さんが寝坊しなければ遅刻しなかったんですから!」
「あ~あれな、実は起きてたんだ」
「え?ふぇぇ!?」
有紗は食べようとした箸が止まり、耳まで真っ赤にして悲鳴を上げた。
「いや~必死におこそうとする有紗を見てみたかったんだよ」
「もう怒りました!本当に怒りました!ぜっっっったい許さないんですからね!」
さっきよりも顔を真っ赤にして、椅子から立ち上がる。
「そんなに怒るなら放って置いておけばよかったのに。あと危ないから座りなさい」
「うぅぅ…!今日のお兄さんは意地悪です!」
悔しそうな顔をする有紗もかわいいぞ~ なんて変態チックなことを考えてしまう。なんか保護者になった気分だ。しかもちゃっかり座ってるし所もなかなか可愛いところだと思う。
「ごめんごめん、そうだ、あとでコンビニ行ったときに好きなもの勝ってあげるから、な?」
「…ふんっ!」
今回ばっかりは本気で怒ってるのか…さすがに口を聞こうとはしてくれない。
「そっか~…じゃあハーゲンダッツのアイスを一個でいいな」
「…っ!?」
「有紗の分はいらないみたいだし」
わざと貯め、煽るような口調で遠くに話しかける。
「…食べたいです……私もアイス食べたいです!」
「そうか、それじゃあ食べ終わったら買いに行こう」
「そんなんじゃ許さないですからね…!」
「はいはい。早く食べちゃおうな~」
朝に引き続き、どうやら今日の俺の運勢はよくないらしい。というか意地悪をしすぎた天罰が来たのかも知れない。
まさかあの人と再会するなんて思っていなかった。
次回の分もまとめて投稿しますので、少々お待ちください。
後ほど修正加えると思います