フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 作:ノシ棒
後に最強のゴッドイーター、神狩人と称されることになる彼の半生は、波乱と争乱に彩られていた。
人々を守り続けた彼を、後に続く者達は皆、尊敬と畏怖の念を持って語る。
とてもああは生きられない、と。あんな、己を殺すように生きることなど、と。
ゴッドイーターとは、彼のことだ。ゴッドイーターとは、彼のためにある言葉だ。
真なるゴッドイーターと、その後に続く全てのゴッドイーター達は、そう語り継いでいった。
だが彼と共に戦場を駆けた仲間達は、何を馬鹿なと一笑に付すのみであった。
彼の生き様が、戦いだけの悲劇である訳がない。
それは彼が誰よりも優しく強い男であったと、そう知るが故。
皆が灯す希望の火を守り続けた彼は、間違いなく幸せであったと、仲間たちは知っていたからだ。
神狩人の伝説を語る上で欠かせない数多のエピソードを、幾つかかい摘んで挙げよう。
最強のゴッドイーター『神狩人』と称される、一人の男の物語を――――――。
■ □ ■
『ep,デッドアングル・エイマー』
「お、おいおい、嘘だろ……死角から襲いかかってきたザイゴートの群れを、見もせずに撃ち落とすなんて」
「ああ、まるで背中に目が付いてるみてえだ」
うおおおおっ!
何これ強化パーツ着けてから神機様が超反応するんですけど!
体感じゃ常時オートエイム状態だけれど、いや今回のこれは何か凄いぞ!
凄い、いつもよりもオートエイム! 意味解んないね!
うん、凄い!
凄い怖い!
ぐりんぐりん腕が動きます。
うおおおおっ!
「へへっ、頼もしいじゃん、うちのリーダーはさ!」
これ悲鳴ですから!
鼻の下擦ってないで助けんか脳味噌バカラリー!
「また誰かがバガラリーのことバカラリーって言った気がしたぞ! バカじゃないって! バガ、ラリー!」
はいはいバガラリー。
知ってるぞ。
それ、腐ったお姉様達にも大人気だったアニメでしょ?
熱い男同士の友情がとかで……。
なんか、最近アナグラの居住区歩いてると、ソーマと俺どっちを前にするか後ろにするかって、お姉様達のヒソヒソ話が聞こえてくるのを思い出したよ……。
うん……。
「コウタはコウタだな」
「ちょ、ちょっとソーマ君、あんまりコウタ君のこと、コウタって言うのやめてあげましょ? 最近アナグラ中に広がって、流行語になってるわよ」
「そうですよ! コウタのことコウタって言うのやめましょうよ。ね、リーダー」
お、おう。
強く生きろ、コウタ。
■ □ ■
『ep,バレットの魔術師』
「内臓を破壊し尽くすようなあのバレット、凄い破壊力でしたね! リーダー!」
う、うん。ありがとうアリサ……。
俺はあまりものグロさにグロッキー寸前だよ……。
内臓破壊弾じゃんあれ……アラガミ汁ぶっしゃーなってたよ。
「ノ―タイムでの超長距離多重精密射撃……流石ね。私が教えることはもう、何もないようね。少し寂しいけれど、誇らしいわ」
いやジーナさん。これもバレットいじっただけですからね?
角度とか誘導とか付けて。
多重にレーザーが重なるようにしただけですから。
あとは神器様のエイム力のおかげで。
あの、どうしてそんな、胸の空いてるところを押さえてるんですか?
「見えない弾丸に撃ち抜かれてしまったのよ。気にしなくていいわ。でも、偶に気に掛けてくれると嬉しいわ」
それ矛盾してるような。
「むむ、むむむ……! もう水着で出撃するしかないというの……? 私に力をください、パパ、ママ、オレーシャ……!」
アリサ、何を唸って。
「あのあの! 逃げていく相手をモルターで殲滅したあのバレット、私にも教えてもらえないでしょうか!」
カノン・ダイバー。
貴様は駄目だ。
■ □ ■
『ep,カリスマ――――――無視出来ぬ存在感』
「ほう……」
薄暗い部屋の中、モニタの光源に照らされながら、ヨハネス・シックザールは感嘆の吐息を漏らした。
画面に映っているのは彼、加賀美リョウタロウが部隊を率いる姿。
どうやら雨宮リンドウが抜けた穴を、彼で補填したことは間違いではなかったようだ。
彼が非常に戦闘能力の高い神機使いであることは承知していたが、良き兵士が良き指導者足りえるとは限らない。
だが今回は当りを引いたらしい。
素晴らしい、とヨハネスは満足そうに頷いた。
「彼の協力が得られるならば、エイジス計画の更なる展開が見込めるだろう。そろそろ、特務を任せてもいい頃合いか。
彼ならばこの計画の真意を理解出来るだろう。あるいは、計画の破壊を望んだとしても――――――。
“死なぬ運命を背負ったもの”としては、さて、どうするだろうな。決して死なぬ、異能。特殊な生存体……か。
フフ……人とは解らないものだな、アイーシャ。ソーマがその役目を負うとばかり思っていたが、最後に立ちはだかるのは彼かもしれないとは。
リョウタロウ君、君が再生後の地球で人類の新しき指導者と成ることを期待しよう」
ヨハネスはしきりに可笑しそうに含み笑いを零すと、新たな第一部隊隊長となったゴッドイーターの腕輪に呼び出し信号を送信した。
「――――――さん。リョウタロウさん!」
であるからして、私は新リーダーとして粉骨砕身の覚悟で、君たちも……ああ、どうしたかね、ヒバリ君。
「支部長から招集命令が掛かっています」
そうか。
皆、就任演説はまた後だ。
ありがとう、ヒバリ君。
「そんな……止めてください! 君だなんて、言わないで下さい! 無理しなくていいんです、そんな、無理矢理に口調を変えてまで、リーダーになろうとなんてしなくても。
リンドウさんの代りになろうなんて、しなくても……!」
そうか……すまないな。
意識してのことではなかったが、君を傷つけてしまったようだ。
謝罪をしたいが、時間もない。
また後で話そう。
「あ……リョウタロウさ……やっぱり、リンドウさんと同型のシールドを装備し始めたのも、自分を責めて……」
俯いて唇を噛むヒバリの姿を彼本人が見たら、こう言っただろう。
神機様の影響です。こんなのは本当の俺ではないんです、と。
悶えながら言ったはずだ。
リンドウの装備していたシールド、イヴェイダー。
付与スキルは、カリスマと存在感――――――。
■ □ ■
『ep,特異点との共存』
「りょー、元気かー!」
おおっと、シオか。
今日も元気だなあ。
最近神機様の無茶振りに慣れてきたせいか、身体も鍛わってお前の突進を受けとめられるようになってきたよ。
うん……こんなこと絶対、誰にも言えないけどね。
リンドウさんのシールドの時といい、確実にこれ、神器様の影響が脳に出てるよね。
神器様が俺の身体操作してるとかなんかもうね。脳がね。あれだよね。
感応波の影響なんでしょうね。
いやーこれバレたら解剖されちゃうかなー。
ははは、うん。
隠さなきゃ。
「んふー」
頭擦りつけちゃってまあ、ほんとに子犬(シオ)みたいだな。
ソーマもしゃれた名前付けちゃって。
よしよし。
「んー、りょーはだめって言わないの、か?」
何が?
「すきな人にはぎゅーってするといいって、さくやが言ってた! ソーマにぎゅーってすると、やめろって怒る。りょーは怒らない。どうして?」
んー、妹みたい、だからかなあ。
「いもうとって何?」
えーと、血縁とか家族って言っても想像が難しいかな。
そうだな……自分よりもちいさい女の子、って意味さ。
「おー! りょーは小さい女の子が好きなのか!」
「え……?」
がちゃーん、と食器が落ちる音。
入口を見れば、アリサが凄い顔をして立っていた。
絶望から憤怒、不安から悲嘆へと表情が目まぐるしく変わっていく。
「ど、どういうことですか、リョウ! ちっ、小さい女の子が好きだなんて、そんな!」
え……ああっ!
違う、誤解だ! そういう意味じゃない!
「ドン引き! ドン引き! ドン引きです!」
痛い、痛いって!
止めて、皿を投げないで!
トレイで叩かないで!
「15歳はもう守備範囲外なんですか! 部屋が片付けられない子は駄目なんですか! 最近胸の成長痛に悩まされてる子は論外なんですか!
仕方ないでしょう!? ロシアの服は、日本の洗剤で洗ったら縮んじゃうのに! なんのためにこんな、小さい服を着てると……!」
ちょ、やめっ!
「りょーがなー、シオのこと、いもうとみたいで好きーって」
「え……? あ、小さい女の子って、もしかして、そういう意味で……」
そうそう!
小さい子ってそういう意味ね!
いやあ、アリサがシオ語に精通してて助かったよ。
「うう、すみません。私、早とちりしてたみたいで……自分にドン引きです……」
「りょー。アリサいじめちゃ駄目だぞ。好きならぎゅーってしないと、だな! シオもまたぎゅーってしたい!」
「す、すきって……え? また? え? どういうことですか、リョウ?」
わ、わあ怖い顔。
ほ、ほらスマイルスマイル!
リーダードン引きしちゃうなー、なんちゃって。
「そうですか。よかったですね、リョウ。小さい子をぎゅーって出来て」
何その目でかっ!
目つき悪っ!
ごごご、ごめんなさい!
シオ、頼むからフォローしてくれえ!
「んとな、さっきりょーにぎゅーってしてもらってた! なんか、気分いいな!」
「へえ……」
あ、これ駄目なやつだ。
アリサが掴んでる壁のとこが指の形に陥没してるもん。
「だからアリサもぎゅーってしてもらえ、な!」
「ええっ! ええと、その」
なんだ……何を俺はされるんだ……?
ちらちらこっちを見るあの目……あれは、獲物を見る眼だ!
俺には解る。
人を撃ったことのある奴の眼だ!
「シオ、知ってる、ぞ! コウタが言ってた! 妹スキー、ぞくせい? ってやつだな! 言葉、覚えた!」
コウタぁあああ!
お前ほんとコウタ!
コウタは本当にコウタだなこのコウタ!
何言ってるんだよコウタのコウタ!!!!
「妹スキー……」
あの、アリサ、さん?
何でそんな、決意を込めた顔して……俺の服を引っ張ってるんですか?
お願い殴らないで!
痛いのは嫌です! 痛いのは嫌です!
「あの、あの、あの! おっ、お……」
お……?
「おにい、ちゃ……」
ごめんコウタ。
もうコウタのことコウタって言うのやめるわ。
わいの妹は世界一やー!
「わ、ひゃっ! リョ、リョウ! あのっ! わ、わっ……わふ」
「なー? 気分いいなー? ぎゅーって、なー?」
あ、あわわ、つい勢いで。
ごめんこれセクハラ……。
「だめです!」
ファッ!?
社会的死、到来!?
「はなれたら、だめです……から」
「ふふー、気分いいなー」
やばい何が起きてるんだ俺はなにかしたのかまたヒバリさんの陰謀か無料でハグしてくれるマイ天使はリッカだけだったはずツバキさんもたまにしてくれるけどあれは直属の上官としての部下へのスキンシップ的な意味であぁぁ――――――。
■ □ ■
『ep,鬼教官』
今日はよろしくな、アネットにフェデリコ。
危なくなったらフォローするから、安心してくれ。
「はい、ありがとうございます! 先輩、質問してもよろしいでしょうか!」
ああ、何でも聞いてくれ。
「自分はゴッドイーターとなって実戦経験がまだ浅いのですが、その、緊張してしまって。先輩は心を落ち着けるのに、どうしていましたか?」
そうだなあ。
リンドウさんは何て言ってたっけ……そうだ、空だ。
そう、空を見上げるんだ。
「空、ですか」
そう。
そうすると落ち着くから。
「ありがとうございます! やってみます!」
うんでも戦闘中に空を見上げるのは止めようね。
って言ってる側から上を見てあああ。
クアドリガの腹ミサイルが! ミサイルが!
「ぐわぁー!」
フェデリコー!
「さすがです! 日本のことわざに、獅子はわが子を谷底へと突き落とし這い上がらせる、というものがあると聞きました! それですね!」
それですね、じゃなくて!
「あの、リョウ先輩。私にも精神統一法を教えて頂きたいのですが!」
アネット、お前もか!
フェデリコ吹っ飛んでるのに余裕だな! リンクエイドー!
君は心落ち着かせる方法とか、知らなくてもいいんじゃないんですかね!
「あれはどうでもいいですから、是非に!」
あれとか……いや是非にって言われても……。
うう、フェデリコの二の舞を踏ませる訳には……そうだ!
数を数えるといい。
ほら、よく言うだろ? 素数を数えると落ち着くってさ。
日本のコミックが元になった格言らしいけど、あながち的外れじゃないと思う。
普段とは違う方法で、数を数えてみるというのは。
外国語とかでさ。
「なるほど、やってみます! 外国語で、ですね!」
うんうん。
役に立てたようで、よかったよかった。
「アジン、ドゥバ、トゥリー」
「ああああぁぁぁ……」
アリサが崩れ落ちたァー!
■ □ ■
『ep,GOD‐EATER:BURST』
視界にノイズが奔る。
時間を掻き毟る音がする。
ああ、こんなにも簡単に、世界は反転していくものか。
『今ですよ。これを逃すと、もう、倒せないかもしれない。さあ……この剣を……リンドウに突き立ててください……!』
やめてくれ。
『まだ、迷っているんですか? 貴方は、もう……決断したんじゃないんですか……?』
やめろ。やめてくれ――――――。
「あれは……リンドウの神器!?」
「神器が、ひとりでに動いてやがる……!」
「だめだ……リョウ! だめだ! それを使っちゃだめだ!」
仲間の叫ぶ、声。
目の奥が熱い。
頭がガンガンする。
喉は干上がってカラカラだ。
雄叫びを上げる機能しかないはずのゴッドイーターの声帯は、内なる悲鳴に切り裂かれて。
痛い。
ひどく、痛む。
魂が、絶望の叫びを上げている。
知っているからだ。
“それ”を使えば、破滅が訪れることを。
覚悟など、出来ている訳がない。
なぜならば――――――。
――――――それ痛いやつだって、知ってるからね?
痛いやつなんでしょ?
俺、知ってるよ?
それ、めちゃめちゃ痛いやつでしょ?
知ってるよ、それ。知ってるよ。
リョウタロウ知ってるよ?
「だめぇえええ! リョウーーーーッ!」
いや、やらないからね!?
何その俺が自殺志願者みたいな、こう、飛び降りる寸前の奴を止めるみたいな叫び!
『決断が遅れれば、余計な犠牲が生まれるだけだ! リンドウに仲間を殺させたいんですか!?』
そんな事言われてもやらないからぁ!
お願いだから俺がやる前提で話を進めないで!
「リョウ……もう俺は……覚悟は、できてる……」
リンドウさんあんたまで!?
俺は覚悟とか出来てないからね!?
なにその覚悟って!? 夏の新商品とかなの!?
覚悟って俺が今まで生きてきた人生の中で、使ったことない単語なんですけどぉ!?
『さあ! この血生臭い連鎖から……彼を解放してやってください……!』
「リョウ……お前は、いい奴だな……悪かった、お前は、駄目だ。やっちゃいけない、奴だ……」
リンドウさん……。
「ここから……逃げろ……っ!!」
だから! 逃げたら! 俺! 処刑されますよねぇ!?
あんた初めて会った時からブラックジョークばっかり飛ばしやがって!
逃げたら処刑されちゃうでしょうが!!
行くのも駄目、引くのも駄目。
ダブルバインドだよちきしょん……!
どうしたらいいの俺、どうするの!?
「これはっ……命令だ……!!」
はああ!?
なんなん!?
こいつ、なんなん!?
俺の自由意志は無いの!?
『早く!! この剣で、リンドウを刺すんだ!!』
う、お、あ、んわああああ! もおおおおおお!
もおおおおお!
わかったよこんちきしょんんん!
――――――うああああああっ!!!
「あっあああっ! 嫌ぁっ! だめっ……だめぇ!」
「やめろ、アリサ! 近付くんじゃねえ!」
「嫌ぁああっ! リョウ! リョウ! 嫌ぁああああっ!」
なんこれ超痛い!
ほらやっぱりこれ超痛い!
言った通りじゃん! 言った通りじゃんかぁ!
「リョウの手が!」
アイェェェ手ェ!? 手ェナンデ!? 俺の手がぁぁ!?
労災下りるのこれヒバリさーーーーん!
「お願い……リョウ君……! リンドウを……! あの人を……!」
ていうかなんで俺がこんな目にあわなきゃいかんのん!?
それもこれも全部あの人のせいじゃん!
ふざけんじゃねえし!
責任とれしマジで!
「私のところに、返してぇ……」
…………。
神器、解放――――――。
「逃げるなぁっ!!!」
声帯が、こんなにも大きく震えたのは、ゴッドイーターになってから初めてかもしれない。
「……生きることから、逃げるな!」
そうだ。
逃げるな。
サクヤさんのために。
ツバキさんのために。
ソーマ、コウタ、アリサ……あなたの帰りを待つ、全ての人のために!
「これは……命令だ!」
もちろん、俺のためにもだ!
あんたの残した書類仕事、全部自分で片付けてもらうからな!
これは命令だ!
絶対死なせん!
絶対にだ!
なんかいきなり隊長にさせられたのも!
書類の山が少しも減らないのも!
ベッドがずっとサクヤさんの香水の臭いがしてるから床で寝るはめになって背中が毎日痛いのも!
あれもこれもそれも全部! アンタのせいじゃろがい!
責任とれ……否、とらしてやる!
積年の恨み……晴らさでおくべきかぁぁああ!
「うぉおぉぉぉぉぉ!」
うおおおおッ! 神器二刀流!
くらえ!
必殺!
テコの原理ィイイイ!
くぱぁ!
■ □ ■
『ありがとう――――――』
もう、いいのか……?
『リョウはすごいや。僕はもう、諦めていたのに……うん。十分だよ……僕は……十分、報われた……』
そうか。
『また、会えるよ。きっとまた会える。その時は、ねえ、リョウ――――――』
気が早いやつだなあ……。
またな――――――。
■ □ ■
ハッピーエンド、めでたしめでたし、かな。
あー……死ぬかと思った。
「おい、リョウも目ぇ覚ましたぞ! リョウ、しっかりしろ!」
痛い痛い、ソーマ痛い。
ゆさぶらないで痛い。
なんだよ、ソーマ。
「お前……! 俺は、俺はな……!」
なあ、ソーマ。
歌が聞こえたよ。
シオの歌が。
「俺は……ちくしょう……俺は……」
そんな顔して見送ってくれたんなら、きっと、シオも幸せだったと思う。
「うおおおん! リョーウー! 心配したよー!」
はいはいコウタ。
俺のジャケットで鼻水ふくのやめてね。
「俺っ、俺リョウがあのまま、死んじゃうんじゃないかって! 手も何かアラガミみたいになってたし! てか元に戻ってるし! なんか、もう、なんかぁぁ……」
なんだろうな。
俺も何が何だかわかんないや。
「俺っ、神様に、いっぱいお祈りしたんだ。アラガミじゃない、母さんが言ってた昔の、ほんとうの神様に。リョウとリンドウさんを返してくださいって。
そしたら俺、なんか影でコウタって言われて笑われてるのに、胸はって俺はコウタだって、答えるって……うおおおん!」
お前は今、泣いてもいい。
泣いていいんだ、コウタ。
「リョウ」
わ、わあアリサ。
超無表情だね。まるで能面みたいだよ!
はっはっは。
「……」
あの……何か、リアクションを、していただかないと、こちらも困るといいますか、その。
「あなたが、リンドウさんの神器を持ち出した時、私の心臓は凍りついたようになりました」
おわっ!
あ、お、怒ってない?
「私、自分のことしか考えてなかったのかもしれません。つぐなうための戦いだと、そう思っていました。自分のことだけを、考えて。でもやっと、サクヤさんの気持ちが、私にも解りました。こんな気持ちに、させていただなんて」
え、えーっと。
「こんなの……1秒だって、耐えられない」
がらん、と地に落ちる神器。
へたりこむアリサ。
疲れ切ったように、細く、長く、吐息を絞り出す。
「よかった……よかった……あなたが無事で、よかった……!」
アリサ。
「何もいりません……何もいらないから……あなたが無事でいてくれたら、それだけで……」
うん。
「怖くて……怖くて! ずっと、手が、身体が、震えて止まらなくて! 大丈夫だってわかってるのに、もし、あなたがあのままって、そう思うと……!」
うん。
「どうして笑ってるんですか! どれだけ私が……どれだけ……ッ!」
ごめん。
「どうして、あなたはそんな……! いつも、いつもいつもいつも、いつも! 痛いって言えばいいじゃないですか! 苦しいって言えばいいじゃないですか! つらいって、逃げ出したいって、言えばいいじゃないですか! どうして、あなたはそんなに……」
言ってるさ。
いつも、しんどいって。
逃げ出したいって、言ってるよ。
「嘘です……嘘ですよ、そんなの!」
いや、マジで。
嘘とかじゃなくて、マジで。
「あなたはいつもそう! 初めて会った時と同じ、穏やかな笑みで、痛みも悲しみも苦しみも、全て胸にしまい込んで……!」
う、うん?
胸にしまいこん……うん?
まあ、アリサはもう少し胸をしまった方がいい……んん! げふんげふん、ごほん! ごふん! げふん!
「どうしてそんなに、世界を癒すように、見つめていられるんですか……!」
そりゃあ……ほら、あれだよ。
「リンドウ……! リンドウ……!」
「よう、サクヤ……ただいま」
「ただいまじゃないわよ! 馬鹿っ! 馬鹿ぁ……!」
ああ、うん。
たぶん、愛ってやつだよ。
愛だよ、愛。
この世界で一番、大事なことさ。
人間だけがもってる、宝物だよ。
「この世界で一番……人間だけの……」
この世界はもう、どこもかしこも地獄になっちゃったけど。
でも、愛に溢れてる。
大丈夫、きっと世界は、きれいなままさ。
「あ……」
うおわっ!
ちょっ、なんでここで泣くの!?
「わかり、ませ……なみだ……出て……なんで、とまらな……あっ」
ああ、だめだめ。
手でごしごししない。赤くなっちゃうから。
女の子なんだから、顔は気をつけなきゃ。
ほら、こうやって、優しくぬぐってやらないと。
「リョウ……私、やっと……やっとわかったことがあるんです」
アリサ?
あの、涙、拭かないと。
手、つかまれたら、その。
わあ、ほっぺたぷにぷに……。
「お願い……もう少しだけ、このままで。もう少しだけ……」
なんか、こういうの前にもあったような。
えっと、それで何がわかったの?
「あれですよ……ね?」
あれ?
リンドウさんと、サクヤさん?
どゆこと?
「ドン引きってことですーだ! リョウのバカラリー!」
なぜにホワイ?
まあ、笑ってるんだし、いいか。
「バガラリーだよ! って、リョウ! 大変だ!」
お、おう!
どうしたコウタ!
「公共放送の懐かしのアニメ総集編に、バガラリーが出るんだ! もうすぐ放送時間がきちゃう!」
「やっぱりコウタはコウタか……」
お、おう。
「帰ろう、みんな! アナグラに!」
……そうだな。
うん、帰ろう。
アナグラに。
「帰ったらどうします? あっ、サクヤさんと結婚式しちゃうとか!」
「も、もうコウタ君ったら、気が早いわよ、もう……!」
「そうだなあ……まずは姉上にどやされないと……ああ、憂鬱だ」
心配しなくてもいいですよ。
お二人には幸せな未来しかきませんから。
子供もね、女の子ですよ。たぶん。
「なんだか、不思議ね。あなたにそう言われると、本当に女の子が産まれてくるみたい」
おや、そういうの、否定しないんですか?
「こ、こらっ! からかわないの!」
「あー、前向きに善処するってことで」
はは……いやあしかし、産まれる前の子にプロポーズ受けたら、それはどうなんだろ。
「おい、お前今、聞き捨てならん単語が聞こえたぞ」
さあ帰ろう!
「おい! リョウ! お前……あっ、もしかして隊長押し付けちゃったこと怒ってる?」
はっはっはーさあ帰るぞー。
帰ってバガラリー見なきゃなー。
「へへ、ソーマも俺達とバガラリーな!」
「はあ? 何で俺まで……おい、コウタ! 待てこら!」
「みんなー! 先行っちゃうよー! ほら、リョウも!」
はいはい。
アリサ、行こう。
一緒に、な?
「はい!」
みんなで、帰ろう。
家に帰ろう。
俺達の家に――――――。
「今はまだ、溢れる想いが大切すぎて、言葉にならないけれど……いつかきっと伝えますから。私の気持ち。あなたに教えてもらった……世界で一番大事な――――――」
■ □ ■
『ep,for2』
「世界各地を飛び回っていた君を、ここに呼び戻した理由を話そう」
すごく……嫌な予感がします。
榊さんの顔、おれ最近、見分けがつくようになってきましたよ。
それ、やばいこと話す時の顔ですよね?
ここまで付いて来てくれたツバキさんとか、もうすっごい暗い顔してましたもん。
すまない、って俺の耳のとこなでなでして慰めてくれましたもん。
今から話すのって、やばいことですよね!?
「君がアナグラを離れていた間に、君のゴッドイーターとしての登録情報をすり替えておいた。今の君は、加賀美リョウタロウであって、非なる存在」
待って、話が見えない。
待って。
「加賀美リョウタロウは、“今も変わらず極東支部から離れて欧州で活動中”。いいね?」
アッハイ。
「君は、防壁外の集落を中心にアラガミ退治を請け負い金品を巻き上げる、傭兵ゴッドイーター……血で染めた赤い肩、赤い肩をした鉄の悪魔、悪名高き吸血部隊の隊員として」
やめて。
お願いだから、やめて。
それ以上口を開くなら、例え榊さんでも手を上げることを辞さない。
「それじゃあ、在野で新たに見出された、新人ってことで」
それなら、まあ。
何か上手いこと乗せられたような。
ああ……赤紙が届いたあの日のことが、今よみがえる……。
「君には、新米ゴッドイーターとして、とある場所へ潜り込んでもらいたい。そう、スパイ活動だよ!」
色んなことがあったけど。
もう一度だけ、言わせて欲しい。
「目標は、独立移動要塞……その名も、フライヤ――――――!」
フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない。
お小遣い稼ぎに接触禁忌を狩りに行く。
それが極東支部クオリティ。
これはマジキチ扱いされても残当ですわ……。
多くのご感想をいただき、すべてに返信することが出来ず、大変に申し訳ないです。
皆さまのご感想、身に染みて有り難く思います!
今後に向けてのアドバイス等、変わらずに頂けたら幸いです。
それでは、ありがとうございました。
さて。
実はGE2は未プレイでした。
ので、いい機会ということで、GE2のDL版を購入いたしました。
ええ、それだけです。それだけですとも……!
いえ……! 続けたいのは山々なのですが……
勘違いもの難しすぎるんよーーー!
ネタがない!
作者に厳しすぎませんかねえ勘違い系って!
うおお・・・考えすぎて知恵熱ががが
とりあえずGE2クリアして、ネタがなんかぽんと浮かんだら、それから考えます・・・・・・
とりあえず、完結ということで!
それでは!