フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 作:ノシ棒
三人掛けのソファの肌触りは、流石はフェンリル直轄であると感じさせられる。
綿がふんだんに詰め込まれているのだろう。座ればゆったりと沈み込み、優しく体を包み込む。
一般職員向けのラウンジでこれだ。与えられた自室は小さいながら、しかし高価な調度品で彩られていた。
正直なところ、高級志向すぎて居心地が悪い、というのがリョウタロウ・・・・・・ユウの本心である。
最前線であるはずの極東よりも、一世代も二世代も先を行く施設設備。
フェンリルの“経済活動”の成果が如実に現れているようだ。
インフラも、そもそも経済活動を行う人間の数すらが死んでいるのだ。貨幣も何もあったものではない。金貨で腹が膨れることはないのだ。
物々交換、文化行動の基本形にまで引き落とされることが当然だというのに、人類は未だ旧世界の概念に囚われている。
どちらがいい、とは言えない。フェンリルを悪とするならば自由を目指すべきだが、そうとは言い切れない。彼らが人類の守護者であることは間違いないからだ。
オペレーターのあの少女は、どうやら潔癖が過ぎるようだ。経済という“プロパガンダ”に染まらぬことが、善性であり自主性であると信じている。乙女だな、とユウは思った。
彼女もまた、正義感という、旧世界の感覚を引き摺ったまま生きている。本質的に、経済概念にがんじがらめにされた生き残った人類と、何ら変わりはない。
だがそれでいい、とユウは思っている。むしろ、それがいいのだ。
フランと名乗った少女は、それを旧世界から続く人間の愚かさであると受け取っていた。
だが、ユウとしては異なる見解である。執着を悪徳と捉えてはいない。流されて生きることも良し悪しである。
滅びかけた世界で、それでもなお振りかざす固執、執着、妄念・・・・・・それは、意地(プライド)と言い換えることはできないだろうか。
“欲”、という感情。それもまた、人が生み出した一つの発明、答えなのだ。
未だ人は、自らの誇りを手放すには早い。
「ねね、それなに? それなに?」
「ほら、足ぷらぷらさせんな」
こうして幼い少年少女が笑い合う姿を見るたび、常々思う。
まだまだ人も捨てたものではないな、と。
「わあ、日本語だ!」
「おう、広報のスクラップ集めてんだよ。どーよこれ」
金髪をニット帽に包んだ快活な少年が、ばあんとフォルダを広げる。
オレンジを基調とした服を大胆に、かつだらしなくないように着こなしている様は、どこかコウタを彷彿とさせる。
見た目通りの明朗快活な性格なのだろう。どこかすらりとしたシルエットは、欧州の血の流れを感じる。
掲げた手製のファイルフォルダには、表裏表紙に支部広報のスクラップが無秩序に貼り付けられていた。
「知ってる! シプレ・シルブプレ?」
「オゥ、メルシー! わかってんじゃん!」
「それとこっちは・・・・・・歌姫! 歌姫ユノさんだ!」
「すごいよなあ、歌超うまくってさ。俺、すぐにファンになっちゃったよ! へへ」
『シプレ』、とはスクラップ写真の大半を占める、“バーチャル”アイドルの名である。
“このご時勢に沿った”アイドルと言えよう。
人の数自体が少ない昨今で、人々を慰撫するアイドルといえば、二次元のものを指すのは当然のことだ。
故に“生”である『ユノ』の人気が急上昇しているのだろう。
今では公営放送をつければシプレとユノのどちらかが映っている程だ。
ユノは極東を足がかりに、世界中の支部を回って歌を届ける、今や時の人となっていた。
「ずっと極東から離れてたから日本語久しぶりだなー。なんだか懐かしいなあ」
「俺が日本語勉強し始めたのは極東の広報読むためなんだよね。さすが最前線、サブカルも最強だよな」
「ねね、じゃあこれは?」
これ、と少女が指差したスクラップ。
他のものより数が少なく、しかしシプレやユノのものとは明らかに異なる扱いの記事だった。
どこか神聖染みたもの・・・・・・祭壇のように感じる。
紙面の上に、手製の祭壇が作られていた。
「これは・・・・・・俺の、憧れだよ」
これまでのはしゃぎ様は鳴りを潜め、少年の横顔は遠く憂いを帯びた、精悍ものとなる。
その横顔を知っている。
幾多もこの眼で見続け、そして消えて行った顔・・・・・・幼い、戦士の顔だ――――――。
「“神狩人”」
「かみ、かりうど?」
「うん、最強のゴッドイーターの名前さ。本名は知らない。顔も、ピンボケの写真ばっかりでわからない。
情報規制が掛かってて、本当にいるのかいないのかさえ・・・・・・でも俺、わかるんだ。
いるよ。英雄は、いるんだ。人の運命を背負って戦い続ける男が、確かにいるんだ。わかるんだ。感じるんだよ・・・・・・。
いるのか、いないのかはもう、いいんだ。誰かにそうやって信じさせることが出来るのが英雄で、そして俺は信じてる。
だから俺も、いつかそうやって、あいつが戦っているって・・・・・・他のゴッドイーターに信じさせてやれるような、英雄に――――――」
それ以上の言葉はなく、目を閉じる。
誰も口を開くことができなかった。
吐息の音でさえ大きく感じる、静謐な時間が流れていく。
祈りの時が。
「なんてな! ちょっとクサすぎたか! へへっ」
「ううん。凄く・・・・・・素敵だと思う。ねっ?」
語り合う二人の少年少女の横に、静かに座る男が一人。
ユウである。
――――――ソウデスネ。
死んだ魚のような目だった。
「でさ、神狩人ってRって呼ばれててさ、Rが使ってる神機をRシリーズっていって、俺のバスターもRシリーズに似せててさー」
「ほうほう、カッコイイねえ」
「すげーんだぜ! また詰らぬものを斬ってしまった・・・・・・悪鬼羅刹共よ、冥府に堕ちるがいい・・・・・・とかさ、とかさ! Rの決め台詞とか言っちゃったり!」
――――――そんなこと言ったことない・・・・・・。
「うわーっ、これ、これすごいね! 神狩人の浮世流し、極東トトカルチョ。だれとくっつくでショー?」
「それは英雄だし、女の子にきゃーきゃー言われちゃったり」
――――――言われたことないし・・・・・・情報統制だしそれ・・・・・・。
「うわわ、これもこれも! 神狩人セレクション、今年最も熱い極東ファッション!」
――――――制服しか着たことないし・・・・・・。
「俺はこれ、神狩人の・・・・・・」
「神狩人が・・・・・・」
「神狩人――――――」
「神狩人――――――」
――――――もうやめてぇ。
ユウのライフはとっくにゼロである。
心が折れそうだ。
「元気ないね? おでんパン食べる?」
――――――イタダキマス。
「俺も食う食うー、ってぇ! なんだよそれ! 極東のおでん、とかいうのにパン? 合わないだろそれぇ!」
「えー、おいしいよ? お母さん直伝、ナナ特製のおでんパン! おかわりもあるよ?」
――――――イタダキマス。
「おおう・・・・・・ほんとに食ってるよ」
「もっと食べる?」
――――――イタダキマス。
「おい、お前ら串はどうした」
「おいしいよ?」
「えっ・・・・・・いや、おい! 串ィ! 普通に口にいれんな!」
――――――歯ごたえ。
「歯ごたえ」
「んんん!?」
――――――男は度胸。何でも試してみるもんさ。
「すごく・・・・・・木製です、けど・・・・・・」
「ほら、ぐいっとぐいっと!」
「やめろこら近付けんな!」
ごりごりと口の中をいわせながらパンを食む。
おでんとパンのハーモニー。
意外といけるものだ。
「まったく、まったく!」
「そんな怒んなくてもいいじゃんもー。ほらほら、機嫌直して。ね? 『ロミオ先輩』」
「む、むむ」
――――――ロミオ先輩。
「も、もっかい言って・・・・・・」
「先輩!」
――――――先輩! オナシャッス!
「うっし、お前達より1年先輩のこの俺、『ロミオ・レオーニ』が色々教えてやっかんな!」
ブラッド第一期候補生、ロミオ・レオーニ。
年下の先輩、ということになる。
年功序列に囚われていないおおらかな気風は欧州らしく、ユウにとってとても好ましいものに映る。
極東は最前線といえど、未だに年齢に上下関係が縛られている節がある。そう思うと極東人として、ロミオの振る舞いが非常にまぶしく感じた。
名前の響きからしてイタリア産まれだろうか。
どこか幸が薄い感がするが、このようなムードメーカー成り得る性格は、得難いものであることを知っている。
「よろしくお願いしますロミオ先輩! 『香月ナナ』、がんばります!」
敬礼がどこかコミカルに様になっている。
ブラッド第二期候補生、『香月ナナ』。
慌てて、「こっちじゃナナ・香月だったっけ」と言いなおすのは、極東の生れである証明だ。
黒髪のミドルヘアーをアップにして、ピンで纏め上げている。毛先が頭の先から二つに割れて飛び出しているのが、どこか猫耳のように見えていた。特徴的な髪型である。
しかし猫の気紛れさや冷たさは感じず、子猫の人懐こさだけが残されたような、そんな少女だった。
が、ユウとしては特筆すべき箇所はそこではない。
――――――ムーブメント・・・・・・!
彼女のムーブメント・・・・・・極東で言う所の、ファッションである。
下半身はホットパンツに左右非対象な長さのブーツ。これだけでもかなりのムーブメントポイントであるが、しかしユウが注目する点は上半身。
チューブトップ一枚である。肩を抜いたジャケットを羽織ってはいるが、これは下着一枚よりもむしろ露出が高い。
そのチューブトップを、ゴッドイーターの運動量で落ちないようにして、サスペンダーを首に通して吊り下げている。
細い首を一周りするサスペンダーは、止め具が甘いのか、片側が外れて宙に揺れていた。
左右非対象、明け広げな色気の中に、触れてはならない幼さが含まれている。奇跡のムーブメントであった。
――――――ここでムーブメントを言ってしまってもいいのだろうか・・・・・・どうみてもこの子は16歳くらい・・・・・・20越えた男がそういう目で見るのは犯罪・・・・・・いやしかし!
「どうしたの?」
――――――いや、なんでも。極東は赤く燃えています・・・・・・師匠。
「えっと・・・・・・」
――――――そっちこそ。どうしたの?
「ううん、なんでもない」
「で、ナナに、そっちはユウな。ああ、名前知ってるんだよ。昨日からずっとジュリウスがユウがユウがーって言っててさ。気に入られたなーお前」
――――――良い意味でならいいけどなあ。何か目を付けられた感じがする。
「そうか? ジュリウスが笑うとか、俺ほとんど見たことないんだけど。いや、あれは笑うっていうか、ニヤニヤしてた? うーん」
「あ、ほらラケル博士がきたよ!」
『ラケル』の伝導車椅子の特徴的な機械音。
それと共に、黒のヴェールに身を包んだラケル博士が現れる。
神機との連結後バイタルチェックの際に顔を合わせていたが、どうにも慣れない。
取っ付き難さと、拒絶感を同時に感じる。どこか浮世離れした感がある女性。それがラケルという人物であった。
背筋を這うような声はとても魅力的なのだが、惜しい。というのがユウの正直な感想である。
声フェチ・・・・・・ムーブメントとでも言うべきか。声だけサンプリングして取り出して、バーチャルアイドルにパッチしたらヒットするかもしれない。
そういえばシプレの声に非常に似た部分があるが、さて。
ラケルの姿が見えると共に、全員がソファから立ち上がる。
上司が登場したら背筋を正す。戦闘者ではあるが、そこは会社人である。
気をつけの姿勢に、ラケルは満足そうにして微笑んでから口を開いた。
ラケルからの説明は、ユウが入隊の際に目を通した書類の通りであった。
大半が“血の力”について――――――ロミオに一年勤続経験があっても、未だ“候補生”が抜けない理由。それが“血の力”にあること。
血の力とは、言ってしまえば“必殺技”であるという。
「貴方たちはゴッドイーターの先頭に立ち、彼らを教導する存在なのです。本来なら正式な晩餐会を催したいところですが・・・・・・」
ラケルが何か含むものがある目で、ユウをチラと見る。
探るような目だ。
ユウの額に脂汗が滲む。
榊さん、これ、ばれてるんじゃないですかね。
「ふいーっ、緊張したー」
「だよな。なんかこう、あの人の前に立つと緊張するんだよな」
「マグノリア・コンパスにいた頃のこと思い出しちゃったよ」
「つってもそんな昔じゃないだろ?」
「そうだけどー、むー」
「まあ、訓練までまだ時間あるんだろ? 俺もまだだし、ほら、それまでこれ読んで待ってようぜ」
「おっ、極東広報! 新作ですな?」
「おう! 今月号の特集はこれ、神狩人激白! ゴッドイーターは嘘を付くと鼻の頭に血管が浮き出る」
「なになに、嘘だぜ・・・・・・だがマヌケは見つかったようだな? おおーっ! 謎解きモノ! 真実はいつも一つ!」
――――――ちょっと一人歩きしすぎぃ! リョウタロウさん可哀想でしょ!
新人達とのおしゃべり会など、極東では恐れられて無くなってしまった体験だ。
二重の意味でユウは涙が出そうになったが、脇腹をつねって耐え抜いた。
「これから先、訓練を重ねて、そして実戦・・・・・・かあ。なんだか緊張するね」
「そんなもん慣れだって、慣れ。そう何度も任務があるわけじゃないしさ、週にニ回あれば多い方っしょ」
「意外と少ないんだ」
「これ以上多かったら人類滅んでるっての。野生動物の襲撃みたいなもんでしょ。そう何度もないって。だからゴッドイーターなんて少人数で“もって”るんだし」
へえと頷くナナの後ろで、小声でユウはロミオをつつく。
――――――優しいんだ。
「は、何が?」
――――――だってほら、週ニなんかじゃきかないだろ? そうだよな、最初は簡単だってーって言っておいて、後から抜け出せないデスマーチに追い込むのが常道だもんな。
「え・・・・・・何それ・・・・・・怖い・・・・・・」
――――――は?
「え?」
――――――いや、一度の出撃で三回任務が入って、でも帰ってくるまでが任務ですってカウントは一しかされないとか、そういうのが普通でしょ?
「い、いやいやいや、どこのブラック企業だよそんなの・・・・・・そいえばお前、ナナと違って極東上がり・・・・・・」
――――――普通でしょ?
「いえ、はい、そうですね・・・・・・極東こえー・・・・・・極東人おかしいって・・・・・・」
ロミオの呟きはユウには聞こえなかったが、何故かまた勘違いされるフラグが建ったような気がした。
「でも血の力・・・・・・必殺技かぁ、早く使ってみたいね!」
言って、ナナが耳の辺りをユウの肩に擦り付ける。
不意な距離の近さ。ちょうど猫がそうするような仕草に、ユウは口元を引くつかせる。
ぎょっとしたユウの顔に気付いたのだろう。あっ、と小さく声を上げてナナは身を離す。
ユノの画像を切り抜くのに夢中なロミオはわからなかったようだが、大胆な格好をしていてもナナは他者との距離感に敏感であるようだ。
極東広報で盛り上がったくだりは、明らかにナナが“合わせた”ものだ。そうまで興味が無いであろうことは、視線でわかる。ロミオのように食い入るように見やることはなく、むしろ別の記事にばかり目が行っていた。
相手のここまでは踏み込んでもいい、という距離をナナは肌で理解しているのだろう。身体的にも、精神的にもである。
だから、それに一番驚いたのが、ナナ自身であったのは間違いがない。
まるで自分で自分の行いが信じられないかのように、目をぱちりと瞬きして、首を傾げる。
「えっと・・・・・・なんでだろ、あれ? あー、ごめんね。急に」
――――――いや、いいよ。気にしてないよ、ナナ。
「ん・・・・・・その、変なこと聞いてもいい?」
――――――どうぞ。
「ねえ、ユウ・・・・・・私たちって、どこかで会ったことない?」
――――――うーん。
しばらく考えてから、ユウは答えた。
――――――いや、俺はずっと極東にいたから、初対面だと思うけど。
「だよね。あはは、ごめんね変なこと聞いちゃって」
再び話しに華が咲く。
ロミオとナナが盛り上がるテンションに巻き込まれながら、つられてユウも笑う。
鼻を撫でながら。
□ ■ □
良い初陣だったな、とジュリウスは囁くように言った。
ガラスに注いだ琥珀色のブランデーに、砕いた氷が泳ぐ。
「お前から見てどうだ、ナナは」
――――――新兵に聞くことじゃないかな、と。
「謙遜はいい。素晴らしい動きだった。いや・・・・・・凄まじい、と言うべきか」
――――――あれは神機様。間違いなく俺の神機には神機様が宿ってる・・・・・・なんだよ俯瞰視点って・・・・・・自動戦闘って・・・・・・。
「明らかに新兵の動きじゃあないな」
――――――それは。
「深くは聞かないさ。ああ、聞かないさ・・・・・・お前が聞いてほしくないのなら」
――――――いいのか?
「フェンリルが一枚岩であるなどと思ってはいない。当然、ここも。極東もそうだろう? いいさ、深くは聞かない。お前がどんな理由でここにいるかは知らないが、お前が悪い奴じゃないことくらいはわかる」
――――――ジュリウス・・・・・・誓って、俺自身がお前達に、ここに害を為すことはない。上が何かしようとしても、大事にはならないようにする。
「お前こそ、いいのか? そんなことを言って」
――――――いいさ。仲間だと、そう言ってくれたからな。信じられることが一番嬉しい。
「そうか・・・・・・不思議と、大丈夫だと感じてしまうのは何故なんだろうな。これが甘さ故の過ちでないと、そう思いたい。後悔させてくれるなよ」
――――――ああ。期待を裏切ることはあるかもしれない。過ちを犯すことも。でも、後悔はさせない。約束するよ。
「楽しみだ。ああ、楽しいな。こんなに戦っているのが楽しかったなんて、初めてだ。体が軽かった・・・・・・あんなに幸せな気持ちで戦うなんて、初めてだった。もう何も怖くはない」
――――――手、大丈夫か? 戦いの怖さを教えるデモンストレーションにしては、少し大げさだったんじゃ? オウガテイルに腕を噛ませるなんてさ。
「回復錠はもう投与してある。とっくに傷は塞がったさ。ナナには少し、悪いことをした。脅かしすぎた」
――――――この一年、ロミオにも同じように接してきたんじゃないか? ちょっとどうかな、と思うけど。
「プレッシャーを掛けろ、というのが、俺がラケル博士から命じられたことだ。いずれゴッドイーター達を教導する立場となる故に・・・・・・人類を導く存在となるがために、だ」
――――――ナナはともかく、あれはあのままじゃ持たないぞ。
「わかるか・・・・・・そうだな。何とかしてやりたいとは思っている。だから、お前には期待しているんだ」
――――――これだよ。やめろよな。自分でやれよ、自分で。
「俺ではいけないんだ。俺ではな・・・・・・」
――――――なるようにしかなんないぞ。悪いほうに転がり落ちていくかも。
「それでも、いいさ。俺はお前に賭けたい。おかしいか? まだ出会ってすぐだというのに、そう思ってしまうのは・・・・・・思わされた、というべきか」
――――――どいつもこいつも・・・・・・俺を出来る奴だなんて勘違いしやがる。重いんだよ、いい加減。
「人が人にかける希望は身勝手なものさ。お前もそうだ」
――――――俺は、誰にも望みなんてもたないよ。
「それだ。人は一人でも生きていけるという、強い信念がある。お前は人に望みを持たない。他者からのそれも否定する。人は変わる必要はないとさえ思っている。
変革すべきは世界。お前は今この世界に希望を見出すこと、それだけを願っている・・・・・・違うか?」
――――――見透かしたようなことを・・・・・・ならお前は逆だ。世界が光で満ちているなんて信じて、人に絶望してる。
「ああ、逆だな。だから人の内側に宿る光を求めてるんだ・・・・・・矛盾だよ。俺達は同じ矛盾を抱いている。向いている方向は逆なのにな・・・・・・まるで“鏡”合わせだ」
――――――カガミか。
「ああ、俺はお前を通して、自分を見ている」
――――――カガミに向かえば、全部“自分に返る”だけだ。自分のことが解んない奴は、カガミを見るしかない。
「己に返る、か。洒落た名前だ」
――――――言うなよ。意外と気に入ってるんだ。
「ははは、怒ってくれるな。ロミオとナナを、良く見てやってくれ。まずはそれだけでいいさ」
――――――ナナはともかく、ロミオは手ごわいぞ。劣等感ってやつは厄介なもんだよ、ほんと。
「こればかりは本人に何とか乗り越えてもらわないが、切欠がないことにはなんともな。周囲の言葉は全て同情にしか聞こえまい。それは戦いの中でこそ磨かれるものだ。見上げるものがいる戦場の、な」
――――――うまいこといかないよな。ほんと、隊長はつらいぜ。なあ。
「わかってくれるか・・・・・・ああ、何故なんだろうな。俺なりにやっているだけだというのに、何故か恐れられ、拒絶される。積み上げた功績も確かにあるが、過剰に評価され、それがまた畏怖へと繋がっていく・・・・・・何故なんだ」
――――――わかるよぉぉ。なんてーの、そんな深く考えてないのに、存在しない裏事情とか読み取られてたりして、いったい何がなんやら。
「口座番号を間違えて児童擁護施設に送金し続けているんだが、なぜかそれが善意の行いとして表彰されてしまった。
今更言えずに放っておいただけなんだが・・・・・・ロミオの視線が痛いんだ。俺はそんな尊敬されるようなことはしていないのに・・・・・・。何故かこう、高級志向なイメージが付いてしまって身動きがとれないんだ。
俺が食堂に行くと、皆がぎょっとした顔をする。俺はいつもフルコースや本場のティーセットに囲まれて食事していると思っているらしい。それはそれでいいものだが、でも違うんだ。俺だってもっとこう、安価なジャンクフードを食べたくなる時もあるんだ。
寝転がってスナック菓子をつまみたくもなるんだ・・・・・・部屋ではジャージを着て腹を出しながらだな・・・・・・」
――――――わかった。わかったからそれ以上飲むのはやめよう? な? 勧めた俺が悪かったから。
「アルコールはいいものだな。今まで避けていたのが馬鹿らしい気分になる。こんなにいい気分なのはお前のおかげだ。抱き締めてもいいか?」
――――――こいつソーマより酒癖悪いぞ・・・・・・! にじり寄ってくんなし! グラス置け!
「俺は、嫌われてるんだろうか・・・・・・」
――――――ないから、皆お前のこと尊敬してっから。たぶん。
「尊敬されたいんじゃないんだ。俺は、俺はっ!」
――――――めんどくさすぎぃ!
この鉄面皮を崩してやろうと、酒の席に誘ったのが間違いだった。
後悔をひしひしと感じている。飲みにケーションとかほんと悪しき慣習だよちきしょん。やめときゃよかった。
さすがいい酒が揃ってて、気持ちよく酔えそうだとは思ったけど、これはない。
なんなんだよ、男の絡み酒って、誰得だよ。
溜め込みすぎだろこいつら。
フライアいいとこだって思ったけど、閉鎖的すぎるんだよな。極東よりずっと鎖国してるよここ。
なんか皆やたら固いっていうか、一番フレンドリーなのが警備員の人達ってどういうことだよ。
世界情報が掲示されてるモニタ睨んで、昨今のアラガミ事情がなんとかかんとか、そんなことで悩んでる人が多すぎるんだよな。
そんなの考えるより、足元固めようぜって言ったら、その発想はなかった、みたいな顔するし。
上を目指すよりは前に行こうぜ、っていう話。
フライアはキャタピラ艦なんだから、どこまでもいけるじゃん、みたいな。
俺ちょっといいこと言ったわ。
でも、さすが極東人だ、って言うのはやめような。
極東人は戦闘種族じゃないからな。
対応がほんと戦闘オンリーだけなのはやめてくれませんかね。
海外の極東人のイメージおかしくない? 遠征行ってた時もそうだったぞ。
ここで俺がしてもらった訓練もペーパーテストじゃん。こんなの新兵にやる初期訓練じゃないぞ。
そんで今日の、実地訓練という名の初陣カッコカリですよ。
今更オウガテイルとか楽勝だけど・・・・・・楽勝だけど!
慣らし運転なしだったからビビるっつーの! 急に主導権ぶんどるとかやめてくれませんかねえ!
ねえ、神機様!
ちきしょん! また会えて嬉しいぜ!
でもいきなりアクションゲー化は勘弁な!
なんか薄い壁に阻まれてる感じで、意思疎通できないのは仕様ですかね!
初期の頃の一方通行コントローラーで怖いの半分、懐かしいの半分・・・・・・いや、怖いのがほとんどだけど!
また素材収集マラソンが始まるのか・・・・・・へへ。
う、嬉しくなんてないんだからねっ。
でも本当、お前が帰ってきてくれて嬉しいよ。
どこか遠くに感じるのは、しょうがないのかな。
まだ出会ってはいない。そういうことか。近いのに遠い、寂しいよ。でも、いずれまた会えるなら、今は俺が出来ることをするよ。
だからお願い、手加減してね。
しかしこれ、榊さんになんて報告しよう。
もうぶっちゃけスパイなのバレてるけど、うん、身バレだけは断固阻止せねば。
俺のためにも、俺のためにもだ!
なんなんだよあのトンデモ広報!
俺100人斬りとかしたことないよ。まだ綺麗なままだからね? 泣けてきた。
神狩人とかほんとなんなん?
俺の精神衛生的に悪すぎんぞマジで!
「ところでユウ」
――――――なんだよ。
「お前が極東の誰かは解らんが、もしかして神狩人」
――――――シャオラッ!
「とくいてんっ!」
――――――あ、あーっと、飲みすぎて寝むくなっちゃったかな? はは、ははは、やだなあ隊長。ははははは。
これだから鋭い野郎は!
身バレだけは・・・・・・立場は暴かれても身バレだけは断固阻止せねば!
100人斬りがゴシップだとばれたら俺は・・・・・・あばばばばDTちゃうわ!
ツバキさんと色々したりして・・・・・・あれ? 最後までいってない? あばばばば。
あああ駄目だなんかもうこれ以上は色々限界!
限界だからあ!
助けて榊えもーん!
□ ■ □
「えうっ、えっ・・・・・・え、ぐ・・・・・・げぇ・・・・・・!」
――――――ナナか? どうした。戻してるのか?
「あ、ああっ・・・・・・! ごめんなさ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめ・・・・・・なさ・・・・・・えぐっ・・・・・・ふ・・・・・・!」
――――――誤魔化さないでいい。人を呼ぶか?
「ごめん・・・・・・ごめんね・・・・・・」
――――――“いつから”だ?
「わかるんだ・・・・・・」
――――――食ったら戻すようになったのは、“いつから”なんだ?
「わかんない・・・・・・ずっと前から、おでんパン以外は、こうだから・・・・・・。ロミオ先輩に勧められて、初任務パーティーでちょっと食べ過ぎちゃったかな・・・・・・えへへ、だめだよね、こんなの。食べられなくて死んじゃう人もいるのに」
――――――普段は栄養剤か・・・・・・普通に食うよりよっぽど栄養はあるし体も維持できるだろうが、ああ、くそっ。あやまらなくていい。ナナ、こっちを見ろ。俺を見るんだ。
「ごめんなさい・・・・・・服、よごれちゃった・・・・・・」
――――――いいんだ。いいんだ、ナナ。謝るのは俺の方だ。悪かった。俺が全部、悪かったんだ。
「えへへ・・・・・・おかしいの。どうしてユウが、そんな顔するの?」
――――――なんでだろうな。おかしいよな・・・・・・さあ、一緒に食べよう。少しずつでいい、少しずつ・・・・・・一緒に。
大丈夫だ。俺はここにいる。ここにいるから・・・・・・もうお前を捨てて、どこかに行ったりなんかしないから――――――。
抱えこみすぎフライア24時。
リョウタロウ君の胃が爆発するまでのチキンレースがはっじまっるよー。
当初、ヘルシング的な主人公の夢の中で神機様の精と会話するシーンを大量に書いていましたが、あまりにも絵面が汚かったのでばっさり削りました。
英断だったと思います。
神機様はキレイな神機様以外ないんだよ!
描写細かくしすぎてもだれるので、戦闘シーンは大きくカットします。
ギル登場からシエル登場までまきまきでいきましょー。
しかし・・・・・・本格的に勘違いネタが浮かばない・・・・・・。
ここは落ち着いてマイクラをしながら艦これしつつ刀乱舞をするか・・・・・・。
※
なお、活動報告のあれそれについては艦これ読みきりが失敗しすぎたので今回はお休みにします。
前回のぽけ黒白は読んでくれてる人がいたのだろうか・・・・・・裏に出してる分邪道かもだけどうーん。
ナナシのナっちゃん海上ドロップ→超堅物ナっちゃん→漁村町でなっちゃんと出会う→アイドルにあこがれるなっちゃん→深海棲艦出現→
なっちゃん死す→ナっちゃん覚醒→アイドルに→アイドルマスター那珂ちゃんだよー!
こんな感じだったのですが、暗すぎて途中で力尽きてやめました。
那珂ちゃんのファンやめます。