DEAD OR ALIVE 【SAMUEL RODRIGUES】   作:eohane

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ハーメルンよ……私(ry

どもども。お久しぶりです。私ですeohaneです。いやーほんと……もー……はい。

ではでは。


鬼がいる

「さてと……そろそろ撤収かねぇ」

 

 空を見上げつつ、オーグロ・ホドリゲスは呟いた。

 

 マナウスからネグロ川に沿って遡り、タプルクアラを通り越してさらにアマゾンのジャングル奥地に位置するここ、クロノイテ。現地民が訪れることは皆無に等しく、人が生み出す有機体の匂いが一切しない、自然1色の広大な大地。年間を通して30℃前後の気温を記録し、直射日光と共に地面から水分を果てしなく蒸発させ、文字通りの高温多湿を具現化している。

 ジャングルに入れば、特異な生態系が成す様々な種の美しい動植物が、川に入れば、透き通った水に眩い装飾が施された色とりどりの水生生物たちが────いるとかなんとか勘違いしている奴は真っ先に死んでいく、そんな所。

 

「今期の収穫はやや減少……まあ俺たちが食い過ぎたってのもあるが。……なあ、間抜けヤロウ(ポルトゲス)

《ええ。今回の現地入りでは、現時点で通常の収穫量より約7%ほど減少しています。もう少し、消費を抑えてください》

「……いやだね。どーせ本業じゃないし、今回はそれどころじゃないし」

《……サムエル様、ですか》

 

 携帯端末から空中へ浮かび上がるAR (拡張現実)を睨み付けながら頬をポリポリと掻く。画面には、グラフ、データが事細かに映し出されている。……今、サムの画像データが画面いっぱいに映し出された。無視してデータをスライド、視界から消す。

 

「……いつも思うんだがお前、その口調どうにかならんのか? 執事じゃあるまいに……」

《会話IF(インターフェース)発声バージョンの変更をお望みでしたら、『従順メイドver』、『ドS女王様ver』、『変態メス豚ver』、『ボクっ娘ver』、『ツンデレヤンデレクーデレデレデレver』等、各種取り揃えております。如何致しましょう》

「いろいろと偏りすぎだ。製作者の趣味がモロバレじゃねーか。……そういうアブノーマルな奴じゃなくてもっとこう、ノーマルスタンダードな奴は無いのかって聞いてるわけ。おわかり?」

《はあ……それでしたら、先日アップグレード致しました『んほぉそこぉらめぇいくぅver』、『アヘ顔ダブルp──》

「変更は無しだ。最後の2つ1周回ってちょっと興味あるが変更は無しだ。いいな?」

《そうですか。残念です》

 

 このような()()()()ごときにムキになって喚いてしまった自分が情けなくなる。とある友人達から譲り受けたこいつだが、当初と比較にならないほどの成長を見せているところが恐ろしい。まるで人と会話しているかのように、違和感を感じない。

 

「それよりもアップグレードってのはどういうことだ? 俺はした覚えは無いが」

《……オーグロ様、私の正式名称を覚えておいでですか?》

「あーあれだ、MSA-0011 Superior(イオタ) GUNDAM的なあr──」

《その通り。自律制御システムALICEです》

「そう、それだ。俺が覚えていないとでも思ったのk ──」

《正しくは、『試作型会話IF登載 完全自律思考光ニューロAI』です》

「あ、はい。そうでしたねわかります。……俺のジョークがわからなかったか?」

《いえいえ。ジョークにジョークを返したまでですよ》

 

 思わず手元の端末を見やる。このヤロウ、人を出玉にとってやがる……。

 素直に驚くオーグロだった。

 

「お前、成長するにつれていい感じにムカついてくるな」

《えへへ。照れちゃうなぁ》

「やめてくれや寒気するわ」

《ハアァァ……オーグロ様に罵られてるのおほぉ──》

「ストップだ。そろそろグタリ始めたからいい加減もとに戻そう。で、だ。いったい誰がアップグレードを?」

《私です》

「……は?」

 

 間抜けな声が出てしまった。今、この生意気なAIは何と言ったのだ。

 

「……え、説明それだけか?」

《何と言ったら良いか……私のメインCPUには、開発者のキロネックス様より『自由(フリーダム)』と呼ばれる基礎プログラムが組み込まれております。このプログラムにより、ひっくるめて言えば自己の性能向上を“ある一定の限度の中で無限に”行うことが可能なのです。──えー……、敵プログラム(ウィルス)からの防衛、破壊、逆探知、攻撃、殲滅。世界各地に分散するコンピュータネットワークへステルスアクセスすることによるあらゆる情報の閲覧。膨大な“量”の電子化(デジタル)情報の処理、管理等、様々な能力を私独自に“アップグレード”することが可能なのです》

 

 ちゃんと“つなぎ”の部分に声を挟んでくる辺り、かなり無駄に人間らしくなったAIだ。

 

「……ただし、一定の限度の中で無限に、か。意味わからん。とすると、自力でFA (機能追加)はできないんだな?」

《はい。そこはキロネックス様によりしていただく他ありません。私は今ある機能を可能な限りアップグレードしていくのみです》

「ってことはさっきの会話IFのバージョン、完璧にお前の独断ってことか」

《もちのろんでございます。『スカイネットに、俺はなる!』を目標に、日々改良していきますよ》

「勝手にやっとけ。俺はもー知らん」

 

 パチモン臭漂う迷言を残してくれたところで、ようやくこのAIとの会話に一区切りがついた。よほど夢中になっていたのか、自室に戻るつもりが通り越してしまっていたことに気がつく。「あ~……」と気の抜けた声を発しながら、オーグロは踵を返した。

 雨が降り始めた。ここ最近見られる単発的な降雨と違い、雨季に降っても遜色無いほどの豪雨だ。時期が乾季から雨季へ変わろうとしている────

 

 こんな日だった。あいつと出会ったのは。

 (デウス)なんて信じる人間ではないが、本当に白い神が現れたんだ、少しは信じる気になったよ。

 

 だが、会わない方がよかったかもしれん。

 

 

 

 ***

 

 

 

 アマゾンには、雨季乾季なるものが存在する。雨季になると、それはもうドシャ降りが連日続く。大量の鋭い雨が土地を穿ち、やがてネグロ川の増水による低地の水没までもが併発する。

 これが、アマゾン奥地、それも川の畔で農業を営むオーグロの最大の敵と言っても過言ではない。

 元来、この土地には多量の植物が群生しているというのにその養分たる腐植土の層は数センチしか無いところが多い。理由は至極単純。増水したネグロ川の水が、根刮ぎ流し去ってしまうからだ。後には、窒素と燐が絶望的なまでに不足している強酸性の土壌が残される。雨季が終盤に差し掛かり、ネグロ川の増水が収束を見せ始める頃が最も酷い。

 ぶっちゃけて言えば、この地域は農耕に向いているとは言えないのだ。

 それでも、オーグロは父から受け継いだこの地を手放したりはしない。これには、この地に散っていった者達の意志も込められている。国家ぐるみの詐欺に騙され、丸め込まれ、挙げ句このような見知らぬ土地に放り込まれた棄民達の無念を、オーグロは受け継いでいる。

 

 ────かつてここは、日系移民者達の入植地だった。そして、深い絶望の果てに土に還っていった彼らの墓場でもある。

 第二次大戦後、日本国政府外務省が採った「移民政策」により、偽造された甘い宣伝文句につられ多くの日本人が移民してきた。だがその現実は、戦後の食糧難を回避するための体のいい口減らし、「棄民政策」に過ぎない。口八丁で彼らを言葉もわからない異国の地に放り出し、後は知らぬ存ぜぬを決め込む。脱耕者が目立ち始めれば、今度は入植を受け入れたはずの国側からパスポートを没収され、強制的に縛り付ける。また、後は知らぬ存ぜぬを決め込む────日本に帰国するためのパスポートも、金さえもなく、原始人同様の生活を強いられ、風土病に怯えながら死んでいく。土地から逃げ出せたにしても、乞食、街娼へ身を落とした男女は無数にいる……。

 オーグロの父母は、そんな彼らを見捨てることができなかったらしい。ただの自己満足であることを理解しながらも、何かとそんな日系人達の世話を焼いた。コネがモノを言うこの国で自身のそれを総動員し、できる限り支援してきた。元々大きな農場主だったこともあり、古参の従業員達の不満が爆発しないよう上手く取り計らいつつ日系人達を雇い入れた。

 だが、時期が少し遅すぎた。戦後の日系1世達は年老い、そのほとんどが日系2世に代替わりし始めていた。彼らを悪く言うつもりは無いが、2世は、1世達が経験したアマゾンの悲惨さを知らない。自身の肉親がどれほど苛酷な生活を強いられていたのかを覚えていない。

 ──あんまりだ、とオーグロの父は嘆いていた。彼らは、その代だけで忘れ去られる者達なのだ、と。

 そこで、彼はあえてアマゾン奥地で農業を営むことに決めた。この悲劇を後世に伝えていくために。……いや、綺麗事を並べるのはよそう。ただ単に国へ復讐(ベンジェンス)したかっただけだ。ただのアテツケだ。俺達はお前達が無理矢理押し込んだこの土地で生きているのだぞ、と。

 もちろん、採算が取れる見込みはなかった。事実、取れなかった。だがそれでもいい。彼らと共に、俺達がここに生きることこそに意味があるのだ、とオーグロはよく聞かされた。

 拠点は3つ。タプルクアラ、クロノイテ、さらに奥地、コロンビア国境付近のウアウペス。ここで、周期的に焼畑農業を営む。

 苦労は多かった。整地にしても、低地であれば雨季に入ると川に根刮ぎやられてしまう。故に高地へ選択肢は絞られていく。簡易な家らしきものを建て、機材を持ち込み、風土病対策をしっかり施しつつ、高温多湿の環境で生きるのだ。並大抵の覚悟ではやり遂げることはできない。しかし、逃げ出す者はいなかった。こればかりは本当に助かった。父の人徳の成せる技か、それとも全員が復讐に取り憑かれたのか──。

 何故、採算が取れない大赤字な事業にも関わらず続けることができたか──それはある一人の日本人のおかげだ。エトウという男だった。サンパウロ郊外にある巨大青果市場セ・アーザで苦労の末成功を納めた日本人だ。なんと偶然にも、クロノイテ出身の男だった。それもあってか、彼はよく目をかけてくれた。

 もう1つ理由があった。オーグロ……いや、ホドリゲスの昔からの“本業”だ。

 犯罪国家ブラジルでは、殺人、強盗、放火、その他もろもろが毎日尽きることなく多発する。大都市、ド田舎関係なく、だ。だがド田舎の場合、ブラジルの広大な土地も相まって警察の目が十分に届かない。よって、対処が遅れることになる。犯罪集団からしてみればまさに天国だ。金持ちに目をつけ、夜半に乗じ、電話線を切断しつつ集団で押し入る。人を呼ばれないよう殺人を犯し、女は寄って集って犯す。金目のモノを全て奪い、後はほとぼりが覚めるまでアマゾンに潜伏する……奴らの手口だ。被害者は泣き寝入りをするしかない。

 必然的に生まれるのが自警団だ。ホドリゲスの人間はそこに目をつけた。

 通常、自警団は被害者から泣きつかれた周囲の人間達に組織される。依頼主から前金を貰えば持ち前の広いネットワークを駆使し、潜伏先を特定する。銃器で武装し一気に襲撃、皆殺しにすれば終了。依頼主が人を遣って確認し、依頼金が手渡される。ことが済めば、自警団の者達は通常の世界へ帰っていく。

 ホドリゲスは、本業であり裏家業として、代々この自警団を組織してきた。依頼すれば確実に犯罪集団を潰してくれるということで、信頼が信頼を呼んだ。表向き、ホドリゲスの農業事業と契約しているように見せ、それが報復を恐れる犯罪集団への抑止力となってしまうほど、彼らの力は絶大だった。ホドリゲスの名前があれば、襲われることはない──裏の契約数は今も増加し続けている。

 

 だがもう1つ、ホドリゲスには裏の顔がある。

 

 暗殺家業だ。

 

 

 

 




サムの過去編ですが、間違いなくバッドエンドです。ええ。人によっては胸くそ悪いかもしれない。ええ。下ネタ多いです。ええ。こっちも溜まってんだよ察しろよゲフンゲフンいろいろと過激というかなんと言うかR18になりそーな予感はしてます。アレがね……ええ。いまいち境界線がわからん。まあ、注意とか受けたらそうします。はい。

テーマは「復讐」

ではでは。

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