DEAD OR ALIVE 【SAMUEL RODRIGUES】   作:eohane

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事実はSFより奇なり

「なっはっはっ! 俺達“お尋ね者(デスペラード)”になったぞ! 3000万ベリーだってよ!」

 

 キラッ、キラッ、と眩しい笑顔を浮かべるのは、我らが船長(キャプテン)モンキー・D・ルフィ。トレードマークの麦わら帽子に特徴的な左目の下の傷。黒髪黒目と、どこにでもいそう(?)な青年だ。初対面の人に印象を尋ねれば、笑顔の素敵な、麦わら帽子のよく似合う精悍な男、と好印象な返事が返ってくるだろう。

 ましてやこの男が、名のある海賊を倒し、海軍基地を潰し、世界をちょこっと混乱に陥れたなど誰も思うまい。

 

 とても清々しい──溜め息が出るほどに。

 

「アーロンより上か……やるじゃねぇか、ルフィ」

 

 そう言って笑うのは、緑色の髪(マリモヘッド)がよく映える、3刀流の剣士ロロノア・ゾロだ。世界最強の剣士“鷹の目”、本名ジュラキュール・ミホークとの戦いで2本の刀を失い、今は亡き友から受け継いだ刀のみ、腰にさしている。

 

「見ろ! 世界中に俺の姿が! モテモテかも」

 

 そう言ってルフィが持つ手配書を指差すのは、ドレッドヘアが特徴的な我らが狙撃手、ウソップである。お調子者で、嘘をつくのが得意という少し残念な青年だが、大物海賊“赤髪”のシャンクスの仲間、狙撃手ヤソップを父に持つ男だ。

 

「後頭部じゃねぇかよ。自慢になるか」

「そう言うなって。お前格好よく写ってるじゃねぇかよ」

 

 イジケているのは凄腕コック、サンジである。金髪、たばこ、女好き……と、不良の鑑のような男だ。どうもあの事件の後、手配された賞金首の中に自分が入っていなかったことに、少々不満があるらしい。一丁前にたばこを吹かしてはいるが、精神年齢はまだまだ青年(ガキ)のようである。

 

「……これは東の海(イーストブルー)でのんびりやってる場合じゃないわね……」

 

 はぁ、と溜め息をつくのは、この船の航海士ナミだ。魚人に支配されていた故郷をルフィ達(?)に救われ、今では共に旅をすることになった。好きなものはお金と蜜柑らしく、それの食べ過ぎで色付いたのではないかと疑ってしまうほどの、オレンジ色の髪をしている。

 が、残念ながら地毛のようだ。

 

「……いつの間にか随分と集まったもんだな」

 

 ────と、メリー号のマストの上にある見張り台から、船上を見下ろしているサム。

 先ほどまで自己嫌悪に陥っていたのが嘘のように、その顔はいつも通りである。ある種の悟りを開いたのかもしれない。

 その格好は、もはや当たり前となってしまった着流し姿である。ただし、以前と違うのはその中で、パワーアシストスーツの上半身部分は無い。

 アーロンとの戦いで左腕部分を著しく損傷し、動作不良を起こしていたにもかかわらず、先の海軍第16支部での戦いで酷使したことにより、少々耐久力のある“ただの重い服”と化したパワーアシストスーツと、サムは別れを告げた。

 電力消費で真価を発揮するこのスーツも、サイボーグ──いや、燃料電池(MCFC)がサムの右腕、胸にしか存在しないこの世界では、電力を補給する手段が皆無であり、仕方のないことだったと言える。

 いくらなんでも、自身の体を切り刻みながら燃料電池(MCFC)を補給するわけにはいかない。体内にあるナノマシンの電力補給も覚束なくなっていた今、パワーアシストスーツを下半身部分のみにすることが賢明な判断だった────と信じたい。

 

「そういや、何で斬ったら電力補給できたんだろうな……?」

 

 その手に握られているのは、自身の手配書である。先ほどまで、サムを自己嫌悪に陥れた元凶だ。マスクをしていたおかげで、素顔が割れていないのは不幸中の幸い(?)なのかもしれない。

 

「不思議なもんだ」

 

 甲板上で“仲間”達とはしゃぐルフィを見ながら、ポツリと呟く。

 ルフィには、何か人を引き込む力があるのではないか、とたまに考えることがある。今でこそ、キャラヴェル船に乗り、ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、と4人の仲間が増え、まさに順風満帆、見事に海賊ライフを歩んでいる(?)わけだが、出航の日、フーシャ村を飛び出した時は、それはもう…………とにかく大変だった。航海術を持たない男2人が、小さなボート一艘で海に出て、よくここまで(生きて)たどり着けたものだ。

 人々を導く魅力(英雄度)、それを可能にする強運。やはり、と言うべきか、ルフィにはそれらが備わっているのかもしれない。

 

「……仲間、ね」

 

 無意識に、ゆらりと左腕が動く。

 ススス……と指が、顔の左半分を縦に走る傷痕をなぞる。

 

 ────心なしか、疼いていた。

 

「……はっはっは」

 

 この感覚は久しぶりだ。

 傷はどんどん疼きだす。

 鮮明に“アレ”が甦ってくる。

 

 ────……ぅうおぉぉおああぁぁ!!

 ────お、おい! サムエルを抑えろっ!

 ────落ち着け、サムエル! ……っ!? グガッ!!……

 

 思えばあの日、サムが歩む(人生)は決まったのかもしれない。

 

復讐(仇討ち)……か」

「おぉぉい、サムウゥ!」

「ん?」

 

 下から聞こえてくる、ルフィの呼ぶ声に、ふと現実に引き戻される。いつの間にか、“物思い”に耽っていたようだ。

 

「サンジのメシできたぞおぉ! 何回呼ばせる気だよぉ!」

「……そこまでぼぉっとしてたか」

 

 こりゃ失敬、と見張り台から飛び降りるサム。他の4人はリビングルームへ入ったようで、姿は見えない。備え付けられたドアから、食欲そそるなんとも言えない香りが漏れ出して来ている。

 バラティエで味わったあの料理がもう一度……、そう考えただけで口内にヨダレが満ちてくるのをサムは感じた。

 

「俺もう腹ペコだぁ……」

「すまんな、ルフィ。待たせてしまった」

「おう。なんか考え事してたみたいだけど、大丈夫か?」

 

 こてん、と首を傾げるルフィ。

 その純粋な心遣いに、思わずサムは笑ってしまった。

 

「なぁに笑ってんだよ」

「はっはっは……はぁ、すまん。つい、な」

 

 行こう、とルフィを促し、リビングルームへ向かう。すでに食事は始まっているようで、中からは楽しげな談笑が聞こえてきた。

 

「そういやもうすぐだよなぁ、サム」

「……そうだな」

 

 何の前置きもなく、その会話は始まった。

 2人にしかその真意がわからない会話だった。

 ニヤリと笑いながら、「寂しいか?」とサムがルフィに振り返る。対してルフィは、のほほんとした態度で答えた。

 

「んなわけねぇよ。サムにはサムの夢があるんだ。俺はそれを全力で応援するだけさ」

「はっはっは。そいつは有難い。海賊王に応援されるとは光栄だ」

 

 「ニシシッ」と笑い、頭の後ろで手を組みながらルフィがサムを追い越す。必然的に、サムはルフィのその背中を見ることになった。

 

「……大きくなったな」

 

 彼の人生の中で、最も穏やかに過ごした10年間を振り返る。まだサムの膝ほどしかない身長で、「サム! エース! サボ!」と後ろを着いて来ていたあの頃が懐かしい。

 この男は、これほどまでに大きくなったのだ。もうサムが守る必要がないぼどに、大きくなっていたのだ。

 

「…………」

 

 守る、という言葉を思い浮かべた自分に、嫌悪感を抱く。

 

「早く行こう、サム。俺もう……限界……」

「すまんすまん……そういやルフィ。お前の親父、名前何て言うんだ?」

 

 守ることなどできない。

 守る剣など、自分に振るえるわけがない。

 人を斬ることしか知らない────いや、できない。

 あの日。────あの日から、自分の剣は殺人剣(殺す剣)と化したのだ。

 活人剣(守る剣)など、自分には必要無い────必要とすることさえ、できない。

 

「知らねぇ。ってか親父がいるのかさえわかんねぇや。ジイちゃんぐらいしか顔覚えてる人いねぇぞ?」

「そうか。いつか会えるといいな」

 

 ──だがせめて。

 

 ──多くは望まない。

 

 ──だから。

 

 ──せめて。

 

「そうだな!」

 

 ──この(ムラサマ)が届く内だけでも、この笑顔(かぞく)を────。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……ぅうんまそおぉぉぉ!」

 

 リビングルームに入ったとたん、ルフィがもはや雄叫びと称した方が相応しい感嘆の声を上げる。

 

「……ほぉう」

 

 思わず耳をふさいだサムだったが、キーン、と頭の中に響く耳障りな音も忘れてしまうほど、目の前には旨そうな食事が広がっていた。

 

「お先に頂いてまーす」

「おう、遅かったじゃねぇか」

 

 ルームに入ってきたルフィとサムに気づき、ナミとゾロが揃って顔を上げる。それぞれグラス、サンドイッチを手にしている。

 ナミのグラスに入っているのはジュース────であると信じたい。この女、確か未だに18歳(未成年)のはずだが、どういうわけかかなりの(と言うかめちゃくちゃ)酒豪である。いくら酒豪だろうが、こんな真っ昼間からガキが酒を煽るのは教育上よろしくない。

 

「……ぷはっ、このラム酒いけるな」

「お前もか、こら」

 

 いつの間にか持ち替えていたグラスを煽り、一息つくゾロ。言わずもがな、この男も未成年、19歳である。もはや生けるアルコール分解マシーンと呼ぶべきか。

 

「ナノマシンでも入ってるんじゃないか……」

「どした、サム?」

「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」

 

 基本的に、サイボーグは体内に内蔵されている栄養パックから脳の活動に必要なブドウ糖を摂取する。随時交換は必要だが、なんと1週間は余裕でもつらしい。さらに雷電のような全身サイボーグの者ではなく、サムのような、部分的にサイボーグ化を施した者──戦闘サイボーグではなく、いわゆる一般サイボーグと呼ばれる者──には、生身の部位の血糖値を一定に保つ機能も搭載される。

 もはや何でもありと思えるほど発達したこのサイバネティック(サイボーグ)技術、なんと栄養の経口摂取までもを可能にしたのだ。そこで活躍するのがナノマシンであり、体内に入った食物の分解、吸収を補助(アシスト)してくれる。

 ────が、この2人。ナノマシンも真っ青な酒豪っぷりなのである。もともと酒が嫌いではないサムは、ナノマシンのアルコール分解機能を使い分けてはいたが、例え使ったとしてもこの2人には足下にも及ばない。

 

「ほら、サム。何ぼぉっと突っ立ってんだ。スープが冷めちまうぞ? ……あ、おいウソップ! またキノコ残しやがったな!?」

「だからキノコは食えねぇって言ってんだろ!」

 

 ギャーギャーと騒ぎ始めたサンジとウソップを置いておき、ルフィとサムが意気揚々と食卓に並ぶ。出迎えるのはサンジ特製、見ただけで美味しいこと間違いなしと断言できる料理の数々。テーブル中央には、規則正しく、それでいて見た目も美しく並べられた様々な種類のサンドイッチ。色とりどりの野菜にシーフードを混ぜ合わせたサラダ。ホカホカと食欲(そそ)る香りと共に湯気を立ち昇らせる具だくさんのスープ。

 

「……船旅の食事にしてはちと豪華過ぎないか? 食材にしたって生物(なまもの)は……」

「冷蔵庫があったからな。ルフィ達(こいつら)がつまみ食いするもんだから、いつか鍵付きのが欲しいぜ」

「何でもありだな。おい」

 

 中世の船旅には、保存の効く食材が必要不可欠である。

 干された、または塩漬けの肉に魚。堅パンにビスケット(これが鉄のように堅かったと言われる)。長期に渡る船旅では腐ってしまう水の代わりに酒。新鮮な乳を得るためにヤギ、卵を得るために鶏、非常事態には食料とするため様々な動物を船に積み込むことがあったという。

 と言っても、船員達の不平不満の第一に挙げられるのが“食事”と言われるように、当時の船旅は相当な劣悪環境に置かれていたらしい。

 が、どうもその心配はいらないようだ。いつでも水が飲めるわ新鮮な食材を保存できる冷蔵庫があるわ一般家屋にあるようなキッチンがあるわバスルームがあるわ…………便利なメリー号(キャラヴェル船)である。サムが思っているほど技術が発達していないわけでもないようだ。むしろ発達している、と言った方が正しいのかもしれない。

 エジプトのややこしそうな機械を操る人の壁画や、日本のやたらと機械的な服を来た土偶など、もしかすると過去に今以上の文明、技術があったのかもしれない的な“IF”が実現している世界────なのかもしれない。

 

「うし。メシも食ったし俺が見張りを代わろう」

「おう。よろ()くなひょ()ロ」

「こら、ルフィ! 食べながら喋んないでよ!」

 

 そんなやり取りをBGMに、サムも食事を開始する。椅子から立ち上がるゾロから視線を戻し、いつの間にか残り2つとなってしまったサンドイッチを、目にも留まらぬ早業で(自陣)に移動。安全を確保、確認したところでズズッ……とスープをすすった。

 

「…………うん。旨い」

「そりゃよかった」

 

 料理人(コック)として作った料理を旨いと言ってもらうのが嬉しいのか、サンジが顔を(ほころ)ばせる。血反吐吐いてクソジジイに食らい付いてきた甲斐があった、と内心ガッツポーズするのも忘れない。

 

「にしても妙な2つ名付けられたわねぇ、サム」

 

 グラスを片手に新聞を広げるナミ。その姿はまるでおっさ────いや、何でもない。

 ルフィの顔を押し退けながら、サムは口にサンドイッチを頬張っていたところだったのだが、話始めたナミにくるっと顔を向けた。

 

「“ジェットストリーム”……偉大なる航路(グランドライン)の“暴風”よ」

 

 こてん、と首を傾げる一同。

 ただし、サムに限っては少々違うが。確か“上昇気流”という意味だったと記憶している。この世界では意味が変わっているということか。

 

「実際に見たことはもちろん無いけどね。じゃぁ……船乗り達にとって海賊よりも恐れるもの、わかる?」

「…………ナミ?」

「鼻、()し折るわよウソップ」

 

 そこへ、椅子に腰掛けたサンジが煙草を吹かしながら言った。

 

「“自然(ロギア)”だろ、そりゃ。……話の流れ的には“風”か?」

「そーゆーこと」

 

 オレンジの髪をかき上げ、ナミが説明を開始した。

 

「あの海軍基地で私なりにいろいろ調べてみたんだけどね……航海において最大の敵“自然災害”に対して、昔から人々は、あらゆる手段と知恵を使ってこの“化け物”を回避する手段を手に入れてきたの。その究極形が航海術よ」

 

 けど、と、ナミが続ける。

 

偉大なる航路(グランドライン)ではその一切が通用しないらしいわ」

「何か原因でも? ナミさん」

 

 いつになく真剣な表情のサンジ。

 

「それがまだあやふやなんだけど……時間なくて海流とかの情報は得られなかったけど、気象情報なら少し分かった」

「なんだ?」

「それがあなたの2つ名に関係してるのよ、サム。いい? あの海には絶対に回避すべき“風”が4()()あるの。その1つがこれ、暴風(ジェットストリーム)

 

 トントン、とナミが卓上に広げたサムの手配書を指差した。

 

「滅多に発生することは無いらしいけど、巻き込まれたら最期。生半可な船じゃめちゃくちゃに破壊され、蹂躙される」

「物騒だな、おい」

 

 4つと聞いた時点で、サムは何かを悟ってしまった。

 

「残りの3つ、聞きたい?」

「もういっそのこと」

「なんか投げ槍ね……まあ、いっか。1つが、発生がまったく読めない、意思を持ってるかのように移動する風、“変風(モンスーン)”。もう1つが、極寒の洒落になら無い冷気を運ぶ風、“冷風(ミストラル)”。最後が、似てるけど灼熱の熱気を運ぶ風、“熱風(サンダウナー)”。そして暴風(ジェットストリーム)……それを2つ名にされたくらいだから、少しは脅威として見られてるんじゃない?」

 

 思わず顔を覆うサム。妙な確信が生まれ始めていた。

 

「纏めて“破滅を呼ぶ風(ウィンズ・オブ・デストラクション)”と呼ばれてるらしいわ」

 

 ────。

 

「そして超偶然に、0.00……1%の確率でこの4つの風が同時期、同場所で発生することがあるらしいの。もしくは同場所に合流するとか……もともと発生すること自体が低確率な風達だからほとんど0%に等しいんだけど……」

 

 風()と、ナミが呼称したことで妙に生々しさ(リアリティ)が増した。

 

「災害級の風が4つ、合体するってことか?」

「察しがいいわね、サム。その風は“颶風(ぐふう)”……“タイフーン”って呼ばれてるらしいわ」

 

 「被害、威力は推して図るべし」とナミが一息つく。最後、気になる風の名前が挙がったが、ようやくナミの説明は終わったようだ。すでにルフィは寝てしまってるが。

 

「おいおい、どうすんだよ。航海士のお前がお手上げじゃ俺達、何もできないぞ?」

 

 ふにょっ、と鼻の先端を指で押し上げながら、ウソップが言う。

 

「さあね。でも現実にあの海を航海してる人はいる。何かしら方法があるはずなの。そこで今から行く町、ローグタウンで少しでも情報を集めるってわけ」

 

 ミヌアーノが無かったことなど、すでにサムはどうでもよくなっていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

海賊王(ゴールド・ロジャー)が処刑された町には見えんな……当たり前か」

 

 ここはローグタウン。

 かつての海賊王ゴールド・ロジャーが生まれ、そして処刑された町。大海賊時代幕開けの発端とも言えるこの町、別名を“始まりと終わりの町”と言う。

 

「生まれ故郷で処刑、か」

 

 「世界政府もえげつないセンスしてるねぇ……」と呟き、サムはんんっ、と背伸びで体をほぐす。奇しくもエースの父親の死に場所へ来ることができた訳だが、そこまで興味があるわけでもない。墓標があるのなら息子の近況報告でもしてやるか、と上から目線なことを考えていたくらいである。

 

「それにしても……」

 

 見渡す限り、人、人、人。

 辺りは喧騒と活気に包まれており、この町がいかに発展しているかを物語っている。様々な店舗が建ち並び、食材、家具、日用品、武具など、少々アレなものも含まれているが町全体が巨大なショッピングモールのようだ。道行く人々も様々で、楽しく談笑しながら歩く家族連れ、旅行中なのかラフな格好で大きなリュックを背負った男2人組、筋骨粒々の逞しい男、もう説明が面倒になってくるほど不思議な格好をした海賊、そしてパンダ。

 

「……は?」

 

 一般人ではないであろうことが一目瞭然な者達が多数確認できるが、特に暴れたり、人々に危害を加えるつもりも無いようだ。逆にここまで発展した町を襲撃する気にならないのか、はたまた強大な抑止力たる者がいるのか。

 いずれにせよ、ある程度平和が確立されている町のようである。

 

「ほらサム。ゾロ行っちゃったわよ」

 

 ナミに呼ばれて我に返る。最近やたらと物思いにふけることが多くなってきた気がする。まだそこまで歳を取ったつもりはないが、これはこれでいかがなものか。

 

「あんたも何か買いたいものあるなら、お金貸すわよ?」

「利子3倍ならやめておく」

「あら、残念」

 

 何が悲しくて利子3倍のお金を借りようか。いくら金に困り、闇金に手を出そうとしてもこれはない。というか、そんな条件を設けるところなど世界広しとは言えナミ(こいつ)ぐらいしかいないだろう。

 

「まったく……いい嫁になるぞ、お前は」

「皮肉にしか聞こえないわね」

「おいこら、サム! ナミさんを口説いてんじゃねぇぞ!」

「誰が口説くか、こんな腹黒女」

「ア"ァ"!? 3枚におろされてぇのか、このクソ剣士!!」

「やめとけ、サンジ。ルフィとゾロ2人がかりでも敵わねぇ相手だぞ」

 

 「ア"ァ"!? んだとこの長っ鼻ぁ!」とサンジの矛先がウソップに向かったのを見逃さず、サムはゾロを追って歩き始めた。

 

「えぇと、あいつは……お、いたいた」

 

 人混みの中、どうやってゾロを見つけ出そうかとゲンナリしていたのは杞憂に終わり、思いの外早く彼を見つけることができた。理由はまあ、…………言わずもがな、である。

 

「ん? ……お、サムか。なんだ? 着いてくんのか?」

「暇なんでな。お前、刀選ぶんだろう?」

「ああ。“鷹の目”にやられて完全にいっちまったからな」

「妙に卑猥に聞こえるが……ま、お前の刀選び、付き合わせてくれ」

 

 2人並んで歩く。目指すは武具屋、それも刀を取り扱っている店だ。

 サムとしてはゾロの刀選びに興味がある、というのもゾロに着いていく理由の1つだが、本来の理由(目的)銃器屋(ガンショップ)の発見である。

 が、もちろん銃に興味があるわけではなく、弾丸の方である。使用用途はもちろん、ムラサマの鞘に搭載されている言わずと知れたアサルトライフル「M4カービン」から流用した銃のような部位──ガス圧作動リュングマン方式セミオートマチック 排莢機構(システム)(以下、機構と称する)──に用いるためだ。ムラサマを改造した際に、サムが考案、注文した機構である。

 トリガーを引くことで薬莢内の火薬を起爆し燃焼ガスを機構内部に発生させ、その圧力をもって弾丸の代わりに鞘の鯉口部に内蔵されたスパイクを打ち出す。このスパイクがムラサマの鍔を高速で打ち出し、文字通り弾丸の如き抜刀────居合い斬りを可能とするのだ。

 使用するのはM4カービン同様、5.56×45mm NATO弾の薬莢部位。1(ワン)マガジン20発で、今現在、サムが携行している残マガジン数は4、ムラサマに装填されているのを足せば5だ。

 装填されているマガジン内の残(薬莢)数は4。なるべく使用を控えては来たが、いずれ限界が来ることは目に見えている。補給はほぼ(と言うか間違いなく)不可能であり、代用品が必要となってきたのだ。

 まあ、無くなったら無くなったで良いか、と開き直ってはいるが、少し、この世界の技術力にカけてみることも悪くはないだろう。

 とそこへ、何やら人だかりができているのが目に入った。

 

「オゥ! 今日はあの化け物と一緒じゃねぇんだな!?」

「ウチの(かしら)はてめぇらのせいで監獄行きよ。どうしてくれるノ━━!」

「「……ん?」」

 

 1人は髪を2つに纏めた、ずんぐりむっくり……にしてはかなり大きい(恐らく2m近くある)男。もう1人はスキンヘッドの、骸骨のような顔にヒョロヒョロの体……のわりにはかなり大きい(こちらも2m近い)男。

 見るからに海賊(モブ)であろう男2人が、目をギラつかせながら喚き散らしている。それに対面しているのは、布に包まれた棒状の何かを抱えた、眼鏡の女性。花柄のポロシャツに黒のデニム。ナミよりもさらに短いショートヘアーに黒縁眼鏡と、一見どことなく頼りなさ気に見える女性だ。

 

「……まだ懲りないのなら、私がお相手しますけど」

「「おいおい、マジか」」

 

 挑発とも受け取れるその発言に、案の定男達は逆上。よりいっそう目をギラつかせ女性に斬りかかった。

 

「死んであの化け物に伝えてくれよ!」

「俺達ぁあいつのせいで偉大なる航路(グランドライン)へ入る夢も断たれちまったんだっつ━ノ━━━━!!」

 

 2人して(サーベル)を振りかぶり、憐れ女性の体は無惨にも斬り刻まれて────と思いきや、流れるような太刀筋で見事に海賊(モブ)2人を斬り倒した────という男女の体格差をものともしない、というかいろいろと自然の摂理(大事なもの)を忘れてしまっているかのような斬り合いを演じた。

 この()、かなりのやり手のようである。

 

「あ……と、と──いたっ!」

「「…………」」

 

 転けた。倒れ込む男2人を背後に、キリッと決めるのかと思いきや、転けた。先程までザワついていた観衆も、女剣士のその様にドッと沸く。

 人2人が斬られ、血を流しながら目の前に倒れているのにそれもどうかと思うが、まあサムにとっては至極どうでも良いことなので無視しておく。

 どうもこの女、かなり視力が悪いようで、転けた拍子に落ちた眼鏡を探し続けている。もう少し左、もう少し……あぁ追い越したぁ……的な何とももどかしい眼鏡捜索を続ける女に見兼ねたのか、ゾロがそれを拾って女に手渡した。

 

「おい。これか?」

「あ、ご……ごめんなさい。あ……ありがとうございますっ!」

「っ!」

「…………んん?」

 

 ……これは、もしや?

 

 

 

 ***

 

 

 

「…………青春だねぇ」

「うるせぇぞサム! そんなんじゃねぇって何度言えば分かるんだこらっ!」

「いやいや、別に恥ずかしがるほどのことでもないだろう? 人間誰しも、人生の中で必ず訪れるアオクサァイ時代があるわけだからな。…………にしても……お前……プクク……あんな顔すんのな」

「斬り殺すぞてめぇ!」

 

 サム、絶賛挑発中である(冷やかしとも言う)。

 いや、挑発(冷やかし)とは言ってもこれはこれで喜ばしいことなのだ。仲間内の(身近な)女性は()()腹黒女(ナミ)しかおらず、ルフィは論外としても彼ら悩める青少年達にとっては青春を謳歌することができない、アレな環境となってしまっているわけで。人生の中で様々なことを知るためには喜ばしいことがゾロに起きたと考えた次第で。

 

「わぁかったって、ゾロ。だから刀を納めろ」

「……ニヤニヤすんな!」

 

 「はぁ……」と額に青筋を浮かべ、溜め息をつくゾロの左に並び、サムも歩き始める。彼からは見えない顔の左半分で盛大にニヤけながら歩くサムのその姿に、道行く人々がギョッ!? としているのもお構いなしだ。

 

「ったく……そういやてめぇ、ある剣術の継承者とか言ってたよな?」

 

 何が「そういや」なのかわからないが、もう十分楽しんだのでここはゾロの必死な話題転換に乗っかることにする。

 

「お前と初めて会ったときだな。あの七光り、今頃どうしてるのかねぇ。あとコビーも」

「知らねぇよ。んでお前、剣術以外に武術でも習ってたのか?」

 

 ん? とゾロを見やる。その表情を見るに、どうも話題転換のためだけにこの話をふったわけではないようだ

 

「……そうだな。2()()、習った」

「2つ?」

 

 先程までの空気はどこへやら、2人は真剣そのものである。

 

「1つは俺の剣術の基礎となる奴だな。もう1つは今日お前にして見せた奴だ。……“蛇”に教えて貰った」

「……蛇?」

「質の悪ぅい奴」

 

 その時、サムの目に「ARMS SHOP」の看板が入ってきた。

 

「お、あったぞ。ゾロ」

「やっとか……」

「因みに、資金はどれくらいナミから借りたんだ?」

 

 刀ともあればかなりの値段となるはずだ。

 

「10万ベリーだ。これで2本揃える」

「10万ね。……足りないんじゃないか?」

 

 この世界の金銭感覚については、サムはあまり悩むことはなかった。簡単な例としては、以前ナミがニュースクーから新聞を100ベリーで購入していたが、これが約1(ドル)と見ていい。日本円に直すと変動はあるが約100円、ブラジルレアルに直すとこれまた変動はあるが約2R$(レアル)だ。

 つまり10万ベリーは1000$、10万円、2000R$となるわけだが、サムがもといた世界では刀、それも日本刀はかなりの人気を誇っていたと記憶している。安ければ1振り1000$以下で買えることもあるかもしれないが、2振りとなるとこれはわからない。

 と、サムの心配をよそにゾロはさっさと武器屋へ入っていった。

 

「刀が欲しいんだが」

「は━い、はいはいはい」

 

 サムも続いて中に入ると、どんなセットをしたらこんな髪型ができるんだ、と思っても仕方ないような店主が、気前の良い笑顔で迎えてくれた────と思えば、

 

「10万ベリーあるんだ。刀を2本売ってくれ」

「……10万? ────ハッ! 10万で2本!? 1本5万じゃナマクラしか買えねぇぞ? オッ!?」

 

 と、清々しいまでの変わり身っぷりである。というか、10万ベリーで刀を2本買えるらしい。

 

「そっちの妙な格好したお前さんは? 刀買うのかい?」

 

 金無しの男に用はないとでも言うが如く、店主はサムに標的を変える。

 

「いや、俺は生憎コイツで間に合ってる。今日はそいつの付き添いだ」

 

 腰帯にさしたムラサマを見せ、刀を買う意思が無いことを示すと、ケッ! と店主の吐き捨てる声を背後にサムは店の武器を物色し始めた。

 

「……色んな武器があるんだな」

 

 刀だけでなく、剣、青竜刀、ナイフ、鎧、鎖鎌などなど。挙げ句の果てにはちょっと懐かしく感じるポールアーム、釵、マチェーテまで見つけてしまった。

 何かとサムがもといた世界とリンクしているこちらの()()。すでに10年以上過ごしているわけだが、ここまでくるとVR(仮想現実)の可能性を完全に否定する自信が無くなってきてしまう。

 まあ、10年間も仮想現実の中で過ごさせる理由やこの意味不明な世界観、物理法則を全く無視したVRなど聞いたこともないので、やはり違うという結論に至るのだが。

 

「……ま、いっか。おい親父、この辺に銃を取り扱って──」

「あ━━━━! この刀はっ! もしかしてっ!!」

 

 と、サムの声は見事に掻き消されてしまった。カウンターの方には、見覚えのある花柄のポロシャツ、黒のデニムの後ろ姿が。

 

「あいつは……」

「これっ! “和道一文字”でしょう!?」

 

 つまりゾロの持っている刀が、ということだろうか。それらしい名前、この女の反応を見る限り、かなりの上等な刀のようだ。

 

「────“大業物21工”の1本! 名刀ですよ!」

 

 とすると、ミホークが所持している“夜”の、1つランクが下の刀のようだ。と言っても、“夜”が最上大業物12工に位列しているので、彼の持つ“和道一文字”は相当な名刀であることが伺える。

 と、この女、どうやらここの店主に刀を磨いてもらうよう注文していたようで、布に包まれた刀は代刀だったようだ。その刀は“業物”に位列する“時雨(しぐれ)”というらしい。

 何故かキレている店主に時雨を渡され、女は帰ってい────くのかと思いきやまた転けた。盛大に武器の山へ突っ込み、派手に音を立てて埋もれている。

 

「ああっ!」

「何でそこへ突っ込むんだ! 代刀置いてさっさと帰れ!!」

「「…………」」

 

 コントを見ているようで楽しいことこの上ないが、サムは本来の目的を果たすことにした。

 

「親父。この辺に銃を専門的に取り扱ってる店、あるか?」

「ああ!? この先に最近新しくできた銃器屋(ガンショップ)があるっつってんだろうが!!」

「いや、まだ聞いてもなかったし何でキレられるのかわからんがありがとう。それじゃぁな、ゾロ。青春を楽しめ」

「あっ! おいサム!!」

 

 

 

 ***

 

 

 

「はてさて、アレはあるのかねぇ……」

 

 店主に教えて貰った場所へ向かいながら、サムはルフィとの会話を思い出していた。

 

 ──でよ! 俺が倒れたマストの上を走って行ったらよ。クリークの奴何しやがったと思う?

 ──知るか

 ──あいつ、持ってた盾から槍みたいなのババババッ! って撃ってきたんだよ! ほら、ここに(あざ)が…………あ、ねぇや

 ──ふぅん、そうか。ババババッと…………“ババババッ”と?

 ──そう! 俺の銃乱打(ガトリング)みたいにババババッと

 

 「ん?」と首を傾げたのを鮮明に記憶している。サムが見てきた限り、この世界の銃は未だ前装銃(マズルローダー)ばかりのはずだった。ルフィの話だと、それがババババッと、弾丸ではないが、ものを連射する機構────機関銃(マシンガン)の概念が存在することになる。つまり必然的に、この世界に薬莢と似たようなものがあるという訳なのだ。多分。

 なんにせよ、あると仮定した場合、金属薬莢は流石に有り得ない。とすれば、紙製薬莢が有力だ。

 紙製薬莢とは、読んで字の如く紙製の薬莢である。金属薬莢のように弾頭を射出し空になった薬莢を排莢するのではなく、紙製故に火薬に点火すると同時に薬莢は燃え尽きる。よって、薬莢の役割を果たすために丈夫な紙が用いられると共に燃えやすいよう、酸化剤で処理されている。サムが求めているのはこのタイプで、燃尽式薬莢とも言われる。

 そもそも、薬莢の存在が確認できる(資料がある)のは14世紀で、その頃から紙製薬莢は存在していたようだ。火縄銃などの前装銃の弾丸、発火用の火薬を銃口から別々に装填するという欠点を補うため、弾丸となる弾頭、火薬、点火用の雷管をセットにした薬莢を用いる後装銃(ブリーチローダー)は、銃器の瞬間火力を飛躍的に高めることに成功し、広く浸透していった。因みに、紙製薬莢が広く装備された後装銃は、ドイツ製ドライゼ撃針銃である。

 微妙に年代が近いような気もするこの世界で、さらにムラサマの機構に使えるかはわからないが、“もしかしたら”にサムは掛けたようだ。

 

「お、あったあった」

 

 そうこうしている内に、目的地(ガンショップ)へ着いたようだ。看板には「G O P」と書かれている。「ふむ……」とその看板を見上げ、早速扉を開け中に入った。

 

「いらっしゃーい……あら?」

 

 出迎えたのはまさかの女性。長い茶髪を1つに纏め、右肩から前に垂らしている。くっきりとした端整な顔立ちに引き込まれるかのような黒い双眸。白のショートパンツに黒のブラウス。首からさげた、弾丸のネックレス。ミステリアスで、どこか達観しているように感じる雰囲気が印象的な、説明も面倒になってくるほどの“美女”だ。

 

「……珍しいね。剣士さんが銃器屋(ガンショップ)に何の用?」

 

 どこぞの誰かさんと似ているような気もするが、違うな……と直感する。

 

「まあ、確かに場違いだな。今日は銃じゃなくて弾丸を見に来たんだ」

「ますます変な人ね……それで? お求めの商品はあるの?」

 

 そこでサムは気付く。女の側頭部、髪で隠れていない左側に、横に走る裂傷痕があることを。

 

「……ん? ……ああ、これ?」

 

 サムの視線に気付いたようで、女が傷をなぞる。

 

「髪を垂らす場所間違えてるんじゃないか、とでも言いたそうな顔ね」

 

 「フフッ……」と女が笑う。

 ここ、写真に撮って売り捌いたらかなり儲けれるんじゃないか、と失礼なことを考えてしまうほど、女の動作1つ1つが画になっていた。

 

「まあ、初見の奴は誰しもそう思うだろうな」

「……フフッ。あなたみたいに正面から言ってくる人、久しぶりよ。いつもデリカシー無いって言われてるんじゃない?」

「はっはっは……そうかもな」

 

 ぐるりと店内を見渡す。大小様々なピストル、ライフルが展示されており、中には「バズーカ」とデカデカと表示されたものまである。

 そして、目に留まったのが店内の中央に置かれている代物だ。

 

「おい。ありゃなんだ」

「ああ、あれ? 最近偉大なる航路(グランドライン)で開発された新型の銃。ガトリング砲よ」

 

 ビンゴだ。

 ガトリング砲は世界最初期の機関銃として名高い銃だ。多数の銃身を1つに纏めた機構、弾丸の給弾→装填→発射→排莢というサイクルを外部動力によって行う機構の2つで構成されている。もちろんのこと、薬莢が使われているのだが…………。

 

「……ん? ってことは金属薬莢なのか?」

「もちろん。威力も申し分ないわよ」

 

 「値段はアレだけどね」と女の声を聞きながら、サムは心の中でこの世界の技術力に感謝の言葉を送った。

 

「よし。それじゃアレに使われてる弾丸、見せてもらえるか?」

「不思議な(剣士)ね……」

 

 そう言って、カウンターの奥に消えていった女。待つ間はカウンターの椅子に座らせてもらうことにし、サムはどっかりと腰をおろす。

 腰帯からムラサマを抜き取り、マガジンを外して5.56×45mm NATO弾を1発抜き取る。カウンターに肘をつき、それを弄りながら待っていると、以外と早く女は戻ってきた。

 

「今ウチにあるのはこれくらいね。本当、最近になって出回り始めたばかりだから、品数は少ないわよ? あとは紙製薬莢もあるけど……と言うか、なんか凄い刀ね、それ……」

 

 と、カウンターに並べられた弾丸は5種類。口径30、25、20、12、7.62mmシリーズのものだった。

 

「ありゃ、無かったか……」

 

 金属薬莢が無いとなると、紙製薬莢しかない。

 いざとなれば、自分でサイズに合わせ、火薬、弾丸、雷管を組み立てようか、と考え始めていると、

 

「ねぇ、あなたが今持ってるその弾丸……ちょっと見せて貰える?」

「これか?」

 

 5.56×45mm NATO弾を女に手渡す。

 

「7.62mmよりも小さい……あなた、これをどこで?」

 

 確かに、これが当然の反応と言える。

 

「…………知りたいか?」

「それはもちろん。これ開発した人、相当な技術者よ?」

 

 銃器を取り扱う者としては、是非とも知りたい情報だ。とすれば、これを条件に取り引きすることもできる。

 

「モトを教えることはできんが……ならあんたにソレをやろう」

「……ふぅん。それで、見返りはなに?」

 

 さすが、お見通しのようだ。2人してニヤリ、と口角を吊り上げる。

 

「条件が2つある」

 

 2本、指を立てた。

 

「1つ。紙製薬莢専用の紙、雷管をいくらか譲る。2つ。偉大なる航路(グランドライン)の情報を知っている限り教える。簡単だろう?」

 

 ちと欲張りすぎたか、と内心舌打ちするサム。

 

「…………まあ、良いけど。2つ目の条件ってどういうことよ?」

 

 取り引き成立。以外と気前のいい女なのかもしれない。

 

「はっはっは。これからそこへ行くのさ」

「……成る程ね。でも私、偉大なる航路(グランドライン)のことは殆ど知らないのよ」

「うぅむ……そいつは残念だ。……ま、いっか。それじゃ1つ目の条件だけでいい」

「あら、嬉しい。それじゃよろしくね」

 

 証として手を握り合う。

 

「じゃ、ちょっと待ってて」

 

 数分すると、カウンターの奥から女が手に中型の木箱を持って戻ってきた。

 

「はい。50発分はあるはずよ」

「おいおい。えらい羽振りがいいな?」

「サービスよ。サ、ア、ビ、ス」

 

 わざとらしく強調してくる女に苦笑しつつ、箱を受け取る。

 

「ああ、それと……その木箱は捨てないようにね。内側に湿気と乾燥を防ぐ加工を施してあるから」

「それはまた御丁寧にどうも」

 

 以外とすんなり目的を達成できたことにとてもご満悦なサム。ムラサマを腰帯にさし、椅子から立ち上がった。

 

「フフッ……面白い人ね」

「そりゃどうも。じゃぁな。世話になった」

「ええ。それじゃぁね。暴風(ジェットストリーム) サムさん?」

 

 ガクッ。思わず箱を落としそうになってしまった。

 

「……はっはっは。バレバレか」

「私もさっき気付いたわ。私、レービンドって言うの。また縁があったらよろしくね」

 

 へいへい、と背中越しに手を振る。やはり、女という生き物は勘が鋭い。

 

船長(モンキー・D・ルフィ)によろしくねぇ……G O P またのお越しをぉ」

 

 レービンドね、と呟きながら、サムは人混みの中へ消えていった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……フフッ」

 

 再び静かになった店内。

 レービンドはカウンターに座り、卓上をススス……と動く白い小さな紙を指で弄りながら笑う。

 

暴風(ジェットストリーム) サム……ね。…………面白そうな人じゃない」

 

 背もたれに体を預け、白い紙を指で摘まみ天井を見上げる。

 

「────もう1度行ってみようかなぁ……」

 

 彼女はまた、笑った。

 

 

 





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