DEAD OR ALIVE 【SAMUEL RODRIGUES】 作:eohane
ちょっと読み辛いかもしれません。
いろいろとサムのメタルギア的なアレとアレの説明を、私的にやってるところがあるので。
ではでは。
────1回死んでみろ。考え方が変わるぞ
ノジコは息を呑む。まるで死んだことがあるとでも言うかのような言葉が発せられたのを皮切りに、その男は戦い始めた。
***
「隙だらけだぞ?」
その男は笑みを絶やさない。笑顔ではなく、嘲笑とでも言えばいいのだろうか。
人を馬鹿にするような、口角を釣り上げた笑み。見ていて決して気持ちの良いものではない、笑み。
しかしその笑みは、とても
見たこともない服装。服というより、布を縫い合わせて綺麗に揃え、それを腰に巻いた布で纏めている感じだ。
紺色を
本人が纏う
「生身の人間以下だな……」
自分達人間にとって恐れるべき存在────魚人に対し、隣にいる長鼻の青年はこのザマだというのに、彼は臆することなく立ち向かっている。
最初は
あの魚人達が、男1人に圧倒されているのだ。
なのにこの男は、魚人を投げ飛ばし、殴り倒し、斬り伏せている。既に辺りは、魚人達の鮮血によって血の海と化していた。
「な、なんだこいつ!?」
「知るかよ! ……ひっ!? や、やめ……ギャアアァァ!?」
重ね重ね言うが、通常、人間が魚人に挑んだところで叶うはずがないのだ。
魚人は生まれながらにして人間の10倍の腕力を持っているという
だからこそ、ノジコ達は戦い“意地”に死ぬのではなく、“生き抜く”ことを選択した。
彼女の義妹、ナミがココヤシ村を救うために命懸けの戦いに身を投じているのに、自分達だけ苦しみから逃れるために死ぬことなど、できるはずがなかった。例え
「手を抜くなよ、おい」
そこへやって来た
瞬く間に魚人達を蹴散らしていくその様に、もしかしたら、という願いが涌き出てくるのは当然と言えた。
なのだが…………。
(ナミ……今確か9300万ベリーって言ってたわよね……?)
いや、確かにここでこの男が魚人達を倒してくれたのならこれ以上の歓びはないと言っても過言ではない。
だかしかし、それだとナミのこの8年間の苦労はいったい、とノジコの中ではなってしまうのだ。それにこの男、こちらの苦悩など知ったこっちゃないとでも言うかのように(当たり前だ)魚人に対し大立ち回りを演じている。と言うより、明らかにこの男、今の状況を楽しんでいる。
「お前馬鹿だろ? ……バーカ、バーカ」
…………何なのだ、この男。
***
「──……いったい何が……」
呆然と立ち尽くすナミ。気の向くままココヤシ村に立ち寄ってみれば、思いもよらない事態が発生していたのだから当然と言えよう。
地面に折り重なるように倒れている魚人達の中に1人、悠々と立っている男がいた。
忘れもしない、あの特徴的な服。後頭部で雑に纏められた髪。右目の下、左目を縦に走る裂傷痕。
一振りの刀。
間違いない。サムだ。
「噂の魚人もこの程度か」
ムラサマを一振り、
「……ギャアアァァ……う、腕ぇ……」
「ち、血が止まんねぇよぉ!」
まさに阿鼻叫喚。絶対的強者であるはずの魚人が、体のあちこちから血を吹き出し悶え苦しんでいる。
腕が無い者、足が無い者、その両方が無い者────そしてもの言わずピクリとも動かない者。
魚人にとっては地獄、人間にとっては天国(いささかアレだが)の光景がそこには広がっていた。
「自由は自ら勝ち取るもんだ。他人を餌に成り上がるってことを否定するわけじゃないが……現に1人、その考え方の奴を知ってるしな」
サムがゆっくりと歩き出す。
地面に転がる魚人達、肉塊には目もくれず、村の家にその巨体をめり込ませた魚人に向かって。
「て、てめぇ……至高の存在である
「……救えねぇ野郎だ」
アーロンの顔を左手で掴んだサムは、その巨体を軽々と持ち上げ地面に叩き付けた。
「がふぅっ!?」
今度は地面に顔が半分めり込み、自身の血が地に吸い込まれていく様を見せ付けられる。この上ない屈辱を味あわされ、アーロンの体がぷるぷると震える。
しかし、彼がサムの腕を払い除けることはなかった。
「そんなんじゃ本当の自由は掴み取れん────って言ってもわかるわけ無いか。なぁ、
「……ぇら人間が……」
「あ?」
「てめぇら人間が! どれほど俺達をコケにしてきたと思ってる! どれほど俺達が虐げられてきたと思う!?」
グググ、とアーロンの体が動き出す。押さえ付けるサムの腕を押し返す勢いだ。
「…………」
「てめぇら人間がハメやがったせいで、“あの人”は死んだ! 助けてやったにも関わらず恩を仇で返しやがった! 許せるはず無いだろう!? 救えるはず無いだろう!?」
「……っ!?」
アーロンの渾身の蹴りがサムの腹に直撃する。
いくらサムと言えども体のサイズは人間である故に、軽く数メートルは吹き飛んでしまう。
「ぐっ……」
「見返してやんのさ、人間共に! 己の保身しか考えねぇ屑共に! 俺はアーロン帝国を築き上げ、
────っ!
圧倒的強者であるはずの魚人が、弱者の如く虐げられてきたという事実。信じ難い事だが、アーロンの独白に誰もが聞き入っていた。
「よく見てろ、人間共! 俺こそが魚人族の
重く、深く、人間達の心に染み入っていく。
ノジコ達にとってはとんだとばっちりでしかないが、
「……はっはっは」
着流しについた土埃を払いながら、サムが立ち上がる。
「来な。稽古をつけてやる」
これが、アーロンの独白に対する彼なりの返答なのだろう。
「……気に食わねぇ野郎だ」
身を低く構えたアーロン。
そして、溜め込んだ人間の10倍の力を爆発させた。
「…………
一直線にサムに向かっていくアーロンの巨体。ぱっくりとサメの大口を開け、なおかつ体を高速で回転させるというおまけ付きだ。
「…………」
対してサムは、何の構えもとっていない。ムラサマに触れることもなく、右足を引いているだけである。
「おいおいサム!? 何やってんだお前!?」
「おい、馬鹿! あいつ死ぬつもりかい!?」
アーロンの、赤黒いサメ特有の大口がサムに迫る。誰もが食い千切られ、齧り取られるサムの姿を予想した。
そして案の定……。
「ひいいぃぃ! サムゥゥ!?」
2人が衝突する直前。
突き出されたサムの左肘にアーロンの牙が、以前シュシュに噛み付かれた時とは比較にもならない顎の力で、文字通りガブッと突き立てられる。
アーロンの勢いを殺しきれず、ズルズルと後ろへ後退するサム。パワーアシストスーツ、そして着流しから滲み出してきた鮮血が、地面に滴り落ちる。
誰もが1度、自身の左腕を見て、サムが感じているであろう激痛をも予想してしまう。
「……おい、てめぇ…………何故剣を抜かない」
「……はっはっは……」
サムが顔を上げ、自身の左肘に食い付くアーロンの顔に近付けた。
「どうせなら……これだ」
アーロンに見せ付けるように、右手を握り締め拳を作る。
「
その右手を後ろへ持っていき、力を蓄え始めた。
「どうせなら拳と拳。…………生身で語り合おうじゃねぇか」
こうでもしないと、この馬鹿
***
「────っつおら!」
黒い右腕が振り抜かれる。速く、そして重い拳がアーロンの腹部に突き刺さる。聞くだけで思わず吐き気が込み上げて来そうな鈍い音と共に、彼の巨体が宙に浮かんだ。
「ゴハッ!?」
体内から押し出される空気が無理矢理アーロンの口を抉じ開け、サムの左肘が解放される。
常人が受ければ即死級のアッパーにも関わらず、魚人特有の、ましてやアーロンの強靭な肉体はそれを僅かな内臓破裂に
足先が地面に届くと同時に膝から崩れ、思わず両手を地に着けその巨体を支える。そして実際に感じる嘔吐感。右手で口元を抑えるが、出てきたのは本来そうあるべきではない“血”。
「ゥゲホァ……ゼェ……ゼェ……」
ここまでアーロンを圧倒してきた人間は、あの時の海軍中将以来である。途端何かドロドロとした、形容しがたい感情が彼の中を侵し始めた。
「……うえああぁぁ!!」
それは
────いや。
(……違う)
今、ようやく気付いた。こうして目の前の
これは怒りではなく、
いつ頃からだろう。まだすっきりしていると言える怒りが、醜い憎悪へと変わってしまったのは。
いつ頃からだろう。
こんなに醜くては、人間達と同じではないか。
魚人族こそが至高の種族であるという考え方は変わらない。むしろ変わることは無いと断言できる。
が、下等な人間達と同レベルになってしまっては意味が無い。こんな欲望を剥き出しにした、醜い生き物に成り下がるわけにはいかない。
そう考えた途端、アーロンはかつて無い解放感を感じた。そして彼の体を包み込む、何かが吹っ切れたような感覚。
「……シャハハハハ!!」
実に楽しい。こんなに笑ったのは何年ぶりだろうか。
***
「シャハハハハ!!」
妙に生き生きとし始めたアーロンを見て、同じようにニヤリ、と笑うサム。体内のナノマシンのおかげで、左肘の痛みは抑制されて────はいない。
なぜか。
サムの要望で、彼の体内にあるナノマシンには痛覚抑制機能が無いタイプが用いられているからだ。
あるとすれば、体温充電、これを利用したパワーアシストスーツ及びムラサマへの電力充電回路、ID認証、必要とは思えないが酸欠防止用マスク型ユニットON/OFFスイッチ機能など、サムにとって必要最小限の機能しか無い。
余談だが、パワーアシストスーツを購入した際、売主の“怪しげな野郎”からしつこくPMC専用のナノマシンを注入するよう言われたのだが、サムはこれを断固拒否した。聞けば、性能的には断然良いのだが、代わりにPMC側から“制御”を受けると言うではないか。
兵士の現地状況を正確に把握する云々、綺麗事をぬかしてはいたが、そんなものを注入されるなどたまったものではない。あんまりしつこいのでムラサマで脅しつけ、制御機能無しのナノマシンを注入させたのである。
────と、左肘の痛みを感じつつサムはアーロンの牙に驚きを隠せないでいた。理由は至極単純、パワーアシストスーツを奴の牙が貫いたからである。
サムが着込んでいるパワーアシストスーツ。これには、サイボーグとは比べ物にはならないが
CNT筋繊維とは、2014年を皮切りに突如として世界中に広がり始めたサイバネティック技術の1つである。サイボーグの
────要するに超便利アイテムということだ。詳しいことは
つまりCNT筋繊維のお陰でかなりの耐久性を誇るのだが、それをこうも簡単に貫かれては、粗悪品の可能性を疑ってしまう。
────と録な整備を10年も行っていないことを棚に上げて内心愚痴るサム。どうも電力回路が切断されたらしく長年の整備不足も祟ってか、パワーアシストスーツの左腕部分が動作不良を起こしたようだ。
(……ったく、動き辛いったらありゃしないな)
痛みは吉としてもこればかりはどうしょうもない。
「……ま、関係無いがな」
動かぬのなら 意地でも動かせ パワーアシストスーツ(字余りまくり)
ん、名句だなと自画自賛。ちょっとだけ悲しくなってきたが気にしない。
「くらえ、人間!」
どこかで似たような言葉聞いたな、と考える内にアーロンの拳がサムの顔を捉える。
が、先程までのようなダメージを感じない。
「ゼェ……ゼェ……シャハ、ハハハ!!」
「…………」
アーロンの息は激しい。肩を激しく上下させ、苦悶の表情を浮かべている。
が、だからと言って手抜きはしない。奴は、全身全霊を持って挑んで来ているのだ。ならばこちらも、全身全霊を持って叩きのめすのが“筋”というものだろう。
血をペッ、と吐き出し、同時に一気に攻勢に出る。
「……終わりだ」
姿勢は低く。呼吸に合わせ、筋肉のパワーを一瞬にして
一撃、一撃がアーロンの巨体に吸い込まれていく。その度に彼の体がガクガクと波打つ。確実な破壊力を秘めたその拳が、アーロンの全てを削り取っていく。すでに、反撃する体力など残っていなかった。
(……“人間”も……馬鹿にはできんな……)
両腕を腰に構え、力を引き絞るサム。薄れ行く意識の中で、アーロンは彼の左腕が一瞬黒く染まる様を見逃さなかった。
が、それも束の間。
限界まで筋肉を緊張させ、それを一気に解放させたサムの
***
「「「ウワアアァァ!!」」」
歓声に包まれるココヤシ村。
今のココヤシ村の人々ならば、特に意味の無い往復ビンタを食らわせても笑って許してくれるだろう。8年の悪夢が醒め、自由を取り戻した(正確には取り戻して貰った)村人達は、今まさに有頂天だった。
ココヤシ村唯一の病院であるここにも、普段の静けさとはかけ離れた騒ぎ声もとい歓声が響いてきている。院内にはドクターが1人に患者が2人、ついでに長っ鼻の傍観者が1人。患者の中には、一際目立つ
「へぇ、アーロンを……」
アーロンパークに捕らわれていたゾロだが、どうにか脱出したようである。
「へへ……しかしまぁ……派手にやらかしたもんだな」
「一時のテンションに身を任せちゃいかんってことがよぉくわかった」
はっはっは、はぁ、と結局溜め息をつくサム。
「ダハハハ! よくやったぞ、サムぅ。俺の指示通り!」
「黙ってろウソップ。てめぇ、あんときゃよくもっ……」
「ぎぃやああぁぁ! ご免なさいご免なさいゾロ君!! 首もげる、もげちゃう!!」
「そういやお前居たんだったな。空気過ぎて忘れてたぞ」
「それはそれで悲しいよ、サム君!? 泣いちゃうよ、俺泣いちゃうよ!?」
んぎゃああぁぁ……と心地好い(?)悲鳴が響き渡ると同時に静まり返る空気。
…………大丈夫なのだろうか。
「やかましいぞ、お前ら! 少しは静かにせんか!!」
ココヤシ村唯一の
「ったく……さ、できたぞ」
「おう。すまんなドクター」
包帯の巻かれた左腕を見て、満足気に笑う。
その様子を見ていたゾロだったのだが、視線が左腕から左胸、そして右胸に達したときに顔を
「……少々刺激が強い、ってのはそういうことか?」
「あ? ……ああ、これのことか」
と言いながら右腕を動かして見せる。その滑らかに動きを見る限り、普通の腕にしか見えない。
「俺はてっきり上から何か被せてるんだと思ってたんだかな」
「はっはっは……まあな。
俺の敗北の証だ、と言いかけ、サムは口を噤む。
今のサムは、上半身
その際、初めてサムの体を目にすることになったのだが、確かにある意味刺激が強いものであった。
「そこの緑もそうじゃが……傷だらけじゃのう、お前」
「おい。緑ってなんだ」
確かにドクターの言う通り、サムの体は傷だらけであった。至るところにある裂傷痕、銃傷痕。これは、サムが戦ってきた10余年間の“歴史”だ。人間に付けられた傷もあればそうでないものに付けられた傷もある。
「
そして(この世界での)今から10年前、パワーアシストスーツを脱いだ時にサムは驚いた。てっきりパワーアシストスーツには無かったから体にも、と思っていたのは大きな間違いで、しっかり
サムにとってはただの生々しい敗戦の記憶でしか無いのだが、別段気にしている訳でもない。逆に、このような傷痕が残る赤い血の通った体が残っている、と誇りに思う────訳でもない。やはり敗戦は敗戦。自分は
「普通、そんなとこに傷があれば死ぬもんじゃが……」
「はっはっは……患者のことを詮索するとは頂けんな、ドクター?」
それもそうじゃな、とドクターと笑い合うサム。
「はぁ……そういやルフィは上手くやってんのかねぇ」
「大丈夫。あいつは必ずここに来る」
自信、信頼に満ちた顔でサムは言った。
「……そりゃそうだな」
へっ、と鼻で笑うゾロ。腕を頭の後ろで組み、椅子に背を預けようとしたところでピキッ……、と胸に痛みが走り、思わず顔を顰める。
「あちちち……ん?」
「……お、ナミじゃないか。どうしたんじゃ?」
「ん……ちょっとね……」
治癒所に入ってきたのは、どこか複雑そうな表情を浮かべるナミ。
「…………おい、じいさん。この村の酒屋、教えてくれるか?」
「はっ!? 馬鹿かお前は! 酒など飲んで良いわけなか──」
「い・い・か・ら!」
ナミの表情に何かを感じ取ったのか、先程からまったくと言っていいほど動かないウソップの鼻を握り、ドクターの背中を押しながら治癒所を出ていくゾロ。
これでもフォローのつもりなのだろう。
「はぁ……本当、馬鹿ばっかなんだから、海賊って……」
「んじゃお前も馬鹿ってことだな」
「何でよ!」
はぁ、と溜め息を1つ溢した後、ナミは口を開いた。
「ありがとう」
「本音はそうじゃないだろ」
はっはっはと笑うサム。
「……そうね。1発殴ってやりたい気分よ」
「せっかく9300万ベリー貯めたのに……」と呟くナミ。こればかりはなんとも言えないサムであった。
「ま、もう良いのよ。結果的には助かったんだし、それに……」
────皆、凄い楽しそう。
そう言って、ナミは笑った。
初めて会った時から、どこか自分を圧し殺しているような、そんな節を感じていたが、今はそんなことがどうでもよく思えてくるほどの心からの笑みだった。
「……そいつはよかっ……ん?」
言い切る前に、ナミが動く。気付けば、彼女に抱き着かれる形となっていた。
「本当に……ありがとう」
いつの間にか、ナミの声が涙混じりになっていることに気付く。
ドクターから聞いた話によると、この村が魚人海賊団に支配された時、ナミと姉のノジコを庇い、親同然だった女性が殺されたのだそうだ。
さらには、悲しみに打ちのめされたナミを、その優秀過ぎる航海術、測量術に目を付けたアーロンは拉致、村人達の命と引き換えに傘下で働くよう要求。彼女に断れるはずもなく、親を殺した犯人の元に付くと言う屈辱を味合わせてきた、と。
サム自身も、そうそうまともな人生──彼女らと同じ年頃──を歩んできた、とは言いがたいが、自身は雪辱を果たすことはできた。それで得た“感覚”は別として。
彼女はどうだろう。────到底、当事者でなければ推し測ることすら叶わないほどに、悔しかったはずだ。辛かったはずだ。
逃げ出そうと思ったことがあったのかもしれない。いや、死のうと思ったことすらあったのかもしれない。けれど村人達の命が、それを許さない。そんな絶望的状況の中で、戦って来たのだ。
俺なんかよりもよっぽど強いよ、お前は、と呟きながら、サムは苦笑した。
「……礼はまだ早い」
オレンジの頭を左手でポンポン、と軽く叩きながら、サムは言う。
「お前
そのとき、突然港の方角からドゴオオォォン、という爆発にも似た音が響き渡る。まぁ、こんなことをしでかす奴と言えば“あいつ”ぐらいしかサムは知らないわけで。
「来たみたいだな」
「ほら、いい加減離れろ……」とナミを押し退ける。
目尻に涙を滲ませているその顔を見て、こいつも可愛い顔できるじゃないか、と思いながら彼女の額をコツン、と小突いた。
「まず礼ならルフィに言うんだな。ナミが去った後も、あいつはお前を信じてたんだ。…………ガキはガキ同士楽しくやってこい」
「誰がガキよ」
ビシッとサムにチョップをお見舞いし、くるりと踵を返してナミは出口に向かう。
その表情は、とても晴れやかだった。
「いつかお礼はするわ……体で♡」
「遠慮しておこう」
「冗談のつもりだったけど、即答は気にくわないわね……」
ま、いいか、と治癒所を出ていくナミ。もうすっかりいつもの生意気な
しかし、ここでサムは気づいたことがある。
「……ありゃ化けるな。いろんな意味で」
あいつ、かなり胸あるな、と。
ちなみにカーボンナノチューブはここまで実用化されていません。超オーバーテクノロジーのメタルギアの世界では、と解釈してください。