DEAD OR ALIVE 【SAMUEL RODRIGUES】   作:eohane

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世界最強 相見えるは“狂嗤”

「よし決まりだ! “海のコック”を探そう!」

 

 賞金稼ぎユニット(妙な2人組)“ヨサクとジョニー”を乗せて、海賊船ゴーイング・メリー号は今日も大海原を進む。

 航海の途中、偶然(大砲で殺しかけ)出会ったヨサクとジョニー。彼らから学んだ教訓(壊血病)をもとに、新たな仲間として航海に必要不可欠な存在、コックを引き入れることが決定したのだった。先ほどルフィ考案、ウソップ画伯により海賊旗が完成し、ルフィ一行の航海は順風満帆、さらにはジョニーの情報で海のコックを探すならうってつけの場所、「海上レストラン」なるものを目指している。

 

「アニキがずっと探してた、“鷹の目の男”も現れたことがあるって話だ」

「……っ!」

「…………?」

 

 賑やかなルフィ達の声をBGMに、サムはのんびり“胴着”を仕立てていた。

 

「ふわあぁ……はは、“昔”を思い出すな」

 

 ウソップの村から旅立つ前、人様のモノを云々言っていたのを棚に上げ、ちゃっかりナミの懐から金を拝借したサムは、適当に布と仕立てるための道具を一式購入していた。勿論ナミの逆鱗に触れたことは言うまでもないが、航海の途中でサムが仕留めた海ゾウ(もはや適当)を備品補給のために立ち寄った小さな島の村で売り捌き、得た収益を献上することでなんとか御機嫌回復。ようやく安全(?)に胴着仕立てに勤しむことができているのであった。

 余談だが、故郷ブラジルの生家、ホドリゲス新陰流の剣術道場で、サムは自分で最初から胴着を作っていたわけではない。決して裕福ではなかったホドリゲス家で育ったサムは、1度与えられた胴着を何度も何度も自分で補修し続け、気がつけば胴着を1着仕立てることなど容易くなっていたのだ。

 因みに、殺人剣ホドリゲス新陰流は前述した通り日本の柳生新陰流の影響を強く受けている。道場の一日、在り方、修行スタイルなどは、肌の色、人種が違うというだけで日本のそれとほぼ変わらない。毎日道場で修行の日々だったサムには、ブラジル生まれでありながらも胴着というものが普段着、と身体の奥底に感覚的に染み付いていた。

 

「しっかし、胴着なんて何年ぶりだ? ……うむ、余裕で2桁超えるな……」

 

 (父親)をマフィアと関係があった弟子に殺害され、仇討ちとしてその組織ごと壊滅させて以来、剣士として戦場を渡り歩いてきたサム。

 “ジェットストリーム・サム”と呼ばれ始め、持ち出したホドリゲス新陰流に伝わる、戦国時代の名刀“ムラサマ”を高周波ブレードに改造し、何やら怪しげな野郎から購入したパワーアシストスーツを着用し始めて雷電に倒されるまで10余年。この世界に来て、ルフィ、エース、サボ達と共に過ごして10年。

 かれこれ20年以上は経っている。

 

 …………と、何やら思考に耽っているうちに、胴着が完成した。

 

「…………まあ、こんなもんか」

 

 ムラサマを腰から取り外し、さっそくパワーアシストスーツの上から胴着を羽織る。紺を基調色とし、所々に朱色のラインが入っている。長めの腰帯は(グレー)で、2周ほど、緩めに余裕を持って巻き、余った部分を右側に流す。ムラサマを腰の左側にさしてサムの衣替えは完了した。

 

「久しぶりにしちゃ上出来だな」

 

 んん、座りっぱなしで凝った身体を背伸びでほぐす。スゥ、と息を吸い込み、同時に海独特の、潮の香りが鼻腔をくすぐる。耳を澄ませば、カモメの鳴き声や海の波打つ音が心地よく耳に響く。

 胴着を作り終えた、という達成感と謎の高揚感のせいか、似つかわしくないやたらと平和的な考えばかり頭に浮かび、思わず苦笑した。

 

 

 

 ***

 

 

 

「着きやした! 海上レストラン!」

「これまた……なんとも言えん(レストラン)だな…………」

 

 ゴーイング・メリー号の見張り台の上で、サムは呟く。最近この場所が気に入っているのか、ことある度にサムはこの場所に登っている。

 じっくりと、サムは目の前の海上レストランなるものを端から端まで眺めた。

 メリー号の2倍はあると思われる船体。巨大な魚を模した船首(ヘッド)。胴体部分には、2本のマストに前後を挟まれた「RESTAURANT BARATIE」と書かれた店本体。ご丁寧に、舵は尾びれの形にしてある。ウソップの言う通り、ファンキーな外装。

 何故この船型で海に浮かんでいられるのか……と言ったらヤボなのであろう(レストラン)がそこにはあった。

 

「……さて、と。久し(3日)ぶりにメシでも食うかな」

 

 胴着(着流し)を風に靡かせ、サムはよいしょ、と立ち上がる。

 この服、サムは胴着のつもりで仕立てたのだが、あまりのダーク“ファンキー”さに周り(ルフィ達)から見れば着流しのようなものだ、と言われちょっぴり落ち込んでいたのは秘密である。

 ギャー、ギャー、と心地好い(?)カモメの泣き声を聞きながら、ふわあぁ、とあくびを1つ。目尻に涙を滲ませながら目を開いたそのとき、メリー号の右舷後方に接近してくる船影にサムは気づいた。

 

「……ん?」

 

 なんと軍艦、それも海軍の船である。帆と旗には海賊旗“死の象徴(ドクロ)”と対を成す海軍旗“正義の象徴(カモメ)”が描かれている。やはり軍艦らしく攻撃的な重装備で、冷めた威圧感を放つ大砲がこちらに向けられていた。サムにとっては、フーシャ村でガープがやって来る時以来のご対面である。

 

「……バギーの船よりは、まだマシだな」

 

 海賊にとっての天敵とも呼べる存在を前に、相変わらずののほほんとした態度を崩さないサム。

 見ているとその甲板上に、スーツを着込んだ海兵(スカした野郎)が現れ何やらぶつぶつと言ったかと思うと、今度はこちらの甲板上でヨサクとジョニーが騒ぎ始め、お互い“菜斬り刀”を抜き放ち躍りかかった。

 …………が、案の定返り討ち。

 紙一重か、とか言ってんだろうなぁ、と思いながら見ていると、今度は軍艦の船室から女性の細い腕が伸び、海兵を引っ張って連れ込もうとしているのが見えた。

 

「……なんだ? お咎めなしか?」

 

 上手いことルフィ達と“殺り合って”くれれば良い感じに退屈しのぎになる、と何やら物騒な淡い期待を抱いていたサムは、ガクッ、と肩を落とし項垂れた。

 とそのとき、ドゴオォォンと、まあ文字通り何やら物騒な音がサムの耳に響く。

 

「……何故だ……顔を上げたくねぇ…………」

 

 大砲の爆発音がしたから、というわけではない。なぜなら、爆発音が“メリー号”もしくは“海軍船”からしなかったからだ。

 もとから見逃す気などさらさらなかったあの海軍船が大砲を放った、となれば違和感はない。それが普通だ。

 基本、世の中の悪である海賊(デスペラード)は何をされても文句を言うことができない。海賊の騙し討ちなど、海軍からしてみれば日常茶飯事なのだろう。メリー号には申し訳ないが、海賊船となった以上覚悟を決めてもらうしかない。

 が、それならば大砲の直撃に見合う衝撃なるものがメリー号を襲うはずなのだ。

 が、それがない。しかし爆発音はあった。

 

 それも前方(レストラン)から。

 

「…………」

 

 意を決して顔を上げたサム。同時にその体勢のまま固まってしまう。

 

「…………あのバカ……」

 

 はっと我に帰り、黒煙立ち昇る“魚”を視界から逸らしながらムラサマを掴み、腰帯にさしてひょいっと見張り台ら飛び下りる。

 何故こうも厄介ごとを起こしてくれるのか、疑問に思いつつも半分諦めの感情を抱いているサム。

 やはり、ジェットストリームの孫はジェットストリームのようだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ──2日後──

 

「オ、オイ……あいつ、なんだ?」

「知るかよ……刀持ってるぞ……」

「……あ、サム! お前も来たんだな!」

「……よぉルフィ」

 

 船番をゾロ達に任せ、お預けとなっていた久し(5日)ぶりの食事のためにサムは「RESTAURANT BARATIE」を訪れていた。

 周囲のいちいち面倒な反応が幾分か薄くなった(?)ことに安堵しつつ、ルフィに軽く手を振る。

 海軍船からの砲撃を“ゴムゴムの風船”で弾き返したは良いが、砲弾をバラティエに直撃させてしまい、1年間のタダ働きで弁償することになってしまったルフィ(正確にはあの海軍が悪いような気もするが)のせいで、結果的に一行は、見事に足止めを食ってしまっていた。

 

「で? どうするんだ、ルフィ?」

「なははは! わかんねぇ!」

 

 適当な席に腰を下ろし、ルフィのまったく危機感の感じられない答えを聞いてサムは思わず苦笑した。…………本当にどうするのだろうか。

 と、そこへ、

 

「いい加減にそのサボり癖を直しやがれ雑用!!」

「おぶっ!?」

 

 見事な蹴りがルフィの頭に入る。

 

「ちっ……んで? てめぇ注文は?」

「……グル……ごほん、グルェイトな金髪だな」

「どぅあれがグルグルだってぇ!?」

「言ってない言ってない」

 

 この黒服の男、名前はサンジという。もはや客を客とも思っていないかのような言葉使いだが、料理の腕は確かなようでこのバラティエの副料理長を務めている。

 プカプカと吹かしたタバコに明るめの金髪。ナルトの如きグルグル眉毛と伸ばされた前髪で隠された左目。その裏側に何が隠されているのか実に興味深い。何か住んでいるのだろうか。

 が、チャラチャラとした外見とは裏腹に料理には人一倍思い入れがあるようで、スープに虫が入っていたから(ちょっと違うが)、とそれを粗末に扱った海軍本部大尉“鉄拳”のフルボディ(スカした野郎)を戒めるためにフルボッコにしてしまうお茶目さんでもある。

 

「お前気にしてんのかぁ、その眉毛」

 

 まあ、サムが言いきる前にグルグルに関して反応してしまったわけで、気にしているというのはあながち間違ってはいないだろう。

 「アチャー……」と呟くルフィを、サンジはまた蹴り飛ばす。が、はっと気がつきサムに振り返るが時すでに遅し。そのニヤケ顔を見てうがぁ……と頭を掻きむしる。

 

「それじゃコック殿、注文良いか?」

「クソ……」

 

 ゲッソリとしたサンジにピュゥ、と口笛を吹きながら適当に料理を頼んでいくサム。なるべくナミから頂戴した金額をフルに使えるようあれよこれよと注文し直していく。

 

「……これくらいか。それじゃ頼む」

「へぇへぇ。気に食わねぇ野郎だぜ」

「楽しみにしてるぞぉ、少年(ガキ)

「っ! っるっせぇんだよ、てめぇ! どっかのクソジジイと似たようなこと言いやがって!!」

 

 はっはっは、とサムの笑い声を背中で聞きながら、サンジは額に青筋を立てて厨房へ戻っていった。

 

「……なあサム。お前らなんか声──」

「言うなルフィ」

 

 

 

 ***

 

 

 

「いいレストランだ。この船を貰う」

 

 ちょうどサムが、対ルフィ メインディッシュ防衛戦に励んでいるとき、バラティエに訪れた海賊船(ガレオン船)があった。

 東の海(イーストブルー)の覇者、海賊艦隊提督“首領(ドン)”・クリークの船である。どうも2日前にバラティエのコック、パティがその部下を痛め付けたらしく、その報復に来たんだとコック達が騒いでいた。

 

「……んあ?」

 

 飢餓に苦しんでいたらしくぼろぼろの姿での登場だったが、サンジにメシを恵んで貰うや否や、彼に殴りかかるというとても礼儀正しい謝礼を披露したクソ野郎である。

 ルフィの相手に忙しく、クリークの近くにあるテーブルに座ってはいるものの我関せずを決め込んでいたサムだが、何やら剣呑な空気を感じとったのかメインディッシュをペロリとたいらげてクリークに首だけ振り返った。ああぁぁ……とルフィの悲鳴は華麗に無視。

 これから起こるであろうトラブルに気分が高揚していくのをサムは感じる。

 

(厄介ごとばかり舞い込むが……ルフィ(こいつ)といると退屈しなくて済むからいいんだよな)

 

 顔がニヤけてしまうのを止められないサムであった。

 

「……ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)をつかみ、この大海賊時代の頂点に立つのだ」

 

 パティの食あたり砲弾(ミートボール)をくらってもものともせず、どこから持ってきたのか突然重装備人間と化したクリークがこの船に突きつけた“条件(命令)”は2つ。

 1つ。偉大なる航路(グランドライン)の落武者である部下達100人分の水と食料を用意。

 2つ。全員この船から降りるべし。

 どうやらこの船を奪うつもりのようだ。随分と理不尽極まりない要求だが、この世界には“海賊”なるものがいるのである。“力”のある者が最強なのだ────クリーク曰く。

 そしてもちろん、クリークの発言にピクッ、と反応する男がいた。

 

「ちょっと待て! 海賊王になるのは俺だ!」

 

 言わずもがな、ルフィである。

 

「はっはっは……お、ゾロとウソップじゃないか」

 

 ルフィのこういうところ──人目を気にせず、誰彼構わず堂々と自分の夢を宣言する(誓う)ことができる人柄(ところ)に、サムは惹かれたのだ。

 昔からそうだった。己がやると決めたらとことんやる、というのがルフィである。 

 まあかといって、偏屈サムがそれを見習うという訳でもないが。

 

 

 

 ***

 

 

 

「「「な、何だとおおぉぉ!?」」」

「あの野郎……やけに羽振りが良いと思えば別れの挨拶ってか……」

 

 突如クリークのガレオン船が、まるで“高周波ブレード”に斬られたかのように粉砕し、船に残っているナミ、ヨサクとジョニーを確認しに言ったかと思えば、

 

『じゃあね! あいつらに言っといて! ……縁があったらまた会いましょ♡ って』

 

 まさかの海賊専門泥棒“本領”発揮である。

 まだ見えるゴーイング・メリー号の船影を見つけたルフィの判断により、ゾロ、ウソップ、サム、ヨサクとジョニーがナミを追うこととなった。

 

「あいつだあぁ!!」

 

 突然響き渡る声。

 全員同時に振り向き、そして同時に視界に入る、ガレオン船の残骸の合間を縫ってこちらに迫る小さな船影。それに足を組んで座る、鷹の目のような男(世界最強の剣士)

 

「ほぉう……」

 

 気づけばゾロは、ヤツの元へ向かっていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「おい……何のつもりだ、そりゃあ……」

「俺はうさぎを狩るのに全力を出すバカなケモノとは違う」

 

 こいつぁ……。

 サムの(本能)が警鐘を鳴らす。

 船の残骸を見る限り、この世界にも高周波の概念が存在したのか、と疑っていたサムだが、ゾロと向き合っているこのような“状況”を作り出した張本人、“鷹の目”のミホークが持つその刀剣を見てさらに疑念が生じてしまった。

 

 どう見ても高周波ブレードではないのである。

 

 彼が持つ刀剣。十字架のような柄に漆黒の刀身。

 人目でわかる、かなり上等のモノだ。

 が、逆に言えばそれだけである。いくらなんでも、ただの刀でガレオン船を真っ二つにするなどできるはずがない。そうだと信じたい。

 

「あいにくこれ以下の刃物は持ちあわせていないのだ」

 

 なんとミホークは胸にぶら下げた十字架の飾り……かと思われた小刀でゾロの相手をするつもりのようだ。もちろん、これにはゾロも激怒。

 

「死んで後悔するんじゃねぇぞ!」

 

 違う……。

 またまたサムの(本能)が警鐘を鳴らす。

 

「……いかん」

 

 サムと初めて出会った時のように、ゾロは“鬼斬り”を繰り出し────それをミホークは小刀で受け止めた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ちきしょおおぉぉ!!」

「……やってくれる……っ!」

 

 ルフィが左腕を伸ばし、ミホークに迫る。

 サムがムラサマの鞘を固く握りしめ、ミホークに向けて飛び上がる。

 

「うおああぁぁ!」

 

 迫り来るルフィをヒラリと躱したミホーク────に向けて、サムはホドリゲス新陰流剣技の1つ“縮地抜刀(シュクチバットウ)”を放った。

 

「────っつおらっ!!」

 

 以前ゾロの鬼斬りを受けたときのように、相手の武器()を気にすることはなく。遠慮なしに高周波を流したことで、ムラサマの刀身に赤い空中放電が発生する。

 鞘内部では機構が正常に作動。撃鉄が薬莢の雷管を叩き、薬莢内部の火薬を起爆。膨大なエネルギーは薬莢ごと膨張し、ガス圧によってムラサマの鍔を弾き出す。

 さらにゾロを“殺られた”ことで心なしか逆上し、“怒り”で無意識の内に高周波以外の“ナニカ”を纏った斬撃。サムが出せうる最大出力で放った斬撃、それを放つ。

 剣士の魂である剣を、為す術無く叩き斬ってやろう。

 

「……っ!」

 

 おおよそ刀同士で出し得るモノではない音が鳴り響く。火花を散らし、赤と黒は激突した。 

 

「ふむ。この海(世界最弱の場)で2度も……お前のような者(強き者)と相見えるとは……」

 

 嘗ての好敵手(シャンクス)を思い出す世界最強(ミホーク)

 ならばこの男は、“世界最狂”とでも言うべきか。

 

 

 

 

 

 

「────せっかくだ……楽しもうぜ」

 

 顔を“歪ませ”、狂嗤(きょうしょう)を浮かべる。

 

 

 

 


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