DEAD OR ALIVE 【SAMUEL RODRIGUES】 作:eohane
1本の剣
「……見せてやる」
そう呟き、サムエル・ホドリゲスは地を蹴る。己自身とも言える剣を、剣術を、相対する敵へ剣士たる礼儀をもって魅せるために。
人を越えた脚力は純粋に大地を粉砕する。力を加えられた地点を中心に地面が波打ち、如何にその力が膨大かを物語っていた。
土煙をあげながら超速で地を滑り、
右手をムラサマの軸線上へ。突き出されたムラサマが綺麗に右手へと収まる。視線は奴から逸らしていない。何処にムラサマが来るか────それが判っていた。
「────そろそろ行くかぁ?」
思わず口を突いて出た言葉。
顔を覗かせた赤い刀身。文字通り音速を越えた
纏うのは赤い雷。体を巡る血流のようにムラサマを奔る。
迎え撃つのは鋼の刀身。冷たくも美しいそれが、決闘の最後を予感させる。
纏うのは青い雷。天を翔る
サムにとって必殺の一撃。今現在のボロボロな体で出し得る最高の一撃。
それを彼は見事に凌いだ。それでも最新鋭ボディは軋み、地を踏み締める両足は悲鳴を挙げ、体を走り抜けたエネルギーは荒野を砕き、亀裂を走らせる。
2人の、全ての意識がお互いの刀へ向けられる。膠着の隙を突いて更なる一撃を加える余裕は無い。気を抜いたらば最期。その瞬間に斬られる。
火花を飛び散らせながら、尚も鍔迫り合う。このまま圧し切ることができた者こそが勝者。歴史が判断した、正さの証明。
激痛が体を駆け巡り、ブシュッと肩から胸にかけてぱっくりと開いた裂傷から“赤い”血が吹き出す。────とうの昔に限界を迎えていた体中が悲鳴をあげていた。
だが────いや、これは言い訳にしかならない。例えどんな条件の差が有ろうとも、勝てば生き残り、敗ければ死ぬ。────ただ、それだけ。たったそれだけの単純明白な世界で生きてきたのだ。
師匠でもある父親の敵討ちにマフィアのところへ殴り込みをかけたとき、サムは刀1本、相手は重火器という状況だった。
だが結果は、マフィアの連中は死に、サムは勝ち、そして生き残った。
この世界で、敗けた奴がどうこう言う資格はない。というより、言うことすらできない。まさに、「死人に口無し」そのもの。
────だからこそ、サムは何も言わない。
己の敗北を悟り、彼からは見えないであろうマスクユニットの内側で、サムはにやり、と口角を釣り上げた。
「これで終わりだっ!!」
雷電が吼える。
ブレード同士の鍔迫り合いに勝ち、サムの構えを弾き飛ばしたその“
「ぐぉ……ガッ…………」
これで良い……これで良いのだ。
正しく
サムが追い求め、恋い焦がれた“真の自由”。
思わず手が伸びる。伸ばしたのは“左手”。
せめて、死に際の一瞬でもかまわない。だから、せめて…………。
自由を────。
「────ッ!」
自身を貫く刀と共に、自由は離れていく。
どうにも現実は残酷なようだ。敗北者には、“それ”すらも赦されないらしい。
「……はは……へへへ…………」
がくがくと震える足に逆らわず膝を折り、もはや自分が産まれた時のものではない右手で、止まることなく溢れ出す自身の血を受け止める。
(…………どうせなら、生身のまま死にたかった、てか……)
だが、そんなことはどうでもいい。サムは今、純粋に嬉しいのだ。
こいつなら、もしかしたら……いや、もしかしなくても、“見せてくれる”かもしれない。
剣だけで思うように生き抜き、世界の何かを変えようとする、その生き様を。
自分にはできなかった、しかし自分の憧れでもあった、その生き様を。
(…………やってやれ、雷電……)
────1本の剣でどこまでやれるのか、俺に見せてみろ
誰よりも戦いを愉しみ誰よりも戦場を求め、そして誰よりも社会悪を憎んだ
ジェットストリームは、止まることを知らない。