さて、第八話完成いたしました。今回も前回に引き続き、主要キャラ五人組のうち四名+主人公くんでお送りします。
ごちうさ原作、又はアニメで存分に振舞われたあの可愛さを少しでも伝えられるよう、今回少しだけそういった方面の描写も入れてみました。
実際書いてみると、かなり難しく感じました……殆ど文字数を占めていないにも関わらず、凄く恥ずかしい気分になるのはどうしてでしょうか?
ま、まあ前置きは兎も角、出来具合は皆様御自身の目でご確認下さいませ。今回も楽しんで頂けたら幸いです。
では、第八話です。どうぞ。
空は快晴。春の陽気でポカポカと暖かい空気は、思わず昼寝したくなる程気持ちいい。
そんな中、僕たちラビットハウス従業員一行(とティッピー)は、現在千夜ちゃんの実家兼勤め先である《甘兎庵》へと歩を進めていた。
なんでも、先日パン作りでお世話になった御礼がしたいのだとか。律儀なことだ。
「どんなお店なんだろう? 楽しみだね!」
「僕は行ったことあるけどね」
甘兎は店の雰囲気も和菓子の質の素晴らしく、千夜ちゃんに招待してもらった時以来、偶に足を運んでいた。
「確か、甘兎だとか言っていたな」
リゼが何気なく、そう呟いた瞬間──。
「甘兎とな!?」
「うわあ!? びっくりした!」
隣で歩いているチノちゃんの頭の上から、叫び声。驚いて心臓が縮まった。
声の主は、無論ティッピー。何故喋るのだとか、甘兎を知ってるのだとか、そういう事を気にしないのが彼(?)と付き合っていくコツである。チノちゃんは腹話術と言い張っているが、そんな幼稚な嘘に騙されるのはココアちゃんくらいだろう。
……そういえば、甘兎にはあんこが居た筈だ。喋るうさぎを前に、あいつはどんな反応を示すのか。今から少し楽しみだ。
「なんだチノ。知っているのか?」
「甘兎は、おじいちゃんの時代に張り合ったライバル店だと伝え聞いています」
「そりゃまた、妙な因縁だねぇ」
「いんねん? 幽霊のこと?」
「ココアさん、それは多分怨念です」
などと他愛もない会話を楽しんでいると、いつの間にか見覚えのある景色が並んでいた。この調子なら甘兎はもう目の前だ。
「──あった、あれじゃないか?」
真っ先に声を上げたのはリゼだった。彼女の目線の先には、幾度も目にした古臭い看板──喫茶《甘兎庵》である。
「ここがそうなんですか?」
「そうだよチノちゃん。だからその無駄に威圧感を放っているティッピー、どうにかしてくれないかな……」
甘兎を話題に出して以降、ずっと険しい顔をしているティッピー。どうやったらうさぎにそんな芸当が為せるのか、自他ともに認めるうさぎ好きの僕ですら皆目検討がつかない。
ここでふと気になって、到着から一度も口を開いていないココアちゃんへ視線を移す。何やらぽけーっとした顔で看板を見つめているが、一体何事だろう?
「…………おれ、うさぎ、あまい?」
「なにその独白!?」
「ココア。俺、じゃなくて、庵だ」
唐突に何をのたまうのかと驚嘆したが、単に読み間違えただけだった。
まあ、甘兎庵の文字は右読みだから、確かに解り辛い。果たして何十年前から経営しているのだろうか。
ココアちゃんの誤解(?)も解け、「なるほど〜」なんて言いながら甘兎に突入しようと、扉に手を掛け──って、言わなきゃいけない事が!
「ココアちゃん、ちょっと待って!」
「え? どうしたの上白く──へぶっ!?」
ココアちゃんが扉を開いたその瞬間、店内から真っ黒な何かが弾丸の如く飛び出し、ココアちゃんの顔面へと衝突した。
女の子が上げちゃいけないような悲鳴を出しながら、仰向けに倒れるココアちゃん。
「なんだこいつは!? 敵襲か!?」
「こ、ココアさん!?」
慄くリゼとチノちゃん。しかしリゼ、何故拳銃を出す。そして構えるんじゃない。
「──あんこ。こっちおいで」
黒い何か──あんこは僕の言葉にピクリと反応すると、ココアちゃんの顔の上から跳躍し、僕の頭上に着地。
……念の為言っておくが、普通のうさぎはこんなに跳ばない。この子が特別なだけである。飼い主の皆様はくれぐれも無理をさせないようご注意下さい。
「う……うさぎですか?」
「うん。甘兎の看板うさぎだよ」
「それはわかったが、どうして行きなり飛び出して来たんだ?」
「あはは……まあ、中に入って話すよ。ココアちゃん、大丈夫?」
僕は先程から微動だにしないココアちゃんへ声を掛ける。
僕の言葉にピクリと反応したココアちゃんは、ゆっくりと起き上がる。その間、終始彼女は無言だった。
「ココアさん……?」
チノちゃんも不安そうにココアちゃんへ目を向けている。俯き気味なココアちゃんの表情は、僕からは窺えなかった。もしかして、頭とか打ったのだろうか……?
「────顔一杯にもふもふが!」
…………。
「行きましょうリゼさん、上白さん」
「あ、うん」
「こればっかりは、フォローのしようがないな……」
僕たちはココアちゃんを放ったまま、店内へと足を運んだ。南無。
「…………あれ? みんなは?」
□□□□□□□□□□
「あら、いらっしゃい!」
あんこの次に出迎えてくれたのは、和服エプロンという独創的な格好に身を包んだ千夜ちゃんだった。
「ココアちゃんはどうしたの?」
「すぐ来ますよ」
チノちゃんが答えた次の瞬間、勢い良く扉が開く。本当にすぐ来た。
「みんな、置いてきぼりなんて酷いよー!」
「ココアちゃん、いらっしゃい!」
「あ、千夜ちゃん! こんにちわー! いきなりうさぎが飛び掛かってきたから、びっくりしたよー!」
僕はココアちゃんの順応力にびっくりしたよ。
「あんこったら、また飛び出したのね」
「またって……良くあるのか?」
リゼが怪訝そうな声で問うと、千夜ちゃんはかぶりを降った。
「あんこが飛び出すのは上白君が来た時だけよ。よっぽど懐かれているのね」
「あはは、嬉しいんだけどね。今回みたいに尊い犠牲が出る可能性もあるし、出来れば普通に懐いて欲しいな……」
「いいなー! 私もしてほしい!」
ココアちゃんの言葉はスルーだ。
ちなみに前回ここへ訪れた時は思わず回避してしまい、たまたま連れ添って来た青山さんの頭に激突した。嫌な事件である。
「へえ、流石うさぎに関しては別格だな」
「羨ましいです」
「あはは、ありがとう……って、どうした?あんこ?」
照れ笑いを浮かべていると、頭上のあんこがある一点をじっと見つめている。
そして、次の瞬間──再び驚愕すべき速さと威力で飛び出した。
「ゴフッ!?」
──ティッピーに向かって。
「ティッピーーー!?」
白と黒が激突し、あらぬ方向へと吹っ飛ぶティッピー。驚きで足が竦んだのか、チノちゃんは尻餅をついてしまった。
「チノちゃん大丈夫!?」
「な、なんとか……ビックリしました……」
チノちゃんに駆け寄るココアちゃん。幸い怪我等はしていないみたいだ。
一方で追いかけっこを続けるティッピーとあんこ。その光景を見ながら、リゼが呟いた。
「縄張り意識が働いたのか?」
いや、恐らくそれは正しくない。僅かに感じ取ったあんこの感情から推測するに、これはもしや──。
「上白君、これは……」
「うん、千夜ちゃん。これは……」
「「──恋に落ちたんだ (のね) 」」
「ええっ!?」
目を見開くリゼ。かく言う僕だって相当衝撃を受けている。あんこの反応を期待してはいたが、よりにもよって一目惚れとは。僕もしたけど。
「あの子、恥ずかしがり屋くんだったのに……これは本気ね!」
そんなことはないと思うが──って、恥ずかしがり屋……くん?
「あれ?ティッピーってメスなの?」
いや、流石にそれは──。
「メスですよ」
「マジで!? あの声で!?」
しょ、衝撃の事実である……! 生まれてから今までで一番驚いたかもしれない。
「腹話術です」
「……もうなんでもありだな、腹話術」
それでも無理を押し通そうとするあたり、よっぽど知られたくないのだろう。
混沌とした店内に、ティッピーの悲鳴が木霊した。
□□□□□□□□□□
「はい、お品書きよ」
ようやく一段落つき、テーブル席に座った僕たち四人。寛いでいると、千夜ちゃんがメニューを持ってきてくれた。
「どれどれ……」
リゼがそれを開き、横からチノちゃんも覗き込んでいる。
──そして、案の定動きが停止した。
甘兎のメニューは千夜ちゃん自身によって手直しが施されており、一見さんにはまるで意味不明な文字列になっている。よっぽど千夜ちゃんの感性に近いモノを持っていない限り、読み取るのは至難の技──!
「わー抹茶パフェもいいなー! でもクリームあんみつ白玉ぜんざいも捨てがたいなー!」
「「「わかるの (のか) (んですか) !?」」」
……結局、メニューの選択はココアちゃんに一任することになった。
「ちょっと待っててね!」
注文を終えると、千夜ちゃんは厨房へと戻っていった。
僕が煌めく三宝珠、チノちゃんが花の都三つ子の宝石、リゼが海に映る月と星々、そしてココアちゃんが黄金の鯱スペシャル、をそれぞれ頼んだ……これを見て誰が和菓子のラインナップだと想像できようか。
「和服ってお淑やかな感じがしていいねー」
千夜ちゃんを見送ったココアちゃんが、突如としてそんなことを呟いた。まあ、概ね同意出来る。
「…………」
すると、何か思考を巡らせているのか、真剣な眼差しで千夜ちゃんが消えていった厨房の方を凝視しているリゼ。和服が気になるのだろうか?
「……着てみたいんですか?」
「い、いやっ! そういうわけじゃっ……!」
明らかに動揺を隠し切れていない様子のリゼ。図星か。
「リゼならきっと似合うんじゃないかな?」
「そうだよ、きっと似合うよ!」
「ぅ……!」
僕とココアちゃんが賞賛の意を述べると、リゼは照れて真っ赤になってしまった。おお、可愛い可愛い。
「博打とかで活躍してそうだよね! へい姉御、サイコロ一丁!」
「「そっち!?」」
思わずリゼと一緒に突っ込んでしまった。僕とココアちゃんの想像していたリゼの姿には、大いに方向性の違いがあったようだ。あと、最後のフレーズなんだ。
「お待ちどうさまー」
「あっ、きたー!」
そんなやり取りをしているうちに、どうやら出来上がったみたいだ。千夜ちゃんがお盆を持って現れた。
「上白君は煌めく三宝珠ね」
僕の目の前に差し出されたのは、真っ白な団子に黄金色の蜜が掛かった、いわゆるみたらし団子だ。確かに、名前から想像出来なくもない。
「リゼちゃんは海に映る月と星々、チノちゃんは花の都三つ子の宝石ね」
「……白玉栗ぜんざいだったのか」
「私のはあんみつにお団子が刺さってますっ」
まあ、その二つはメニューから連想し辛いと思う。
「そして、ココアちゃんには黄金の鯱スペシャルね!」
そう言って千夜ちゃんが差し出したのは、パフェの上にたい焼きが乗せてある特製和菓子。これは僕も初めて見た。
「うわぁ、おいしそう……!」
ココアちゃんは目を輝かせてそれを見詰めている。流石は女の子、甘いものには目がない、というわけか。
「……たい焼きを鯱に見たてているんですね」
「無理がないか?」
「それ以前に和菓子屋としては、たい焼きをそんな扱いしてていいのかな」
たい焼きの熱でクリームが溶けている。僕にはそれが、彼の抗議の涙に見えた。
「あんこには栗ようかんね」
配膳を終えると、今度はあんこの目の前に栗ようかんを配置する千夜ちゃん。絶対色々と間違っていると思う。
ちなみに、ティッピーはどこかへ逃げたきり姿を現していない。今頃どこかで息を潜めているのだろうか。
気を取り直して、いざ食してみよう──そう思った矢先に突如視線を感じて、僕たちは一斉にある方向へと目線を向けた。
『…………』
店内の中央、その台座の上で、あんこが栗ようかんには手を付けず、じっと僕たち──正確にはその手元を凝視していた。
「どうしたんだろう?」
「こっちの食べたいんでしょうか?」
「あー、どうやらそうっぽいね」
確かにあんこから『食べたい』という欲求が伝わってきている。普段はこれほど明確に感情を露わにする子じゃないだけに、今日は随分珍しい。
「しょうがないなー。食べてもいいけど、後でもう一回もふもふさせてね?」
そう言ってはにかみながら、スプーンでパフェを掬ってあんこへと差し出すココアちゃん。初回の突撃は1もふもふ扱いなのか、逞しいな。
あんこの視線は出されたスプーンとココアちゃんの間を往復し──跳んだ。
「え、そっちに来るの!?」
──今度はクレープ本体へ。
「そ、そんなに食べていいなんて言ってないよー!」
「凄い勢いです!」
たちまち器の半分程を食い尽くすあんこ。満足したのか、たい焼きの代わりに器の上で鎮座したまま、ついに動かなくなった。
「千夜ちゃん。これは……!」
恐る恐る、千夜ちゃんへと顔を向けるココアちゃん。
当の本人千夜ちゃんは、当に女神の如く微笑んで──言った。
「裏メニューの、あんこパフェよ」
「「「食べるの (のか) (んですか) !?」」」
余談だが、この後滅茶苦茶もふもふしてた。ココアちゃんが。
□□□□□□□□□□
「あー、美味しかった」
「ごちそうさま」
「……あれ?チノはどうした?」
全員が完食し、時間も丁度良いのでそろそろラビットハウスへ帰還しようかと思い始めた頃。リゼの言葉を聞いて目を見回すと、確かにチノちゃんが居ない。
「チノちゃんなら、あんこの所に居るわよ?」
千夜ちゃんの声を受け、僕たちは視線を店内の中央へ。そこには固まったまま動かないあんこと、それをじっと観察するチノちゃんが確かに居た。
「触りたいのかな?」
「だが、チノはティッピー以外の動物が懐かないらしいぞ」
手を伸ばし、引っ込めを繰り返すチノちゃん。そして、ついに覚悟を決めたかのように表情を引き締め──。
「か、上白さん!ヘルプですっ」
──僕に助けを求めだした。
「あれ?どうして上白くん?」
「上白は、反対にうさぎに好かれる体質だからな。それもかなり」
「ええー!なにそれ、羨ましすぎるよ!」
「お陰様で、攫われたあんこを探し回らなくてもよくなったのよ。助かるわ」
「……いや、攫われるのか?」
女の子三人の姦しい会話を背に、僕はチノちゃんへ近付く。
「うう……勇気を下さい……」
身長差のせいで僕が見下ろし、チノちゃんが見上げる態勢なわけだが……涙目と上目遣いでそんな事をのたまうチノちゃん、凄くあざといと思う。
「チノちゃん、頑張って。前の時を思い出してよ。きっと大丈夫だって!」
「で、では……!」
戦々恐々と、しかし確実に手先をあんこへ接近させていくチノちゃん。
あと5センチ、3センチ、1センチと距離が縮まり──。
「────!」
ついに、その指先があんこの耳に触れた。
「よ、よし……!」
以前はその瞬間に腕を引っ込めていたチノちゃんだが、今度は思い切ったようで、そのまま頭を、背中を撫でていく。幸いというか、あんこ自身も不快に思ってるわけじゃないみたいだ。
「さ、触れました……!」
「やったよチノちゃんっ! おめでとう!!」
「おお、これは大きな進歩だな」
「次は一人で触れるようにならないといけないわね、頑張って!」
ココアちゃん、リゼ、千夜ちゃんから紡がれる祝福の言葉。
僕も何か言わなければ、と考え──気付いた時には既に遅かった。
「あ……」
「うん、おめでとうチノちゃん」
彼女に頭の上に手を置き、撫でる。
──直後、不用意かと断じ、僕は慌てて手を持ち上げた。
「ご、ごめん。不躾だったかな?」
「い、いえ……」
チノちゃんは視線を逸らし、小さな声で呟いた。
「その……な、なかなか心地良かった、です」
少し頬を朱に染めて、なんとも反応し辛いコメントを口にしてくれた。
「ふふ、二人ともなんだか本当の兄妹みたいね」
何気無く呟いた千夜ちゃん。
その時、電流走る────ココアちゃんに。
「リゼちゃん! 上白くんにチノちゃん取られた!」
「人聞き悪っ!」
リゼに縋り付くココアちゃん。その光景に微妙な視線を送るチノちゃんと僕。ニコニコと笑う千夜ちゃん。
この時のチノちゃんの反応。その本当の意味を思い知るのは、この数日後のことである────。
読了有難うございます!
今回の後書きは多くを語らずに終了したいと思います。申し訳ございません。
では、また次回お会いしましょう。それでは。