うさぎ帝国   作:羽毛布団

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結構早めに更新できました。できればこれぐらいのペースを維持していきたいものですが、今後だんだん遅くなっていきそうで怖いですw

さて、漸くです。漸くココアちゃんを出せました。ついにここまでやってきました。やっぱりココアちゃんは癒しですね!……あんまり出てないですけど。


さて、今回話自体は短めであんまり進んでません。原作を逐一文章にしていくと長くなりそうなので、もしかすると次回ちょっと飛ぶかもしれません。申し訳ないです。

では、第六話です。



ほんわか、襲来

「う…………」

 

 目を覚ますと、そこは昔懐かしい我が家の自室だった。

 

「……知ってる天井じゃん」

 

 冗談を吐きつつも、上半身を起こしすぐさま周りを確認する。紛うことなく僕の部屋だ。うさぎのポスターも、うさぎ関連の書物も、うさぎのぬいぐるみも、銃口を此方へ向けたままのリゼも──。

 

「って、リゼ!?」

 

 どうしてあんたがここにいるんだよ!

 

 ラビットハウスの制服を着たリゼは、瞠目している僕を見つめて静止している。長い沈黙の後、重々しく口を開いた。

 

「うさぎとお前の命。どっちを選ぶ」

 

 ──いきなり究極の選択を突きつけられた。

 

「ちょ、ちょっと待って! なんでその二択!?」

「早く答えろ、撃つぞ」

「え、ちょ、待ってよ──」

「さん、に……」

 

 時間制限!?

 

「いち……」

 

 不味い、引き金が徐々に沈んでる! 本気だ!

 僕は彼女を止めるべく、可能な限り大きな声で叫ぶ──!!

 

 

 

 

 

「うさぎだああああ──がっ!?」

「うっ!?」

 

 額に衝撃。眩む視界。上下感覚もままならない。

 

「痛ててて……って、リゼ?」

 

 激しく自己主張している痛覚を抑え滲む視界を凝らすと、近くで頭を抱えたリゼがしゃがみこんでいた。

 

「痛いのはこっちだ!」

「えっと……ごめん?」

 

 状況が整理できていない。僕は改めて周りを見回した。

 見える景色は僕の部屋──では当然なく、シンプルな小部屋。そのベッドから半分身を乗り出した状態の自分。

 そこで、僕はようやく事態を理解する。

 

「……ああ、チノちゃんの家に泊まったんだっけ」

 

 そう、僕は昨日タカヒロさんの提案で一泊することになったんだった。

 ということは、先程まで見ていたのは夢……?

 

「まったく……魘されていたみたいだったから、折角私が様子を見てやっていたのに。その礼がこれか?」

「う、それは本当にごめん……」

 

 恨めしげな目で僕を睨むリゼ。魘されていたのは彼女が原因な訳だが、それを指摘するのは流石にお門違いで──。

 

「銃を向けて脅しても起きないなんて、どんな夢を見てたんだ?」

 

 僕の謝罪を返せ。

 

「はあ……で? どうしてリゼがここに?」

「今日もバイトだからな」

「バイト? それで、なんで僕のところに?」

 

 そう問い掛けると、リゼは視線を外しながら答えた。

 

「その……チノ父に言われてな。寝坊助を起こしてこいと」

「そうなの?」

 

 タカヒロさんが、わざわざリゼにそんな事を頼むだろうか?

 

「そんなことより! お前、私の誘いは断ったくせに、チノの家には泊まるんだな?」

 

 考え込んでいる途中だったが、リゼの言葉によって思考が中断された。

 

「まあ……一泊だし。タカヒロさんも、なんかチノちゃんまで乗り気だったし」

「なら、今度私の家にも来い」

「なんで!?」

 

 この街の人は、なんでこう積極的なのか。異性を家に泊めることにもうちょっと躊躇いとか恥じらいとか持って欲しい。

 

「一泊ならいいんだろう?」

「いや、リゼのご両親の了承とか……」

「この前説得したと言わなかったか?」

 

 ──また、退路が断たれた。

 

「は、ははは……お手柔らかに」

 

 苦笑いを浮かべ、僕は立ち上がる。精一杯伸び、身体を解す。いつも硬いベンチで寝ていたからか、今日は一段と身体の調子がいい。気がする。

 

「私はもう行くが、お前も早く来いよ」

 

 リゼはそれだけ言うと、足早に部屋を去って行った。

 

「……うん、僕も着替えよう」

 

 壁に掛けてあるソレを取り外し、着替える。布団の皺を伸ばし、綺麗に整えておく。

 顔を洗いに洗面所に行くため、部屋を出ようとして──僕は振り返った。

 

「…………」

 

 シンプルな内装、少数の家具、ベッド。何度見返しても、僕の部屋の面影は──無い。

 

「……そう、都合良くはいかないよな」

 

 変な夢を見たせいで、多少ホームシックになってしまったようだ。憂いを振り切るべく、目を閉じ、前を向き、歩き出──。

 

「お前は何者だ!」

 

 ──階下から響いてきたリゼの叫び声にぶち壊された。

 

 

 

 

 

 

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「……で?」

 

 場所は変わって更衣室前。騒ぎを聞きつけた僕は、出鼻を挫かれた反動でちょっと不機嫌になりながらも、何があったのか把握すべくリゼを問い詰めている真っ最中だった。

 

「な、何がそんなに不機嫌なのかわからないが……新しくバイトに入った新人だ」

 

 ジト目のまま、リゼが指し示す方へ目を向ける。

 

「ココアですっ!」

 

 元気一杯といった様子の女の子が、元気一杯に挨拶してくれた。

 短髪の薄い茶髪に、半分だけになっている花の髪飾りが特徴的な子だ。あとほんわかしている。リゼちゃんやチノちゃんよりは、千夜ちゃんに近い印象だ。

 

「ココアさん、この人もここでバイトしている上白さんです」

 

 昨日入ったばかりだけどね。

 

 チノちゃんが丁度様子を見にやってきたようで、僕の紹介をしてくれた。

 

「佐藤 上白です。よろしくね」

「よろしくねー!」

 

 顔合わせが終わったところで、タイミング良くチノちゃんが口を開いた。

 

「上白さんはまだ新人ですが、リゼさんは先輩としてココアさんに色々教えてあげてください」

 

「きょ、教官ということだな!?」

 

 あ、リゼの悪い癖が出た。

 

「嬉しそうですね?」

「こ、この顔のどこがそう見える!」

「十分嬉しそうだよリゼ」

 

 破顔しているのは見間違いではあるまい。

 

「よろしくね、リゼちゃん!」

「上司に口を利く時は言葉の最後にサーを付けろ!」

「お、落ち着いてサー!」

 

 ……本当に、こんなのでやっていけるのだろうか。不安になる僕とチノちゃんであった。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「「おおー」」

 

 僕とリゼの声が重なる。眼前で、ココアちゃんがふわりと回ってみせた。その衣服は、ピンクを基調としたラビットハウスの制服だ。

 

「似合ってます」

 

 チノちゃんもご満悦のようだ。

 

「では、早速そこの荷物を運んでもらいます」

「どこへ運べばいいの?」

「キッチンまでお願いします」

 

 チノちゃんの指示に従い、積み上げられたダンボールを持ち上げる僕たち三人。中に結構詰まっているようで、腕にかかる負担は相当なものだ。

 

「ココアちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫……だけど、普通の女の子(・・・・・・)にはキツイよっ」

 

 瞬間、背後からドサリと大きな物音が響いた。

 

「たっ、確かに重いな! 普通の女の子には持てないな! あははは!」

「リゼが普通? 冗談はよしてくれ──」

 

 ヒュッ、と僕の眼前を白い物体が掠めた。

 

「……何か言ったか?」

「ナニモイッテマセン」

「そうか。言葉には気を付けろよ」

 

 リゼが白い物体──コンバットナイフを下ろすのを確認し、額の汗を拭った。危うく首と胴体が泣き別れするところだった。

 

「……リゼちゃんと上白くんって、仲良いね?」

 

 荷物を置いてじっとやり取りを見ていたココアちゃんが、ふとそんな呟きを漏らした。

 

「まあ、この街に来て初めて親交を持った人だからねぇ」

「何かと放っておけない奴だからな」

 

 リゼには思っている以上に手助けして貰っている。会う度に譲渡してくる食べ物もそうだが、ここで働けるのだって、元を辿れば彼女の尽力によるものなのだ。

 

「なんだか、兄妹みたいだね!」

 

 ココアちゃんが嬉しそうに口に出した言葉を受けて、僕たちは顔を見合わせて──笑った。

 

「「まあ、君は(お前は)手の掛かる妹(弟)みたいなものだからなー」」

 

 そして空気が凍った。

 

「……リゼ。いくら寛容な僕でもそれは聞き捨てならないな。僕が兄で、君が妹。異論を挟む余地なんてないだろ?」

「……上白。私が今までどれだけお前に世話を焼いたと思っている? その光景はまさに弟の面倒を見る姉そのものだ、異存はないだろ?」

 

 交錯する視線。散る火花。先ほどまでの和気藹々とした雰囲気は消滅し、剣呑なソレへと変貌していく。

 すぐ近くでココアちゃんがあわあわしているが、今はそれに構っている場合じゃない。

 

「じゃあリゼ、こういうのはどうだい? ここの代表として、チノちゃんに決定権を委ねよう。聞くまでもないと思うけどね?」

「なるほど、平等でいい提案じゃないか。私もそれに賛成だ。どちらにせよ私の勝利は揺るがないがな」

 

 互いに睨み合った状況から、僕とリゼは同時にチノちゃんへと視線を移した。

 

「「さあ、どっちだ!?」」

 

 僕とリゼを交互に見て、チノちゃんは深く息を吐くと、ついにその口を開き、結果を告げる──!

 

「いいから仕事してください」

「「………………はい」」

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 ラビットハウスの店内に、ココアちゃんの明るく元気な声が響き渡った。

 

「ココアのやつ、ちゃんと接客できてるじゃないか」

「心配ないみたいですね」

 

 初めて仕事をやるココアちゃんに、当初こそ不安感を隠しきれない様子であった二人だが、予想以上の働きぶりに寧ろ感心すら覚えているようだった。

 

「明朗溌剌だし、人懐こいし。接客の素養はあったんじゃないかな」

「そうですか? ぼーっとしてそうだったので、結構心配だったんですが」

 

 心なしか、チノちゃんはココアちゃんに対する風当たりが強い気がする。初対面時に何かあったのだろうか。

 ふと見れば、注文を受けたココアちゃんが右手を上げて此方に手を振っていた。これなら十分上手くやっていけるだろう。

 

「やったー! 私ちゃんと注文取れたよー!」

 

 訂正。やっぱり大丈夫じゃないかもしれない。

 

「……さて、じゃあ僕はそろそろ戻るよ。今日も公演の予定があったからね」

「え? 上白くん、どこか行っちゃうの?」

 

 不思議そうに首を傾げるココアちゃんに、チノちゃんが答えた。何故かちょっと得意げだ。

 

「上白さんはうさぎのサーカスをやっているんですよ」

「うさぎのサーカスっ!?」

 

 途端、ココアちゃんが幼子のような煌めく瞳で僕の方を見つめた。またこのパターンか。

 

「まあ、そういうわけだから。終わったらまた働きに来るよ」

「私も見に行っていい!?」

「ココアさんはダメです。働いて下さい」

「酷いっ! 上白くんは行けるのにっ!」

「僕は主催だから、行かなきゃそもそも開催できないよ」

「それに、上白さんはラビットハウスの宣伝も兼ねてますから」

「意外と計算高い!?」

 

 ていうかそんなの聞いていない。

 

「うぅ〜、行きたかったなぁ……」

「あはは、また今度みんながお休みの時に開くよ」

「絶対だからね? 忘れたらチノちゃんをもふもふ地獄に引き摺り込んじゃうからね!?」

「うん、わかったよ」

 

 背後で「上白さん!?」と叫び声が聞こえたが無視し、僕はラビットハウスを後にする。時には、犠牲だって付きものなのだ。

 

「あの子たちに野菜買って行かなくちゃなー」

 

 久し振りのもふもふを楽しみにしつつ、僕は早足で市場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 余談だが、宣伝の結果午後は人が詰めかけたらしく、後でリゼに恨み言を言われた。

 チノちゃんには感謝されたが、ティッピーには「騒がしすぎる」とお叱りを受けた。何故だ。




読了ありがとうございます。

さて、そろそろギャクっぽくなってきたでしょうか?代わりにうさぎ成分が大幅に減っているのは、凄く悲しいですね。今後彼らにも活躍の機会は沢山あると思うので、是非お楽しみに。

では、今回はこの辺りで。次回もよろしくお願いします。

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