うさぎ帝国   作:羽毛布団

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ごちうさの二期はいつやってくるのでしょうか。そろそろ風邪を引きそうです。

この物語は、ココアちゃんが街にやってくる一月程度前をスタート地点にしております。一番初めにオリ主と知り合ったのはリゼちゃんでしたが、最後はココアちゃんになりそうです。

では、第二話です。お楽しみ頂ければ幸いです。


うさぎサーカス、始めました

「それっ、いけ!」

 

 僕が指示を下すと、うさぎたちは次々と飛び跳ね、僕が支えていた輪っか(フラフープ)の中をくぐり抜けて行く。

 最後のうさぎが着地を決めた瞬間──大きな歓声と拍手が、公園を包み込んだ。

 出来るだけ優雅で大仰に頭を下げながら、フラフープを置く。代わりに大きな傘を持ち、目の前で広げてみせた。

 

「さあて、次の演目へ参りましょう──」

 

 

 

 

 

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「おっ、これはまだ使えるかも……」

 

 数時間前──まだ日が昇って間もない朝方。僕は街を巡回していた。

 その理由は単純。うさぎたちに曲芸を仕込むので、その為の小道具集めである。折角うさぎと意思の伝通が可能なのだから、その利点を活かさないのは勿体無い。

 当然ながらうさぎたちに『どうしてそんなことをするの?』と問われたが、野菜を得るためだと話すとすんなりやる気になってくれた。ちょろい、でもそういうところも可愛い。

 

 問題は小道具集めだが、これもなかなか捗っている。

 

 ゴミ捨て場、別の公園、裏路地など様々な場所を物色すると、思いのほか色んな物が落ちていた。その中で活用できそうな、割れたフラフープと切れた縄跳びを拝借して、今は三ヶ所目のゴミ捨て場を漁っていた。なかなかホームレス生活が板についてきたと思う。

 ここに捨ててあったのは大きい無地の傘だ。骨も折れておらず、布地も無事だが、傘の先端が折れている。これは普通に使えそうだ……なんで捨てたのだろう。

 

「さて、そろそろ帰ろうかな」

 

 街の人たちも、もうそろそろ活動を始めるだろう。人通りが多ければ流石に探索の支障になる。

 僕は元の公園へと足を進めた。

 

 

 

 

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「おー、お留守番ご苦労様」

 

 公園に戻ると、待ってましたとばかりに僕の足元に群がってくるうさぎ、うさぎ、うさぎ──!! やっぱり天国だね、ここ。

 うさぎたちは口々に『おなかすいたー』だとか『おやつはー?』だとか申し立てているが、残念ながら僕は食べ物を買いに出たわけじゃない。持ってきたものを置くと、皆一様に首を傾げた。なにこれ超可愛い、写真に収めたい。

 

 ……思ったんだけど、この子たち今まで何を食べて生きていたんだろうか?

 

 疑問は一旦引っ込め、うさぎたちに芸を教え込む。とはいっても言い聞かせること自体は結構単純で、「合図を出したらこの輪っかをくぐって」とか、「縄を回すから足元にきたら飛び越えて」といった簡単なものばかり。

 だが、これだけでは見栄えが少ない。より楽しんでもらう為には、見る者を魅了する派手な大技が必要不可欠だ。

 

「よし……!」

 

 僕は傘を手に取り、そして──。

 

 

 

 

 

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 時は戻って、昼。今日はどうやら日曜日らしく、学生から社会人まで多くの人達が足を止めてうさぎたちの芸に魅入ってくれている。

 

「さあ、おいで!」

 

 観客が固唾を飲んで見守る中、しゃがみ込み、姿勢をかなり低く保つ。

 すると、一匹の子うさぎが背中を駆け上がり、僕の頭から傘の上へと飛び乗った。

 不安定な足場の中、振り落とされまいと踏ん張るうさぎ。僕は出来るだけゆっくりと、慎重に傘を持ち上げた。

 ついに頭の上まで上昇させると、ところどころで歓声が響く。

 

 ──だが、これで終わりではない。

 

「せーのっ!」

 

 合図と共に一気に傘を回転させる。

 乗っていたうさぎは僕の声を聞いた瞬間、落っこちないように速さを調節しながら、見事に傘の上を走ってみせた。

 

 これには観客も大喜び。「おお、これはすごい!」「かっこいいー!」「よく手懐けているなぁ」「うちのあんこもできるかしら?」などなど、最後以外お褒めの言葉を頂戴した。

 

「おいで」

 

 ゆっくりと回転を止め、落ちてくるうさぎを抱きとめる。僕はそのまま、拍手を続ける観客に向けて深々とお辞儀。鳴り止むと同時に顔を上げ、叫ぶ。

 

「ここまでご覧になって頂き、誠にありがとうございます! 頑張ってくれたこの子たちにご褒美を!」

 

 そして大きめの木箱(これも拾った)を差し出すと、沢山の人が賞賛の言葉と共にお金を投入してくれた。

 

 ──うさぎのサーカスで見物料を取る。これが、僕の考えた路銀を得る方法である。

 

 輪くぐり、縄跳び、うさぎ回し。今出来るラインナップはこの程度だが、うさぎたちの協力的な姿勢もあって、立派な簡易サーカスを行うことができた。

 収入が溜まれば新しく道具を買うこともできるし、食料は勿論、銭湯や洗濯代も賄える。街の人がどれだけ関心をもってくれるかが問題だったが、思った以上に大盛況で助かった。中にはお札を出してくれた人もいたし、これは予想以上に上手くいっている。これが僕の住んでいた日本ならそうはいかないだろう。街の人たちの人柄には大いに感謝せねば。

 

「ねえねえ、次はいつやるのー?」

「そうだなぁ。また新しい芸を思いついたら見せにくるよ」

 

 当然所持金が尽きたらなのだが、そこは言葉を濁しておく。マンネリ化を防ぐためにも、どうせ新しい技は開発せねばならない。色々と質問を飛ばしてくる子供達の相手をしながら、今後の計画を立てていくのであった。

 

 

 

 

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「あー、さっぱりした」

 

 実に四日ぶりの風呂を存分に楽しみ、銭湯から上がった僕は、興奮冷め止まぬうちに野菜とパンを購入し、公園に舞い戻ってきた。

 活躍してくれたうさぎたちに野菜を広げると、一心不乱に食し始める。もさもさする姿も可愛い。

 このまま食事風景をずっと眺めてもいいけど、僕も腹が減った。パンの袋を開封し、かぶりつく。程よい甘さともちもち感を味わいつつ、僕は目を閉じて天を仰ぐ。

 

「なんとかやっていけそうかなぁ……」

 

 天国(?)へ来て四日経つが、ようやく生計を立てる糸口が掴めてきた。当然ずっとサーカスで賃金を得ることは難しいだろうが、就職への繋ぎにはなるだろう。履歴書になんて書けばいいのかわからないが、きっとなんとかなる。

 目を開ける。青々とした空に雲が流れ、カラスが真上を悠々と羽ばたいている。そして段々と近づいてくる黒いうさぎ──。

 

「えっ、ぐふぉっ!?」

 

 腹に直撃。中身が出そうになったが、気合いで抑え込む。

 てかなに? この街はうさぎが降ってくるの? あんなに高いところから落ちてもケロッとした顔で膝の上に鎮座してるし、色々おかしい。

 まあ、地面に激突して怪我を負わなくてよかった。僕は改めて降ってきたうさぎを観察してみる。

 

 白と黒の体毛に覆われ、王冠のような、特徴的な飾りを頭の上に乗せている。毛並みはいいし、恐らく飼いうさぎだと思うのだが、さっきから微動だにしない。

 

「おーい、君はどこの子?」

『……………………』

 

 問いかけてみるも、返事はない。無口なのか、この子だけ話が通じないのか。異様な威圧感を放っているし、前者だと思うけど。

 

「ま、待って〜!」

 

 なんて色々考察していると、公園の入り口から和服の女の子が駆けてきた。どうやら随分走ってきたようで、僕の目の前まで到着すると、膝に手をついて息を整えている。

 

「ええっと、この子君のうさぎ?」

 

 多分間違いないと思うけど、とりあえず聞いてみた。

 

「はぁ、はあ……ええっと、その通りで、……はぁ、はぁ……ありがとう……」

「お、落ち着いて。ゆっくり深呼吸して」

「すぅ……はぁ…………ありがとう、楽になりました」

 

 女の子は顔を上げると、僕の方を見て驚いたように言った。

 

「あれ? あなたはさっきの……」

「うん? もしかして、サーカス見てくれてたの?」

「ええ。お仕事の配達中だったけど、思わず魅入っちゃったわ。直ぐに思い出してお仕事に戻っちゃったからロクにお金も払わず、ごめんなさい」

「いや、お金が目的じゃないからね。いいんだ」

 

 嘘ですお金が目的です。

 

「そう? ……そうだ! ならうちに来ない? 甘兎庵(あまうさあん)っていう喫茶店を営んでいるのだけれど、何かご馳走するわ!」

「え、いいの!?」

「勿論! あんこも懐いているようだし、歓迎するわ! その子、滅多に人に懐かないのよ。恥ずかしがり屋なの」

「へえ、この子あんこって言うのか……空から降ってきたのはなんで?」

「あんこ、よくカラスに攫われちゃうのよ。困った子よね」

「よく攫われるんだ!?」

 

 驚愕の事実である。何か特別なフェロモンでも出しているのだろうか。

 

「さあ行きましょう……と、その前に自己紹介ね。私は宇治松 千夜よ、よろしくね」

「佐藤 上白だよ。こちらこそよろしく」

 

 握手を交わした後、僕は千夜ちゃんに先導され、彼女の喫茶店へと向かって出発した。

 

 

 

 

 

 

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「へえ、千夜ちゃんは今年から高校生なんだ」

「ええ。上白君は今いくつなの?」

「僕は16だから、今年で高校二年生だね…………通っていれば(ボソッ)」

「あら、そうなの? 年上だと知らず、失礼だったかしら……?」

「いや、全然大丈夫だよ。寧ろこのままフレンドリーでいてくれるとありがたいな。僕友達少ないし」

「ふふ、ありがとう。そうさせてもらうわ」

 

 歩いている途中で話し込んだ結果、千夜ちゃんとだいぶ打ち解けた。彼女の和服は経営する喫茶店の仕事着であるらしく、仕事中に攫われたあんこを追いかけてきたのだと言う。なかなか大変な生活を送っているようだ。決して人のことは言えないが。

 

「着いたわ。ここが甘兎庵よ!」

 

 そうこうしているうちに、ついに到着した。古ぼけた看板に大きな文字で〈甘兎庵〉と確かに書いてある。文字が逆になっているのは昔の日本を意識しているのか、相当な老舗なのか。でも建物自体は洋風である。謎だ。

 

「さあ、どうぞ。ようこそ甘兎庵へ!」

 

 促されるままに、店内へ足を踏み入れる。内装は和風を意識した造りになっており、純日本人としては非常に落ち着く。今までが今までだけに、より一層そう感じるのかもしれない。

 

「さあ、あんこはこっちよ」

 

 千夜ちゃんはあんこを抱きかかえると、店内の中央にある台座へと置いた。そこが定位置で安心するのか、ちょっとあんこの雰囲気が柔らかくなった気がする。

 

「こちらがお品書きになります」

 

 適当な椅子に座って待っていると、千夜ちゃんがカウンターの奥からメニューを持ってきてくれた。早速それを開いて見てみると……。

 

「……うん?」

 

 煌めく三宝珠、雪原の赤宝石、海に映る月と星々……等々、よくわからない単語の羅列がぴっちりと並んでいる。

 

「千夜ちゃん、これってさ……」

「どう、素敵じゃない? その名前、全部私が考えたの」

「……か、かっこいいんじゃないかな?」

 

 確かに見た目はかっこいいかもしれないが、どれがどの料理なのか全くわからない。客の想像力に任せる喫茶店、なんて新しいんだ……!

 

「じゃあ、この海に映る月と星々ってのをひとつ」

「はい、少々お待ち下さい」

 

 恭しく頭を下げて、千夜ちゃんは厨房へと入っていった。とりあえず適当に頼んでみたはいいものの、何が出てくるのか全く想像がつかない。あれ?なんだかワクワクしてきたかも。これがこの店の狙いか!?

 下らない事を考えつつ、僕は料理の完成を座して待つのであった。

 

 

 

 

 

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「はい、お待ちどうさま! 海に映る月と星々です」

 

 10分もしないうちに千夜ちゃんが持ってきたのは、白玉栗ぜんざいだった。

 成る程、ぜんざいは海を。白玉は星を。栗はお月様を表しているのか……! こうして改めて実物を目にすると、よく考えてあるなぁと思わず感心してしまう。

 

「では、いただきます」

「ふふ、召し上がれ」

 

 スプーンで一口掬い、口へと運ぶ。瞬間、優しい甘さが口の中に広がり、思わず頬が緩んでしまった。

 

「これ、すごくおいしいね」

「あら、ありがとう。常連になってくれてもいいのよ?」

「ははは、考えとくよ」

 

 会話をしながらも手は止まらない。あっという間に平らげ、手を合わせる。

 

「ご馳走様でした。今日はありがとう、こんなにおいしいもの久しぶりに食べたよ」

「お粗末様でした。お代金は300円になります」

「お、おおお金とるんですか……っ!?」

「ふふ、冗談よ」

 

 この子は全く、心臓に悪い冗談を言ってくるなぁ。はは……寿命が一月ほど縮んだかと思った。

 

「びっくりさせないでよっ……まあ、今度はお金払ってちゃんと来るさ」

「お待ちしておりますわ。私の方こそ、うさぎのサーカスを楽しみにしているわね」

「うん、次も飛び切り面白い案を考えとくよ。じゃあ、またね」

「ええ、また会いましょう」

 

 店先で手を振る千夜ちゃんに手を振り返し、僕は甘兎庵を後にした。

 

 

 

 

 

 

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 公園に戻ると、もはや定位置となったベンチに腰掛け、息をついた。

 時刻は既に夕暮れで、空は茜色に染まっている。

 

「千夜ちゃん、か」

 

 この街に住み着いてできた二人目の友達。知り合いの全くいない僕にとって、その存在は何よりありがたいものだった。

 そういえば、リゼはどうしてるだろうか。あの子ともまた話をしてみたい。バイト先の子も紹介してくれる、とか言っていたし、その時が楽しみだ。

 

「ありがとう」

 

 擦り寄ってくるうさぎたちに向けて、僕は呟いた。ここまでこれたのも、全てはこの子たちのお陰である。近くにいた子の背中を撫でながら、僕は更に言葉を紡いだ。

 

「でも、野菜残しておいて欲しかったなぁ……」

 

 放置していたら全部食べられてました。そりゃあそうだよ。

 




第一話に引き続き、第二話の読了有難うございます。

リゼちゃんの次に出会ったのはなんと千夜ちゃんでした。

原作開始までまだ時間がありますので、どんどん関わりを持ってもらいましょう。チノちゃんは兎も角、シャロちゃんとどう引き合わせるか……難しいですね。

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