うさぎ帝国   作:羽毛布団

13 / 16
後編だと思った?残念、中編でしたー!

……はい、すいません全力で土下座します。
先ず、遅れてしまい申し訳ございません。弁明のしようもありません。
そして、まさかの中編。私としては後編まで一気に行きたかったのですが、あまり執筆が進まなかったのと、予想以上に文字数が嵩みそうだったので一旦中編で区切った次第です。

あと、前話までの修正を行いました。物語の流れに影響を与えるような修正はありませんが、一応報告をば。


さて。漸く上白君の弱点(?)が明らかになります。ここからリゼちゃん反撃のターン?その辺は次回の管轄です。申し訳ございませんが、もう暫くお待ち下さい。


では、第……十二話です、よね?内容的には十一話の続きです。どうぞ。


雨、騒音、店内にて(中編)

「チノの部屋って、チノって感じがするなー」

「どういう意味です?」

 

  ──ラビットハウスのホールから、場所は移ってチノちゃんの部屋。綺麗に纏まっており、女の子らしくぬいぐるみをベッドの上に鎮座させている。

 千夜ちゃんとシャロちゃんは丁度お風呂に入っている最中であり、部屋ではココアちゃん、リゼ、そしてチノちゃんがそれぞれ寛いでいる。

 

 そして、僕はというと──。

 

「…………」

 

 

 ──目下沈黙中であった。

 

 

「ねえチノちゃん。上白くん、どうしたんだろ?」

「私にはさっぱり……リゼさんは何か知ってますか?」

「いや、流石にこうなった理由までは検討がつかないが……」

 

 女の子三人組が何やらヒソヒソと会話していようとも、その内容は僕の耳を素通りして思考の中枢へ入って来ない。

 

「上白、本当にどうしたんだ?」

 

 沈黙に耐え切れなかったのか、リゼが僕へと声を掛けた。僕はピクリと身体を揺らし、首を動かして困惑の色濃いリゼの瞳を見つめ返す。

 

「……リゼ」

「どうした? 顔が青いぞ」

「その……ちょっとお腹痛いのでトイレに行っていいですか……?」

 

 早口にそう告げると、僕は逃げるように部屋を飛び出した。

 息を吐き、扉から少し離れた壁へ背中を預け、天井の電灯を仰ぐ。

 

 ──しかし、これは非常にマズい。

 

  そう、この状況は僕にとって最悪と言っても過言ではないのだ。それだけの要素が揃ってしまっている。

 お泊り。複数の女の子に男子は僕一人だけ。手荷物は皆無。外は雨天で、当然逃げ場はない。

 だが、まだ希望が全て潰えたわけではない。このラビットハウスには、もう一人住人が──そう、タカヒロさんが居るのだ。ならば、僕の心配は杞憂に終わる可能性だって十分ある。

 

 ……何分経っただろうか? ともかく、ずっと室外に出たままでは怪しまれる。僕は数回深呼吸を繰り返し、気を十分に落ち着かせてから、チノちゃんの部屋の扉を開いた。

 

「──あ、上白くん!」

 

 まず最初に目に飛び込んで来たのは、妙に嬉しそうな表情のココアちゃん。何故かチノちゃんの学校の制服を着ている。

 

「……なんで中学校の制服?」

「へへーん! 着てみたかったんだ、これ」

「ふーん……」

 

 改めて、彼女の全体像を見据える。

 

 

 頭がすっぽりと収まりそうな、シンプルな青色の帽子。

 

 帽子同様に青色を基調とした、ベストタイプの上着。

 

 膝上までしっかりと露出させている、これまた同様に青いミニスカート。

 

 

 

 ──そして、それを完璧に着こなすココアちゃん。

 

 

「うん、違和感ないね」

「まあ、このまま学校に行っても誰も気付かないくらいには自然だな」

「ホントっ!?」

 

 僕とリゼの意見に、喜色満面といった様子のココアちゃん。果たして何がそんなに嬉しいのか。

 

「そろそろ返して下さい」

「ちょっと待ってチノちゃん! このまま学校まで行ってくる!」

「こ──ココアさん、外は大雨です!」

「……そういう問題じゃないだろ」

 

 リゼの冷静なツッコミが、虚しく室内に響いた。

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 思わず溜息が漏れる。少し前同様、僕は天井の電灯を見上げた。

 今は廊下で待機中だ。室内ではココアちゃんが普段着に着替えている。流石に婦女子の着替えに、男子たる僕が立ち会うわけにはいかない。

 

「……」

 

 憂鬱が僕を襲う。

 この後の展開如何によっては、僕はまたあの地獄と再開を果たすことになりかねない。なんとかして対策を──。

 

「あれ、上白さん?」

 

 ──と、思考に耽ろうとしたその時。声を掛けられた僕は、首を動かしてその声の主へ視線を向ける。

 

「シャロちゃん、千夜ちゃん。上がったんだね」

「ええ。上白君はここで何を?」

「まあ、ちょっとね。締め出されちゃって」

 

 それだけ伝えると、千夜ちゃんは直ぐに得心が行ったようで「なるほどね」と小さく呟いた。

 対してシャロちゃんは煮え切らない様子で、首を傾げている。

 

「──まあ、それはともかく。二人ともパジャマ似合ってるね」

「ほ、本当ですか?」

「あら、お世辞でも嬉しいわ」

 

 二人は純白のワンピース調のパジャマに身を包んでいる。スカートの端や襟にはフリルがあしらわれており、まさに良家のお嬢様、といった風貌だ。

 

「この服、チノちゃんが貸してくれたのよ」

「へ、へえー。そうなんだ」

 

 ……少し声が上擦ってしまったが、不審感は持たれなかったようだ。

 

「リゼ先輩に笑われたらどうしよう……」

「それはないと思うけどなぁ」

 

 リゼなら逆に着てみたいと考えるに違いない。言葉には絶対現さないだろうけど。

 シャロちゃんは暫くまごついていたが、やがて意を決したのかチノちゃんの部屋の扉に手を掛け──。

 

「「──あ」」

 

 僕と千夜ちゃんの声が重なる。

 ──そう、ココアちゃんが着替えている途中だったから僕が廊下で暇を潰していたのだ。

 それなのに了承を得ないまま勝手に扉を開けると──どうなる?

 

 ギィ、と木造住宅特有の音が鳴る。扉が開ききり、廊下から中の様子は筒抜けだ。

 そして僕たちの視界に広がったのは──……!

 

 

 

 

 

 チノちゃんの制服を着たリゼが、そこに居た。

 

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

 停止する時間。場を無言が支配する。

 リゼの背丈は当然チノちゃんのソレを軽く凌駕している。そんな彼女が、中学生の──ましてやその中でも特段背が高いと言えないチノちゃんの制服を着れば、どうなるか。

 

 スカートの丈はもはやマイクロミニと称するのが相応しく、艶やかな生脚がギリギリまで露出している。ともすればスカートの中身まで見えてしまいそうな程だ。上着はある一部が非常に自己主張しており、健全な男子高校生としては、直視出来ない状態である。

 

 結論────かなりいかがわしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はそっと扉を閉めた。

 

 

 

「それはそれで傷付くからやめろっ!」

 

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「あー、さっぱりした」

「上がりました」

 

 先の騒動から凡そ三十分の後、次に風呂に入っていたココアちゃんのチノちゃんが帰ってきた。髪はしっとりと濡れており、頬は僅かに上気している。

 ちなみに、リゼは逃げるように浴場へ行ってしまった。誰だって一人になりたい時があるのだ、そっとしておこう。

 

「チノちゃん、私が髪乾かしてあげる!」

 

 と、意気揚々に部屋の片隅にあったドライヤーを掲げ、チノちゃんに迫るココアちゃん。

 

「遠慮します」

「へ、なんで?」

「ココアさん、いつも終わった後に離れてくれないじゃないですか」

「そ──そんなっ!? 私にチノちゃんをもふもふするなって言うの!?」

「なんでそんなにガッカリしてるんですか?」

 

 チノちゃん、何気にいつもココアちゃんに乾かして貰ってるって自白しているわけだが──黙っておこう。

 

「チノちゃん、なら私がやってあげようか?」

「シャロさんが? じゃあお願いします」

「チノちゃん酷いっ!? ──千夜ちゃん! チノちゃんがシャロちゃんに盗られたー!」

「よしよし、大丈夫よココアちゃん」

 

 千夜ちゃんに泣きつくココアちゃん。その彼女の頭を撫でる千夜ちゃん。その光景をジト目で見詰めるチノちゃん、シャロちゃんの二人。女性三人が集まれば姦しいとはまさにこの事だろう……実質、騒いでるのは一人なのだが。

 

「……うん?」

 

 苦笑いしていると、ふと鼻腔を甘い香りが刺激した。

 

「ねえ、何か甘い香りがするんだけど」

「──甘い香り、ですか?」

 

 ココアちゃんとドライヤーの奪い合いをしていたシャロちゃんが動きを止めて、鼻をひくつかせる。

 

「確かに、いい匂いがしますね」

「あら、本当ね。何の香りかしら?」

 

 仄かに甘いこの香り。これは恐らく──。

 

「──あ、ココアの匂いだ」

「私の匂いってなに?」

「飲む方に決まってるでしょ!」

 

 シャロちゃんの突っ込みが冴え渡った。

 

「ふふん、実はお風呂にこれを入れてみたんだ!」

 

 ココアちゃんが取り出したるは、開封済みの入浴剤のパッケージ。律儀なことに『飲めません』と表記してある。飲まねえよ。

 

「……これ、リゼ先輩に言ったの?」

「え? 言ってないけど?」

「さも当然のように!?」

「……今頃、リゼは驚愕している頃だろうね」

 

 階下の風呂場から、リゼの悲鳴が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 ──暫く経った後、リゼが部屋に戻ってきた。

 

「ふう、ただいま」

「あ、リゼちゃん! どうだった?」

「まあ、悪くはなかったな」

 

 満足気に頷くリゼ。どうやら、ココア風呂は彼女のお眼鏡に適ったようだ。

 

「ほら、入ってないのは上白だけだぞ」

「……ああ、そうだね。じゃあ僕も行ってくるよ」

「ココア風呂の感想よろしくねー!」

「行ってらっしゃい、上白君」

「服は洗面所の籠に入れておいて下さい」

「私たちはここで待ってますね」

 

 皆に見送られ、部屋を退出する僕。真っ直ぐに廊下を歩いていく。

 ……そして、風呂場へ続く一階への階段を目前に、僕は足を止めた。

 

 

 

 

 

 

 ──ついにやってきた。裁定の時が。

 

 

 

 

 

 

 想起するのは過去のトラウマ。条件はあの時と酷似している。僕はもう、あの悲劇を繰り返すわけにはいかない。絶対にだ──!

 

「上白君」

 

 ──背後から声。振り返ると、タカヒロさんが腕を組んで佇んでいた。

 

「……上白君。君が何を危惧しているのか、解っているよ」

 

 優しく声をかけてくれるタカヒロさん。それを受け、僕の脳裏に「希望」の二文字がよぎる。

 

「もしかして──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この家に、君に合うサイズの寝巻きは────女性用のもの以外ない」

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 僕はその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 ──僕が高校に入ったばかりの、一年程前の話。

 僕は中学からの幼馴染である男子二名と、同様の女子三名とでお泊まり会を開催したことがある。

 男女入り混じった泊まり込みということで、当然保護者の監視はあったが、それでもイベント好きな高校生の身分としては心踊らずにはいられなかった。

 

 ──ところがその当日。男子2人が突然の急用でキャンセルしてしまい、結果僕と女子三人だけで敢行することとなった……今思い出しても、よく親に止められなかったものだと思う。それだけ信頼されていたのか、ヘタレだとでも思われていたのか、今となっては誰にも真相を聞けない為闇の中である。

 集合場所は、僕の家の最寄り駅から二つ駅分離れた隣町の子の家。学校の六限が終了し、荷物を取りに行ってから集合場所で落ち合う予定──だったのだが、下校中に突然の豪雨に見舞われ、全員ずぶ濡れに。

 

 ──このままじゃ風邪引いちゃうし、とりあえずうちに行こうか。

 

 集合場所である家の子がそう提案し、皆それに従うことになった。電車に乗って目的の駅で下車し、急いでその子の家へ駆け込んだ。

 

 ──お風呂沸かすから、入っていいよ。あ、上白は最後ね。

 

 と、その女の子に言われ、風呂が沸くまで待ち、女の子三人が上がるまで待機し、ついに僕の番がやってきたその時になって、ようやく僕は気が付いた。

 

 ──ねえ、僕服持ってきてないよ。

 

 すると、この家の子である女の子が言った。

 

 ──でも、うちのお父さんの服は上白には合わないよ。上白がもうちょっと背がでかくて、体格が良かったらねぇ。

 

 からかうように笑う女の子。別の子が僕に向かって言った。

 

 ──でも、今から取りに帰るのは無理じゃない? さっきより雨が強くなってるよ。

 

 僕は外へ視線を向けた。確かに、集中豪雨と言っても差し支えない天気だ。傘を片手に荷物を持ってここまで戻ってくるのは至難の技である。

 また別の女の子が僕に言った。

 

 ──親に連絡して送ってきてもらったら?

 

 僕はそれにかぶりを振った。現在僕の家には誰もおらず、両親は夜になるまで帰って来ないのだと、そう説明した。

 

 ──うーん、それじゃあさ。

 

 それを聞いていた、この家の子である女の子が、面白い悪戯を思い付いたかのような、邪悪な笑みを浮かべて、僕にこう言ったのだ。

 

 

 

 

 ──私の服を貸してあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 ──そして現在。

 僕は脱衣所にある姿見の前で頬を引き攣らせていた。

 純白の、ドレスのような衣服にはふんだんにフリルがあしらわれており、襟の中央には大きなリボンがアクセントとしてついている。ロングスカートの下から流れ込む風が冷たく、足がすうっと涼しい。

 頭の天辺から足の先まで目線を動かし、最後に鏡の中の僕の、その瞳を見詰めた。

 

 下した自己評価────よく似合ってる。

 

 

 

 

「ぐっ……!」

 

 僕は思わず床に手を突く。僕の尊厳だとか心のHPだとか、諸々が削れていく。

 

 ──脳裏に、いつの日かの思い出が蘇る。あの時は確か「なにこれ可愛い!!」「めちゃくちゃ似合う!」「写真撮っていい!?」などと喚かれ、様々な服を着せられ、写真を山のように撮られ、その後暫く『上白ちゃん』と不名誉な呼ばれ方をするなど、耐え難い屈辱と辱めを受けた。

 

「……」

 

 無言で立ち上がる。乾いた笑いが、僕の口から漏れ出した。

 

「ふ、ふふふ……ここまでコケにされたのは久し振りだよ……」

 

 最早誰に言っているのか解らない独り言を、ひたすらブツブツと唱え続ける。こうでもしていないと心の安寧が得られない。

 

 

 

 

 ──その時、脱衣所の扉が開いた。

 

「おい上白、いつまで入って……いる…………」

 

 

 

 扉を開けた張本人──リゼと目が合った。

 

 停止する時間。場を無言が支配する。

 リゼは視線を上から下へ──そしてもう一度上へ。僕は微動だにせず、彼女の動向を見守っている。

 

 ────もう一度、リゼと目が合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リゼはそっと扉を閉めた。

 

 

 

「それはそれで傷付くからやめてっ!」

 

 僕は心の底から叫んだ。




主 人 公 君 女 装 の お 知 ら せ 。

「すべてが、かわいい」の名に恥じぬよう、主人公君にも当然可愛くなって貰います。彼は犠牲になったのだ……。


ここで一つ申し上げておくならば、

主人公君の普段着:寝巻きには向かない。そもそも洗濯中。朝からうさぎと戯れていた為、洗濯は免れない。

ラビットハウスの制服:寝巻きには向かない。そもそも明日も使うので、洗濯は免れない。

残りの普段着:公園に放置。



はい。つまり、逃げ場はありません。合掌。

では、今回はこの辺りで。また次話でお会いいたしましょう。それでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。