ゼロの使い魔 〜犬神と少女〜   作:隙人

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六話

「フッハハハハ」

 

「・・・・いつまで笑ってるつもりよ・・」

 

「いやはや、お前ときたら。私を呼び出したからといって調子にのり、魔法を使った挙句、部屋をここまで散らかすとは・・・。馬鹿としか言えんな」

 

「うるさいわね。ちょっと力加減を間違えただけよ」

 

ルイズは今現在、辺りに散らばる木の破片を箒で掃き集めている。その様子をモロは部屋の窓だった、今となっては窓枠しかない所から見ていた。

教室の中は、ルイズの唱えた「錬金」の魔法による爆発で、ひどく荒れ果てていた。今朝までは整然と並べられていた机と椅子達は、至る所に散らかり、窓ガラスは外へ飛び散り、教卓は今では木片とかしていた。

他の生徒達は机の下に隠れていたことで難を逃れていたが、ルイズの間近にいたシュヴルーズはその衝撃をモロに受けてしまい、卒倒してしまった。爆発音を聞きつけ、すぐさまやってきた教師たちによって、彼女は医務室に運ばれていったが、その際にこの教室の掃除をするよう、ルイズは言いつかわされた。

これにより、その後の授業は全て休講になってしまい、ルイズは一人教室に残り、後片付けに追われる羽目になった。

丁度そのころにモロが悠々とやってきて今に至る。

 

「図にのるなよ小娘、手前の力量くらい測れるようなれ。力を使うのはそれからだ」

 

「・・・分かってるわよ」

 

「分かっているのならば、こうなりはしないのだがな」

 

「・・・もう、分かった、分かりました!そうよ、私のせいよ!魔法もロクに扱えない馬鹿な私が悪いのよ!?」

 

ルイスば箒を床に叩きつける。カランカランと音を立て数回跳ねた箒は、ルイズの足元で静止する。

 

「・・・小娘、癇癪を起こすのは勝手だが、そのせいで飯にありつけなくても知らんぞ?」

 

「・・・・」

 

少しばかりモロを睨みつけたルイズだったが、足元に転がっていた箒を拾いあげると、黙々と掃除に励み始めた。

 

 

 

ようやく、教室の片付けが終わる頃にはすでに昼食の時間になっていた。ルイズは疲労と空腹感でヘトヘトになりながらも、なんとか食堂にまでたどり着き、倒れこむように席に着く。目の前にはシェフが腕によりをかけて作り上げた料理の数々が並べられ、おおいに食欲をそそらせるが、どうにも口に運ぶ気力が湧いてこない。

腹は食物を欲して悲鳴を上げているが、どうにも腕が上がらない。初めて机の重みを味わったこのか細い腕はヒリヒリと痛む。

しばらく、料理を目の前に突っ伏していたが、午後の授業はちゃんとあるので、取り敢えずは何か胃の中に入れておこうと、手近にあったパンを手に取り、食べ始めた。

 

モロはというと、食堂の外で携えてきていた鹿にありついていた。鹿の皮を口で丁寧に剥ぎ取り、赤く色づいた肉に齧り付く。丸々と太った鹿の肉は脂っこくない、淡泊で食べやすい味だったが、一匹しか仕留めていなかったのが悔やまれる。頭と皮と骨だけになった鹿を学院の外に放り捨てると、ルイズが出でくるまで本塔の入り口で大人しく待つことにした。

 

「あっ・・・」

 

「ん?」

 

モロが本塔の前で待っていると、背後から女の声が聞こえた。首だけを回して背後を見ると、そこには、見覚えのある女がモロの方を見て、立ち尽くしていた。昨日、モロの姿を見て腰を抜かしていた、あの女だ。

 

「こ、この前はありがとうございました!」

 

女はモロに向かって、勢いよく頭を下げる。よく見ると、その足は小刻みに震えているようにも見える。

モロは彼女に何の危害も与えてはいないのだが。

 

「何をそんなに怯える必要がある。私はお前を取って食おうなどとは思うてはいないぞ?」

 

「しゃ、喋った!?」

 

女は下げていた頭をはじかれたように上げると、驚きのあまり目を見開いていた。

 

「ほう、私が喋れてはいけないのか?」

 

「い、いえ!ただ、喋れるとは思っていなくて・・・、ごめんなさい!」

 

そう言うとまた頭を下げる。

 

「別にいい。喋ることのできる生き物など、そうそういないからな」

 

もっとも、この世での話ではあるが。だが、あちら側の獣たちは言葉を忘れ、馬鹿になりつつある。いつかはモロのような獣は消えてなくなるだろう。それも、かなり早い速度で。

 

「は、はあ」

 

「それはそうと、お前はこんなところで何をしている?」

 

「え、ああ、私はマルトーさんに言われて買い出しに行ってきた帰りで・・・あ」

 

「なら、こんなところで油を売っていていいのか?」

 

「そうでした・・・、なんて言い訳しよう・・・。で、では狼さん、私急ぎますんで!」

 

そう言うと、女はモロの脇を駆け足で過ぎ去っていく。その後ろ姿を目で追っていると、急に女は立ち止まり、モロの方を振り返る。

 

「狼さん!私、シエスタって言います!何か用があれば、基本厨房にいますので声をかけてください!それでは失礼します!」

 

シエスタはそう言い残し、踵を返して駆け出した。

 

「誰もあやつの名を教えろと言ってはいないのだが、・・・律儀な娘だ」

 

モロは、走り去っていくその後ろ姿を見つめながら、誰に言うでもなく、一人呟いた。

 

 

「こら!シエスタ!お前、いったいどこをほっつき歩ってた!」

 

「す、すみません!」

 

シエスタが厨房に着いた時には、厨房内は食後のデザートを急ピッチで仕上げるシェフ達と、それを生徒の元へ運ぶ給仕達でひしめき合っていた。

そんな中、厨房の勝手口を開けてコソコソと入ってきたシエスタを、料理長であるマルトーが見過ごすはずかない。

シエスタはなんとか言い訳を口にするが、その悉くを見破られ、只今絶賛正座中である。

 

「まさか、また服に目移りして遅れたなんて言わないよな?」

 

「そ、そんなこと・・・ないですよ?」

 

「お前、ホント嘘つくの下手くそだな。顔にそう書いてあんだよ!たくっ」

 

なぜここまで自分のことがわかるのか。本当に顔に書いてあるものなのかと、顔を弄って確かめるが、そんなものはあるはずもない。

 

「馬鹿なことやってねぇで、さっさとボンボン共にデザートを差し上げてこい!」

 

「は、はい!」

 

マルトーから叱咤されすぐさま立ち上がり、デザートが乗せられたトレイを持って、食道内へと向かった。

 

 

ルイズがベリーパイを頬張っていた最中に、それは起こった。

 

「すみません、すみません、すみません!」

 

聞き覚えのある声が、ルイズの斜め後ろの方から聞こえてきた。ルイズがその方へ目をやると、一人の見慣れたメイドが泣きながら跪いて謝罪をし、謝罪されている方は、これまた見慣れた少年だった。

 

「どうしてくれるんだい?君が軽率にも僕が落とした香水の壜を拾ったお陰で、二人のレディが傷ついてしまったじゃないか」

 

「私は、ただ拾っただけで・・・」

 

「なんだい、貴族である僕に口答えする気かい?平民である君が?」

 

「す、すみません・・・」

 

何だが、あのメイドが何かをやらかして少年の気に障ってしまったらしい。だが、その時の状況がわからないため、近くにいた女生徒に話を聞くと、なんのことはない、今、少年が手にしている小壜が見つかったことで、あの少年の二股がばれて、二人の女生徒に振られ、その腹いせにあのメイドに当たり散らしているにすぎなかった。

 

だが、あまりにあのメイドが不憫だったので、ルイズは立ち上がり、二人の元へと歩み寄っていく。

 

「いい加減にしなさいよ。ギーシュ」

 

明らかに呆れを含めた声で少年の名を呼び、メイドを庇うようにその眼前に立った。

 

「なんだいルイズ、その平民を庇うのか?」

 

「庇うも何も、そもそも、あんたが二股なんかかけてたのが悪いんじゃない」

 

「そうだそうだ。ギーシュ!二人も女の子を口説いてんじゃねぇよ!」

 

「もてない奴の気持ちを少しは思い知れ、この野郎!」

 

すると、周囲にいた男子生徒達が、口々にギーシュを罵り始める。だが、本当に罵っているわけではなく、からかっているに過ぎないのだが、中には本音が漏れてしまう生徒もいた。

これには先ほどまで余裕を見せていたギーシュも、流石にこれは堪えたようで、ギリッと下唇を噛み締め、ルイズを睨む。

 

「ほら、あんたはさっさと行きなさい」

 

「で、でも」

 

「いいから、早く行く」

 

「は、はい!」

 

ルイズはそんな視線など無視し、メイドに厨房に戻るように促す。最初は渋っていたメイドだったが、ルイズが強く言うとそそくさとその場を後にしてくれた。

 

「さて、ギーシュ。あんたもそこで突っ立ってないで、二人に謝ってきたらどうなの?」

 

ルイズはギーシュに向き直り声をかけるが、ギーシュは俯いたまま、返事も寄越さない。そっとしておこうかと思って、ルイズもその場を後にしようと踵を返した。

 

「・・・・・だ」

 

「えっ?」

 

その時、ギーシュが何かボソボソと呟いた。だが、あまりに小さなつぶやきだったため、何を言っていたのか聞き取れない。

 

「なんか言った?」

 

「ルイズ、僕と決闘だ!!」

 

「・・・・は?」

 

あまりに突拍子もないことを言い出すものだから、ルイズは唖然としてしまう。いったいどのように考えればその答えにたどり着くのか、ルイズには甚だ理解できなかった。


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