ゼロの使い魔 〜犬神と少女〜   作:隙人

1 / 25
一話

森が死んでいく。

シシ神の首をあの女が石火矢で撃ち千切ったことで、奴の体の中に溜まっていた「死」がドロドロの液体となって、我ら一族が護ってきたこの森を覆っていく。太古からの大樹は枯れ朽ち、木霊達が木々の間からまるて雪の様に降り注ぎ、数多の生き物は「死」から逃れようと、次々に外界へと去っていく。だが、死に体となった今ではどうすることも出来ない。

私の体、頭もすっかり「死」に覆われてしまった。意識ももう時期なくなる。だが、最後にあの女の片腕を食い千切ってやった事で満足するしかあるまい。後のことは私の娘とあの小僧に任せよう。癪ではあるが私の可愛い娘を護れるのはおそらくあの小僧の他にいない。

 

(ともに生きることは出来る・・・か)

 

あの小僧が私を見据えて宣った言葉が今でも思い出される。かつての様に人と自然とが手を取り合って生きていくのだと。戯言だと一蹴したが、あの小僧ならば、それがたとえどんなに短い間だとしても、やってのける様な気が今ではしている。

 

(・・・サン)

 

両親から怒りを沈めるようにと私に捧げられた可哀想な娘、私の傷を癒そうと必死になっていた可愛い娘、あの小僧を思う時に女の顔をする我が娘。もう、私はあの娘に必要ない。あの娘の好きな様に生き、好きなところへ行くのをあの世で見守るのもそう悪くあるまい。

 

(アシタカ、お前にサンを救えるかどうか、あの世で見定めさせてもらおう)

 

私は瞼をゆっくりと下ろす。意識がだんだんと遠ざかっていくのを感じながら、私はこの世での役目を終えた。

 

 

・・・そのはずであった。

 

 

 

 

トリステイン魔法学院。

ここでは各国から貴族の子供達が集まり、偉大なメイジになる為に日夜勉学に励む学び舎である。そのトリステイン魔法学院では毎年二年次に進級するに当たって生涯のパートナーとなる使い魔を召喚、契約を行うサモン・サーヴァントの儀式が草原で執り行われている。この儀式を行うことで自身の魔法の属性が見定められ、その後の専門過程が決められる。

そして、今現在、この儀式を行っている新二年生は自身の使い魔を自慢したり、可愛がったりと和気あいあいとした空気に満ちていた。・・・ただ一人を除いて。

 

ドカーン!!

 

今日何度目となる爆発音に生徒達の視線は一人の少女に注がれる。

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。公爵家の息女である彼女はとても努力家であり、勉学において彼女は高い成績を出しているのだが、ある問題を抱えていた。魔法が使えないのだ。いや、魔法が使えないのではない、魔法を使うと爆発が起こるのだ。それがあらゆる呪文、魔法であったとしても、彼女が唱えれば等しく爆発になってしまう。そのことで同級生から馬鹿にされ、「ゼロのルイズ」という不甲斐ないあだ名まで着けられる羽目になっていた。

 

「またゼロのルイズだ」

「いい加減にしてよ」

「あいつ、メイジの才能ないんじゃないのか?」

「コモン・マジックすらろくに出来ないんじゃ、無理もないな」

 

生徒から口々に嫌味が飛んでくる。最初は笑って茶化すぐらいにとどまっていたが、待たされている上に何度も失敗され、皆苛立ちを隠せなくなっていた。

ルイズの杖を握る手に力が入る。悔しくて悔しくてたまらない。なぜ、自分だけがこんな惨めな思いをしなければならないのか、何度もそう思ってきたが、その度に歯を食いしばって努力を続けてきたのだ。その努力を無駄にしない為にも、次こそはと再度集中を始める。

それを教師であるコルベールは静かに見守っていた。本当は明日に持ち越さないかと持ちかけるつもりだったのだが、ルイズの表情を見て言い出せなくなったのだ。

 

(次、次がダメだったら話に行こう)

 

心の中でそう決めるとルイズを静かに見守り始めた。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!五つの力に司るペンタゴン!我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!!」

 

(お願い!グリフォンやドラゴンなんて贅沢は言わないから!なんでもいいから!お願い!!)

 

呪文とともに今までと比べられない爆発が起こり、生徒から小さな悲鳴が聞こえる。強烈な爆風がルイズを襲い、小柄な彼女をいともたやすく押し倒した。

ルイズは爆心地を見据えながら、砂煙が収まるのを待っていると、砂煙の先に何かのシルエットが見えた気がした。

 

(やった! 成功だわ!)

 

召喚に成功したことを喜びつつ、その姿をきちっと見ようとシルエットを見つめる。砂煙が晴れていくと、次第にその姿が現れ出した。

 

綺麗、ルイズが抱いた印象はそれに尽きた。

煙が晴れた先に居たのは真っ白な毛色をした巨大な大狼だった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。