バカと俺達の召喚獣   作:ターダン8

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抗えない雄二

「いらっしゃいマセ!如月グランドパークへようこソ!」

 

その男は日本人ではないのか、若干訛りの混じった口調で俺たちに笑顔を振りまいた。

顔立ちはアジア系っぽいので日本人かどうかはよくわからないが。

 

「本日はプレオープンなのデスが、チケットはお持ちですか?」

 

翔子「・・・・・はい」

 

翔子がポケットから例のチケットを取り出す。

 

「拝見しマース」

 

係員はそのチケットを受け取って俺たちの顔を見ると、笑顔のまま一瞬固まった。

翔子がそんな係員の様子を見て不安そうに表情を曇らせる。

 

翔子「・・・・そのチケット、使えないの・・・?」

 

「イエイエ、そんなコトないデスよ?デスが、ちょっとお待ちくだサーイ」

 

係員はポケットから携帯電話を取り出し、俺たちに背を向けてどこかに電話をし始めた。

 

「――――私だ。例の連中が来た。声が違うからこっちだ。

 ウエディングシフトの用意を始めろ。確実に仕留める」

 

雄二「おいコラ。なんだその不穏当な会話は」

 

この係員、急に目の色が変わりやがったぞ。まさか例のジンクスを作るための工作員か?

・・・・・・ん?明久以外にも来ているヤツらがいるのか?

 

翔子「・・・・ウエディングシフト?」

 

翔子が首をかしげている。

如月グランドパークの企みを知らないコイツにはよくわからない単語だろうな。

ってか知らないでいて欲しい

 

「気にしないデくだサーイ。コッチの話デース」

 

雄二「アンタ、さっき流暢に日本語話してなかったか?」

 

「オーウ。ニホンゴむつかしくてワカりまセーン」

 

取り繕ったように元の雰囲気に戻る係員。あからさまに怪しい。

 

雄二「ところで、そのウエディングシフトとやらは必要ないぞ。

   入場だけさせてくれたらあとは放っておいてくれていい」

 

もはや潔いとも言えるネーミングのおかげで、

向こうのやろうとしていることはよくわかった。

だが、そんなものに乗る気はない!そうしないと、俺の人生がっ!

 

「そんなコト言わずニ、お世話させてくだサーイ。

 トッテモ豪華なおもてナシさせていただきマース」

 

雄二「不要だ」

 

「そこをナントカお願いしマース」

 

雄二「ダメだ」

 

「この通りデース」

 

雄二「却下だ」

 

「断ればアナタの実家に腐ったザリガニを送りマース」

 

雄二「やめろっ!そんなことされたら我が家は食中毒で大変なことになってしまう!」

 

あの母親は間違いなく伊勢海老だと勘違いして食卓にあげるだろう。

なんて恐ろしい脅迫をしてくれんだ、この似非外国人め・・・・!

 

「では、マズ最初に記念写真を撮りますヨ?」

 

翔子「・・・・記念写真?」

 

「ハイ。サイコーにお似合いのお二人の愛のメモリーを残しマース」

 

翔子「・・・・・・・・雄二と、お似合い・・・・(ポッ)」

 

翔子は似非外国人の言葉に頬を赤らめていた。

 

???「お待たせしました。カメラです」

 

そこに帽子を目深にかぶったスタッフがカメラを片手に現れた。

うん?なんだか見覚えのあるヤツだな。帽子で顔を隠しているのが怪しいが……

 

「アナタが持ってきてクレたのデスか。わざわざありがとうございマス。助かりマース」

 

似非野郎が礼を言いながらカメラを受け取る。やはり妙だ。

こういった場所のスタッフが客の前で同僚に丁寧な礼を言うだろうか?

ってかコイツ帽子を深く被っているが見たことあるような気がする。

しかもあの歩き方―――――ふむ。少し試してみるか。

 

雄二「悪いがちょっといいか」

 

「わかりまシタ」

 

雄二「そういえば今日、翔子と電車に乗ってる時に楓がいたな。

   そして楓は変な男にナンパされていたっけ?」

 

貴浩「なんだとぉ!!ソイツはドコのどいつだ!!

   おい雄二そいつらの事詳しく・・・・・・・・・し、しまった」

 

やはりコイツか。楓のことを出せばすぐわかると思ったからな。

 

雄二「今の話は嘘だ。で貴浩。なんでテメェがここにいるんだ?」

 

「彼はココのスタッフのエリザベート・マリオ(三十五歳)通称イスカンダルでース。

 あなたの言うオリムラナントカさんではありまセーン」

 

雄二「黙れ!人種性別年齢氏名全てにおいて堂々と嘘をつくな!

   しかもどう考えてもその名前で通称イスカンダルはないだろ!!

   ってかイスカンダルって英雄の名前じゃねぇか!!」

 

貴浩「チッ、もうバレたか」

 

雄二「おいこの野郎。テメェ何してくれてんだ?」

 

俺は貴浩の胸倉を掴む

 

貴浩「おいおい、そう怒るなよ。それに今さっきまで霧島に

   腕を組まれていて悪い気分じゃなかっただろ(ニヤニヤ)」

 

雄二「ッ!!」

 

コイツいつから見てやがった

 

貴浩「まあ今日は楽しめよ雄二。じゃあ霧島彼氏と仲良くね」

 

霧島「・・・・・・(コクン)」

 

そういうと貴浩は走り去って言った。

貴浩がいたって事は他のヤツらもいるな。なら・・・・

 

雄二「翔子、すまんがちょっと我慢してくれ」

 

翔子「・・・・・???」

 

きょとんとしている翔子のスカートを掴み、軽く捲り上げる。

下着が見えるか見えないかというギリギリの高さまでスカートが持ち上がった。

 

雄二「……何!?ムッツリーニがいないだと!ヤツなら今のに反応するはずなのに!」

 

翔子「・・・・・・雄二、えっち」

 

翔子が少し怒ったような顔で俺を見ていた。

 

雄二「なっ!?ち、違うぞ翔子!俺はお前の下着になんか微塵も興味がないっ!」

 

翔子「・・・・・それはそれで、困る」

 

雄二「ぐぁああああっ!理不尽だぁあっ!」

 

翔子の握力で俺の頭蓋が軋む音が聞こえてきた。

 

「でハ、写真を撮りマース」

 

翔子「・・・待って」

 

翔子は係員にそういうと俺の頭の頭から手を離すと手を組んで俺にくっついた

 

翔子「・・・・・もういい」

 

「はい、チーズ」

 

近くでフラッシュが焚かれ、ピピッという電子音が聞こえてきた。

 

「スグに印刷しマース。そのまま待っていてくだサイ」

 

翔子「・・・・わかった。このまま待ってる」

 

正直恥ずかしいんだが///

 

「―――――はい、どうゾ」

 

ほどなくして似非野郎が写真を持ってきた。それと同時に開放される俺。

翔子は嬉しそうに写真を受け取った。

 

翔子「・・・・ありがとう。・・・・雄二、見て。私たちの思い出」

 

翔子が俺に写真を見せてくれる。

 

雄二「…なんだ、この写真は」

 

写っているのは俺と腕を組んで写っている翔子。そして――――

 

「サービスで加工も入れておきまシタ」

 

その2人を囲うようなハートマークと『私達、結婚します』という文字。

未来を祝福する天使が飛び回っている。

この写真をみると本当に結婚してしまうみたいじゃないか!

 

「コレをパークの写真館に飾っても良いデスか?」

 

雄二「キサマ正気か!?コレを飾られたら俺はもう言い逃れが出来ないじゃないか!」

 

翔子「・・・・雄二、照れてる?」

 

雄二「うっ///」

 

印刷された写真を見てると、

 

『あぁっ!写真撮影してる!アタシらも撮ってもらおーよ!』

 

『オレたちの結婚の記念に、か?そうだな。おい係員。オレたちも写ってやんよ』

 

いかにもチンピラのようなカップルがやってきた。

 

「すいまセン。こちらは特別企画でスので……」

 

似非野郎が断ろうとする。

どうやらあの写真撮影は

例のウエディングシフトとやらの一環で、俺たちだけが対象なのだろう。

 

『あぁっ!?いいじゃねーか!オレたちゃオキャクサマだぞコルァ!』

 

『きゃーっ。リョータ、かっこいーっ!』

 

男が下から睨みつけるように似非野郎を威嚇し始める。

絵に描いたようなチンピラだな。その姿を見て喜ぶ女もどうかと思うが。

あいつらを見ていると本当に翔子が良く見えてくる。

・・・・・・・・・・はっ!俺は何を考えていたんだ

 

『だいたいよぉ、あんなダッセぇジャリどもよりも

 オレたちを写した方がココの評判的にも良くねぇ?』

 

『そうよっ!あんなアタマの悪そうなオトコよりもリョータの方が

 100倍カッコイイんだからぁ!』

 

とりあえずチンピラカップルが係員の注意を引いている間に逃げるとするか。

 

翔子「・・・・(ツカツカツカ)」

 

雄二「っておい翔子。どこに行くんだ」

 

急に勢いよく歩きだした翔子の腕を掴んで引き止める。

 

翔子「・・・・・あの2人、雄二のことを悪く言ったから」

 

雄二「あのなぁ・・・その程度のことでイチイチ目くじら立てていたらキリがないぞ?」

 

正直あんな連中に何を言われても気にならないし、何より視界に入れておくだけでも不愉快だ。

まあ、翔子怒ってくれた事に悪い気持ちはしなかったがな

 

雄二「行くぞ、翔子」

 

翔子「・・・・雄二がそう言うのなら」

 

翔子もその光景は嫌だったようで、促すと渋々ついてきた。

 

雄二「さて。それじゃ、テキトーに回ってみるか」

 

翔子「・・・・楽しみ」

 

園内には前評判通りの最新アトラクションが沢山あった。

3Dの体感アトラクションから絶叫マシーン、

コーヒーカップやメリーゴーランド、観覧車など、

知っているアトラクションは全て揃っているようだ。

中には見た目だけでは想像もつかないようなものまである。

 

雄二「映画館でもあれば楽なんだがな」

 

翔子「・・・・・・折角一緒にいるんだから、そんなのはダメ」

 

翔子に却下されたので、仕方なく面倒が少なくて

妙な雰囲気にならないようなアトラクションを探す。

すると、そんな俺たちにヒョコヒョコと着ぐるみが近寄ってきた。

確か命が持っていたキツネのキーホルダーのキャラクターだ。

 

『お兄さんたち、フィーが面白いアトラクションを紹介してあげるよ?』

 

着ぐるみから聞こえてくるのは若い女の声。

ボイスチェンジャーなどを搭載していないのか、その声は普通の人間の声だった。

 

雄二「じゃあ、フィーとやら。お前のオススメを教えてもらえるか?」

 

『あ。う、うんっ。フィーのオススメはねっ、向こうに見えるお化け屋敷だよっ』

 

フィーとかいう狐の手が噴水を挟んだ向こう側に見える建物を示す。

ふむ。廃病院を改造したとかいう例のアレか。

 

雄二「そうか、ありがとう」

 

『いえいえっ。楽しんできてねっ』

 

翔子「よし翔子。お化け屋敷以外のアトラクションに行くぞ」

 

翔子の背中をおして歩き出す。すると慌てたように俺の腕をつかんできた。

 

『ままま待って下さいっ!どうしてオススメ以外のところに行くんですか!?』

 

雄二「どうしてもクソもあるか。お前もあの似非外国人の仲間だろう?

   だったら、お化け屋敷には余計な仕掛けが施されているのは明白だ。

   わざわざそんなところに行く気はない」

 

『そ、そんなの困りますっ!お願いですからお化け屋敷に行ってください!』

 

雄二「断る」

 

そのお願いとやらの為に残りの人生を捧げる気はない!

断固として否定し、俺は自由を謳歌するんだ!

・・・・今更だが、なんか聞き覚えのある声だ。

気のせいか、クラスメイトの優等生に思えてならない。こいつも確認しておくか。

 

雄二「そういえば、明久が命と一緒にここに来ていたぞ」

 

姫路『えぇっ、明久君が!?それはどこで見たんですか!?』

 

本当にこいつらは、揃いも揃って・・・。

 

雄二「おい姫路。アルバイトか?」

 

姫路『そんな事より、明久君をどこで見たんですか!教えてください!!』

 

姫路からはいつも以上の強い殺気が感じられる。

まさか姫路までここまで堕ちるとはさすがFクラスというべきか・・・・・・

少し明久に同情するな

 

そんな姫路の対応をしていると、姫路の方から携帯の音が鳴る。

 

姫路『もしもし、美波ちゃんですか。・・・・・明久君が!?

   ・・・・はい、分かりました!すぐ行きます!』

 

こいつ等はまともに仕事を行う気はないのか!?

姫路は電話を切るとすぐにこの場から消え去った。

・・・・・あいつ、確か運動苦手なんじゃなかったのか?

 

「ハイ、すいまセーン。お待タせしまシタ。チョッと撮影二手間取ってシマいましタ」

 

そうこうしていると、さらに面倒なヤツが現れた。さっきの似非野郎だ。

もう追いついてきたのか。ん?撮影?

 

「なんだ?さっきのバカップルでも撮影したのか?」

 

「イエ。アノあと、モウ1組みのプレミアムチケットの方タチがキテ、

 そちラの方々ヲ撮影しまシた」

 

雄二「は?何だと。俺達以外に2組来ているのか?いったい誰が・・・」

 

「お話はソレで終わりですカ?では坂本雄二サン、お化け屋敷に行って下サイ」

 

雄二「前後の文に脈絡がないからな。それにイヤだと言っているだろうが」

 

そんな危険地帯に自ら踏み込む気はない。

 

「断れバ、アナタの実家にプチプチの梱包材を大量に送りマース」

 

雄二「やめろっ!そんなことされたら我が家の家事が全て滞ってしまう!」

 

あのおふくろは全ての梱包材を潰し終わるまで他のことは何もしないだろう。

なんて地味かつ微妙な嫌がらせをしてくれるんだ・・・・・!

 

俺は翔子のほうをみてみると

 

貴浩「霧島。お化け屋敷は雄二に抱きつき放題だよ?」

 

貴浩のヤツが翔子に何か吹き込んでいた

 

翔子「・・・・雄二。お化け屋敷に行きたい」

 

雄二「汚いぞ貴浩、翔子を罠にハメようなんて!!」

 

翔子「・・・・・大丈夫」

 

油断している隙に翔子に腕を組まれた。これじゃあいろんな意味で抵抗できない!

 

貴浩「計画通り(ニヤッ)」

 

「では、こちらにサインして下サーイ」

 

似非野郎が取り出したのは何かの書類とボールペン。なんだコレは?

 

「ただの誓約書デース」

 

誓約書が必要なお化け屋敷ってなんだ。そんなに危険なのか?

 

雄二「だがまぁ、面白そうではあるな」

 

誓約書が必要ということはスリルに満ちているということでもあるだろう。

それはそれで面白いかもしれない。

少し楽しみになってので、ボールペンを受け取って書類に手をかける。

 

 【誓約書】

1.私、坂本雄二は霧島翔子を妻として生涯愛し、苦楽を共にすることを誓います。

2.婚礼の式場には如月グランドパークを利用することを誓います。

3.どのような事態になろうとも、離縁しないことを誓います。

 

翔子「・・・・はい雄二。実印」

 

貴浩「朱肉はこちらです」

 

雄二「俺だけかっ!?俺だけがこの状況をおかしいと思っているのか!?」

 

こいつらは全員正気じゃない。

 

「冗談でス。誓約書はいいので中に入って下サイ」

 

翔子「・・・・・・うん。冗談」

 

貴浩「もちろん冗談だ」

 

雄二「カーボン紙を入れて写しまで用意しているくせに冗談と言い張るのか」

 

色々といってやりたいことはあるが、この連中に常識を求めるのも酷というものだろう。

 

「それデハ、邪魔になりそうなノデその大きなカバンをお預かりしマース」

 

翔子「・・・・お願い」

 

翔子が似非野郎にバックを渡す。そういえばヤケに荷物が大きいな。

 

翔子「・・・・零れちゃうから、横にしないで欲しい」

 

「このカバンをですカ?わかりまシタ。気をつけマース」

 

零れる?あの鞄に何が入っているんだ?

 

「デハ、行ってらっシャいマセ」

 

翔子「・・・・・雄二、行こう」

 

雄二「く、クソ!」

 

抵抗空しく、お化け屋敷の扉の前に立たされる。演出なのか、

その扉は横開きの自動ドアでありながら電気が入っていないようで

手動で開けるようになっていた。

 

『私だ。お化け屋敷にターゲットが入った。あの人達考案の作戦を実行しろ』

 

あの人達と言うと、貴浩達のことか?

いや、あいつはそういうところは正常だからきっとの島田や姫路たちだろう。

あいつらは俺と翔子の関係を見ていて羨ましがっていた奴らだからな。

いったいどんなものになっているかはわからんが、

あいつら如きの策に引っかかってたまるか!


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