グツグツと美味しそうな音を立てて鍋が煮えている。
テーブルに2つのカセットコンロに2つの大きな土鍋。
中身は出汁を取るために入れた昆布以外は何も入っていない状態だ。
楓「それでは、電気を消しますね」
楓の声と同時に、パチン、とスイッチを押す軽い音がした。
カーテンが閉められたリビングの中に、コンロの火だけがゆらめく。
こちら側の鍋ではお気楽に始まろうとしていたが、
明久達の鍋では生死をかけた戦いが始まろうとしていた。
愛子「ボクから入れるね~」
光一「こちらは俺から入れるぞ」
こちらの鍋は愛子から、向こうの鍋は光一から具材を投入した。
鍋に具材を中に入れた音が部屋に響いた。
椎名「何を入れたんでしょうね?ドキドキします」
続いて、こちらの鍋に、優子、なのは、椎名、刀麻、砂原、楓、命が順に入れていく。
あちら側の鍋では、島田、霧島、秀吉、ムッツリーニ、雄二、明久と順に入れていき
残りは俺と姫路だけとなる。
貴浩「さて、俺も入れるか」
俺は先ほど冷蔵庫から取り出した食材、豚肉をとりだし中に入れていく。
やはり、鍋には肉がないとな。誰も肉に手を出していない見たいだったし。
そして豚肉をゆっくり鍋に投入して蓋を閉じる。
愛子「うわぁ~。皆が何を入れたかわからないからドキドキするね」
優子「ええ、ちょっと食べるのが怖いわね」
砂原「このドキドキ感が逆にいいかもだよ♪」
なのは「そうですね。たまにはこういうのも面白いかも」
刀麻「まさか、料理でここまで緊張するなんてな」
椎名「はい、少しどんな料理が出来上がるのか楽しみです」
命「こちらの料理はまあ食べれる状態ですよね」
楓「はい、兄さんがそう班分けしてますからね」
貴浩「こちらの鍋は闇鍋らしい鍋が出来上がるはずだ・・・向こうは・・・」
向こうの側を見てみると、いよいよ姫路が具材をいれるところだった。
俺と楓、命は全神経を耳に集中してどんな投入音がするのか耳を研ぎ澄ます。
それは俺たちだけでなく明久たちにも言えることだった。
そして姫路の食材が鍋に投入された。
トポ、トポ・・・
音から察するに投入物は固体より液体に近い。ゼリー状の何かだろうか。
だが、明久達が協力して姫路の前にバリケードを作ってるはずだ。
その中に手を出さなければ何にも問題は無いはず。
雄二「それじゃあ、もう一度火をつけて煮込むぞ」
室内に小さな明かりが灯り、静寂の時間が流れた。
☆
鍋が煮えるまでの待ち時間が、ゆっくり過ぎた。
明久「そろそろ良い頃合だね。火を消そうか」
命「そうですね。そろそろ良いでしょうね」
しばらくしてから、コンロのガスが絞られ部屋の中に三度暗闇が訪れた。
優子「いよいよね・・・」
翔子「・・・・・・ドキドキする」
愛子「どんな味がするのかな~」
砂原「楽しみだね」
ちょっと緊張しながらどこか楽しそうにしている女性陣。
楓「では、開けてみますね」
島田「じゃあ、こっちも開けるわね」
鍋掴みを手に楓と島田が鍋の蓋をゆっくり持ち上げる。
すると、タバスコの臭気が漂ってきた。
これはどちらの鍋からもタバスコの匂いがする。
ってことはやはりどちらの鍋にもタバスコが投入されたわけか。
「「「うっ・・・・・・」」」
女性陣が顔を歪める気配。
明久「それじゃあ、いよいよ闇鍋スタートだね」
雄二「よしっ!やってやるぜっ!」
貴浩「じゃあ、まず明久達の鍋から一口食べるとするか」
俺はお玉を手にとり明久達の鍋にゆっくり入れていく。
明久も俺に続くよう、お玉を手に取り鍋にゆっくり入れる。
雄二達も俺と明久のお玉をじっくり静観していた。
さてと、零さないように取り出すか。
どろり ←溶解した人参、コンニャク、豆腐が混ざったやつの欠片
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
・・・・・・・・・・・・・・・は?
一瞬思考が停止する。いやいや、これは何かの見間違えだろう。
俺の頭の中で姫路×料理=危険物という方程式ができてるからそう勝手に認識しただけだ。
きっとそうに違いない。暗くてよく見えないからそう思っただけだ。
一応規則なので俺は器によそったモノを入れる。
そして、まだお玉をあげていない明久の方を見る。
どろり ←溶解した人参、コンニャク、豆腐が混ざったやつの欠片
「「大事な防壁がぁーっ!?」」
「な、何よ!?いきなりどうしたのよ貴浩に明久君!?」
暗闇の中、突然絶叫した俺と明久に優子が驚いていた。
なんで、明久たちが作ったバリケードが溶けているんだ!?
何と反応したんだ?どうして鍋物なのに化学反応が起きてるんだ!?
雄二「恐ろしいなヤツだ姫路・・・俺たちの策なんか通用する相手じゃないってことか・・・・・・」
まさか防壁ごと破壊してくるなんて。
アイツの考えは明久達の策を簡単に覆してしまうなんて。
命「明久君・・・・・・」
明久「いや、気にしないでいいよ命・・・。所詮僕らは奪われる側の存在だったんだ・・・・・・」
貴浩「ああ、俺たちの考えが浅かったんだな・・・」
愛子「何があったんだろ?」
余計な事は知らない方がいい。どうせ、今更知ったところで間に合わないし
優子「ま、まあいいわ。とにかく私も・・・・・・」
と手を伸ばす優子。
貴浩「待て、優子」
俺はそんな優子に止めてゆっくり指を組んだ。そして、厳かに言葉を紡ぎ出す。
貴浩「・・・・・・天にまします我らが父よ・・・・・・」
優子「? 貴浩、何冗談やってるのよ」
命「優姉!本気で祈って!私はお姉ちゃんを失いたくないの!」
明久、雄二、楓、ムッツリーニ、秀吉が無心に祈りを捧げている気配が伝わってくる。
俺たちの気持ちは一緒だ。
貴浩「────アーメン」
「「「「────アーメン」」」
十字を切って・・・・・・さて、いよいよ審判の時だな。
目が暗闇に慣れてきたので器を上げて中身を観察する。
温かい湯気と共に立ち上る臭気。なんだろうか。
この湯気はやけに目に染みるな。
秀吉「た、貴浩!?ワシには湯気が紫色に見えるのじゃが!?」
明久「ぐぅぅっ!目がっ!目がああぁぁぁぁっ!?」
楓「落ち着いてください明久君。引っ繰り返したら大惨事ですよっ!」
雄二「楓の言うとおりだ。お前の行動もわからないでもないが今はひとまず落ち着けっ!」
雄二が明久の腕を押さえつける。
島田「もうアキって何を遊んでるのよ」
砂原「さすがアッキーだね。いつも面白いね♪」
霧島「・・・・・・はしゃいでる」
愛子「吉井君たちは、いつも楽しそうだよね~」
椎名「はいっ!おかげで私もいつも楽しませてもらってます」
違うんだ。そうじゃないんだ・・・!
霧島「・・・・・・いただきます」
まずは霧島が先陣をきり少し汁を啜った。さて、どうだ・・・?大丈夫なのか・・・・・・?
霧島「・・・・・・臭いほど、変な味でもない」
雄二「翔子!?お前の声が直接脳に響いて来るんだが、
魂はきちんと身体の中に入っているのか!?」
霧島の背中から白いボヤッとしたものが出てるように見える。
これって危険なんじゃないか!?
島田「アキも遊んでばかりいないで食べたら?いただきまーす」
愛子「ボクもいただきまーす」
砂原「じゃあ、私もいただくよん♪」
優子「そうね。私も頂くとするわ」
楓「・・・・・・そうですね。勇気をだして頂きます」
命「うん、大丈夫。貴浩君や明久君のおかげでいつもより致死性は低いはずだから」
そして今度は残りの女性陣が化学兵器を口にした。
「「「きゃぁぁあぁぁああ!!」」」
明久「えええぇ!?食べ物を口にして悲鳴をあげるなんておかしくない!?」
光一「ああ、普通の感想は『美味しい』か『不味い』の2択のはずだからな」
そして女性陣は一人残らず机に突っ伏して動かなくなった。
俺はすぐさま安否を確認する。
貴浩「大丈夫だ。呼吸と脈はある。意識を失ってるだけだ」
明久「ふぅ~良かった」
雄二「ってか姫路本人も倒れてるぞ。コイツ、本当に今までの料理味見してなかったんだな」
秀吉「一応念のために飲み物を用意しておくかの」
康太「・・・・・・・・・手伝う」
貴浩「お茶なら冷蔵庫に入ってるから容器ごと持ってきてくれていいぞ」
俺達は女性陣が目を覚めるのを祈るだけだった。