「こりゃ失礼、加賀四郎とは昔馴染みでね。
人間族として野々村修造を名乗り、安西雄介の面倒を見た事もある。
今は夢幻界の灯台とも云うべき《はざまの寺》、燈明寺を預かり鬼燐坊道円を名乗っとるがね。
みずちの若長と同じ魂を持つ御方の様だが、先住者ではなさそうだな」
《時渡り》を名乗る黒瞳黒髪の少女に導かれ、《白い世界》を訪れた《記憶》が唐突に甦る。
モース博士に酷似する高齢の医師、白嶺と名乗る男が沖田総司を診察した場所。
『国立超医学研究所』の看板を掲げる建物は《カイサール転送機》、古代機械とは完全に別物。
クリスタル市内に聳える《白亜の塔》に近い建築様式、科学水準ではないかと思われるが。
ランズベール侯爵の愛娘シリア姫を連想させる金髪の少女、《まりあ》の焼菓子は絶品だった。
ナリスは記憶を辿る事に時間を費やさず、単刀直入に尋ねた。
(先住者、とは?)
「嘗て日ノ本の物質界に接する次元界、気界に存在していたサイコ・エネルギー生命体さ。
一時は人間族に神と崇められていたが、次元嵐で魔界が崩壊した際に四散してしまった。
加賀四郎は神州の三名刀の一、『加賀四郎丸』に由来する人間族の賢者。
先住者を斬るを以って人剣と呼ばれる剣の民、禍津神一族の見者だよ」
(調整者を、知っているのか?)
「一口に調整者と云うても、夢幻界は広汎でな。
調整者を僭称する様々な種族がおり、同族を離れた導師もおる。
儂が知るだけでも数段階、高次元世界も含めれば無数の調整者が活動中じゃ」
(数段階?)
「アリシア星系の第3惑星ランドック、生体と科学の一致を極めた銀河帝国が第1段階。
108人の公子を筆頭とする調整者一族、天帝の支配する銀河帝国が第2段階。
大宇宙そのものと一体となり大宇宙意識体へ進化を遂げた存在、調整者集団が第3段階。
先住者の長老格、大天狗に星紀5677年と記された巻物を寄越した存在かも知れぬが。
真相は闇の中、カリンクトゥムの扉を超え菩薩に会った者に聞くが良いよ」
(会ってみたい、第3段階の調整者と話をしたい)
迸る様に湧き出る思考を読み取った鬼燐坊道円、土蜘蛛一族の《眼》が光の渦と化した。
「現時点の兜率天は無人、菩薩《ボーディサッタ》が姿を消して久しい。
だが、お前さんは時渡り、次元間移動能力者じゃろ?
時を遡り、沖田総司の《飛んだ》軌跡を辿る事も容易い筈だ。
或いは魂の転生先、夢幻公子と同居した際の記憶を思い出せば良い。
豹頭王グインの裡に草原の戦士、ヴァン・カルスの記憶が甦った時の様にな。
お前さんは既に、対面しておるのだよ。
沖田総司の潜在意識に宿り、多重人格の中に紛れる形ではあったがな。
此処は《はざまの世界》である故、未来の《記憶》を《思い出す》事も可能じゃ。
さあ、ゆけ。
そして、戻って来い。
喪われた魔界を甦らせ、加賀四郎の夢見た理想郷《アルカディア》を創り出す為にな」
何かの《キーワード》が、引き金となった。
己の裡に眠っていた感覚が蘇り、《翼》が拡がる。
ナリスは再び、時空を超えて、《飛んだ》。
数多の転生達を秘めた沖田総司の覚醒を促す為、弥勒が顕れた時空連続点《クロス・ポイント》。
直裁《ダイレクト》に思念波の交換が可能となる超空間、《はざまの世界》に物質は存在しないが。
リンダの視た魔王子アモンの初期形態、未だ形を為さぬ《渦》とは明白に異なる存在と遭遇。
多面重層構造の精神星体《アストラル・ボディ》が煌き、想像を絶する膨大な数の意識を感知。
沖田総司に宿る転生の中の1人、アルド・ナリスと調整者の間に精神接触《コンタクト》が成立。
万華鏡《カレイド・スコープ》の如くに《光》が渦巻き、訪問者の裡で激動する感情の嵐を察知。
伝説の世界樹を髣髴とさせる集合意識、異世界の統一体は衝撃を緩和する旧知の《顔》に変貌。
古代機械の研究成果を託した協力者ヨナ・ハンゼ博士、ミロク教を信奉する若者が微笑。
アルド・ナリスは先方の配慮に感謝の念を捧げ、丁重に一礼し混乱する思考を懸命に取り纏めた。
千載一遇の機会を得て《白金の光》、宇宙意識の一方の顕現である菩薩に簡潔な疑問を投射する。
(貴方は…調整者とは、如何なる存在なのですか?)
(我々は個にして全体なるもの、集合体にして個なるもの。
私であって私たちであるもの、物質存在でありサイコ・エネルギー生命体であるもの。
無数に続く永劫の管理者、全ての宇宙全体に渡りエネルギー総量の総体を調節する者。
宇宙エネルギーを調整する者、であるのです。
物質を構成する原子から知的生命体、多種多様な意識を包括する惑星規模の統一体《ガイア》。
惑星《ガイア》の発展形、星間物質から超銀河系に至る規模の宇宙意識体《フロイ》。
ウォルドリア星系Bの集合意識体、第2段階レンズマンの精神融合体を超越する形態。
第3段階レンズマンの統一体、白金の光《フロイ》が近い状態を達成し得た存在です)
(宇宙生成の秘密とは、何なのです?
何故、宇宙は此の様に存在するのですか?)
(混沌の宮廷から逃れ、真世界を創造した存在の心象《イメージ》に起因します。
審判の宝石に内在する紋様《パターン》に触発され、黄金律《パターン》が誕生しました。
貴方が審判の宝石を用いて宇宙を創造すれば、全く異なる黄金律の新世界が誕生するでしょう。
真世界アンバーの至宝、審判の宝石に世界生成の秘密が隠されていると云われています。
多次元宇宙全体に審判の宝石は存在しており、貴方の世界にも幾つかの投影が存在します。
何れランドックの帝王が身に帯びる王錫の飾り石、ミラルカの琥珀《アンバー》も其の一つです。
真世界アンバーは、多次元世界《パラレル・ワールド》の中心《センター》。
混沌の宮廷と抗争を繰り広げ、黒い道を経由し一時は混沌の宮廷を占領した事もありました。
アンバーの王族は紋様《パターン》を織り込んだ肖像画を用い、次元転移する事が可能です。
紋様《パターン》と同調した者は、数多の次元界を自在に移動する能力を備えています。
真の都アンバーの文字列変換《アナグラム》、投影の鏡像でもある海中の都レブマ。
青竜星アトランの海底都市クィーグ、別名ルルイエにも投影された紋様が存在します。
夢幻境カダス黒瑪瑙の城、月光を受け空中に出現する幻影の都ティルナ・ノグスも同様です。
東渓湖に隠されたユーライカの瑠璃、或る次元界に潜むオーランディアの碧玉もまた同様です。
抹殺されたと伝えられる精神文明の惑星、白の星は隠された原初の真世界アンバーでした。
原型《オリジナル》の黄金律《グランド・パターン》が刻まれた真の都、聖地であったのです。
創造者は多元宇宙全体の改変を企む勢力の目を逸らす為、最初の影の世界を真世界と偽りました。
黄金律《グランド・パターン》が隠される白の星は、新たな階梯に昇る基点であったのですが。
サイコ・エネルギー生命体は選択を誤り、白の星を抹殺した為に進化の機会を失っています。
アリシア人が認識票を授けた銀河文明の守護者、レンズマンの大半は第1段階。
貴公と意気投合した竜型の異星人、ヴァランシア星のウォーゼルは第2段階。
惑星クロヴィアの銀河調整官、キムボール・キニスンの息子は第3段階。
各段階の間には遙かな時を必要とする進化の過程、天地の差が存在します。
ランドックの民は時も次元も解明された神々の都を棄て、虚空の彼方へ立ち去りました。
アウラ・カーに総てを託し、高次元世界から現実界を見守っていると唱える者もいますが。
先住者の如く寿命も意思で制御可能、豹頭王の様に強化された戦闘用改造生命体の創造者。
カイザー転送機と星船を自在に操り、アグリッパが超越者と呼ぶ種族も第1段階に過ぎません。
肉体の限界に縛られぬ階梯に進化、羽化登仙を果たした精神エネルギー生命体。
無数の異なる星間種族を支配した物質文明の使徒は精神文明の進化を拒み、白の星を抹殺。
第2段階の銀河帝国は構造的な矛盾を解決する努力を忌避、自己崩壊を選択しています。
闇の司祭グラチウスが黒魔道を操り、ユラニア大公国を操っていた状態とは異なりますが。
ヤンダル・ゾックが強大な魔力を以て、キタイを支配している状態に近いかも知れません。
東海公子リーンの属する調整者一族も進化の過程、第2段階に相当します。
異世界で驚異的な進化を遂げた惑星生命体《ガイア》の発展形、銀河系生命体《ギャラクシア》。
地球の女神《リアリー》、大いなる白金の光《フロイ》に進化する可能を秘めた特異な種族。
天帝ベルセビュート以下108公子、調整者一族の銀河帝国は衰退と崩壊を辿り姿を消しています。
先住者は人間に潜み転生輪廻する天津神、固有のエネルギー体で長命を保つ国津神に分化。
運命の子シリン・レイ、セイヤ・リー、セイヤ・アスタシア、セイ・グランヴァルド。
予知能力者の呉秀英が幻視した銀河戦士達の希望を一身に集める銀河の救世主、星《セイ》。
一なる四者の統一体が覚醒した時、第3段階へ進化の鍵を得る事となります。
アルド・ナリス、貴方が夢見る力を以って宇宙の真相に迫るを得たのには理由が有るのですよ。
夢幻の世界を実在化させ得る特異な能力を備え、夢幻宮廷の一族に属し夢幻世界を統べる者。
現実の世界と夢の世界を往来し強力な思念を作用させ、現実の存在として根拠を与える力。
世界を誕生させ消滅させる鍵は、夢と現実に相渡る思念の力と無意識の内に心得ている。
《貴方》は最も強力な夢幻戦士、調整者であった夢幻公子ルシファ・ベルフェゴール。
アンバーの王子と同様、多次元宇宙を創る者でもあるのです)
多元宇宙の中心に位置する黄金律の源、原初の魔法円陣が輝いた。
身体の内部を戦慄が貫き、未知の感覚を呼び覚ます。
何かが煌き、体中を駆け巡る。
夢幻の理を知り、夢を統べる者。
十億年以上前に失踪した夢幻公子、暁の化身が覚醒を遂げた。