真世界の影   作:fw187

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闇の微笑

「吾輩の知る君の分身は東洋の白蛇《オリエンタル・ホワイトサーバント》、みづち一族の若長。

 八岐大蛇《ヤマタノオロチ》、白蛇の大神が蛇神教の国セムリアの守護神かどうかは知らぬがね。

 

 白蛇族の若長に良く似た魂を秘める神聖パロ聖王、元クリスタル公爵アルド・ナリス君。

 禍津神の弟である竜神ならぬ蛇神、北斗多一郎を雄介は豹頭王と同じ《北の王》と呼んだが。

 グインが数千年後に草原を去った船乗り、ヴァン・カルスの体験を記憶していたのは何故か?

 君とは義理の従兄弟にあたる草原の黒太子も雄介と同様、西を鎮める男であるのか?

 パロ聖王家の天才児アルド・ナリスが中原の守護者と見込み、後事を託した南の鷹は西の王か?

 キレノア大陸と闇王国ならぬ神聖パロ帝国の西、太古王国ハイナムを平定する事になるのか?

 

 スカールと雄介の関連性に話が逸れた、君の呈示した疑問に話を戻すとしよう。

 世界生成の秘密を究明し森羅万象を理解する野望を秘め、天才の種族に属する同志。

 アルド・ナリス殿下に贈る吾輩からの挨拶として、幾つかの情報を提供しよう。

 ヤンダル・ゾックはウォルドリア星系B惑星ヨルグ竜の民、インガルス竜人族の集合意識だね。

 第5次銀河大戦の際に我々の宇宙に侵入した存在、旧支配者を復活させようとしているのだな。

 《西》の地下から次元回廊が通じる地底世界、赤く輝くヨスに棲息する蜥蜴に似た種族。

 数千年後に闇王国パロスのゼフィール王子が、異次元の故郷へ還した精神寄生体と推定される。

 

 ついでに言えば君が夢の回廊で聞かされた神の種子は、通称ヨーグが遺した存在ではないかな。

 カレナリア星系第3惑星の文明を滅ぼした有害生命体もまた、ヨグ=ソトートの眷属と見るね。

 あらゆる時空に接する門の鍵にして守護者と尊称され、時空を超越する渾沌界の超越者。

 輝くトラペゾヘドロン、黒い石に寄生する生命体が進化ないし分化した姿とも思われる。

 肉食植物の黒い石から分離し宇宙エネルギーを取り込み、時空を超越する存在と化した眼の者。

 眼の位置に在る光の渦に顔の上部が覆われ口から下しか見えない《眼》、結城大和を思い出すね。

 力は大して持たなかった《眼》のなかにも、《天才》が存在したのだな。

 己の無力を呪い種族の限界を突き破り、《力》を得た形態であると推測される。

 

 孵化した種子のアモンは性格が歪んでしまっているが、当然の結果と言うしかあるまい。

 カナンの無念、怨念、妄執、悔恨を養分として与えられ続けたのだからね。

 『宇宙全体に増え拡がりたい』とは『死にたくない』の裏返し、怨念が転化した姿に他ならぬ。

 ヤンダルが生贄としたキタイの女達の未練、断末魔の思念を取込んで孵化した当然の結果だよ。

 蜃気楼の娘サラーの残留思念『忘れないで欲しい、覚えていて欲しい』の変形でもある。

 『忘れ去られる事の無い様、宇宙全体に己の存在の証を刻み付けたい』との尽きせぬ妄執だな。

 人間も幼少期に負の感情を植え続ければ、邪悪と看做される存在になるのだから無理もないね。

 幸福な感情や優しい思念、美しい思考を養分として与えれば弥勒や菩薩になれたかもしれない。

 南の鷹スカールが見たグル・ヌーの星船内部に漂うフモールも、或る意味では気の毒な存在だ。

 

 大魔道師アグリッパが封じた極北の荒野、夢幻境カダスに眠る万物の王アザトートもそうだね。

 極冷の荒地カダスとは火星と木星の間を巡る小惑星帯《アステロイド・ベルト》、嘗ての氷惑星。

 氷雪の国ヨツンヘイム地下に封じられた世界を破滅させる力、超時空次元回廊が接続する異界。

 旧神に意志と知性を奪われ黒瑪瑙城に封印されたアザトートは、我輩も対面した事がある。

 巨眼を開き「Ya-n!」と叫び瞳が虹彩も眼球も無い光の渦と化す時、人も神も己の最期を視る。

 神の種子から誕生する存在の存在様式、指向性は孵化する為に取り込んだ養分に左右される。

 種子の状態で与えられた因子により性格を決定し得る精神生命体、であるからね。

 火がクトゥグア、風がハストゥールを形成したとも考えられる。

 蛸がクトゥルー、蛙がツァトゥグァかどうかは知らんがね。

 

 フモールと幾度と無く出会った豹頭王、グインの激烈な反応は何を指し示しているのか?

 其処には調整者への手掛りが存在すると思うが謎の宝珠、ルルイエの三姉妹も興味深いね。

 ユーライカの瑠璃は妹、オーランディアの碧玉とミラルカの琥珀は姉との言及が見られる。

 宝玉3つを揃える事が星の海を渡る必要条件、ランドック帝王の身分証明とも語られている。

 精神文明の産物レンズ、或いはパターンを裡に秘める審判の宝石かどうかは断言しかねるが。

 幾つかの手掛かりは天上の都ランドックについて、或る仮説の構築を可能としてくれる。

 明白な論理的帰結と思われる吾輩の推測、仮説に物的証拠は無いが君は先を聞きたいかね?」

 

 

 

「…此処は、何処だ?」

 

 新たに《目覚めた》異世界は静寂な闇黒に満ち、何も応えぬ。

 

(僕は、来た事がある。

 夢の中で、暗黒回廊を抜けて、《あの人》と会った)

 

 無限マイナス1個の人格が棲む領域、潜在意識の裡で呟く声の主。

 東海公子や夢幻公子の潜む若者、沖田総司の魂魄と接触を試みる。

 

 彼の記憶には魔物、精神生命体、怨霊、歴史改変を企む時間犯罪者が蠢いていたが。

 執拗な拷問に耐える剛毅な第一級サイコ戦闘士、ケイルローン・ヴァンダレス。

 牢獄惑星ケルロン幽閉中の夢幻戦士、沖田総司の守護者《ガーディアン》に見覚えがある。

 

(ルナン!

 お前は私の知らぬ前世、転生先でも私を護ってくれていたのか!?)

 青竜星アトラン出身の拷問者から、救わねばならぬ。

 沖田総司の記憶を探り夢の回廊、暗黒回廊の先に精神感応移動。

 

 《宿主》の周囲に幾重もの罠を張り巡らせ、夢幻公子と対立し悪夢を統べる女神○○〇〇。

 悪夢を統べる女神ヒプノス、は中原には馴染み深い存在だが。

 ヒュプノスの一族、意地悪な夢の精霊を率いる夢幻神将の敵対者なのか?

 

 のろのろと誰何する牢獄惑星ケルロン警備の牢番、人造の妖怪は念波の一閃で消滅。

 沖田総司の記憶に倣い、下手に思念波が触れると爆発する罠も軽々と跳躍《リープ》。

 二重三重に戦士を縛る魔法陣、念鎖《サイコ・チェーン》の破壊は警報を触発する筈だが。

 混沌の暗幕に隠された長身の偉丈夫、不屈の闘志と無限の誠実を秘める戦士の瞳が輝いた。

 

(公子!

 封印を解かれたのですか!?)

(私の名は、アルド・ナリス。

 沖田総司の記憶を辿り、ルナンに酷似する貴方を見出した者です)

 

 電光の様に思考が閃き、心象《イメージ》を照合。

 サイコ戦闘士の額に掌を翳し、治癒の光を注ぎ込む。

 ルナンの容貌を持つ勇者の瞳が瞬き、優しい光を帯びる。

 

(感謝する、アルド・ナリス殿。

 精神測定《サイコメトリ》の術を用い、事情は理解した。

 貴方の探求心、知性、直感《イマジネーション》に敬意を表する。

 

 世界生成の秘密を究める資格は、強靭な《意思》が鍵となる。

 常に変動する混沌の領域、無限城の中層部《ベルトライン》に挑む者の様にね。

 真実を知る為には、カリンクトゥムの扉を越えなければならないのだが。

 九つの思念波を組み合わせた鍵、《パスワード》だけで道を拓く事は出来ない。

 

 究極の門を開く鍵は異次元空間、数多の《影》に隠されている。

 多元宇宙《パラレル・ワールド》の真央点《センター》に於いては、審判の宝石。

 貴方の世界を遠隔透視、千里眼で走査したが単独ではない模様だ。

 豹頭の戦士が持つ鍵、銀色の《杖》に《ルーエの三姉妹》を嵌め込まねばなるまい。

 

 ランドックの帝王が星の海を渡る要諦、王冠の正面で燦然と輝く《ユーライカの瑠璃》。

 王剣の柄頭となる《オーランディアの碧玉》、王錫を飾る《ミラルカの琥珀》。

 アウラの姉妹を封じた星の秘石、宝珠の共鳴波が《装置》の動力源となる。

 星船の要、人工制御頭脳《ホスト・ブレイン》の封印《ロック》を解く鍵。

 五人姉妹の末姫も言及した遠隔心話の鍵、思念波増幅装置として機能する筈だ。

 

 未来から現れた時間犯罪者、赤い目の複製体も夢幻界の鍵を握る貴方を追跡中だ。

 聖都ヤガ地下迷宮に蠢く《新しきミロク》、操り人形の眼に彼等の痕跡が見える。

 悪夢を統べる女神ヒプノス、夢幻宮廷の反逆者も強力な精霊達を従えているからな。

 精神遮蔽《サイコ・バリヤー》を超越する盗聴能力者、妖魔の類も油断は出来ぬ。

 貴方の世界に帰還する為の道筋、回廊には無数の罠が仕掛けられているのだよ。

 灯明寺を護る《はざま衆》、先住者の《眼》から詳細を聞かれる方が良い)

 

 ルナンに酷似した剛毅な瞳が拡がり、視界を覆う。

 夜空に煌めく星々の様に、闇色の虹彩を背景に乱舞する赤や青の光。

 アルド・ナリスは時空を越え、沖田総司が無意識に《飛ぶ》時の感覚を思い出した。

 

 

「私は聖王家の一員、アルシス王家の正統後継者アルド・ナリス。

 失礼とは思うが、私が此処に留まる事の可能な時間は限られている。

 貴方は、私を御存知であろうか?」

 

 前々回の夢では、実に惜しい事をした。

 加賀四郎は様々な事象を理解しており、幾らでも喋ってくれそうな気配だったのに。

 残念無念の思いを雄弁に物語る表情が、妙に強烈な印象を残している。

 

 何としても続きを聞きたかったのだが動揺して、夢から覚めてしまった。

 今回の夢も何時覚めるか分からず、世辞の遣り取りに費やしている時間は無い。

 慣習となっている腹の探り合い、相手の本音を暴く為の韜晦や陥穽の類は無用。

 率直に名乗り、返事を待つ。

 

 

「ほう、加賀四郎を知っておいでか」

 妙に見覚えのある新たな遭遇者は、ナリスの思考を口に出されたかの如く無造作に応えた。


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