真世界の影   作:fw187

3 / 11
ルアーの角笛

「研修生の坊や、あんたから行ってくれ。

 俺からでも良いんだが、息子や弟に納得させなきゃならんのでな。

 ラグラジルへ無事に到着する、と実演して欲しいんだ。

 実験台と言ってしまっては身も蓋も無いが、協力して貰いたい」

 

 シン研修生は素直に従い、カイザー転送機のシートに着席。

 銀河騎士団第一連隊の副官、マーカス・アレン少佐の操作で転送機が作動。

 予知能力の顕在化した若者の姿が失せた直後、銀色の照明も消え室内は暗転。

 惑星バルトン出身の戦士(タリア)型(タイプ)、通称《バトル・ホーク》が絶叫。

 

「くそっ、電力供給が途絶えた!

 雄介、俺を置いて脱出してくれ!!

 第二帝国に行け、あんたなら何とか出来る筈だ!

 ここに残る覚悟は出来てるからな、ミラ将軍に宜しく伝えてくれ!!」

 

 暗闇の中で叫ぶ銀河騎士団の精鋭、マーカス・アレンの脳裏に《声》が生じた。

 

(銀河将軍ミラには俺から説明する、心配は要らん。

 あんたは俺を逃がす為に帝国を裏切る、と言ってくれた。

 俺に戦友(とも)を見捨てる気は無いし、第一帝国の連中に文句は言わせん。

 時間が無い、問答無用だ。

 《エネミー》から銀河を救う為、同行して貰う!)

 

 カイザー転送機の操作(オペレーション)、残留の役割は既に解除されている。

 尚も何か言い掛けた宇宙戦士は、精神平面に名状し難い衝撃を受け意識を喪失。

 5千年先の未来で得た親友を問答無用で眠らせ、大柄な身体を苦も無く担ぎ上げた男。

 意志と意識を備える謎のブラックホール生命体、安西雄介は晴れ晴れとした表情で言い放った。

 

「気が変わったぞ、息子殿。

 お前と竜二の提案に従い、第二帝国を訪問する。

 セイヤ・アスタシアは竜二と会い、シリン・レイ救出を頼んだ。

 サイキック・ツインを連れ戻す事に成功した報酬として、聞きたい事がある。

 知性(ちせい)理性(りせい)野生(やせい)心理(しんり)真理(しんり)摂理(せつり)

 息子殿の仄めかす暗示、字列変換(アナグラム)についての一部始終をな。

 タジールの猫神族は《何か》に憑依しなければ、自我が形を成さない様だが。

 お前やセイヤ・リーとの関係も含め、解き明かして貰おうじゃないか」

 

 アスタシアの白い悪魔、シリン・レイが困惑し露骨に顔を顰める。

 葛城秌子の血を引く美貌の《息子》、半サイコ生命体の困り顔を鑑賞する暇は無い。

 第二帝国の首都惑星から自力で飛来した弟、西海竜王の先導で惑星重力圏を離脱。

 3人は光の集合体と化し宇宙空間を飛翔、タジールの猫神族が棲む《白の星》を訪れた。

 

 

 彼は禍津神と先住者の混血児、サイコ・エネルギー生命体の航跡を追う事も出来たが。

 ヤーンの塔の地下に3千年前から存在する古代機械が何故、此処に存在するのか?

 カイザー転送機に興味を引かれ、研修生を搬送の際に生じた痕跡を辿った。

 伝説の星体放射能力者《テレテンポラリア》、エルンスト・エラートの様に。

 或いは予知夢を通じ呉秀英が一時、吸収された無限寿命者ラーの如く。

 肉体ならぬ星体《アストラル・ボディ》が、宇宙空間を駆け抜ける。

 

 トランターならぬ第一銀河帝国の首都惑星、ラクラジルに到達。

 グインに見せて貰ったイメージ、銀色に輝く天上の都ランドックに良く似ている。

 擬似生命体や機械生命体は多数存在するが、本物の生命体は少ない。

 星間帝国の都を眺望する彼は、波長の近い精神を感知し興味を覚えた。

 降魔の利剣を秘めた手天童次郎の如くにエネルギーを転換し、肉体を物質化させる。

 

「ややっ、これはまた何とも珍しい御客人の到来ではないかね!?

 蛇君も此の世界に来ていたのか、五千年後の世界で旧知に合えるとは実に喜ばしい!

 人間には同時代の記憶を共有する相手との会話が、必要不可欠であるのだな。

 思わぬ大発見だったね、骨身に染みて理解させられたよ!

 雄介は宇宙をほっつき歩いとるし、ファイアーブラス伯と昔話は出来んからな!

 髪が黒い所を見ると今の君は先住者の八岐、ならぬ人間族の北斗多一郎かね?」

 

 左側の壁には銀色に輝く都の眺望が広がる、20坪程の部屋。

 幾何学的な四角形や半円、円錐状の透明な建造物の群れが眺望を埋め尽くしている。

 無数の長く光り輝く管が互いに蛇行し、複雑に絡み合い結合されている様だ。

 水晶状構造物の内部に虹色の光が不規則に瞬き、パロ秘蔵の古代機械を連想させる。

 

 星の海を征く宇宙戦艦の展望室ではないが、立体映像の島宇宙が奥の壁一面に瞬く。

 右側の壁には銀河系の勢力分布図、色分けされた星々が表示されている。

 第一帝国に属する星系は青《ブルー》、第二帝国に属する星系は赤《レッド》。

 交戦中の星系は紫《パープル》、エネミーに汚染された星系は茶《ブラウン》。

 下半分の大半は茶に染まり青と赤は極僅か、上半分は青が7割に赤が3割と云う処か。

 

 

 

(惑星ユゴスで自己完結し光の生命へ転生、消滅したと思っていたが実に有難い。

 雄介と八岐が揃えば大抵の事態には対処可能だが何故、白人種の容貌を?

 2千年の間に西洋へ転生しとっても不自然ではないが、第一帝国に合わせたかな。

 雄介の場合と同様、握手や抱擁にて肉体接触テレパシーを用いるか。

 蛇君と接吻など御免蒙るが、監視を誤魔化し状況を何処まで理解しとるか確認せんとな。

 感激の表情を装いニコポン宜しく何度も肩を叩いたりしとれば、何とかなるだろうさ)

 学者風の痩せた男は銀色の精巧な眼鏡を外し、薄紫色の美しい双眸が煌いた。

 

 先方は旧知の友人と勘違いしているらしいが、何と返答したものだろうか?

 何度も肩を叩き握手を求める相手に戸惑いながらも、虫も殺さぬ笑顔で掌を握る。

 

(我輩の思考を読んで返事を送り込んでくれ、此の部屋は盗聴されているからな。

 君が何処まで状況を把握しとるか知らんが、今が5千年後の未来だと知っているか?

 カンティングラス星系を覆い尽くした魔の胞子、いやいや、茶色の植物状繁殖体は?

 タナトス生命体と敵《エネミー》の関係、安西竜二を操った《杖》は見たかね?

 

 ラン=テゴスの眷属とは思わんが、カンティングラス星に住む種族は蛙に似ている。

 彼等の集団超能力、催眠暗示波《ヒュプノ・ウェーブ》は銀河系全域を射程範囲に収めた。

 宇宙大の幻影や時間次元の力場を操る化物、アンドロメダ星雲の怪物惑星に昇格しかねん。

 けしからん事に命中率百%の瞬間物質移送装置、トランスフォーム砲を投入しおった。

 カイザー転送機に寄生、機能を強化して操作しとるのだな。

 最新の報告では半径数光年に及ぶ範囲の次元砲、コンヴァーター砲も使ったらしい。

 4次元時空連続体を破壊する空間破砕爆弾(スペーススマッシャー)、ディスラプター登場も時間の問題だな。

 

 基礎データが不足している為、流石の我輩にも正体は断定は出来んがね。

 大規模な次元断層を生起し、銀河帝国を虚無の海に四散させる可能性も急浮上しとる。

 第一銀河帝国の象徴、戦闘王子《バトル・プリンス》と称されるセイ・グランヴァルド王子。

 我輩に匹敵する知性の持ち主、銀河の知恵袋ライディン・ファイアーブラス第1宇宙伯。

 雄介と意気投合した《闘神》銀河将軍ミラ・グランディール。

 科学を信奉する宇宙帝国の3人神は我輩を放り出し、連日エネミー対策に大童だ。

 

 まるで陽電子生体機械人《ポスビ》、第二帝国の侵攻に狼狽える星間帝国アルコン人の如くだね。

 非人類種族の第二帝国は猫神タジール族の王女、セイヤ・アスタシアが混乱を抑えている様だ。

 安西竜二は第二帝国の領域《テリトリー》を訪れ、アスタシア星系で猫神族の王女に対面したらしい。

 雄介も精神文明ならぬ超能力種族の連合軍、機械の王国に対抗する第二帝国へ合流しとる筈だ。

 

 カイザー転送機が最後に転送した伊吹涼の同類、シン研修生の記憶を解析して状況が判明したのだがね。

 さっさと伊吹風太の持つ杖を破壊し、洗脳から解放して帰って来れば良いのに数ヶ月も連絡が無い。

 全く気の利かん奴だが君は雄介や風太と会ったのか、他に何か情報があれば教えて欲しいね)

 

 みずちの若長と見えた相手は何故か、当惑した表情で此方を見ている。

(君と吾輩の仲にも関わらず黙っとるとは怪しからん、肉体接触の思念波も盗聴されると思っとるのか?)

 

 喜色を満面に表し握手を求めた相手は何故か、不審な表情を浮かべ口を閉ざした。

 期待していた反応が得られなかった事は明白だが、何を失敗ったのか全く不明。

 何を期待していたかは知らないが、カンティングラスと云う名は聞き覚えがある。

 茶色い直物に覆い尽くされた世界で聞いたが、数ヶ月も経つとは時間軸が異なるのか?

 

 先住者中でも最強の力を持つ八岐、みづち一族の若長に自分の思考を読み取れぬ筈は無いが。

 旧知の北斗多一郎と思っていたが別人かも知れぬ、西洋中世風の扮装は何を意味するのか?

「おや、君は蛇君ではないのか?」

 

 えい、ままよ。

 握手を外し、破れかぶれで名乗りをあげる。

「現在は神聖パロ国王と称しているが、私はカレニア公領を統治するアルシス王家の当主。

 前代のクリスタル大公を務めし我が名はアルド・ナリス、以後お見知り置きを願います」

 

(闇と炎の王子、アルド・ナリス!

 未公認の世界最長小説、某サーガの登場人物ではないか!?

 言われてみれば描写の通り容姿端麗、世界生成の秘密を極める志を抱く野心家だったな)

「何と、絶世の美男と後世に語り継がれた有名なクリスタル公かね!?

 いやいや大変失礼した、私は20世紀の日本に生を誕け加賀四郎と名乗る一介の天才だよ。

 数多の異次元空間を巡り5千年後の未来、銀河帝国の首都惑星ラクラジルへと漂着した所さ。

 旧知に良く似た魂をしておるので間違えてしまったが、御無礼の段は平に御勘弁を願いたい」

 奇妙な言い回しだが滑らかな口調、冷静沈着な物腰にも高い知性が窺える。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。