星の潮流   作:fw187

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地球人の魔術

 防御力に劣る護衛艦、パトロール艦は短射程の決戦兵器で最大の効果を発揮。

 次回の小型の拡散波動砲を再び、発射する好機に備え後方に温存する。

 防御力の高い戦艦は数か所、被弾したが戦闘の継続は可能。

 大型の拡散波動砲を発射の為、エネルギー再充填まで多少の時間は必要だが。

 射程距離内の敵艦は既に全滅しており、全く問題は無い。

 

 無限艦隊の新手が、押し寄せた。

 地球防衛艦隊は戦艦を先頭に押し立て、前進。

 一糸乱れぬ艦隊運動を見せ、手足の様に動く。

 エネルギー充填中の護衛艦、パトロール艦も比較的安全な後方で援護射撃を実施。

 流れる様に滑らかな魚群の動き、編隊機動を再び披露する。

 

 地球人達は、幾つかの集団に分かれた。

 一見無造作に、小集団毎に無限艦隊へと突入。

 各所で激しい砲撃戦が展開される。

 防衛艦隊は戦闘を続けながら、互いに接近。

 

 戦艦を中心とする艦隊、球状の編隊が猛烈な速度で真正面から交錯。

 正面衝突は免れず、大爆発が起こる事は間違いない。

 地球防衛艦隊は軌道を誤り、大損害を出して自滅の道を辿ったのか?

 思わず、身を乗り出した。

 

 

 何も、起こらぬ。

 予想は、見事に裏切られた。

 正面から突っ込み、高速で激突した筈の地球防衛艦隊は。

 密集隊形を保った儘、互いの隊列を透り抜けた。

 

 嘘だろう?

 私は、呆れた。

 ガミラス宇宙軍の最精鋭、ドメル将軍の部下達にも此の様な芸当は出来ぬ。

 強行すれば必ず、接触事故が発生する。

 

 不信の念に満たされた私の心中を、逆撫でするかの如く。

 魔法の様な地球防衛艦隊の機動≪アクロバット≫は、次々に実演され続けた。

 怪しい、絶対に怪しい、怪しさ大爆発だ。

 何か、手品の種が隠されているに違いあるまい。

 

 眼を皿の様に凝らし、懸命に魔術の種を見破ろうとしたが。

 無駄、であった。

 地球人達は驚異的、神業の様な艦隊運動を連発。

 幸運に恵まれた僥倖の確率を遙かに超え、手練の技と認めざるを得ぬ。

 

 

 地球艦隊は真正面から、3次元立体的に交錯。

 上下、左右、斜め45度。

 ありとあらゆる角度から、集団交差運動を実行。

 敵は、全く対応できぬ。

 

 当然だ。

 同じ機動を行えば間違い無く、正面衝突し全滅する。

 無限艦隊は追随を諦め、戦術を転換。

 地球艦隊の周囲を埋め尽くし、環状砲撃を浴びせる態勢を整えた。

 今度こそ、避ける術は無い。

 

 だが、次の瞬間。

 地球軍艦艇は魚の群れの如く、一瞬で散った。

 巡洋艦以下の中小型艦は同艦種に纏まり、単縦陣を形成。

 主力戦艦の援護射撃に気を取られ、砲撃の衰えた無限艦隊の舷側を。

 擦らんばかりの至近距離で、高速突破してのける。

 

 環状包囲網の外側に抜け出た小艦隊が、単横陣に変化。

 速度を落とさず、直角に転針する。

 再び、高速の集団交差。

 何度見ても、魔術としか思えぬ。

 

 

 包囲する側の無限艦隊が大混乱に陥り、砲撃が乱れる。

 地球艦隊を狙った筈のエネルギービームが、環状包囲網の反対側に位置する味方艦を直撃。

 巡洋艦以下の地球軍艦艇が背後に現れ、的確に衝撃波砲(ショック・カノン)を浴びせる。

 敵味方から砲撃を受け、無数の爆発が生じ宇宙空間を彩った。

 

 無限艦隊の環状包囲網に大穴が開き、地球艦隊を狙った集中砲火が乱れる。

 巡洋艦以下の小艦艇を脱出させ、囮となった戦艦群は多少の手傷を負った模様だが。

 充分な戦闘力を維持して環状包囲網を崩し、巡洋艦以下と新たな編隊を組む。

 

 戦艦、巡洋艦、パトロール艦、護衛艦の順に配置。

 円錐形の開口部には、主力戦艦。

 小型艦が最奥、円錐形の頂点を占める。

 見慣れぬ陣形だが、逆ではないのか?

 

 

 口惜しい事に、地球艦隊が正解だった。

 無限艦隊の砲撃を受けた主力戦艦は頑強に、位置(ポジション)を維持(キープ)。

 防御力に劣る小型艦への砲撃を妨害。

 円錐形の開口部に、敵の指揮艦が呑み込まれる。

 

 集中砲撃を受け、旗艦が爆発。指揮系統が喪われ、敵部隊の動きが乱れた。

 指揮艦を狙う意図に気付いた無限艦隊は、円錐形の周囲に廻り込む。

 頂点に位置する小型艦への砲撃を試みるが。

 地球艦隊は魚群の如く、一瞬で散開し電光石化の方向転換が再び実演された。

 

 今度は先刻の円錐形と異なる陣形を組み、主力戦艦と巡洋艦が外側に並ぶ。

 パトロール艦と護衛艦は内側を占め、散開した無限艦隊の一部を円筒形が呑み込む。

 円筒形の内部に集中砲撃を加え、外側の艦隊には戦艦と巡洋艦が応戦。

 パトロール艦と護衛艦は防御力に劣るが、狙撃の隙を与えず敵艦隊の射程距離圏内から離脱する。

 

 

 右往左往する無限艦隊は密かに、或る一点へと誘導されていた。

 団子状態に重なった無限艦隊を、貫通力の高い大出力光線が照射。

 新鋭戦艦アンドロメダ艦橋に装備された、大口径レーザー砲。

 骨法秘拳≪徹し≫の如く、何隻もの敵艦が串刺しとなる。

 

 何時の間にか忍び寄った駆逐艦の群れが、多数の宇宙魚雷を発射。

 辛うじて回避した無限艦隊の眼前で、待ち構えた護衛艦が一斉に拡散波動砲を発射する。

 新手が反撃に出る寸前、身を翻して逃走。

 追撃に移る無限艦隊に再び、魚雷の網が被せられた。

 

 火力に物を言わせて突破した敵艦に向け、パトロール艦が拡散波動砲を発射。

 新たな大群の殺到する直前、防御力の劣る高速偵察艦は逸早く逃走。

 何時の間にか背後に控えていた戦艦、巡洋艦の衝撃波砲が痛打を浴びせる。

 爆発する艦の破片を物ともせず重防御、大型の敵艦が前面に躍り出た。

 

 

 地球軍主力戦艦に真正面から砲撃戦を挑むが、幻の如く雷撃機の編隊が出現。

 魚雷を命中させると風の様に去り、追撃に移る敵艦の鼻先に別の魚雷が殺到する。

 駆逐艦の集団雷撃に襲われ混乱する艦列に照準を定め、巡洋艦が拡散波動砲を発射。

 巡洋艦に突撃する新手の敵を緻密に計算され、誤射とならぬ絶妙の角度から戦艦が迎え撃つ。

 

 主力戦艦、アンドロメダ、ヤマト装備の重衝撃波砲が唸り激減した敵艦を次々に撃破。

 地球艦隊の各艦が波動砲の再充填を終えるまで、最大最強の戦艦が警戒に当たる。

 二重三重どころか数十手も先を読み、敵艦の行動を完璧に予測した絶妙の連携動作(コンビネーション)。

 異次元の艦隊機動、集団運動を見せ付けられた私は劣等感すら覚えた。

 

 

「一体、どういう事だ?

 この様な難易度の高い技、一体どうやって身に付けた!?」

「我々には、逆立ちしても出来ん芸当だ!

 異次元の世界で、精神感応能力を身に付けたとでも云うのか?」

 

 ハルゼー提督の怒鳴り声に副将ナスカ司令官、ドメル将軍も同時に頷いた。

 重大な心理的衝撃を受けたと見え、語尾は悲鳴に近い。

 遺憾ながら、全く同感である。

 ズォーダー大帝も唸り、続いて感嘆の声を挙げる。

 

 次の瞬間。

 見覚えのある光景が展開され、息が止まった。

 盲目的な感情の爆発を抑え切れず、絶叫が洩れる。

「こんな、馬鹿な!」

 

 

 恐怖で身体が硬直し、心の奥底に封じ込めた悪夢が蘇る。

 放射能除去装置の作動開始に伴う、放射能の希薄化を察知した私は。

 宇宙戦艦ヤマト艦内の白兵戦を中断し、実用化に成功した決戦秘密兵器で決着を図った。

 

 私の名を冠し無断で複製(コピー)した波動砲の引き金を引き、勝利を確信。

 心眼では既に爆発四散する宿敵、ヤマトの最期を視ていたが。

 波動砲の猛威も弾き返す特殊装備、空間磁力メッキ。

 想定外の掟破り、真田志郎の発明品が私の意識を切り裂いた次第。

 

 観艦式の際に艦上を彩る満艦飾の如く、地球防衛艦隊の纏う最強の鏡(レンズ)。

 空間磁力メッキの光芒が煌き、宇宙空間を蒼氷色(アイス・ブルー)に染める。

 喉元まで出掛かった罵詈雑言を、辛うじて呑み込む。

 感情的短絡《ヒステリー》を抑え込む為、渾身の意志力を必要とした。

 

 

 鏡面塗装を施された救命艇、『空しい希望(フォーローン・ホープ)』号の如く。

 小型戦闘機や魚雷艇も銀色の鎧を纏い、水晶《クリスタル》の様に輝いていた。

 敵の光線砲は足掛かりを得られず、全てが反射され撥ね返される。

 砲撃の軌道を逆走、発射艦の砲塔を貫く事となった。

 

 無限艦隊が大量に発射した、対モルケックス装甲の秘密兵器。

 過酸化水素水封入ミサイルが命中し、炸裂する。

 モルケックス装甲を装備せぬ地球艦には、何の効果も無い。

 下瀬火薬が海中で威力を発揮せぬ様に、宇宙空間に拡散するのみ。

 

 円錐形、円筒形、単縦陣、単横陣、螺旋形、鏃形、球形、弓形、楕円形、投網形、楔形。

 ありとあらゆる隊形が現出し、高速集団交差運動が繰り返された。

 眼目眩しく回転変化する、万華鏡《カレイド・スコープ》の如き連係機動。

 幻惑された敵艦が照準を誤り、同士討ちを演じる。

 

 

 戦闘機コスモ・タイガー2型、雷撃機が乱入。

 不規則な乱舞で混乱を助長し、風の様に去る。

 駆逐艦も敵陣を駆け抜け、追撃に移る敵艦の鼻先を魚雷が直撃。

 主力戦艦の重火器が閃き、縦横無尽に宙域を薙ぎ払う。

 

 地球人達は遠隔視能力、千里眼《クレアボワイヤンス》を会得したのであろうか。

 対手の反応を完璧に読み、天衣無縫に剣を操り無数の敵を斬り倒す魔戦士の如く。

 超絶の域に達した感嘆すべき魔術、立体交差集団運動を織り交ぜた驚異の多重連携攻撃を連発。

 敵艦には、悪夢としか思えぬであろう。

 

 窮地に追い詰め、確実に討ち取れる筈の標的が。

 射線に貫かれる寸前、想定外の機動を見せ視界の外に消える。

 同時に、異なる角度から衝撃波砲の光芒が殺到。

 凄腕の狩人達は確実に標的を射抜き、虚空に砕け散る。

 

 パルス・レーザーの断続的な光弾、衝撃波砲の軌跡が宇宙空間の闇を切り裂く。

 無限艦隊は総崩れとなり、全面的撤退を強いられた。


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