防御力に劣る護衛艦、パトロール艦は短射程の決戦兵器で最大の効果を発揮。
次回の小型の拡散波動砲を再び、発射する好機に備え後方に温存する。
防御力の高い戦艦は数か所、被弾したが戦闘の継続は可能。
大型の拡散波動砲を発射の為、エネルギー再充填まで多少の時間は必要だが。
射程距離内の敵艦は既に全滅しており、全く問題は無い。
無限艦隊の新手が、押し寄せた。
地球防衛艦隊は戦艦を先頭に押し立て、前進。
一糸乱れぬ艦隊運動を見せ、手足の様に動く。
エネルギー充填中の護衛艦、パトロール艦も比較的安全な後方で援護射撃を実施。
流れる様に滑らかな魚群の動き、編隊機動を再び披露する。
地球人達は、幾つかの集団に分かれた。
一見無造作に、小集団毎に無限艦隊へと突入。
各所で激しい砲撃戦が展開される。
防衛艦隊は戦闘を続けながら、互いに接近。
戦艦を中心とする艦隊、球状の編隊が猛烈な速度で真正面から交錯。
正面衝突は免れず、大爆発が起こる事は間違いない。
地球防衛艦隊は軌道を誤り、大損害を出して自滅の道を辿ったのか?
思わず、身を乗り出した。
何も、起こらぬ。
予想は、見事に裏切られた。
正面から突っ込み、高速で激突した筈の地球防衛艦隊は。
密集隊形を保った儘、互いの隊列を透り抜けた。
嘘だろう?
私は、呆れた。
ガミラス宇宙軍の最精鋭、ドメル将軍の部下達にも此の様な芸当は出来ぬ。
強行すれば必ず、接触事故が発生する。
不信の念に満たされた私の心中を、逆撫でするかの如く。
魔法の様な地球防衛艦隊の機動≪アクロバット≫は、次々に実演され続けた。
怪しい、絶対に怪しい、怪しさ大爆発だ。
何か、手品の種が隠されているに違いあるまい。
眼を皿の様に凝らし、懸命に魔術の種を見破ろうとしたが。
無駄、であった。
地球人達は驚異的、神業の様な艦隊運動を連発。
幸運に恵まれた僥倖の確率を遙かに超え、手練の技と認めざるを得ぬ。
地球艦隊は真正面から、3次元立体的に交錯。
上下、左右、斜め45度。
ありとあらゆる角度から、集団交差運動を実行。
敵は、全く対応できぬ。
当然だ。
同じ機動を行えば間違い無く、正面衝突し全滅する。
無限艦隊は追随を諦め、戦術を転換。
地球艦隊の周囲を埋め尽くし、環状砲撃を浴びせる態勢を整えた。
今度こそ、避ける術は無い。
だが、次の瞬間。
地球軍艦艇は魚の群れの如く、一瞬で散った。
巡洋艦以下の中小型艦は同艦種に纏まり、単縦陣を形成。
主力戦艦の援護射撃に気を取られ、砲撃の衰えた無限艦隊の舷側を。
擦らんばかりの至近距離で、高速突破してのける。
環状包囲網の外側に抜け出た小艦隊が、単横陣に変化。
速度を落とさず、直角に転針する。
再び、高速の集団交差。
何度見ても、魔術としか思えぬ。
包囲する側の無限艦隊が大混乱に陥り、砲撃が乱れる。
地球艦隊を狙った筈のエネルギービームが、環状包囲網の反対側に位置する味方艦を直撃。
巡洋艦以下の地球軍艦艇が背後に現れ、的確に
敵味方から砲撃を受け、無数の爆発が生じ宇宙空間を彩った。
無限艦隊の環状包囲網に大穴が開き、地球艦隊を狙った集中砲火が乱れる。
巡洋艦以下の小艦艇を脱出させ、囮となった戦艦群は多少の手傷を負った模様だが。
充分な戦闘力を維持して環状包囲網を崩し、巡洋艦以下と新たな編隊を組む。
戦艦、巡洋艦、パトロール艦、護衛艦の順に配置。
円錐形の開口部には、主力戦艦。
小型艦が最奥、円錐形の頂点を占める。
見慣れぬ陣形だが、逆ではないのか?
口惜しい事に、地球艦隊が正解だった。
無限艦隊の砲撃を受けた主力戦艦は頑強に、位置(ポジション)を維持(キープ)。
防御力に劣る小型艦への砲撃を妨害。
円錐形の開口部に、敵の指揮艦が呑み込まれる。
集中砲撃を受け、旗艦が爆発。指揮系統が喪われ、敵部隊の動きが乱れた。
指揮艦を狙う意図に気付いた無限艦隊は、円錐形の周囲に廻り込む。
頂点に位置する小型艦への砲撃を試みるが。
地球艦隊は魚群の如く、一瞬で散開し電光石化の方向転換が再び実演された。
今度は先刻の円錐形と異なる陣形を組み、主力戦艦と巡洋艦が外側に並ぶ。
パトロール艦と護衛艦は内側を占め、散開した無限艦隊の一部を円筒形が呑み込む。
円筒形の内部に集中砲撃を加え、外側の艦隊には戦艦と巡洋艦が応戦。
パトロール艦と護衛艦は防御力に劣るが、狙撃の隙を与えず敵艦隊の射程距離圏内から離脱する。
右往左往する無限艦隊は密かに、或る一点へと誘導されていた。
団子状態に重なった無限艦隊を、貫通力の高い大出力光線が照射。
新鋭戦艦アンドロメダ艦橋に装備された、大口径レーザー砲。
骨法秘拳≪徹し≫の如く、何隻もの敵艦が串刺しとなる。
何時の間にか忍び寄った駆逐艦の群れが、多数の宇宙魚雷を発射。
辛うじて回避した無限艦隊の眼前で、待ち構えた護衛艦が一斉に拡散波動砲を発射する。
新手が反撃に出る寸前、身を翻して逃走。
追撃に移る無限艦隊に再び、魚雷の網が被せられた。
火力に物を言わせて突破した敵艦に向け、パトロール艦が拡散波動砲を発射。
新たな大群の殺到する直前、防御力の劣る高速偵察艦は逸早く逃走。
何時の間にか背後に控えていた戦艦、巡洋艦の衝撃波砲が痛打を浴びせる。
爆発する艦の破片を物ともせず重防御、大型の敵艦が前面に躍り出た。
地球軍主力戦艦に真正面から砲撃戦を挑むが、幻の如く雷撃機の編隊が出現。
魚雷を命中させると風の様に去り、追撃に移る敵艦の鼻先に別の魚雷が殺到する。
駆逐艦の集団雷撃に襲われ混乱する艦列に照準を定め、巡洋艦が拡散波動砲を発射。
巡洋艦に突撃する新手の敵を緻密に計算され、誤射とならぬ絶妙の角度から戦艦が迎え撃つ。
主力戦艦、アンドロメダ、ヤマト装備の重衝撃波砲が唸り激減した敵艦を次々に撃破。
地球艦隊の各艦が波動砲の再充填を終えるまで、最大最強の戦艦が警戒に当たる。
二重三重どころか数十手も先を読み、敵艦の行動を完璧に予測した絶妙の連携動作(コンビネーション)。
異次元の艦隊機動、集団運動を見せ付けられた私は劣等感すら覚えた。
「一体、どういう事だ?
この様な難易度の高い技、一体どうやって身に付けた!?」
「我々には、逆立ちしても出来ん芸当だ!
異次元の世界で、精神感応能力を身に付けたとでも云うのか?」
ハルゼー提督の怒鳴り声に副将ナスカ司令官、ドメル将軍も同時に頷いた。
重大な心理的衝撃を受けたと見え、語尾は悲鳴に近い。
遺憾ながら、全く同感である。
ズォーダー大帝も唸り、続いて感嘆の声を挙げる。
次の瞬間。
見覚えのある光景が展開され、息が止まった。
盲目的な感情の爆発を抑え切れず、絶叫が洩れる。
「こんな、馬鹿な!」
恐怖で身体が硬直し、心の奥底に封じ込めた悪夢が蘇る。
放射能除去装置の作動開始に伴う、放射能の希薄化を察知した私は。
宇宙戦艦ヤマト艦内の白兵戦を中断し、実用化に成功した決戦秘密兵器で決着を図った。
私の名を冠し無断で複製(コピー)した波動砲の引き金を引き、勝利を確信。
心眼では既に爆発四散する宿敵、ヤマトの最期を視ていたが。
波動砲の猛威も弾き返す特殊装備、空間磁力メッキ。
想定外の掟破り、真田志郎の発明品が私の意識を切り裂いた次第。
観艦式の際に艦上を彩る満艦飾の如く、地球防衛艦隊の纏う最強の鏡(レンズ)。
空間磁力メッキの光芒が煌き、宇宙空間を
喉元まで出掛かった罵詈雑言を、辛うじて呑み込む。
感情的短絡《ヒステリー》を抑え込む為、渾身の意志力を必要とした。
鏡面塗装を施された救命艇、『
小型戦闘機や魚雷艇も銀色の鎧を纏い、水晶《クリスタル》の様に輝いていた。
敵の光線砲は足掛かりを得られず、全てが反射され撥ね返される。
砲撃の軌道を逆走、発射艦の砲塔を貫く事となった。
無限艦隊が大量に発射した、対モルケックス装甲の秘密兵器。
過酸化水素水封入ミサイルが命中し、炸裂する。
モルケックス装甲を装備せぬ地球艦には、何の効果も無い。
下瀬火薬が海中で威力を発揮せぬ様に、宇宙空間に拡散するのみ。
円錐形、円筒形、単縦陣、単横陣、螺旋形、鏃形、球形、弓形、楕円形、投網形、楔形。
ありとあらゆる隊形が現出し、高速集団交差運動が繰り返された。
眼目眩しく回転変化する、万華鏡《カレイド・スコープ》の如き連係機動。
幻惑された敵艦が照準を誤り、同士討ちを演じる。
戦闘機コスモ・タイガー2型、雷撃機が乱入。
不規則な乱舞で混乱を助長し、風の様に去る。
駆逐艦も敵陣を駆け抜け、追撃に移る敵艦の鼻先を魚雷が直撃。
主力戦艦の重火器が閃き、縦横無尽に宙域を薙ぎ払う。
地球人達は遠隔視能力、千里眼《クレアボワイヤンス》を会得したのであろうか。
対手の反応を完璧に読み、天衣無縫に剣を操り無数の敵を斬り倒す魔戦士の如く。
超絶の域に達した感嘆すべき魔術、立体交差集団運動を織り交ぜた驚異の多重連携攻撃を連発。
敵艦には、悪夢としか思えぬであろう。
窮地に追い詰め、確実に討ち取れる筈の標的が。
射線に貫かれる寸前、想定外の機動を見せ視界の外に消える。
同時に、異なる角度から衝撃波砲の光芒が殺到。
凄腕の狩人達は確実に標的を射抜き、虚空に砕け散る。
パルス・レーザーの断続的な光弾、衝撃波砲の軌跡が宇宙空間の闇を切り裂く。
無限艦隊は総崩れとなり、全面的撤退を強いられた。