星の潮流   作:fw187

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大帝の救援

「重力波スクリーン、異常事態《エマージェンシー》発生!

 遷移出現《ワープ・アウト》の兆候を探知、天体クラスの巨大質量です!!」

 観測員《スキャナー》の絶叫が艦橋《ブリッジ》に響いた、次の瞬間。

 白光の爆発が闇を切り裂き、見覚えのある勇姿が無限艦隊の背後に現れた。

 

「大帝!」

 私の名を冠した戦艦の艦橋《ブリッジ》は静寂に包まれ、皆が息を呑み巨大な闖入者を凝視していたが。

 思わず洩れた呟き、安堵の溜息が緊張を解いた。

 忠実な副官タラン准将も事態を悟り、面に歓喜の色が昇る。

 

「彗星《クェーサー》が何故、太陽系内に遷移《ワープ》してくるのだ!?

 おお、動き始めた!」

 ガミラス帝国が一旦崩壊した後の事情を知らぬ幕僚の唇から、困惑の声が迸る。

 

「凄い、奴等を踏み潰している!

 何者か知らんが、味方だぞ!!」

「間違いありません、意図的に密集地帯を狙い敵陣を疾走しています!

 無限艦隊が算を乱し、後退し始めました!!」

 

 嵐の化身が縦横無尽に表示画面《スクリーン》を駆け巡り、無限艦隊を蹂躙。

 皆の瞳から希望の光が溢れ、歓喜の声が艦橋に響き渡った。

 大帝の座乗する戦闘要塞、白色彗星《ホワイト・クェーサー》は我々の眼前で本領を発揮。

 高速回転する表層の激流に数多の艦艇が粉砕され、宇宙の塵と化す。

 

「総統、援軍から連絡《コンタクト》が入りました!

 艦橋《ブリッジ》前方の表示枠、主画面《メインパネル》へ表示します!!」

 通信科士官が操作、表示枠《ウィンドゥ》を瞬時に拡大。

 一度は宇宙の塵と化した敗者、私に再戦の機会を与えてくれた盟友。

 壮年の緑色人《グリーン・マン》が表示盤に映り、豪快な笑い声を轟かせた。

 

 

「間に合ったな、総統!

 ガミラスの戦士諸君が見せた勇戦、敢闘は敬服に値し我々の模範とすべき所だ。

 我等も宇宙航行種族《スペーサー》の一員、女神救出作戦に賛同し参戦を申し入れる。

 火星の青色人戦士、ガミラス星人は信頼出来る勇者である事を実戦の場で証明した。

 今度は我々、木星の緑色人戦士が諸君の信頼を得られるかどうか試される番だ。

 

 無限艦隊は容易ならぬ敵だが我々も総統と同様、宇宙戦艦ヤマトと対等に戦った者。

 小惑星帯《アステロイド・ベルト》の彼方、第5惑星軌道以遠に撃退して見せる。

 火星《ガミラス》軍に劣らぬ実力と証明する様、我等もまた死力を尽くし戦う事を誓うぞ。

 我々の言葉が真実と証明する為、現在只今より総力を挙げ無限艦隊と戦闘を開始する。

 

 宇宙戦士《スペース・ファイター》の同志諸君、我々の戦い振りを見て頂こう。

 無限艦隊との戦いは未だ続く故、総統以下の勇者達には充分な休息を取って貰いたい。

 女神を救う為に数日後の交代に備え、戦力の回復をお願いする次第である。

 ゆっくりと休んでくれ、ガミラスの勇者達」

 

「感謝致しますぞ、大帝、幾重にも御礼を申し上げる!

 貴軍の救援が今少し遅ければ我等、ガミラス軍は全滅しておりました。

 誠に失礼極まりない申し出だが、水星《テラ》の防衛を一任して構わぬだろうか?

 火星《ガミラス》に残った部下達を、救出に向かいたいのです」

 私は大帝に一礼すると別画面枠に映る副将、次席指揮官ドメルに頷いた。

 

「聞いての通りだ、我々の努力は無駄ではなかった様だな。

 行動可能な艦は、残っているか?」

「本艦の他、1隻だけです」

 

「こちらも同様だが、シュルツ達の安否確認は我々の手で行わねばならん。

 水星《テラ》防衛は彗星帝国の方々に委ね、火星《ガミラス》に向かう」

「僭越ながら、比較的損傷の少ない『ドメラーズ2世』に先鋒を御任せ下さい。

 副長ゲール以下全乗組員の総意です、必ずや第4惑星への道を切り拓きます」

 

 

「総統、その必要は無いぞ。

 ハルゼー、報告せよ!」

 大白色彗星帝国皇帝の声が響き、通信用画面に別の映像が割り込んだ。

 血塗れの青色人が操作卓にもたれかかり、懸命に何事かを訴えている。

 

「…我々の事は構わず、水星《テラ》を護る艦隊の援護に廻って欲しい!

 自分達の始末を付ける覚悟は出来ている、第3惑星を頼む!!

 女神救出作戦の鍵を握る地球人《テラナー》、総統を救援せよ!」

 雑音《ノイズ》と共に音響回路が繋がり、聞き慣れた部下の声が耳に飛び込んで来た。

 

「シュルツ!」

 枠《ウィンドゥ》の中で、火星防衛の責任者が瞳を見開いた。

「総統!

 御無事で!!」

 

「水星《テラ》防衛は問題無い、無限艦隊も撃退されつつある。

 他の者も大丈夫か、ガンツは無事か?」

「副官は急造陣地、ディモス基地に赴き援護射撃を指揮しておりましたが。

 反射衛星砲の制御室《コントロール・ルーム》は現在、連絡不通であります!」

 

「ハルゼー!?」

「ナスカ、衛星と繋げ!

 大帝に直接、報告せよ!!」

「中継します!」

 

 ナスカ提督の率いる先遣艦隊、高速中型空母を経由の音声が交錯。

 別の画面枠に倒壊した瓦礫の中から、負傷者を掘り起こす模様が映る。

 肥満体の男が最後に現れ、血の気の失せた顔を画面に拡大。

 シュルツの唇から、絶叫が響く。

「ガンツ!」

 

 我々の声が先方に届いたと見え、別の音声が割り込む。

「呼吸は安定しています、心配ありません!

 白色彗星帝国軍の名誉に懸け、1人残らず救助いたします!!」

 画面に映る陸戦隊の勇士達に謝意を示し、私は深々と頭を下げた。

 

「大ガミラス総統として、大白色彗星帝国の戦士諸君に御礼を申し上げる。

 配慮に感謝する、ありがとう!」

 

 画面《スクリーン》の中でハルゼー提督、ナスカ司令官が顔を輝かせた。

「光栄であります!

 我等もまた貴軍の戦況、勇士の方々と奮戦の模様は拝見しておりました!

 青色人の戦い振り、敢闘精神は我々の模範とする処であります!!」

 

 安堵の溜息が洩れ、視野が霞む。

 気力を奮い立たせ、薄れかかる意識を強引に引き締める。

「充分です、我等もまた白色彗星帝国の方々と共に戦える事を誇りに思いますぞ。

 ガミラス民族を代表して貴官の御心遣いに感謝し、幾重にも御礼を申し上げる」

 ハルゼー提督、ナスカ司令官が画面の中から最敬礼で応えた。

 

「ありがとう、総統。

 私の部下達も、為すべき事は心得ている。

 無限艦隊との戦闘は引き受ける、休憩を取って貰いたい」

 大帝の満足気な声が響き、主表示画面《メインパネル》に視線を戻す。

「重ねて感謝を申し上げます、大帝殿」

 緊張の糸が切れ、意識が暗闇に吸い込まれた。

 

 

 水星《テラ》周辺宙域の敵、主力部隊は彗星が蹂躙。

 火星《ガミラス》周辺宙域の敵も激戦の末、ハルゼー機動部隊に駆逐されている。

 私が意識を喪っている間に、火星基地の負傷者も総て救出。

 旗艦メダルーサ装備、火炎直撃砲に数多の敵艦が殲滅された。

 

 宇宙戦闘機イーターⅡ、超高速邀撃機パラノイア、宇宙駆逐艦は連係攻撃を披露。

 狩人達が猛獣を倒す様に緻密、細心の注意を払い犠牲者を出さぬ集団戦闘を繰り広げる。

 長距離偵察攻撃機デスバデーター、宇宙潜航艦《スペース・サブマリン》は後方を攪乱。

 大戦艦の回転式砲塔が敵艦を屠り、大型ミサイル艦も数多の誘導弾を自在に操り突破を許さぬ。

 

 白色彗星帝国軍の機体、艦艇は貫通不能物質モルケックス装甲を纏い事実上無敵。

 瞬間物質移送装置も遮断する異次元空間、耐エネルギー構造力場が敵艦の砲撃を軽々と退ける。

 激戦数時間の後、火星宙域に展開する無限艦隊は一掃されたが。

 早急に戦力を回復し、無限艦隊に再び対抗せねばならぬ。

 

 

 大帝は異なる分岐先、別の複製世界《レプリカ》で連絡《メッセージ》を受信。

 女神の封印を解く鍵《キイワード》を得て、総ての記憶が甦った。

 太陽系防衛戦の戦場は異なる複製世界《レプリカ》の為、通常の超光速機関では到達不可能。

 我々が無限艦隊と闘う間、白色彗星帝国の戦士達も厳しい試練に曝された。

 

 テレザート星唯一の生存者、反物質を操る超能力者にも連絡は到達。

 彼女は宇宙戦艦ヤマト航海班長を務める島大介を救う為、大帝に協力の要請を承諾した。

 高次元重層物質《ホワルゴニウム》の制御を試み、白色彗星帝国軍の超次元間移動を援助。

 異世界に接続する時空転換力場、多元宇宙の門《ゲート》を抜ける事は真に至難の業であった。

 

 転移力場の所在地は燃え盛る赤色巨星の核心、或いは超重力の渦巻く黒太陽《ブラックホール》。

 多元宇宙の壁を越える為には相応の覚悟が要求され、生死を超越せねば越える事が出来ぬ。

 強靭な防御力場を備えた宇宙戦艦も爆発四散は間違い無し、猪武者も尻込みする破滅必至の地。

 白色彗星帝国の戦士諸君は幾度と無く、底無し沼にも等しい恐怖と闘い克服する事を要求された。

 

 彗星帝国の勇者達は無限艦隊と闘い続けた我が軍と同様、希望を棄てず無数の罠と時空の壁を突破。

 思い掛けぬ盟友の参戦により地下都市に残留する地球人、ガミラス宇宙軍は壊滅を免れた。

 他の複製世界にも惑星メル女王、メローラ姫が接続《アクセス》の詳細な手順を送信中。

 太陽系防衛戦は最大の危機を乗り越え、次なる段階へ突入する事となった。


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