星の潮流   作:fw187

4 / 14
ドメル将軍の報告

「我々は第一次人類の故郷、太陽系第三惑星に還って来た。

 ガミラス宇宙軍の名誉を懸け、無限艦隊と闘わねばならぬ。

 緒戦は艦隊指揮官ドメル将軍以下、勇敢な戦士達の双肩に委ねる。

 冥王星前線基地、シュルツ司令官と連携し敵の先鋒を撃破せよ。

 

 千変万化する戦場に於いて、最善の判断は存在せぬ。

 失敗しても構わん、やり直せば良い。

 背後には、私が控えているのだからな。

 

 ドメル将軍には独断専行、戦術的撤退を認める。

 諸君の凱旋を待っているぞ、存分に戦って来て欲しい!」

 私は、耳を疑った。

 人工太陽を落下させ、バラン星で宇宙戦艦ヤマト抹殺を図った記憶が甦る。

 

 総統の命令で勝利を逃した原型《オリジナル》の世界では、考えられない事だが。

 再戦の機会を得た以上、宇宙の狼《スペース・ウルフ》の名に恥じぬ行動を貫くのみ。

 無限艦隊の先鋒は蹴散らし、太陽系最外縁の準惑星エリス軌道に後退させたが。

 敵は冥王星前線基地の支援が届かぬ遠方に、ガミラス艦隊の誘い出しを図っていた。

 

 

 爆撃機と雷撃機を搭載していれば、更に遠方まで追撃していたかもしれない。

 狡猾な敵は用意周到に幾重もの包囲網を敷き、一網打尽を狙っていた。

 総統の指示で両機種を離艦させていた為、我々は辛うじて罠を逃れたが。

 誘い出しに失敗したと悟り、無限艦隊は直ちに逆襲へ転じた。

 

 無数の敵艦を撃破したが、波状攻撃は続いた。

 ガンツの構築した機雷原が無ければ、一気に冥王星前線基地を破壊された確率が高い。

 宇宙艦隊と反射衛星砲の連係攻撃により、更に数多の敵艦を破壊したが。

 高揚していた士気は徐々に低下し、疲労が蓄積された。

 

 無限艦隊の名を冠する侵攻軍の補充力は、伊達ではなかった。

 『名は体を表す』の格言に背かず、文字通り無限に艦隊が押し寄せるのだ。

 心理的恐慌《パニック》が密かに忍び寄り、戦術判断に齟齬が生じた。

 

 反射衛星と機雷原は破壊され、冥王星前線基地も強襲を受けたが。

 窮地に陥った私達を救う為、総統が動いた。

 

 

 お偉方《ディレクトリクス》の異名を持つ艦隊指揮専用艦、ドメラーズⅢ世。

 円盤型宇宙戦闘機母艦を基幹とする機動部隊、艦載機を戦場に投入。

 私の発想を超える瞬間物質移送装置の用法、斬新な新戦術が披露された。

 圧倒的な物量構成の事態を予見した総統は、対策を講じていたのだ。

 

 空母を離れた爆撃機と雷撃機は爆弾、魚雷の搭載機能と偵察員席及び爆撃手席を撤去。

 重量削減に拠り数倍、強力な破壊光線砲を機首に装備する事が可能となった。

 改造された機体は戦車の天敵《タンク・キラー》、重防御の地上襲撃機に相当する。

 従来の雷爆撃を凌駕、隔絶する累積効果も実証された。

 

 一撃離脱戦法《ヒット・アンド・アウェイ》に徹し、劇的に向上した最高速度を駆使。

 被撃墜率は劇的に改善され、殆どの搭乗員が無事に帰還している。

 多数の熟練者《ベテラン》が姿を消し、新米に頼らざるを得ぬ悪循環を免れたが。

 特筆すべきは、瞬間物質移送装置の運用法であった。

 

 発想が転換され、宇宙魚雷と多弾頭爆弾を瞬送《テレポート》。

 敵艦の眼前で実体化させ、驚異的な命中率を記録している。

 直接照準の雷爆撃を避ける手段は無く、確実に敵艦を撃破。

 被弾の際も重防御の襲撃機は破壊を免れ、多数の操縦士達が帰還した。

 

 私は瞬間移送装置で爆撃機や雷撃機を瞬間移動させ、奇襲効果を狙ったのだが。

 魚雷や爆弾を直接、敵艦に直撃させる方が理に適っている。

 搭乗員達を危機に晒さぬ方策を、なぜ、思い付かなかったのか。

 あまりにも単純明快な解答を見過ごした私に、総統は悪戯っ子の様な微笑を見せた。

 

 

「私も、全く、気付かなかったよ。

 宇宙は、広いな。

 君の用意した瞬間移送装置は、百発百中の砲として使える。

 人員を危険に曝さず、敵艦を撃破可能と或る人物が教えてくれた。

 

 勉強させられたよ、まったく、盲点だった。

 数多の世界が協力すれば、思いがけない効果が生じる。

 ヤマト同様、無限の可能性が拓けるのだな。

 

 異世界の賢者に脱帽だが、同時に確信したよ。

 平行宇宙《パラレル・ワールド》の相乗効果が実現すれば、不可能も可能となる。

 無限艦隊と云えども、無敵ではない。

 女神に救われた者達が協力すれば、撃退する事は可能だ。

 

 鉄壁の布陣を敷く時間を稼いだ諸君の奮闘、勇戦は賞賛に値する。

 冥王星前線基地も立派に任務を果たし、その役割を終えた。

 火星《ガミラス》で食事と睡眠を摂り、体力と気力を回復してくれ給え。

 諸君は数時間後、充分に英気を養った上で戦列に復帰せよ」

 

 

 シュルツと私の部下達も直接、総統から労いの言葉を受けた。

 力強い握手を賜った彼等は、疲労が滲み憔悴した顔を紅潮させた。

 この方の為なら、死ねる。

 そう思った途端、私と部下達の前で、総統は声を張った。

 

「皆、聞いてくれ。

 私から諸君に是が非でも、御願いしたい事がある。

 只一言、『死ぬな』と云う事だ。

 

 宇宙戦艦ヤマト艦長、沖田十三が死地に赴く部下の古代守に贈った言葉でもある。

 ガミラス軍の将兵に知らぬ者は無かろうが今一度、引用させて頂く。

『古代、死ぬな。

 我々が全滅してしまっては、地球を護る為に戦う者がいなくなってしまうのだ。

 明日の為に、今日の屈辱に耐えるのだ、それが、男だ』。

 

 冥王星から撤退の後、ヤマトを勝利に導いた実績は敬服に値する。

 沖田艦長を見習い、無限艦隊の波状攻撃に耐えねばならぬ。

 絶対に諦めず万難を排し、石に噛り付いてでも生還せよ。

 各自、肝に銘じて貰いたい」

 

 

 

「『ドメルが滅びる時は、ヤマトも滅びる時だ』。

 将軍の言葉は、現在の状況にも当て嵌まる。

 我々が全滅すれば、地球人類も滅亡するのだからな。

 自爆攻撃は厳禁だ、例外は認めん。

 

 『地球人《テラナー》が諦めるのは、死んだ後』と異世界では噂されている模様だ。

 我々も嘗ての第五惑星が崩壊の際、移住を強いられた第一次人類の末裔に他ならぬ。

 最後の最後まで希望を捨てぬ強い心、勇者の持つ最大の武器を諸君に期待する。

 

 演説の分だけ、休憩の時間を延長する。

 諸君は直ちに寝室、食堂に直行し疲労回復に努めよ。

 心置き無く、熟睡してくれ給え」

 

 

 自動録画装置は働き続け、総統の演説も記録された。

 3次元立体映像と音響効果も総て、全艦艇で再現する事が可能。

 多数の将兵が演説に感銘を受け、沖田艦長の言葉を胸に刻んでいる。

 ガミラス宇宙軍は無限艦隊と激闘を繰り広げ、月軌道上の最終防衛線に追い詰められた。

 

 艦隊は被弾損傷が激しく、満足に戦えるのは数隻しか残されておらぬ。

 私の乗艦、改ガミラス型宇宙戦艦『ドメラーズⅡ世』。

 総統の旗艦、及び護衛の宇宙駆逐艦《スペース・デストロイヤー》のみ。

 大気圏内では熱線砲、光線砲の有効射程距離は激減するが。

 損傷艦艇は運動能力が低下の為、地上砲台とせざるを得ぬ。

 

「くそっ、もう水星《テラ》を守る手は尽きた…」

 私の希望により再び傍に立つ副官、ゲールの呻き声が『ドメラーズⅡ世』艦橋に洩れた。

 

 

「確かに、その通りではあるな。

 逃げ道の無い、絶望的状況に見える。

 

 だが、思い出したまえ。

 七色混色発光星域の艦隊決戦に於いて、我々は何を見た?

 君も、聞いているだろう?

 全砲門使用不可能となった際、ヤマト艦橋で古代進が同じ言葉を発した事を。

 

 沖田艦長は最後の最後まで希望を棄てず、巧妙な操艦を命じた。

 ドリル・ミサイルの逆回転を待たせ、何時爆発するかわからぬ恐怖にも耐えた。

 勝利を確信した我が艦隊を誘導し、一直線上に並べて見せたではないか。

 

 奇蹟《ミラクル》を起こした原動力は、絶体絶命の窮地にも怯まぬ強い心。

 沖田艦長は勇者の最大の武器を用い、宇宙戦艦ヤマトに勝利を齎した。

 全ての武器を使い果たした後も、勝利の可能性を探し続けた姿勢を見習わねばならん。

 

 

 それに、まだ、君には礼を言っていない。

 ここまで我が軍が戦って来れたのは、君の努力に拠る処が大きい。

 急造の最終防衛線《ファイナル・ディフェンス・ライン》は、素晴らしかった。

 資材も時間も限られた中で、あれだけの設備を整えた手腕は賞賛に値する。

 

 火力陣地の要員達から、聞かされたよ。

 君が精魂を傾け、不眠不休で施設の構築に奔走した模様をね。

 過去の経緯から君を過小評価していたが、眼が覚めた。

 次の戦闘が済み次第、謝罪させて貰う。

 

 再言するまでも無いが、総統の命令は遵守する。

 次の戦闘で生命を捨てる覚悟など、決めていない。

 最後の最後まで諦めず希望を棄てずに戦い、沖田艦長を見習う。

 

 総統への忠誠心に於いて、君は私に負けぬ筈だ。

 どんな手段を使っても構わん、私の自爆を阻止してくれ給え。

 頼んだよ、ゲール君」

 

 

 宇宙機雷も数秒後に尽き、無限艦隊が地球を蹂躙する事は避けられまいが。

 ゲールは虚脱状態を脱し、光と熱が瞳に戻っている。

 

「無限艦隊、接近して来ます!」

 観測員の絶叫が響き、スクリーン上の艦影《シルエット》が急速に拡大。

 ドメラーズ2世の艦橋に緊張が走り、誰もが迫り来る破滅の足音を聞いた。

 

 総統府の面影を残す旗艦、私の乗艦、駆逐艦4隻の眼前で機雷の防壁が崩壊する。

 その、とき。

 其の時であった。




コミック・アンソロジー『宇宙戦艦ヤマト 遙かなる星イスカンダル』に触発されました。
沖田艦長が島に転舵の角度、後退の方向を指示する模様が描写されています。
ドリル・ミサイル逆回転の開始を制止、ドメル艦隊を誘い込む状況にも感銘を受けました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。