星の潮流   作:fw187

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お母さん軍団の活躍

・太陽系第3惑星、水星(テラ)中央総合病院にて

 

 水星のすべての人々も女神によって記憶封鎖は解かれた。

 あのガミラスとの戦いも既に記憶の一部と化し、既成事実として受け入れられている。

 太陽系内で戦っているガミラス軍は、未だに意気軒昂ではあるが。

 「エネミー」に寄生された無限艦隊の前には残念ながら、劣勢と言わざるを得なかった。

 そんな中、嘗ての地球地下都市中央総合病院へ。

 太陽系各戦線で負傷したガミラスや地球防衛軍の兵士達が、続々と搬送されて来ていた。

 以前の確執は一切、残っておらぬ。

 今となっては肌が青かろうが白かろうが、赤かろうが全く関係はなかった。

 そして、地下都市中央総合病院前の大庭園には。

 集合する女性の大軍団があった。

 

 全員が三角巾とマスクを被り、純白のエプロンの胸には大きな赤十字マーク。

 周りの女性達が準備したミカン箱に乗り、代表と思われる女性が大音声で話し始めた。

「皆さん、準備は良いですか?

 此処で治療を受けている兵士の皆さんは、我らが太陽系の各戦線で負傷された方々です。

 傷が早く治る為に是非とも、私達の手料理を食べて貰おうではありませんか!」

 賛同する声の渦が轟き、代表の女性が合図すると同時に全員が大庭園の周りに散った。

 空いた中央部にトレーラーが幾台も並び、サイド・ボンネットを大きく開口。

 其処には一大キッチン・システムが小型化、合理化され詰め込まれていた。

 次の車両には大鍋を搭載する大型コンロ群。

 後続の車両には世界各地から搬送された米や小麦を始め、大量の食材が満載されている。

 各地域の兵士が運び込まれる総ての病院に、妙齢の女性達が集合。

 名称は異なるが水星の旧国別に婦人会が組織され、大軍団となっていた。

 水星全体で団結した結果、大量の各種食材が中央総合病院に集積される。

 此処、旧日本と呼ばれた地域でも同様であった。

 トレーラーのサイド・ボンネットが開口されると同時に、一糸乱れぬ行動で集合する女性達。

 「お母さん」達は各自の持ち場に就き、ベルト・コンベアーが敷設され電源車も到着。

 中央総合病院の大庭園は一気に、喧噪に包まれた。

 

 病院内からも数十人の女性達が現れ、エプロンを身に付け行動に加わる。

 十数分で最初の御飯が炊きあがり、5分後には煮え滾った油鍋から程好く火の通った唐揚げが姿を現す。

 更に煮染め、野菜の天ぷら等々、手で摘まんで食べられる品々が次々に出来上がった。

「おにぎりは、あんまり大きく握っちゃダメだよ。

 ちょっと小さめに握るんだ。

 怪我をしている方達の咽喉でも、通り易い様にね!

 次の御飯はもう少し、柔らかめに炊こうね!」

 湯気の立つ御飯は握ると、とても熱い筈であるが。

 しかし、お母さん達はひるまない。

 更に他の大鍋には味噌や牛蒡(ゴボウ)の良い香りが湧き立つ、暖かい豚汁が出来上がっていた。

 調理を終えた料理は一食分ずつ使い捨ての皿、或いはどんぶりに盛られ食事搬送用動力車に乗り病院内へ搬送。

 最初の30分で殆どの食材がトレーラーからなくなった頃、お母さん達も庭園から消え失せた。

 運び込んだ食事と共に負傷した兵士の食事を介助する為、白衣の軍団が病院の内部を疾走。

 病棟には並べられる限りの寝台が並び、通行の邪魔にならぬ廊下にも布団が敷かれ青色人の兵士が寝ている。

 赤十字のエプロン姿の女性は病院のベッドがある所全てに、おにぎりや豚汁等を持って突入した。

 

 血相を変えたのは、兵士達であった。

 地球防衛軍の連絡将校として共に戦った地球人兵士達は、特に慌てる事は無なかったが。

 ガミラス軍兵士達は憤怒とも取れる表情で突進してくる女性達に、遊星爆弾の怨みかと恐れ慄いた。

 戦友の地球防衛軍兵士達は、ガミラス兵を宥め一緒に食事を勧める。

 戸惑っていた兵士達も報復措置ではないと悟り、お母さん方が差し出す自慢の品を恐る恐る頬張った。

 暖かい料理を咀嚼すると血の気が戻り、何とも言えない複雑な感情が薄れ柔らかい表情に変わる。

「美味しいだろう? もっとお食べ」

 彼方此方から、無数の声が聞こえる。

 重傷の兵士は起き上がれず、口から食べられないが。

 優しく頭を膝枕され、脱脂綿に含まれた水を口に当てられ涙ぐんでいた。

 

 またお母さん方も自分の息子や孫と同年代の負傷兵達に、涙を禁じ得なかった。

 両手を吹き飛ばされた無残な姿の青色人、ガミラスの少年兵を含む負傷者達。

 彼等は頭を撫でられながら、小さく千切ったおにぎりを口に運んで貰っていた。

 ガミラス兵も泣いていたが、食事の介助をする女性も目を真っ赤にして泣いていた。

「元気になって、この戦争が終わったら、必ず家に来るんだ、わかったね?

 必ず元気になるんだよ、そして、うちの子と一緒に御飯を食べておくれ」

 そんな声が聞こえる一方では様々な電子機器に繋がれ、包帯で殆ど全身を覆われた重傷兵士の前にも。

 「お母さん」は、来ていた。

 口元にスプーンで掬った豚汁を寄せると、僅かに飲み込む。

 何か言おうとするがガミラスの兵士は無情にも力は尽き、満足気な表情を見せ静かに息を引き取った。

 青い肌の兵士の頭を胸に抱き、「お母さん」は号泣していた。

 この場では国境や民族を越え、この一団はすべて「母」であった。




『かずき屋』様、作者には思い付かなかった寄稿を贈って頂いた事に感謝です!
御了承を得ていますので、掲載させていただきます

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