星の潮流   作:fw187

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火星の戦士達

 火星防衛軍司令官シュルツ、副官ガンツ以下10数名の志願者。

 青色人《ブルー・マン》の宇宙戦士達は、砂の嵐に護られた惑星地下の秘密基地に篭城していた。

 

 他に十数名が第1衛星ディモス内部に潜み、第2衛星フォボス地表の重火器を遠隔制御。

 火星《ガミラス》地表の遠隔操作火力陣地と連携、協同で無限艦隊に立ち向かうが。

 無限艦隊の誇る圧倒的な物量は効し難く、次第に押され直接砲撃を受ける反射衛星砲基地。

 短距離射程の高出力熱線砲が火を噴き、至近距離迎撃用の大型電磁砲から青紫色の電光が閃く。

 

 大気圏を持たぬ衛星を無限艦隊の砲撃が直撃、反射衛星砲の周辺に配置された偽装陣地を破壊。

 対宇宙用迎撃火砲陣地群も次々に被弾、指令室《コントロール・ルーム》に非常警報が反響する。

「お前達、先に脱出しろ!」

「副司令官殿は?」

 

「最後に持ち場を離れる者は、最高責任者と決まっている!

 火星防衛軍指令官シュルツ閣下の代理、ディモス反射衛星砲基地の指揮官は俺だ。

 如何なる状況であれ、例外は無い!

 

 お前達が地下要塞に着くまで、援護してやる。

 俺は重いからな、非常用脱出艇の速度は少しでも上げた方が良いだろう。

 事態は一刻を争う、口答えは許さん!

 絶対真空仕様の戦車で後から脱出する、先に行け!!」

 

 上官の言葉に理を認め、青色人戦士達は一斉に敬礼。

 反射衛生砲の熟練兵達は唇を噛み締め、司令室の外へ走り去る。

 宇宙戦士達が席を離れてから数分後、動力施設からの電力供給が途絶えた。

 

 無限艦隊の砲撃を受け厳重に被覆、防護された導線も何処か破壊された模様。

 非常用制御装置《エマージェンシー・コントローラー》は無効、異常信号の点滅は消えない。

 大音量の非常警報《アラーム》が鳴り響き、耳に痛い。

 

「くそっ、動け!

 火星と連携して、敵を片付けなけりゃならんのに!!」

 思い付く限りの操作を試みるが、全く反応は無い。

 操作盤《コンソール》を撲る拳から、鮮血が噴出した。

 

 反射衛星砲の援護が消失すれば、火星は成す術も無く蹂躙される。

 数百から数千の単位で敵艦を撃破した筈だが、焼け石に水か。

「シュルツ閣下!」

 打つ手は無く、悔し涙が溢れた。

 

 表示画面《スクリーン》に映る地表、火力陣地が被弾炎上。

 このままでは地下要塞の崩壊、火星防衛軍の全滅も免れぬだろう。

 背後から不意に手が伸び、鍵盤《キーボード》を操作。

 水晶《クリスタル》の光輝《ライト》が煌き、緑色《グリーン》の表示《ランプ》が灯る。

 人工合成音声の宣告が、反射衛星砲の制御室に響く。

 

「接続完了《アクセス・オープン》、動力供給回復《リカバリー・コンプリート》。

 始動命令《スタート・コマンド》、正常完了《ノーマル・エンディッド》。

 目標選定《アタック・セレクト》、自動追尾《ロック・オン》完了。

 射撃準備完了、砲撃可能です」

 予想外の事態に眼を見開き、背後を振り返る。

 既に脱出した筈の部下達が揃って、驚愕の視線に見事な敬礼で応えた。

 

「貴様等、何をしとる!?

 何故、火星へ向かわず戻って来た!

 まさか敵《エネミー》の攻撃は既に、地下基地に及んでいるのか?」

 シュルツの身を案じる忠実な副官、ガンツの脳裏に悪夢の予感が閃く。

 脱出を命じた部下の出現に最悪の事態を予想、悲鳴か詰問か解らぬ絶叫を浴びせるが。

 酷い傷跡の目立つ顔面が凄愴に歪み、最古参の大男が不逞不逞しく笑う。

 気の弱い者なら、失神するかもしれない。

 

「マニュアル通りの操作したって、動きゃしませんよ。

 こんな状況の時こそ職人の腕、名人の見せ場でさぁ。

 司令部に知れたら大目玉間違い無し、非正規操作術《アブノーマル・オペレーション》。

 上手くやらないとエネルギー・プラントが暴走して、大爆発を引き起こしちまう。

 正規のやり方じゃありやせんが、自分しか知らない裏技がありましてね。

 この状況じゃあ危険も糞も無い、無理を承知でやるしかないでしょう。

 火星軍司令部との通信も途絶してますし、大目に見て貰えやせんかね。

 

 先刻はびびっちまって、情けないマネを晒しやした。

 反射衛星砲が無けりゃ、火星に逃げても持ち堪えられやしませんわな。

 ありったけの裏技を駆使して、反射衛星砲を使用可能にして見せます。

 副司令官殿には目標選定と、砲撃開始の時間調整をお願いしやす。

 火星で御荷物扱いされるより、ずっと気が利いてまさぁ。

 

 我々も副司令官を見倣い、最後まで持場で本分を尽くします。

 副司令官殿1人残して敵前逃亡する訳には行きません、一蓮托生ですな。

 我々一同、副司令官閣下の許で最後まで戦える事を誇りに思います。

 他の者も自分の持場に戻りました、副司令官殿1人だけ良い恰好は無しですぜ」

 上官を上官とも思わず、絶対に言う事を聞かない事では定評のある古強者。

 一筋縄では行かぬ傲岸無比の古参兵が初めて、心の籠った敬礼を贈る。

 

「ありがとう、感謝する!

 一生、恩に着るぞ」

 ガンツの眼が潤み、視界が霞んだ。

 ディモス基地残留を志願した十数名、全員に敬礼を返し右掌を差し出す。

 酷い傷跡の残る歴戦の強者、豊富な経験を物語る風貌が照れた様に微笑む。

 本来の持ち場に戻った全員が不退転の決意を瞳に宿らせ、力強い握手で応えた。

 

「こっちこそ、申し訳ありやせん。

 一度は、生命惜しさに逃げ出しちまいやした。

 反射衛星砲の光線が停止したのを見て、我に返ったんでさぁ。

 此処は我々の持場、家みたいなもんです。

 本来は他所者の副司令官を残して、家の者が先に逃げちまうのは筋違いってもんです。

 どんな処罰を受けても、文句は言えませんわな」

 

「よし、罰を与える!

 全員、後で俺の居住室に出頭せよ!!

 火酒でも葡萄酒でも麦酒でも、眼の玉が飛び出る程に豪勢な高級料理でも構わん!

 好きなだけ飲み食いさせてやる、費用は総て俺が持つ!!

 だが勘違いするなよ、これは罰だからな!

 全員が俺と同じ体型になるまで放免せんぞ、覚悟しろ!!」

 各自の定位置に着席した要員が爆笑、指揮官の冗句に応え腹の底から哄笑を響かせた。

 

 司令室を爆笑の渦が包み動力部や砲塔室、各部署に波及。

「自分が操作を代わります、副司令官殿。

 ガミラスの意地、奴等に見せてやりやしょうぜ」

 

 

「ディモス基地の応答は皆無、フォボス反射衛星砲も完全に沈黙しました!

 反射衛星は残存していますが戦闘衛星は爆発、ハンター衛星も全滅です!!」

 火星(ガミラス)地下要塞、対宙防衛陣地指令室に絶叫が響く。

「宇宙空間の戦闘は、これまでだな」

 冥王星《ハデス》前線基地、火星防衛軍の指揮官から溜息が洩れる。

 

 火星周辺宙域は無限艦隊が埋め尽くし、月面基地も通信不通。

 折れ掛かる心を立て直した直後、眼も眩む目映い閃光が絶望の闇を切り裂いた。

 走査員《スキャナー》の絶叫、歓声の声が総司令部に響き渡る。

「反射衛星砲が復活、次々に敵艦を撃破!

 発光信号を確認、射撃目標の指示を求めています!!」

 

「両極付近の敵艦を撃て、後は衛星基地の自衛を優先!」

 火星防衛施設も駆使、ディモス周辺の敵を撃滅せよ!!」

「了解《ラジャー》!」

 真紅の砂塵を撒き上げ、地下基地から無数の誘導弾が飛翔。

 多弾頭爆弾が敵艦を襲い、爆発に捲き込む。

 

「総司令部は無事だ、充分な戦闘力を維持している!

 我々を援護してくれているぞ、相互連係で撃退可能だ!!

 こっちも負けるな、全砲門解放射撃【オール・ウェポンズ・フリー】!」

「応っ!」

 衛星を刳り抜いた基地、火力陣地を制御する司令室の内部で声が重なる。

 

 

「無限艦隊の反撃です、重層防御力場が突破されました!」

 予想を覆す迅速な新手の殺到、無数の弾幕射撃を受け瓦礫の山と化す反射衛星の群れ。

 ディモス内部を激震が疾り電力供給が途絶え、各部署の照明が消失。

 司令室の天井が崩落、火星防衛軍副司令官ガンツの意識が失せた。

 

「ガンツ!」

 火星防衛軍の最高指揮官、シュルツの口から痛恨の呻き。

 女神救出作戦の開始後、嘗ての頼り無い副官は見違える働きを見せた。

 ガミラス人の新たな故郷、火星の防衛体制を構築の際に衛星陣地の責任者を志願。

 冥王星基地の防戦で得た教訓、経験値を基に判明した弱点の補強に奔走している。

 創意工夫を凝らし対策の考案、限られた時間と資材で第3善の実現に漕ぎ着けた。

 

 火星に戦線が迫ると最前線に赴任を志願、反射衛星砲の陣頭指揮を執り無数の敵艦を撃破。

 今まで何とか踏ん張れたのは、忠実な副官の功績と云っても過言ではない。

「わしも途くぞ、ガンツ。

 必ず、礼を言わせて貰うからな」

 

 太陽系第3惑星、地球人類の護衛を優先する総統の判断に異論は無い。

 火星防衛陣地の活用を図り代役を買って出たが、総統の重荷を少しは減らせただろうか。

 大規模な爆撃が惑星の地軸を破壊、と錯覚する程に強烈な衝撃波に地下都市が震撼。

 太陽系の絶対防衛線、小惑星帯《アステロイド・ベルト》の軌道以内に残された最後の砦。

 火星防衛軍の総司令部、無人火力陣地の制御室から照明が消えた。




 コミック・アンソロジー『宇宙戦艦ヤマト 遙かなる星イスカンダル』に触発されました。
 シュルツの仇を討つ為、ガンツは戦い続けたのですね。

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