星の潮流   作:fw187

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宇宙生活者達の邂逅

「こちら、クラッシャー・ジョウ。

 惑星アラミス評議会議長、ダンの代理だ。

 銀河連合より艦隊の前方航路確認、周囲の警戒任務を請け負っている。

 2140年代の銀河系から、クラッシャーのチームが派遣されていると聞いた。

 詳細な数値《データ》を確認《チェック》したい、応答を願う」

 

「こちら、クラッシャー・ダン。

 2140年代のクラッシャーから、2160年代のクラッシャーへ挨拶を贈る。

 俺もWWWAの担当官に協力、次元間通路を開設する任務を請け負った。

 計測データを送信する、コンピュータの認識番号を教えてくれ」

 

 通信表示画面《スクリーン》の中で、クラッシャージョウが驚愕。

 動揺を隠し切れず、両眼を見開き正面を凝視する。

 視線を外す余裕も無く、通信表示画面《スクリーン》の外へ呼び掛けた。

 

 

「タロス!」

 のっそりとした動作で、フランケンシュタインを思わせる風貌の巨漢が現れた。

 ジロリ、と睨み付ける。

 野獣を思わせる鋭い眼光が、史上初めてクラッシャーと呼ばれた男を射抜く。

 

 圧倒的な迫力に気圧され、思わず後退るクラッシャーダン。

 改造人間の顔が異様に歪み、獰猛な唸り声を捻り出すかと見えたが。

 歪んだのではなく笑ったらしく、大男は唇を緩ませた。

 

「間違い、ありやせんぜ。

 若い頃の、おやっさんでさぁ」

 ジョウの後方から金髪碧眼(プラチナ・ブロンド)の美少女、童顔の少年も顔を覗かせる。

 思わぬ注目を浴び、当惑するクラッシャーダン。

 

 

「呼んだか?」

 ダンの背後から、別の声が響いた。

 長身の優男が、スクリーンを覗き込もうとする。

 

「!」

 後方で寛いでいた黒豹が跳ね起き、見事な跳躍《ジャンプ》を披露。

 不意を突かれた伊達男はあっさり倒され、仰向けにひっくり返る。

 前脚を胸に置き、至近距離で凄絶な唸り声を挙げる漆黒の猛獣。

 クァールのムギに睨まれ顔面蒼白、悲鳴とも取れる声で伊達男が喚いた。

 

「なんだよ、黒いの!

 おめぇを怒らせるようなこたぁ、何もしてねぇぞ!!」

 宇宙最強の完全生物と尊称される(後で知った)黒豹が、触手を震わせる。

 言語変換装置から、滑らかな声が流れ出した。

 

「スクリーンに顔を出すな、言い伝えを知らんのか?

 北の豹と南の鷹が対面する時、≪会≫が起こる。

 4次元時空連続体内部で過去、未来の同一存在が対面する事は禁忌≪タブー≫だ。

 時間矛盾排斥現象≪タイム・パラドックス≫、時震≪タイム・ショック≫が起こる。

 ≪百万の天球の合≫が生じ、混沌界に繋がる可能性も否定は出来ない。

 ましてや僅か数光秒先、至近距離に次元変換力場(アナザー・ディメンション)が在る。

 時間軸の異なる自分を見る為、スクリーンに顔を出す事は許さん。

 警告を無視すれば、どうなるか解っているな?」

 

 

「わあった、わあったよ!

 おとなしくしてっから、吼えるなよ!!

 頼むから、物騒な牙を引っ込めてくれや。

 なかよくしよーぜ、クァールのムギさんよ」

 

 両掌を挙げ、降参の意思を示す操縦士のタロス。

 操縦士が情けない表情を浮かべ、異種の様子を窺う。

 泣き言とも取れる嘆願を聴き、トパーズ色の瞳が和んだ。

 丸い耳を伏せ、戦意の無い事を示す。

 

 クラッシャーダンの片腕、荒事を好む優男は大袈裟に安堵の溜息を吐いた。

 大男の胸から前脚を外し、のそのそと歩を運んだ後で。

 壁際で丸くなり、ゆったりと毛繕いを始める黒豹。

 

 長身の伊達男はスクリーンに映らぬ様、慎重に遠回りして操縦席に戻った。

 眼を丸くして一部始終を見詰める、ケイとユリ。

 ムギがこれ見よがしに大欠伸≪あくび≫、鋭い牙を覗かせ相棒を促す。

 

 幕間劇はもう良いから、早く本題に入れ。

 宇宙最強の戦闘用改造生命体、黒豹の意思が雄弁に示される。

 航法士のガンビーノが、後方で大きく首を振った。

 わざとらしい咳払いは、機関士のバード。

 

 

「話を進めても、良いかな?」

 頬をヒクヒク痙攣させ、懸命に笑いを堪えるクラッシャージョウ。

 クラッシャーダンは気を取り直し、スクリーンに顔を向けた。

 画面には映らないが、大声で爆笑する声をマイクが拾う。

 笑死寸前の3人が腹を抱え、転げ回る気配が伝わってくる。

 

 

「うっさいわね、余計なお世話よ!

 さっさと、連合宇宙軍の連中を呼んで来な!!」

 操縦席から離れようとしないタロスに代わり、ケイが喚いた。

 ユリの黒い瞳が、焦茶色《アンバー》の瞳を覗き込む。

 

「あんた、会った事ある?

 変ね、妙に見覚えがあるんだけど。

 あなたのお母さんは何て名前なの?

 お父さんは?」

 

 質問の嵐が、奔流の様に流れた瞬間。

 何故か眼を見開き、驚愕の表情で後退する生え抜きのクラッシャー。

「ユリア姐さん!」

 フランケンシュタインが、唐突に喚いた。

 

 

 たくもう、そんな大声出すんじゃないわよ。

 鼓膜が破れちゃったら、どーすんのよ?

「えっ?」

 眼を円くして小首を傾げる、黒髪の少女。

 傷面の大男を力任せに押しのけ、金髪碧眼の新顔が此方を覗き込む。

 

「ジョウのお母さんにそっくしだわ!

 写真でしか見た事ないけど。

 貴女の名前、聞いても良いかしら?」

 長い金髪が優雅に拡がり、燦然と輝いた。

 澄明水の湧泉みたく、透き通る様な白い肌。

 星水晶≪スター・クリスタル≫の碧い瞳を煌かせ、微笑む。

 

 か、勝てない。

 金髪碧眼白い肌には、無意識の内に尻尾を巻いちゃう。

 腹ン中で毒づくのが精一杯、勝負になんないわ。

 無法者の代名詞、クラッシャーに何で、こんな美人が混ざってんのよ!

 

 

 あたしは肩を竦め、顔を逸らした。

 ユリもがっくし、肩を落としている。

 太刀打ち出来ない、と悟ったんだね。

 

 まぁ、しょうがないよ。

 あたしでも、勝てないんだもん。

 反則よ、やり直しを要求するわ。

 

「俺の父親なんぞ、どーでもいい。

 認識番号を送る、様式《フォーマット》は合ってる筈だ」

 おいしそ-な坊やの背後で、豪快な笑いが弾ける。

 縦横に傷が走り、歴戦の戦士を思わせる迫力満点の風貌。

 

 チーム・リーダーが振り返り電光石火、鋭い強烈な蹴りを入れる。

 サイボーグ化されたタロスの身体は、全く応えない。

 異音が響き、足を抱えて転げ回るジョウ。

 後方で金髪碧眼の美少女、童顔の少年がケラケラ笑う。

 次元回廊の奥から、更に無数の艦艇が現れた。

 

 2140年代の連合宇宙軍が派遣した艦隊を凌駕、構成する艦種も多岐に渡る。

 全長2千m(メートル)級の超大型戦艦、1500m級の超弩級戦艦。

 全長800m級の弩級戦艦、全長600m級の巡洋戦艦、全長400m級の重巡洋艦。

 全長300m級の軽巡洋艦、全長200m級の重雷装駆逐艦、全長150m級の護衛駆逐艦。

 

 全長500m級の戦闘艇母艦は直径30m級、円盤型の戦闘艇50隻を運ぶ。

 戦艦、巡洋戦艦、重巡洋艦も全長10~15m級の戦闘機2~4機を搭載。

 宇宙戦闘艦艇群は見事な統制を見せ、周囲空光分の宙域に展開。

 到底、数え切れない。

 

 大艦隊の旗艦、お偉方≪ディレクトリクス≫ならぬ全長300メートルの宇宙巡洋艦。

 銀河の栄光≪ザ・グローリー・オブ・ギャラクシー≫から、入電があった。

 

「太陽系防衛軍の方々へ、銀河連合主席より伝言を預かっております。

 銀河連合に所属する太陽系国家、8000以上の惑星に住む全人類が貴方達の味方です。

 現時点に於いて戦艦、巡洋戦艦の総数は合計1万隻を超えますが。

 宇宙母艦搭載の戦闘艇、戦闘機を含め総数1億に達します。

 

 各太陽系国家は製造施設を総動員し艦艇、戦闘機の製造を継続中。

 後続の艦隊も順次、貴太陽系に送り無限艦隊に対抗する予定です。

 女神の恩恵は当世界にも様々な波及効果を齎し、異種族の運命も変転を遂げましたが。

 太陽系国家タラオの第5惑星、ランドックの研究機関が援軍派遣の鍵となりました」


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