「こちら、クラッシャー・ジョウ。
惑星アラミス評議会議長、ダンの代理だ。
銀河連合より艦隊の前方航路確認、周囲の警戒任務を請け負っている。
2140年代の銀河系から、クラッシャーのチームが派遣されていると聞いた。
詳細な数値《データ》を確認《チェック》したい、応答を願う」
「こちら、クラッシャー・ダン。
2140年代のクラッシャーから、2160年代のクラッシャーへ挨拶を贈る。
俺もWWWAの担当官に協力、次元間通路を開設する任務を請け負った。
計測データを送信する、コンピュータの認識番号を教えてくれ」
通信表示画面《スクリーン》の中で、クラッシャージョウが驚愕。
動揺を隠し切れず、両眼を見開き正面を凝視する。
視線を外す余裕も無く、通信表示画面《スクリーン》の外へ呼び掛けた。
「タロス!」
のっそりとした動作で、フランケンシュタインを思わせる風貌の巨漢が現れた。
ジロリ、と睨み付ける。
野獣を思わせる鋭い眼光が、史上初めてクラッシャーと呼ばれた男を射抜く。
圧倒的な迫力に気圧され、思わず後退るクラッシャーダン。
改造人間の顔が異様に歪み、獰猛な唸り声を捻り出すかと見えたが。
歪んだのではなく笑ったらしく、大男は唇を緩ませた。
「間違い、ありやせんぜ。
若い頃の、おやっさんでさぁ」
ジョウの後方から
思わぬ注目を浴び、当惑するクラッシャーダン。
「呼んだか?」
ダンの背後から、別の声が響いた。
長身の優男が、スクリーンを覗き込もうとする。
「!」
後方で寛いでいた黒豹が跳ね起き、見事な跳躍《ジャンプ》を披露。
不意を突かれた伊達男はあっさり倒され、仰向けにひっくり返る。
前脚を胸に置き、至近距離で凄絶な唸り声を挙げる漆黒の猛獣。
クァールのムギに睨まれ顔面蒼白、悲鳴とも取れる声で伊達男が喚いた。
「なんだよ、黒いの!
おめぇを怒らせるようなこたぁ、何もしてねぇぞ!!」
宇宙最強の完全生物と尊称される(後で知った)黒豹が、触手を震わせる。
言語変換装置から、滑らかな声が流れ出した。
「スクリーンに顔を出すな、言い伝えを知らんのか?
北の豹と南の鷹が対面する時、≪会≫が起こる。
4次元時空連続体内部で過去、未来の同一存在が対面する事は禁忌≪タブー≫だ。
時間矛盾排斥現象≪タイム・パラドックス≫、時震≪タイム・ショック≫が起こる。
≪百万の天球の合≫が生じ、混沌界に繋がる可能性も否定は出来ない。
ましてや僅か数光秒先、至近距離に
時間軸の異なる自分を見る為、スクリーンに顔を出す事は許さん。
警告を無視すれば、どうなるか解っているな?」
「わあった、わあったよ!
おとなしくしてっから、吼えるなよ!!
頼むから、物騒な牙を引っ込めてくれや。
なかよくしよーぜ、クァールのムギさんよ」
両掌を挙げ、降参の意思を示す操縦士のタロス。
操縦士が情けない表情を浮かべ、異種の様子を窺う。
泣き言とも取れる嘆願を聴き、トパーズ色の瞳が和んだ。
丸い耳を伏せ、戦意の無い事を示す。
クラッシャーダンの片腕、荒事を好む優男は大袈裟に安堵の溜息を吐いた。
大男の胸から前脚を外し、のそのそと歩を運んだ後で。
壁際で丸くなり、ゆったりと毛繕いを始める黒豹。
長身の伊達男はスクリーンに映らぬ様、慎重に遠回りして操縦席に戻った。
眼を丸くして一部始終を見詰める、ケイとユリ。
ムギがこれ見よがしに大欠伸≪あくび≫、鋭い牙を覗かせ相棒を促す。
幕間劇はもう良いから、早く本題に入れ。
宇宙最強の戦闘用改造生命体、黒豹の意思が雄弁に示される。
航法士のガンビーノが、後方で大きく首を振った。
わざとらしい咳払いは、機関士のバード。
「話を進めても、良いかな?」
頬をヒクヒク痙攣させ、懸命に笑いを堪えるクラッシャージョウ。
クラッシャーダンは気を取り直し、スクリーンに顔を向けた。
画面には映らないが、大声で爆笑する声をマイクが拾う。
笑死寸前の3人が腹を抱え、転げ回る気配が伝わってくる。
「うっさいわね、余計なお世話よ!
さっさと、連合宇宙軍の連中を呼んで来な!!」
操縦席から離れようとしないタロスに代わり、ケイが喚いた。
ユリの黒い瞳が、焦茶色《アンバー》の瞳を覗き込む。
「あんた、会った事ある?
変ね、妙に見覚えがあるんだけど。
あなたのお母さんは何て名前なの?
お父さんは?」
質問の嵐が、奔流の様に流れた瞬間。
何故か眼を見開き、驚愕の表情で後退する生え抜きのクラッシャー。
「ユリア姐さん!」
フランケンシュタインが、唐突に喚いた。
たくもう、そんな大声出すんじゃないわよ。
鼓膜が破れちゃったら、どーすんのよ?
「えっ?」
眼を円くして小首を傾げる、黒髪の少女。
傷面の大男を力任せに押しのけ、金髪碧眼の新顔が此方を覗き込む。
「ジョウのお母さんにそっくしだわ!
写真でしか見た事ないけど。
貴女の名前、聞いても良いかしら?」
長い金髪が優雅に拡がり、燦然と輝いた。
澄明水の湧泉みたく、透き通る様な白い肌。
星水晶≪スター・クリスタル≫の碧い瞳を煌かせ、微笑む。
か、勝てない。
金髪碧眼白い肌には、無意識の内に尻尾を巻いちゃう。
腹ン中で毒づくのが精一杯、勝負になんないわ。
無法者の代名詞、クラッシャーに何で、こんな美人が混ざってんのよ!
あたしは肩を竦め、顔を逸らした。
ユリもがっくし、肩を落としている。
太刀打ち出来ない、と悟ったんだね。
まぁ、しょうがないよ。
あたしでも、勝てないんだもん。
反則よ、やり直しを要求するわ。
「俺の父親なんぞ、どーでもいい。
認識番号を送る、様式《フォーマット》は合ってる筈だ」
おいしそ-な坊やの背後で、豪快な笑いが弾ける。
縦横に傷が走り、歴戦の戦士を思わせる迫力満点の風貌。
チーム・リーダーが振り返り電光石火、鋭い強烈な蹴りを入れる。
サイボーグ化されたタロスの身体は、全く応えない。
異音が響き、足を抱えて転げ回るジョウ。
後方で金髪碧眼の美少女、童顔の少年がケラケラ笑う。
次元回廊の奥から、更に無数の艦艇が現れた。
2140年代の連合宇宙軍が派遣した艦隊を凌駕、構成する艦種も多岐に渡る。
全長2千
全長800m級の弩級戦艦、全長600m級の巡洋戦艦、全長400m級の重巡洋艦。
全長300m級の軽巡洋艦、全長200m級の重雷装駆逐艦、全長150m級の護衛駆逐艦。
全長500m級の戦闘艇母艦は直径30m級、円盤型の戦闘艇50隻を運ぶ。
戦艦、巡洋戦艦、重巡洋艦も全長10~15m級の戦闘機2~4機を搭載。
宇宙戦闘艦艇群は見事な統制を見せ、周囲空光分の宙域に展開。
到底、数え切れない。
大艦隊の旗艦、お偉方≪ディレクトリクス≫ならぬ全長300メートルの宇宙巡洋艦。
銀河の栄光≪ザ・グローリー・オブ・ギャラクシー≫から、入電があった。
「太陽系防衛軍の方々へ、銀河連合主席より伝言を預かっております。
銀河連合に所属する太陽系国家、8000以上の惑星に住む全人類が貴方達の味方です。
現時点に於いて戦艦、巡洋戦艦の総数は合計1万隻を超えますが。
宇宙母艦搭載の戦闘艇、戦闘機を含め総数1億に達します。
各太陽系国家は製造施設を総動員し艦艇、戦闘機の製造を継続中。
後続の艦隊も順次、貴太陽系に送り無限艦隊に対抗する予定です。
女神の恩恵は当世界にも様々な波及効果を齎し、異種族の運命も変転を遂げましたが。
太陽系国家タラオの第5惑星、ランドックの研究機関が援軍派遣の鍵となりました」