或る時空の銀河連合に関連する組織、WWWA所属の事件相談員≪トラブル・コンサルタント≫。
ラブリー・エンゼル発信の無線、超空間経由の映像が届いた。
「…ったくもう、か弱い少女に重労働させんじゃないわよ!
ホント、しんどかったわぁ。
次元断層を使った時間移動の実績、なんて何にも無いし。
誰も、な~んも知らないんだから!
銀河連合の科学者も、無責任よね!
ぶっつけ本番するしか手が無いなんて、サイテーよ!!
手探り状態で何とかなっちゃったけど、もう2度とやりたくないわ!
ソラナカ部長に、ガタガタ言われたって、やーよ。
ずぇったい、御免蒙るかんね。
惑星メルの王女、メローラの依頼だから引き受けたけどね。
事件が解決しなかったら、どーなるかって事を、完璧に説明してくれたのよ。
惑星ダングルで、ルーシファの計画を阻止してなかったら。
ガルクロンΣ≪シグマ≫が充満して、人間の中枢神経に作用して意志を奪ったのよ。
グラバース重工業の巨大複合製造施設は、ぜ~んぶ、ルーシファの物。
連合宇宙軍の艦隊を数倍、上回る数の戦闘艦が揃って征服されちょうのよね。
問題は、その後。
セルダン計画が無かった場合の、≪銀河帝国興亡史≫よ。
人類は徐々に退化を続けて原子力、宇宙航行技術を無くしちゃうんだよね。
3万年にも及ぶ大暗黒時代が銀河系、人類全体を覆う事になんのよ。
ラメールの空間破砕爆弾、スペース・スマッシャー事件も似た様なもんね。
ルーシファが空間破砕爆弾の量産化に成功しちゃったら、打つ手なんて無いわよ。
強請ってゆーか恐喝されると、銀河連合は言いなりになっちゃうのよねぇ~。
根性、無いんだから。
ボスコーンみたく中世封建的、時代錯誤、血縁関係重視の身分制度が発達しちゃってさ~。
非人権的独裁国家、専制強権的な銀河帝国が成立しちゃうのよ。
終いには内乱で空間破砕爆弾が盛大に使われて、平行宇宙を隔てる壁が大崩壊よ。
数多の次元界が沸騰して溶解して、み~んな虚無の海になっちゃうんだからね。
ドルロイだって、甘く見んじゃないわ。
銀河系で最も優秀な技能職人集団が、ルーシファの手下にされちゃうのよ?
セクサロイド、なんてもんじゃないわ。
連合宇宙軍の制式兵器は足元にも及ばない高性能火器、優秀な兵器が次々に開発されんのよ。
クラッシュ・ジャケットやら何やらがみ~んな、ルーシファの私設軍隊に装備されちゃってね。
銀河連合は逆立ちしても勝てなくて、あっさり征服されちゃううんだけど。
これまた、後が大変なのよ。
ルーシファの後継組織、銀河系帝国がやたら張り切んのよね。
超銀河系集団の征服を夢見て、攻勢終末点なんか頭から無視して領域を拡げるんだけど。
終いには超越者の文明に抹消されて、時間犯罪者≪タイム・テロリスト≫扱いだかんね。
チャクラも、そーよ。
異次元の高等知的生命体、ポーラルーラと恒常的に接触が可能となった後にね。
人類は進化するどころか、衰退し始めちゃったのよ。
高度な精神文明のポーラルーラと接触して、人類に内在する暗黒面が表面化したって事かな。
精神的汚濁、怠惰、依存、無気力、怨嗟、嫉妬、怨恨、差別、復讐、報復の無限連鎖。
あー、うっとうしい、やんなっちゃうわ。
オフィーリアなんて、もっと、ひどいわよ?
グ・ジッフスが銀河連合の指揮中枢機能、中央大コンピュータ本体を乗っ取っちゃってね。
ン・ガッファの染色体に全人類が汚染されて、異種生命体に変質させられんのよ。
他にも色々言いたい事はあんだけど、キリが無いから省略するわね。
アムニール、ノグロス、ダングル、ラメール、チャクラ、ドルロイ、オフィーリア。
以下省略するけど、み~んな無事になってたんよ。
惑星チャクラの稀元素イシャーナ発見者を、保安官ジェフみたいな善人に変えるのは簡単だけど。
異種族ン・ガッファ、人工頭脳グ・ジッフスの《調整》はどうやったのかな?
人類に協力する様、ばっちし言い聞かせてくれたのよね。
どんだけ時間流を遡って、平行宇宙の分岐先を当たってくれたか見当もつかないわ。
メローラの連絡で銀河連合、ポーラルーラ、ン・ガッファが大慌てで行動を開始したのよ。
銀河連合の中央大コンピュータ、人工頭脳グ・ジッフスの計算能力を総動員してね。
空間破砕爆弾≪スペース・スマッシャー≫の量産、製造手段も再発見したんだけど。
惑星メルからの指示で相乗効果ってゆ~か、共鳴させて次元の壁を越えて来たのよ。
何度もあさっての方向に向かいかけたり、次元遭難の一歩手前まで行ったりもしたんだけど。
最後の決め手になったのは何たって、うちらの超能力なんだかんね。
ダーティなんとか、なんて間違っても言っちゃ駄目よ。
あたしらは、先遣隊。
援軍に来たのは、うちらの宇宙からだけじゃないわ。
太陽系国家と連合宇宙軍が総掛かりでも、無限艦隊には太刀打ち出来ないのよ。
あたし達に続いて、もっと強力な連中が来るかんね。
空間破砕爆弾≪スペース・スマッシャー≫を使って一気に吹き飛ばす、って手もあるけどさ。
もっと、良い手があんのよ。
多元宇宙が崩壊したら、あんた達も困るでしょ?
もうちょっとだけ、踏ん張ってて。
36個だけ残してある、空間破砕爆弾≪スペース・スマッシャー≫を使うの。
水星≪テラ≫と太陽≪ソル≫の間に、次元回廊を開くわ。
無限艦隊だって、タメ張れちゃう味方を呼んだげる。
ぶないから、近付くんじゃないわよ?
撒き込まれて、外宇宙に飛ばされても知らないかんね~」
応答する隙を与えず、一方的に喋り続けた後で。
長時間に渡る通信は、唐突に切れたが。
水星後方に出現した宇宙艦隊は、遙かに真面目であった。
要領良く情報を伝え、太陽系防衛戦に参戦する意志を表明してくれた。
疲労の蓄積していた我々は厚意に感謝し、彼等と交代して損傷艦艇と機体の修理整備を急ぐ。
太陽系防衛艦隊は各惑星に着陸し、乗員は体力と気力の回復に努める余裕を与えられた。
次元回廊の開設作業は、クラッシャー・ダンのチームが担当。
万能型宇宙船アトラスからの通信連絡は要領が良く、簡潔明瞭。
チームリーダーと名乗る船長、ダンは優秀な宇宙戦士と知れた。
クラッシャーの先駆者と聞くが、是非とも部下に欲しい逸材である。
WWWAの宇宙船、ラブリーエンゼルから再び通信が入ったが。
お喋りを延々と聞かされ、緊急の用事と称し副総統ヘスに代わる。
通信は唐突に打ち切られ、単なる暇潰しと判明した。
空間破砕爆弾≪スペース・スマッシャー≫6個を等間隔、同心円状に配置。
更に精密な星型六角形、六芳星の魔法陣5個が闇黒の宇宙空間に描かれた。
小六芒星6個の魔法陣を等間隔、同心円状に並べた大六芒星が数時間後に完成。
次元共鳴波の発振装置、空間破砕爆弾≪スペース・スマッシャー≫36基が作動する。
心底から嫌悪と反感を生じさせる妖波動、闇黒の波動が押し寄せて着た。
3次元生物に属する人類には理解し難い、未知なる要素と本能的な拒絶。
あの中へ突入しろと言われたら、私は迷わず脱走するが。
思わず、眼を瞠った。
小型宇宙艦が現れ、空間を走査。
機敏な動作、共通する鮮やかな流星の徽章≪マーク≫が眼を引く。
続いて数千隻に及ぶ艦隊、援軍が闇の中から現れた。
私は彼等の勇気に敬服し、多大な尊敬の念を持つ事となったが。
見事な操縦技術を披露する編隊を離脱し、1隻が接近して来る。
大気圏内の飛行特性と航空力学を考慮、流線型の優美な船体《フォルム》。
蛍光塗料で描かれた流線型の記号書体、『J』の一字が星の光を受けて輝く。
或いは軽快な偵察巡洋艦《スカウト》かも知れぬが、全長は約100メートル。
通信表示画面《スクリーン》が煌き、10代の少年とも思える立体映像を映し出す。
若き勇者の唇が動き、溌剌とした声が流れ出た。