星の潮流   作:fw187

1 / 14
太陽系防衛戦
時空転換点


「大ガミラスの勇敢なる戦士諸君、勇戦に感謝する。

 無限艦隊の襲来から、約365時間が経過した。

 誠に残念ではあるが、太陽系防衛戦の現状は諸君も御存知の通りだ。

 

 我々を第1次人類の末裔と認めてくれた盟友、地球人《テラナー》も絶滅の危機に瀕している。

 風前の灯となった第2次人類の代表者、太陽系連邦の首席から連絡が届いた。

 

『太陽系の第4惑星、火星《ガミラス》を祖先の地とする方々に申し上げる。

 我々を護る為に奮闘を重ね、多数の死傷者を出した貴軍の勇戦に感謝する。

 地球人類の恩人スターシア、サーシャ殿を貴軍に託し新天地へ御連れ願いたい。

 これ以上の戦闘継続は不要、太陽系を脱出し大宇宙の何処かへ転進されよ』と。

 

 諸君も御承知の通り、火星防衛軍も音信不通。

 本来であれば最高司令部の戦術的失敗を認め、自由行動を認める状況ではあるが。

 私は第2次人類の犠牲を代償とする敵前逃亡、戦術的撤退の選択肢を放棄する。

 『我等の前に勇者無く、我等の後に勇者無し』。

 火星防衛の任を買って出た勇将、シュルツが私に教えてくれた言葉だ。

 

 我々、ガミラス星人は戦闘民族である。

 今この瞬間に至るまで、ガミラス宇宙軍が敵に背を向けた事は無い。

 人類発祥の地、太陽系第3惑星に崩壊の刻が迫っている。

 我が軍の転進は最終防衛線の崩壊、地球人類の全滅に直結する筈だ。

 第1次人類の名誉に懸け、彼等の恩に報いねばならぬ。

 最期まで闘い抜く事に、同意を得られると信じている。

 

 戦友諸君。

 これまで、良く、私の拙い指揮に従いて来てくれた。

 私は、諸君と共に戦えた事を誇りに思う。

 

 栄光ある大ガミラスの総統として、諸君に、一言だけ申し上げたい。

 ありがとう。

 …以上だ」

 

 

 

 時は、遡る。

 西暦2199年、某月某日。

 私の脳裏に、精妙な《声》が響いた。

女神救出作戦(プロジェクト・スワティ)が、発動されました。

 この鍵言葉《キイ・ワード》に拠り、真の記憶が回復します」

 

 ガミラス帝国は、未曾有の大混乱に陥った。

 私も、ヒスも、ドメルも、シュルツも。

 自らの最期、死の瞬間を『思い出した』。

 我々が《現実》と信じていた世界は、複製世界《レプリカ》であった。

 

 

 時空変換点《クロス・ポイント》は、地球艦隊の冥王星《ハデス》遠征であったらしい。

 冥王星前線基地は当時、ガミラス本星から厳命を受けていた。

 波動エンジンの設計図を、地球人類へ渡してはならぬ。

 サーシャ搭乗の恒星間宇宙巡航艇を捕獲、または破壊せよと。

 

 シュルツ指揮の艦列は冥王星軌道に展開、万全の態勢を敷き待ち構えていたが。

 ガミラス艦隊が命令を実行する直前、沖田率いる地球艦隊11隻が突入して来た。

 古代守の指揮する駆逐艦『ゆきかぜ』、無謀な急襲に攪乱され阻止線に隙が生じた。

 

 快速艇の制御頭脳は戦場に突入、混乱に乗じ強行突破を選択。

 外宇宙航行速度を維持した儘、内惑星の軌道に達した。

 火星に墜落する直前、緊急脱出装置《エマージェンシー・ロケット》が射出されたが。

 出発以前に白血病を発症する乗員、サーシャは既に死亡していたと思われる。

 

 地球艦隊が劣勢を顧みず冥王星宙域へ赴き、挑戦する勇気を発揮しなかったとすれば。

 波動エンジン設計図は、地球人類に届かなかったであろう。

 天は、自ら助ける者を助く。

 10隻の犠牲、旗艦の被弾時に落命した勇者達の奮闘は、無駄ではなかったのだ。

 

 

 地球人達の勇気に感銘を受け、時を操る者が動いた。

 数兆数京に及ぶ試行錯誤の後、可能性の扉を開いたのだが。

 記憶封鎖《メモリー・プロテクト》の為、我々は恩恵に気付かなかった。

 

 イスカンダル星の姉妹も超次元の精神波、心話、詳細な情報を受信した。

 数万年の歴史を誇る高度な医療技術を以てしても、治癒不可能であったのだが。

 ビーメラ星の蜂蜜に指示通りの処方を施し、薄命の妹に投与の数分後。

 サーシャ完治、の奇蹟《ミラクル》が起きた。

 

 謎の《声》は青色人《ブルー・マン》、ガミラス系人類の事も忘れていなかった。

 別の処方で精製の薬を服用の後、我々の身体は《脱皮》を開始。

 金星《アムター》の生命延長血清と同様、数時間に及ぶ細胞転換を経験した。

 放射能を適度に含まねば、息苦しく感じる筈であったが。

 イスカンダル星人、地球人類と共存可能になった。

 

 次元間遠隔感応能力者は更に、重大な情報を提供。

 此処は重要な時空連続点《クロス・ポイント》、数多の世界に影響の及ぶ《鍵》であるらしい。

 数時間後に無限艦隊が現れ、地球を襲う。

 宇宙戦艦ヤマト発進には後、数週間を要する。

 

 強大な侵略者に対抗し得る戦力は唯一、ガミラス宇宙軍のみ。

 他の複製世界から援軍が到達するまで、人類の絶滅を阻止しなければならぬ。

 私は超緊急非常事態の宣言、全軍の集結を選択に最優先至上命令を通達。

 ガミラス帝国領全域の放棄、太陽系に集結を命じた。

 

 地球連邦政府は第4惑星への移住、火星《ガミラス》の制式名称も公認。

 謎の《声》に従い地球艦隊11隻の乗組員、候補生達を異世界に送る。

 次元回廊の彼方、精神と時の部屋に類似の亜空間は許容量が僅少。

 人類の大半は地球に残り、1日が数ヶ月に匹敵する世界に数百名を送り込む。

 

 超次元回廊の接続、次に訪れる帰還の機会《チャンス》は特定し難い。

 数時間後か、数日後か、数週間後か、数ヵ月後か、誰にも分からぬが。

 猶予は、無かった。

 ガミラス宇宙軍が冥王星前線基地に集結の直後、無限艦隊が殺到。

 女神救出作戦(プロジェクト・スワティ)の第1段階、太陽系防衛戦が開始された。




 冥王星沖会戦の解釈ですが…地球艦隊9隻の乗組員に偉業達成、緑と海の復興を伝えてあげたいです。

 松本零士先生、たくさんの夢、希望の贈り物、作品群に感謝致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。