時空転換点
「大ガミラスの勇敢なる戦士諸君、勇戦に感謝する。
無限艦隊の襲来から、約365時間が経過した。
誠に残念ではあるが、太陽系防衛戦の現状は諸君も御存知の通りだ。
我々を第1次人類の末裔と認めてくれた盟友、地球人《テラナー》も絶滅の危機に瀕している。
風前の灯となった第2次人類の代表者、太陽系連邦の首席から連絡が届いた。
『太陽系の第4惑星、火星《ガミラス》を祖先の地とする方々に申し上げる。
我々を護る為に奮闘を重ね、多数の死傷者を出した貴軍の勇戦に感謝する。
地球人類の恩人スターシア、サーシャ殿を貴軍に託し新天地へ御連れ願いたい。
これ以上の戦闘継続は不要、太陽系を脱出し大宇宙の何処かへ転進されよ』と。
諸君も御承知の通り、火星防衛軍も音信不通。
本来であれば最高司令部の戦術的失敗を認め、自由行動を認める状況ではあるが。
私は第2次人類の犠牲を代償とする敵前逃亡、戦術的撤退の選択肢を放棄する。
『我等の前に勇者無く、我等の後に勇者無し』。
火星防衛の任を買って出た勇将、シュルツが私に教えてくれた言葉だ。
我々、ガミラス星人は戦闘民族である。
今この瞬間に至るまで、ガミラス宇宙軍が敵に背を向けた事は無い。
人類発祥の地、太陽系第3惑星に崩壊の刻が迫っている。
我が軍の転進は最終防衛線の崩壊、地球人類の全滅に直結する筈だ。
第1次人類の名誉に懸け、彼等の恩に報いねばならぬ。
最期まで闘い抜く事に、同意を得られると信じている。
戦友諸君。
これまで、良く、私の拙い指揮に従いて来てくれた。
私は、諸君と共に戦えた事を誇りに思う。
栄光ある大ガミラスの総統として、諸君に、一言だけ申し上げたい。
ありがとう。
…以上だ」
時は、遡る。
西暦2199年、某月某日。
私の脳裏に、精妙な《声》が響いた。
「
この鍵言葉《キイ・ワード》に拠り、真の記憶が回復します」
ガミラス帝国は、未曾有の大混乱に陥った。
私も、ヒスも、ドメルも、シュルツも。
自らの最期、死の瞬間を『思い出した』。
我々が《現実》と信じていた世界は、複製世界《レプリカ》であった。
時空変換点《クロス・ポイント》は、地球艦隊の冥王星《ハデス》遠征であったらしい。
冥王星前線基地は当時、ガミラス本星から厳命を受けていた。
波動エンジンの設計図を、地球人類へ渡してはならぬ。
サーシャ搭乗の恒星間宇宙巡航艇を捕獲、または破壊せよと。
シュルツ指揮の艦列は冥王星軌道に展開、万全の態勢を敷き待ち構えていたが。
ガミラス艦隊が命令を実行する直前、沖田率いる地球艦隊11隻が突入して来た。
古代守の指揮する駆逐艦『ゆきかぜ』、無謀な急襲に攪乱され阻止線に隙が生じた。
快速艇の制御頭脳は戦場に突入、混乱に乗じ強行突破を選択。
外宇宙航行速度を維持した儘、内惑星の軌道に達した。
火星に墜落する直前、緊急脱出装置《エマージェンシー・ロケット》が射出されたが。
出発以前に白血病を発症する乗員、サーシャは既に死亡していたと思われる。
地球艦隊が劣勢を顧みず冥王星宙域へ赴き、挑戦する勇気を発揮しなかったとすれば。
波動エンジン設計図は、地球人類に届かなかったであろう。
天は、自ら助ける者を助く。
10隻の犠牲、旗艦の被弾時に落命した勇者達の奮闘は、無駄ではなかったのだ。
地球人達の勇気に感銘を受け、時を操る者が動いた。
数兆数京に及ぶ試行錯誤の後、可能性の扉を開いたのだが。
記憶封鎖《メモリー・プロテクト》の為、我々は恩恵に気付かなかった。
イスカンダル星の姉妹も超次元の精神波、心話、詳細な情報を受信した。
数万年の歴史を誇る高度な医療技術を以てしても、治癒不可能であったのだが。
ビーメラ星の蜂蜜に指示通りの処方を施し、薄命の妹に投与の数分後。
サーシャ完治、の奇蹟《ミラクル》が起きた。
謎の《声》は青色人《ブルー・マン》、ガミラス系人類の事も忘れていなかった。
別の処方で精製の薬を服用の後、我々の身体は《脱皮》を開始。
金星《アムター》の生命延長血清と同様、数時間に及ぶ細胞転換を経験した。
放射能を適度に含まねば、息苦しく感じる筈であったが。
イスカンダル星人、地球人類と共存可能になった。
次元間遠隔感応能力者は更に、重大な情報を提供。
此処は重要な時空連続点《クロス・ポイント》、数多の世界に影響の及ぶ《鍵》であるらしい。
数時間後に無限艦隊が現れ、地球を襲う。
宇宙戦艦ヤマト発進には後、数週間を要する。
強大な侵略者に対抗し得る戦力は唯一、ガミラス宇宙軍のみ。
他の複製世界から援軍が到達するまで、人類の絶滅を阻止しなければならぬ。
私は超緊急非常事態の宣言、全軍の集結を選択に最優先至上命令を通達。
ガミラス帝国領全域の放棄、太陽系に集結を命じた。
地球連邦政府は第4惑星への移住、火星《ガミラス》の制式名称も公認。
謎の《声》に従い地球艦隊11隻の乗組員、候補生達を異世界に送る。
次元回廊の彼方、精神と時の部屋に類似の亜空間は許容量が僅少。
人類の大半は地球に残り、1日が数ヶ月に匹敵する世界に数百名を送り込む。
超次元回廊の接続、次に訪れる帰還の機会《チャンス》は特定し難い。
数時間後か、数日後か、数週間後か、数ヵ月後か、誰にも分からぬが。
猶予は、無かった。
ガミラス宇宙軍が冥王星前線基地に集結の直後、無限艦隊が殺到。
冥王星沖会戦の解釈ですが…地球艦隊9隻の乗組員に偉業達成、緑と海の復興を伝えてあげたいです。
松本零士先生、たくさんの夢、希望の贈り物、作品群に感謝致します。