ラブライブ! きっと青春は聞こえる -情熱を紡ぐ物語-   作:コロロン☆

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変わらないものなどない。


変わらないものなどないという、ただ一つの事実だけが変わらないことなのだ。




第三話:ライブまでの道のり1

 

 

目の前には雪のように白いティーカップが4つ。そこにトクトクと小気味のいい音を立てながら紅茶が注がれました。温かい香りが部屋に漂い、なにがなしにくつろいだ雰囲気を作り出しました。とてもいい香りです。

 

 

 

 

「ひっさしぶりの準備室~♪」

 

穂乃果ちゃんが上機嫌に革張りのソファに身を投げました。海未ちゃんが呆れた目で穂乃果ちゃんを見つめていますが、本人は何も気にしていません。

 

 

 

 

ことり達は総一郎お兄ちゃんに呼び出されて、音楽室準備室に来ています。

窓際でお兄ちゃんが紅茶を淹れています。その姿はとても優雅で洗練されてて、とても絵になる。お城に飾られた美しい絵画から現実世界にやってきた王子様。大げさかもしれませんが、ことりはそれくらいお兄ちゃんことが大好きなんです。

 

 

 

「お前たちも紅茶でよかったか?」

 

 

「穂乃果は蜂蜜入りの甘いやつがいい!」

 

「私は砂糖を少しだけでお願いします」

 

「ことりはお兄ちゃんと同じがいいなー」

 

 

はいはい、と困ったように笑いながらお兄ちゃんは用意を再開する。いつ以来だっけ、皆で集まって楽しくおしゃべりするのは。お兄ちゃんが海外に行くまではひよこみたいにトコトコ後を着いていってたっけ。懐かしいなあ。ことりは、また皆で集まれるなんて思ってなかったよ。ふふふ、お兄ちゃんを採用したお母さんに感謝しなくっちゃ!

 

 

「ほれ、南の分。どうした?何か可笑しいことでもあったか?」

 

「あ、お兄ちゃんありがとう。な、なんでもないよ!ただ懐かしいなあって思って」

 

「確かにそうですね。この4人でゆっくりするのは久しぶりです」

 

 

海未ちゃんも懐かしいのか、目を細め紅茶を啜っている。穂乃果ちゃんはこの紅茶美味しい!と驚き、大きな目を更に見開いていた。うん、穂乃果ちゃんはいつも穂乃果ちゃんだね。

 

 

 

「ん……苦いっ」

 

ストレートのアッサムティー。力強くて濃厚な紅茶。お兄ちゃんと同じ味にしてみたけど、ことりには少し早かったみたいです。うーん、早くお兄ちゃんにふさわしい大人の女性になりたいけど、まだまだ先は長いなあ……。

 

 

「ほれ」

 

お兄ちゃんもことりの様子に気が付いたのか、ミルクを渡してくれました。

やっぱり背伸びはよくないね。優しくカッコいいお兄ちゃんに近づきたくて、いつも追いかけるんだけど、いつもいつもことりは躓いてお兄ちゃんに置いて行かれます。昔から私の尊敬であり、いつか横に並んで歩きたいと密かに思っています。

 

 

お兄ちゃんは私のそんな想いに気付いているのかな。だけど、ことりには今の関係を壊す勇気なんてありません。再び、カップに口をつけると大人の味が口の中に広がりました。やっぱり、まだまだ苦い。

 

 

 

 

お兄ちゃんがカップを置き、改まって私たちに目を合わせます。私たちのカップは既に空になっていました。

 

 

「―――さて、今日お前たちを呼び出したのはスクールアイドルの今後の活動について方針を考えようと思ってだな」

 

 

そっか、正式な部活動ではないけど、スクールアイドルとして活動しなきゃだもんね。よーし、ことりは何でも頑張っちゃうよ!でも、今後の活動……難しいなあ。アイドルって歌って踊るイメージしかないんだけど。

 

 

 

 

うーんと頭を3人で捻っていると、穂乃果ちゃんの顔がぱあっと明るくなりました。

 

 

 

「……ライブとか?私達スクールアイドルだし!」

 

 

「高坂、その通りだ。僕もライブをやる必要があると思う」

 

ライブかあ。なら、可愛い衣装を用意しないとね!

勿論ことりは総一郎お兄ちゃんと穂乃果ちゃんが言うことなら私も賛成!問題は海未ちゃんだけど大丈夫かな?

 

 

 

 

「―――む、無理です!アイドルでさえ恥ずかしいのに人前で歌って踊るなんて」

 

 

はあ、やっぱりダメだったあ。海未ちゃん、とっても恥ずかしがり屋さんだから。しかも、アイドルって人前で歌うものだし……。海未ちゃんを説得するのが一番の難関だとことりは思うんだ。頑張れ、総一郎お兄ちゃん!

 

 

 

「園田は日本舞踊を習っているだろ?人前でも踊ることがあるじゃないか」

 

「それはそうですが、アイドルと舞踊は違います。ろ、露出度も違いますし……」

 

「露出度が問題か……。うーん、高坂と南はやるよな?」

 

「海未ちゃん!私はやるったらやるよ!」

 

「私も穂乃果ちゃんと総一郎お兄ちゃんがやるならやる!後、可愛い衣装を着るのは楽しそうだし!」

 

 

ちなみに、ことりは可愛い服が大好きです。裁縫は得意だし、たまに自分の服を作ったりもします。アイドルの服かあ。ふふふ、色々思いついちゃった。皆に着てもらうのが楽しみです。

 

 

「―――な?二人は”音之木坂を救うためにアイドルをやる”って言ってるんだ。園田も廃校を憂うるのであれば協力してくれないか?先生も音之木坂が無くなるのはつらいんだ」

 

 

「そ、総一郎さん、ですが―――」

 

なかなか強情です。総一郎お兄ちゃんも本気で海未ちゃんを落としにかかってます。むう、ことりはなんだか羨ましいです。総一郎お兄ちゃんにあんなに見つめられて。

海未ちゃんも顔を赤くして下を向いてるし。なんだか嫉妬しちゃうな。よーし、ここはさくっと、ことりが海未ちゃんを落とします!

 

 

 

「海未ちゃん?」

 

 

「な、なんですか、ことり?」

 

 

ふう。まず、眼に涙を溜めます。手を胸に持って来て服を握りしめます。必死な感じを演出します。喉を整えます。少しいつもよりワントーン高くすることが大切です。あとは、お願いするだけです。くらえ、海未ちゃん!

 

 

 

 

 

「海未ちゃん―――おねがいっ!」

 

 

 

 

教室から出るときに、総一郎お兄ちゃんに呼び止められて頭を撫でてもらいました。

なでなでしてもらって、ありがとうって言ってもらうことができました!ふふふ、ことりはとーってもハッピーです!あ、帰って海未ちゃんの衣装をまず作りたいと思います。もちろんスカートは短めで!

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

夕日が部屋を染め、部屋の外からは部活動に精を出している生徒たちの声が聞こえてくる。

 

 

 

 

「さすがはことり。海未の扱いは心得てるな」

 

恥ずかしがり屋の海未をどうやって説得するかが問題だったが、ことりのおかげで思いのほか簡単に人員は確保できた。これで初ライブに向けて動き出せる。三人と相談し、ライブは1カ月後の新入生歓迎会の日に講堂で行う。

次はライブに向けてのトレーニングを考えなければ。そして、最後に曲作り。これをどうするか。俺が全て作るわけにもいかないし。仮にもスクールアイドルなんだから、たたき台くらいは生徒で用意しないとな。

 

 

PCを起動し、ファイルを開く。そこには、メンバーの候補者の名前がいくつかピックアップされていた。次は、よし、この子かな。ふはははははは!まっていろ、A-RISE!着々と貴様らを蹴落とす準備は進行中だ!

俺のプランには一寸の狂いもない!

 

 

 

 

 

「―――あ、あの……先生?」

 

 

 

 

 

む、誰だ?こんな忙しい時に、後にしてくれ、後に。ん?

 

 

 

 

「―――ほわああああ!?」

 

急いで、PCのディスプレイの電源ボタンを殴りつけて画面をシャットダウンさせる。何故、突然声が!なぜノックをしない!この非常識者めが!

 

 

 

「ななななな、何の用だ!?」

 

 

準備室の入口に目を向ければ、赤い髪をした美少女が遠慮がちに立っている。見られた!?いや、落ち着け、俺。大丈夫だ変なことは口走っていないはずだ。ファイルも見られていない。いつも通りに振る舞えば問題ないはずだ。

 

 

 

「ピアノ、弾いてもいいですか?」

 

目は少し吊り目で気の強い印象を受ける。またその気の強さは知性の裏返しなのか、聡明そうな顔立ちで、十分に可愛さもある。アイドルでも十分やれそうな雰囲気だ。

リボンの色から一年生だ。何か恥ずかしいのか、髪をいじりながら俺の回答を待っている。

 

 

 

「確か、1年生の―――」

 

そうそう、西木野真姫だ。西木野先生の自慢の娘。かの主治医の娘自慢を思い出すと、顔は確かにさることながらピアノの腕も申し分ないとのことだ。なるほど、これは悪くない。悪くない所か上玉だ。

 

 

 

「西木野です。で、ピアノ使ってもいいんですか?ダメなんですか?」

 

西木野は少し苛立っているのか、少し言葉に棘が出てきた。なるほど、第一印象どおり少し気が強いんだな。許可を出すと西木野は礼を述べた後、さっさと音楽室に入っていった。

 

 

 

 

「ったく、西木野先生はどんな教育してるんだ。ノックもせず、紳士の部屋に入るなどーーー」

 

 

 

少しすると、ピアノの音が聞こえてきた。柔らかい音楽が連日の徹夜の疲れを溶かしてくれる。心地よい気持ち。自分で弾くのもリラックスできるが、やはり巧みな演奏を聞くのは素晴らしい。一曲目を弾き終わると、次は歌が聞こえてきた。

 

 

「愛してるばんざい?」

 

なかなか面白いフレーズの歌だが、よくよく聞いてみると良い歌詞であり、曲も申し分の無いレベルだった。PCを再起動し、ネットで検索してみるも具体的なヒットはなかった。既存の曲かと思ったが、もしかして自作なのか。

 

 

「ほう、なんというめぐり合わせか」

 

神は俺に音ノ木坂を救えと言っているんだな。そうに違いない。この子を使えば良いということだな。神に感謝したことはないが、今このときは少しだけ礼を言おう。

作曲の才能もあり、容姿も申し分ない。スクールアイドル候補がまた一人、俺の掌の中に。

 

 

「くくくく……おや?」

 

時計に目をやれば、もう19時に近づいていた。しまった、約束の時間に遅れる。

急いで、西木野真姫の名前とデータをファイルに打ち込み、PCをシャットダウンさせる。

あの生真面目なアイツのことだ、時間に遅れると長々と文句を言われること間違いなしだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

もう既に日が落ち、街頭が道を微かに照らしている。

春といっても今日は少し肌寒く、風が吹くと身震いしてしまうほどだった。

 

 

 

 

 

「ここにくるのも久しぶりだな・・・」

 

青年は重厚な木造の門を潜り、その家の敷地内に足を踏み入れる。そこは本当に都内なのかというほど空気が澄んでいた。空気自体は変わらないが、独特の雰囲気によって訪問者の周りの空間がピリッとするというか。

 

  

 

神埼総一郎は園田海未の実家に来ていた。巨大な日本屋敷の隣には道場があり、日々、門下生達が稽古に励んでいる。彼も少年時代にはこの道場に通い、海未と共に汗を流していた。

庭を横切り、玄関にてインターホンを押すと割烹着姿の老婆が出てきた。彼女は古くから、園田家につかえているお手伝いで、総一郎のことも昔から見知っている。

 

 

「あら、神崎のお坊ちゃんお久しぶりですねえ」  

 

 

「吉田さん、坊ちゃんなんてやめてくださいよ。僕はもう25歳、大人ですよ」

   

総一郎が講義の声を上げるも、吉田はケラケラと笑いながら、総一郎の両頬に両手を添えた。

正直、シワシワの手は摩擦が大きく、頬をごしごし撫でられると少し痛い。しかし、不思議と嫌な気分にはならない。ただ凄く懐かしいと彼は感じていた。

 

 

 

「あらあら、何を生意気仰るんですか。道場で旦那様にこてんぱんにやられて泣いてるのを慰めてあげたのは誰でしたっけ?」

 

彼女のシワシワの両手は総一郎の両頬をぐりぐりを横に引っ張る。生意気を言う小僧めという風に、笑いながら縦横無尽に引っ張られた。

 

 

「ぐえ・・・よ、よふぃださんでふ。すびませんでふぃた・・・」

 

過去の稽古の際に、とてつもなくお世話になった総一郎には逆らうすべはなかった。分かればよろしいと、吉田は両手を離す。総一郎は頬をさすっていた。結構な力で摘まれていたようだ。 

 

 

 

たまには顔を出しに来なさいと伝え、彼女は総一郎の頭を撫でた。総一郎は首肯するわけでもなく困ったように微笑んでいた。 

   

 

 

総一郎は吉田との邂逅を済ませ、居間に通された。彼は海未との今後のスクールアイドル活動の練習メニューを話し合う為に来たのだが、何故ここに通されたのか。襖を遠慮気味に開けると、そこには豪華な食事が用意され、奥には園田家が勢揃いしていた。

 

 

  

「―――し、失礼しました!」

 

襖を閉めようとすると、待てと低い声が響いた。

その声は総一郎の心臓にずしんと重くのしかかった。

 

 

「総一郎、ここに座りなさい。久しぶりに来たのだから夕飯を食べて行きなさい」

   

声の主は園田家当主、海未の父親だった。少年時代から総一郎の師匠である。彼の両親は海外出張が多く、家で一人でいることも多かった為、園田家にて夕飯を一緒にすることも多かった。海未の父親は彼の逆らえない人物の一人である。

 

 

「そうですよ、総一郎さん。せっかく久しぶりに来たのですからゆっくりしていきなさいな」   

 

襖に手を掛けたまま固まっている総一郎の腕を引き、座布団の上に座らせたのは、海未の母親だった。海未のにそっくりなぬばたまの美しい髪に、幸薄美人というのだろうかどこかに儚さを漂わせる女性である。今だ固まったままの総一郎を見て、可笑しな子と微笑んでいた。

     

 

 

「あは、はははは……はい」

 

 

総一郎は顔を引き攣らせながら、どうにか笑顔を作っていた。内心はどう思っているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

総一郎は海未の両親と色んな話をした。側には海未も居たものの彼女は黙って話を聞いている。まず、数年前に海外に行ってからというもの、ろくに連絡も寄越さずにいたことに対して、拳骨が飛んできた。どれだけ我々や周りの人達が心配したのかをお前はわかっていない、と海未の父親からの静かな怒りが総一郎の頭に落ちた。まあまあ、お父さん。と海未の母親がなだめることによって、2発目の拳骨は止まったが……。

なぜ連絡しなかったのか、という問いに対して総一郎は頑なに理由を話そうとはしなかった。再度、強く問われても彼は唇を真一文字に結んでいた

 

 

 

「まったく、そういう所は変わらんな」

 

 

そんな様子に海未の両親は諦めたのか話題を変え、4人で楽しく食事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

楽しい食事を終え、私は総一郎さんを連れ自室にやってきました。彼は少し酔っているのか、顔が少し赤く、足元もおぼつかない様子。そのままでは危ないので座布団に座らせようとすると、彼は誘導を無視して私のベッドにダイブしていきました。総一郎さんが私のベッドに……は、は、恥ずかしい。

 

 

 

「いやー、久しぶりに楽しかったよ」

 

 

「はい、私もあんな賑やかな食事は久しぶりでした」

 

父と母も総一郎さんに会えたのがとても嬉しかったのでしょうか。園田家の食事はいつも落ち着いているのですが、今日は彼を中心にとても賑やかなものになりました。

父は総一郎さんとお酒を飲み交わしながら少し涙ぐみ、いつもお酒を飲まない母も少し飲んでとても上機嫌でした。そんな両親は酔いが回ったのかいつ園田の婿に来るのか、と彼に絡んでいました。彼も酔っていたのかふざけていたのかわかりませんが、海未さん次第ですね、なんて事を言うので足を思いっきり抓っておきました。私はとても恥ずかしかったのですから。お仕置きです。

 

 

 

も、勿論、私もとてもとても楽しかったです。昔を思い出して泣きそうになったのは秘密です。彼が急に海外に行ってからは何年間も音信不通で、いなくなった当初は穂乃果とことりなんていつも泣いていたのですから。勿論私も…人前で泣かなかっただけです。

 

 

 

「どうした海未?」

 

ふにゃっとした顔で笑いかけてくる彼。学校では絶対に苗字でした呼んでくれない彼。彼曰く、仕事とプライベートは別だからと言っていた。こんな彼の油断した顔を学校の誰が知っているだろうか。今は私が独り占め、これでは学校の彼のファンに恨まれてしまいますね。

 

 

 

「さあ、総一郎さん。ライブに向けて、練習メニューを考えましょう」

 

 

はーい、と陽気な声で返事をするものだから少し気が抜けてしまいました。猫のように愛らしさについつい頬が緩んでしまいました。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

私と総一郎さんは居間にいる両親に挨拶を済ませ、家の門の所まで来ていた。夜も更け少し、肌寒い。体の芯が一瞬震えた。

 

 

 

「よし、海未。明日ちゃんと穂乃果を起こしてやれよ」

 

 

総一郎さんはもう酔いも冷めたのかいつもの凛とした表情に戻っていた。ホントに切り替えが早いんですから。さっきはあんなに甘えてきた癖に。

 

 

 

 

そして、彼に微笑まれながら頭を撫でられてしまいました。冷たい手が心地いい。昔、いつもさようならの時はこうやって頭を撫でてもらっていましたね。

まあ、理由は穂乃果とことりはこうしないと絶対に帰らないので、私もそれに便乗してこうしてもらっていたんです。こうしてみると、私も大概ですね。

 

 

 

「はい!明日から朝練頑張ります」

 

元気よく返事をすると、総一郎さんは満足そうに頷きながら門の扉に手を掛けた。

ああ、もうお別れなのか。寂しいと素直にそう思える。彼と長い時間会えなかったせいなのか、もっともっと話したいのに。

 

 

 

「じゃあね」

 

 

そう言えば一つ気がかりがある。家を帰る前の両親との会話。総一郎さんの家族のことだ。私は居間に入れて貰えず、行儀が悪いと思いましたが、襖越しに耳を立てていました。

 

 

「総一郎さん―――」

 

結局詳しいことは何もわからず。何があったのか。気になるが、聞く勇気のない私。一歩踏み出せない自分に嫌気がさす。

 

 

 

「ん?」

 

 

総一郎さんは優しく微笑んで私の言葉を待っています。

私は彼に会えてとても嬉しいのですが、いつも違和感を感じるのです。

彼の微笑みは十分に人を惹き付けるモノです。ですが、私が知っている総一郎さんの笑顔はそんな殻の中に閉じ籠ったような固いモノではなかった。そんな、作り物では無かったはずなのに。どうして。

 

 

 

「あ、あのーーー」

 

引き止めて、聞かなければ。貴方に何があったのですか。あんなに好きだったピアノの話もしないし。ご両親、妹さんは?どこに行ったのです?

ああ、聞きたいことが多すぎて上手く言葉に出来ない。

 

 

 

「どうした?」

 

彼は優しい。いつも私の言葉を待ってくれる。

私が口下手なこともよく知っているから、こうやってじっくりと待ってくれているのだ。

私はぎゅっと拳を握り混みました。

 

 

 

「総一郎さんは変わりました。笑顔も減りましたし。何が貴方を変えてしまったのですか!?」

 

 

 

刹那、彼の微笑みがすうっと消えました。

そう、道場に飾ってある能面のような表情に変わりました。

 

 

 

 

「園田―――変わらないものなんてないよ」

 

 

 

「っ……!」

 

彼の双眸が私を貫いた。氷のような冷たい瞳が私の体を凍らせていきます。暑くないのに、背中から汗がとまりません。怖い、怖い、怖い。

それ以上、踏み込むな。彼の目は私をそれ以上近づけまいと拒否していました。

 

 

 

「早く家に入れ、風邪ひくぞ」

 

 

初めて受ける彼からの明確な拒否。それは私の心臓にナイフのように突き立てられました。

 

 

「総一郎、さん」

 

 

彼はもう何も言わず私の頭をもう一度撫で、去っていきました。私の声は上手く出てこなかった。口と喉がカラカラになっていた。

 

 

 

「でも、私はーーー」

 

大人になるというのは、彼の言う通り、変わっていくことなんだと思います。私、穂乃果、ことりの関係もいつまで続いていくかわかりません。

ですが、でも私は信じたいのです。皆ではしゃいで笑っていたあの日々がいつまでも続くと。

 

 

 

 

 

 

総一郎さんの名前を呼ぶ私の声は、暗闇に吸い込まれていった。私の声は貴方に届いたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 







はい、更新遅くなりました。すみません。
とりあえず謝っとこうというわけではありません。


ことほのうみって書きやすい。三人の役割が明確に決まってるから絡ませ易いんですよね。笑
というか、ヒロインのハラショー姉さんがまったく出番が無いとかこれ如何に!?
まあ、その内出てくるからいいか(投げ槍)
(そういえば、うみちゃんお願い!の時のことりちゃんの胸凄いよね…こいつぁ、すげえ)


真姫ちゃん初登場です。
本作では初めてピアノを弾きに来たシーンですね。これ以降、真姫ちゃんは勝手にピアノを使います。主人公が許可しました。ノックせず入られるのは困るので。笑
主人公にロックオンされた彼女はどうなるのか。(お断りします!って言わせたい)

虎穴に入らずんば虎児を得ず!!を実行した海未は撃沈しました。虎の尾っぽをグリグリと踏みつけてしまったようです。昔の主人公を知っている海未からすれば、今の主人公はとても違和感があったんですね。(ほのかとことりはどう思っているのだろうか)


次回もお楽しみにお待ちください。
遅くなりすぎないように頑張ります。

激励や誤字脱字報告お待ちしております。

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