ラブライブ! きっと青春は聞こえる -情熱を紡ぐ物語-   作:コロロン☆

2 / 5


極秘ファイル:スクールアイドル計画





第二話:スクールアイドル計画

ある日の音ノ木坂学院。

授業終わりのチャイムが鳴り、放課後がやってくる。

 

 

ようやく音楽の授業が終わり、黒板に書かれた文字を丁寧に消していく総一郎。教室には、3人の少女が残っていた。

 

 

 

「すくーるあいどる?何だそれ」

 

総一郎は黒板を消しながら、うさん臭そうに後ろを振り向く。音楽の授業の終わりに、3人の生徒が話を聞いて欲しいと残っていた。教卓前の最前列に座った3人。彼が幼いころから良く知る3人組である。

 

 

「そうちゃん、名案だよ名案!ほのかのビッグアイデアだよ!なんと、私たち、スクールアイドル目指すことにしたの!」

 

彼女は高坂穂乃果。元気いっぱいの音ノ木坂学院2年生。和菓子屋穂むらの長女である。ちなみに、総一郎は穂むらの大ファンであり、あげまんじゅうが大好物だそうだ。

 

 

「穂乃果。神崎先生ですよ。しかも、私はまだやるとは一言を言っていません」

 

園田海未。しっかり者の2年生。高坂穂乃果の保護者的存在。成績優秀。実家は日本舞踊、剣道の家元とあって礼儀もしっかりしている。

総一郎は過去に園田家の道場に通っており、剣道・舞踊でもなかなか筋が良いとの評判だ。海未とは兄弟弟子のような関係でもある。まあ、それは彼だけが勝手にそう思っているだけだが。彼女の父親はいつ園田の婿に来るのかと今か今かと待っているのはまた別の話。

 

 

「私は面白いと思うんだけどなあ」

 

南ことり。あの南理事長の娘だ。総一郎はこの子の機嫌だけは損ねるわけにはいかない。彼の首がかかっているのだから。彼女の一挙手一投足に目を光らせている。

彼女も成績優秀。裁縫や絵を描くことが得意の芸術家タイプだ。

 

3人とも総一郎とは年が離れているが、彼女達の幼馴染というか、近所のお兄さん的存在である。小さい頃から、兄のような立場で3人の子守をしていたのだ。それ故に、3人も彼のことを兄のように慕っている。

 

 

「えー、だってそうちゃんはそうちゃんだもん!私たちの先生になっても穂乃果にとってはお兄ちゃんだもん!」

 

穂乃果は頬を膨らませて海未に向かって抗議する。

頬っぺたがあげまんじゅうみたいになっている、美味しそうだなと総一郎は思っていた。

 

 

「ここは学校です。そうちゃ…いえ神崎先生にも立場があるんですよ」

 

「あー!海未ちゃんも今、そうちゃんっってーーー」「ーーー言ってません!」「言ったよー!絶対に言った!」

 

 

穂乃果と海が言った言ってない抗争を繰り広げるている中、ことりは総一郎に本題について話していた。彼女たちが結成しようとしているスクールアイドルについてだ。

 

 

「それでね、今日は総一郎お兄ちゃんにお願いがあって来たの」

 

「なんだ、南。お願いって?しかし…相変わらず騒がしいな、園田と高坂は」

 

ふっ、「お兄ちゃん」良い響きだ。そう彼は考えていた。懐かしい響きだった。周りの雑音には耳を貸さず、ことりのさえずりに耳を傾けた。穂乃果、海未の話は無視してもいいが、やはり理事長の娘の話には注意しなければならない。

 

 

「穂乃果ちゃんと海未ちゃんは放っておいて。それでね、私たちスクールアイドルを結成しようと思ってて」

 

「いや、だから何度も言ってるけど、スクールアイドルってなんなのさ」

 

ことりがこれを見てとスマートフォンを取り出しある動画を再生する。スクールアイドルの中でも断トツの人気を誇るユニット。AーRISEのライブが流れ始めた。再生数は既に100万回を超えた殿堂入りの映像である。

 

 

AーRISEの3人が小さい画面の中で踊っている。

 

 

「これがスクールアイドルか・・・凄いな」

 

総一郎は彼女たちから、小さい画面から飛び出しそうなほどのエネルギーを感じた。

3人の息もぴったり、美しいダンス。激しいダンスを踊っている中でも音程を外さずに見事に歌いきっている。それもそうだ。彼女たちはUTX学園芸能科のトップ。卒業と同時に華々しくデビューする予定の3人なのだ。

 

 

海未との掛け合いに飽きた穂乃果が、二人の会話に入ってきた。

 

 

「でしょでしょ!すーーっごく可愛いでしょ!UTX学園のスクールアイドルなんだよー!

穂乃果ね、UTX劇場にまで見に行ってきたんだけど、本当にキラキラしてて―――それで音ノ木坂でもスクールアイドルを結成すれば……」

 

 

海未も疲れたのか、やれやれといった風に穂乃果を遠くから見つめている。スクールアイドルの話をする穂乃果の表情は本当に楽しそうだった。3人で何か始めようとする時、いつも2人を引っぱいていくのは穂乃果だった。後先考えずに、まず行動する。その勇気に海未もことりも元気づけられ一緒に前に進める。

 

 

 

―――変わらないなこいつらは。

 

 

総一郎は穂乃果の表情を見て、彼女の本気度を感じた。何を言っても聞かない表情だと思った。懐かしい、穂乃果は何も変わらない―――数年ぶりに穂乃果のこんな表情を見て、昔を思い出した。昔から彼女のこの表情には逆らえなかった。今回もそんな気がする。

 

 

 

「ーーー人気が出れば、音ノ木坂の入学希望者が増えるって言いたいのか?」

 

「そうそう!さすがそうちゃん!話がはやくて助かるよー!」

 

「それで穂乃果が、神崎先生に顧問をお願いしたいと言い出しまして」

 

「お兄ちゃんが顧問になってくれたら百人力だよ!ことり、もっと頑張れるよ!」

 

 

幼馴染のお兄さんの信頼度はかなり高いらしい。伊達に、小さいころから3人の面倒を見ていない。まあ、総一郎が家族と海外に何年か行ったりして、空白期間はあるが幼少時は本当の兄のように3人と一緒だった。

そんな彼が顧問になってくれれば、自分達の大きな力になってくれると三人は思っていた。

 

 

 

「――――でも部活の申請は5人必要だろ。まだ部活でも同好会でもないのに顧問なんてできないよ」

 

 

え?っと三人は目を見開き、お互いに顔を見合わせる。穂乃果は口をぱくぱくさせ、死にかけの魚のような顔をしている。海未は確認の為にもう一度、本当かと総一郎に再度問いかけた。

 

 

「ほんとだよ?5人いないと申請できないの。生徒会長にでも確認してみなよ」

 

 

3人の阿鼻叫喚の声が音楽室に響いた。

先が思いやられるなあ、と総一郎は小さく呟いた。

 

 

 

***

 

 

 

 

三人が生徒会室に向かった後、神崎総一郎は音楽準備室で優雅に紅茶を飲んでいた。部屋には、革張りの大きなソファと机。机の上にはデスクトップパソコンが置かれている。

 

 

 

 

 

 

「ようやく、放課後か」

 

授業で気を使った後に、あの三人の相手をするのは骨が折れる。多感な女子高生の相手というだけで大変なのに、あの破天荒三人組の相手となるともう……。穂乃果に関しては相変わらず二人を振り回しているみたいで、海未とことりの苦労が忍ばれる。

 

 

「しかしまあ、スクールアイドルとはね」

 

紅茶はやはり美味しい。女を抱いたときの甘美な味によく似ている。少しだけ苦味があるのも、その甘さをより引き立てる調味料のようなものだ。

 

 

先ほどはスクールアイドルを知らないと言ったが、あれは嘘だ。実は穂乃果も行ったというAーRISEのライブも見に行った。桁違いの倍率だったが、昔のツテでチケットを手に入れることができた。何故ライブか?今時の中学生の関心事の第一位にスクールアイドルがあったからだ。ゴールデンタイムの低俗な番組でもよく特集が組まれている。ミーハーな女子ほどスクールアイドルに嵌っているみたいだし、手っ取り早いアピール方法だと考えたわけさ。

 

 

 

そして、彼女達AーRISEを見て思ったんだ、これしかないって。熱狂的ファンを持つ彼女達を参考に、それを超える最強のスクールアイドルを創る。そうなれば必ず。

 

 

パソコンを立ち上げ、パスワードを入力していく。

そして、【極秘】と書かれたファイルを開き、空欄に3人の名前を入力していく。

まずは、美少女幼馴染3人ゲット。純粋な思いを利用するようで悪いが、彼女達から言い出してくれたのは僥倖だった。利己的な俺の思いとは大きく違うが、行き着くところは廃校阻止。そうさ、あいつらも俺を利用すればいい。winwinの関係、ギブアンドテイクだよ、穂乃果。これを知ったら潔癖な海未は怒るだろうな。ことりは何も言わないと思うが、寂しそうな表情をするのが想像できた。穂乃果は何て言うだろうな。

 

 

 

「穂乃果、海未、ことり・・・・・・許しは乞わないよ」

 

 

あと、6人。ここからがスタートだ。必ず成功させてみせる。さて、生徒会室にでも行って、あの3人の少し様子を見に行くか。絢瀬に虐められてるかもしれないしな。

 

 

 

「ふふふ、AーRISE。首を洗って待っているがいい。

いつかお前たちを王座から引き摺り下ろしてやる!ふははははははは!」

 

 

 

 

 

 

パソコンの画面には【スクールアイドル創設による、生徒募集人数増加の有効性】という主題の企画書が開かれていた。総一郎は電源を落とし、穂乃果達が向かったであろう生徒会室へと足を早めた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

私、高坂穂乃果は今、生徒会室に来ています。

今の穂乃果の気持ちは少しドキドキというより、ビクビクって感じかな。

え?悪いことして呼び出されたわけじゃないよ!今日は部活動の申請に来たの。音ノ木坂の廃校を阻止する為にスクールアイドルの部活を設立するのだ!

 

そんなかんやで、穂乃果達は生徒会にいます。もちろん、海未ちゃん、ことりちゃんも一緒です。海未ちゃんはまだアイドルが恥ずかしいのか、はっきりとやるとは言ってくれてないんだけど、ここまで着いてきてくれてるってことはOKってことだと思ってる。これは幼馴染みの感ってやつだよ!

 

 

それで、生徒会室にやって来たのはいいんだけど、今生徒会室には不穏な空気が立ち込めています。 ごごごご、と生徒会長の背後から不機嫌オーラが出ているの。すっごく機嫌が悪いみたい。お腹空いてるのかな。私、今飴くらいしか持ってないよ?

 

 

 

「ーーーこれは?なに?」

 

何かないかポケットの中を探してたら、生徒会長さんからピシャリと申請用紙を突き返されました。うええ、いつにも増して怖いよお、そうちゃーん助けてー!

 

 

「ア、アイドル部の申請に来ました!」

 

だけど、穂乃果は負けません!絶対にスクールアイドルになって、学校を救うって決めたんだから!

 

 

「部員は貴女達を入れて3人。部活の申請には最低でも5人集めること…そして、顧問になってくれる先生もみつけること。まあ、今この学校にはそんな暇な先生がいるとは思えないけど」

 

 

「あ、顧問の先生は、そうちゃんにお願いしてまーす!」

 

へっへーん。そこは抜かりなくそうちゃんにお願いしてますよーだ。生徒会長残念でした!

そうちゃんは普段はとても厳しいけど、本気でお願いすれば絶対応援してくれるんだ!

それは昔から。歳が離れてて近所のお兄さんって感じてたまーにだけど穂乃果達と遊んでくれてたんだー。

そうちゃんはピアノがとっても上手で、昔はいつも伴奏してもらって歌の練習をお願いしてたこともあるんだよ!今の私達と同い年くらいの時にはコンサートも開いたくらいで、とっても凄かったんだってお母さんとお父さんが言ってた。そのあと家族で海外に行っちゃってなかなか会う機会が無かったんだけど、音ノ木坂で再会できて、穂乃果はとっても嬉しいのです♪

そうちゃんに認めてもらうためにも、絶対に生徒会長には負けません!

 

 

「そ、そうちゃん…?」

 

「えりち、神崎先生のことやで」

 

「神崎先生は生徒会の顧問です。あなた達のお遊びに付き合っている暇はーーー」

 

 

 

 

「ーーー絢瀬、別に僕は構わないよ。生徒会顧問といっても特に何もしていないし」

 

 

あ、そうちゃん。入口からひょっこり顔が出てる。今までの話を聞いたのかな。そっか、穂乃果達が心配でついてきてくれたんだね。えへへ、昔みたいで懐かしい。ありがとう、そうちゃん!

 

 

 

「そうやね、別に掛け持ちしてもかまわんやろ。先生自体の数が少ないから、掛け持ちしてる人多いしね」

 

 

副会長さん!ナイスフォローだよ!的確な援護射撃に穂乃果のハートは燃え上がっているよ!

このまま生徒会長を突破してみせる!

 

 

「くっ…なんでこの時期にアイドル部を始めるの?あなたたち2年生でしょ」

 

「私たち廃校をなんとか阻止したくて!今スクールアイドルって凄く人気があるんですよ」

 

今をときめくスクールアイドル。私達はそれを目指してます。今スクールアイドルは全国的に流行ってて、一校に一アイドルは当たり前で熱心な学校だと、学校がバックアップしててメディアにも取り上げられたりするんだから!だから、音ノ木坂でもスクールアイドルを結成して活躍すれば、自然と人も集まるだろうし、そうすれば廃校なんて話は無くなるって考えたんです。

 

 

「だったら尚更認められないわ…5人集めてきてもね」

 

「なっ、どうしてですか!」

 

海未ちゃんが生徒会長に詰め寄った。あの顔の海未ちゃんは怖いときの海未ちゃんだ…怖い。

 

 

「部活は生徒を集めるためにやるものじゃない。思いつきで行動した所で状況は変えられないわ」

 

「うっ……」

 

うう、言い返せないよお。まだ人数も集まってないし、人気がでるかもわからないし。

穂乃果も不安になってきたよ。海未ちゃんとことりちゃんも下向いてるし、どうしよう。

そうちゃん、穂乃果達を助けて!そうちゃんは助けてくれるって信じてる!

 

 

 

「(自分で、どうにかしろ)」

 

入口に目を向けると、口パクでそうちゃんがそう言っているのがわかりました。穂乃果は絶望した!裏切り者!そうちゃんの裏切り者!!えーん、今日は退散するしかないよ!海未ちゃん、ことりちゃん一時撤退だよ!

 

 

穂乃果達は、そのまま生徒会室を後にしました。今日は負けたけど、絶対に諦めないんだから!

やるったらやる!穂乃果は必ずスクールアイドルになります!

 

 

 

 

***

 

 

 

 

穂乃果達が去った後、生徒会室には3人の姿がある。

絵里と希と総一郎の3人は嵐のようにやってきて去っていった穂乃果たちを思い出していた。

 

 

「ふむ。先ほどの台詞どこかで聞いたことないか…東條」

 

「そうやね、そうちん♪そっくりそのまま誰かさんに聞かせてあげたいわ」

 

 

「う…希は一言多いのよ。それで、先生、なんであの子たちの味方をするんですか!先生は生徒会の顧問ですよね。私の・・・私たちの味方でしょ?」

 

 

「なっ、エリち!? それは神崎先生への愛の告白――――?」

 

絵里は言葉を失って、パクパクと口を開いていた。顔を真っ赤にして、希の肩を叩いている。

 

 

「ははは、なんだ、そうだったのか、絢瀬。いやー、こんな綺麗な子にそういってもらえるなんて嬉しいなあ」

 

 

「先生!からかうのもいい加減にして下さい!」

 

ばん、と机を叩き絵里は立ち上がる。彼女は顔を真っ赤にして、総一郎を睨みつけている。まあまあ、と希が絵里の頭を撫でると彼女は椅子に座り直した。ふん、と総一郎に対してそっぽ向いている。

 

 

 

「ごめんごめん。絢瀬、僕は別にあの3人に肩入れしているつもりはないんだけどね」

 

くっくっく、と笑いを噛み殺しながら、絵里に対して弁明する。総一郎は穂乃果達に特別甘いわけではない。どうすれば、学校を救えるのか。自分達では何ができるのかを自分達なりに考えてきたので、それに対して協力しているだけだ。まあ、総一郎自身は穂乃果達を利用しようとしているのだが。それは口が裂けても言えない秘密。

 

 

「だったら、私たち生徒会も独自で動く許可をーーー」

 

「ーーー何かいい案でもあるのかい?」

 

「これから、考えます」

 

痛い所を突かれたのか、絵里は下を向き押し黙る。唇を噛み、瞳には悔しさを滲ませている。総一郎はその様子を見て、まだ何をしたいのかを見つけれていなことに落胆した。絵里から生徒会で動く許可が欲しいと言うが案を持って来ないことに、以前から彼は不満を持っていた。

 

 

「そうだ、絢瀬もスクールアイドル始めればいいじゃないか。君はスタイルがよくて可愛いし、バレエもしていたんだろ?」

 

「先生、また私のこと馬鹿にしてますか?」

 

「いいえ、まったく。僕はいつでも真剣だよ」

 

これはどうだと案を出せば、これは嫌だと言う。子供だから仕方ないとは言え、本当にこの子は学校を救うつもりがあるのかと総一郎は思った。

 

 

希は黙って二人の様子を見ていたが、見てしまった。総一郎の瞳が細められ冷えていくのを。

 

 

「あんなお遊びには私は付き合えません」

 

「お遊び、か。絢瀬が駄目となると、他の候補は」

 

総一郎はぶつぶつと言いながら手を顎に当て、一人で考えごとをし始めた。こうなると、この人は人の話を聞かない。二人はもう慣れっこだった。

 

 

 

そんな彼を見つめながら、希は絵里に話しかけた。

 

「エリち、綺麗、可愛いって言われて嬉しい癖に」

 

「ななな、何言ってるのよ希。別に、私はそんな、何も」

 

希の唐突な言葉に、絵里は狼狽し、小声で否定する。

 

 

「今日はいっぱい褒めてもらって嬉しい癖に。エリちは素直やないなあ」

 

「素直も何も私は別に…」

 

「待っとったって、何も手に入らんよ?」

 

「何よ……」

 

「自分の気持ちに嘘つかんでもええんやない?」

 

ちらりと、希が目線を総一郎に向ければまだぶつぶつと独り言を言っている。絵里もじっと総一郎を見つめている。その頬にはまだ赤みが帯びている。

 

「私はーーー」

 

 

絵里はまだ自分の気持ちがよくわからない。自分は何を求めているのか、何をしたいのか。彼女が自分の気持ちに気付くのはまだまだ先の話であった。

 

 

 

「そうだ!!」

 

総一郎は天啓を受けたかのように、天を仰ぎ笑っている。そうだ、やはりこれで行こう!と高笑いしている。

 

 

「「せ、せんせい?」」

 

「先生は名案を思い付いたので音楽室に帰ります!ちゃんと仕事しておくよーに!」

 

さらば!と彼は風のように去って行った。生徒会室には、呆然とした顔の女生徒二人が残された。

 

 

「そうちんってさ、カッコいいのにたまにへんなとこあるんよな」

 

「そうね。でも、そこも先生の可愛いところだと思うけど…」

 

「お、エリちも少し素直になった?」

 

「もう!バカ…」

 

「ところで、名案てなんやろな」

 

「さあ…?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数日後の夜。音ノ木坂学院にて。

 

 

 

 

もう夜も更け、理事長室にのみ光が灯っている。その光も理事長の机に置かれている簡易灯のみだ。

そこに二人の男女が向かい合っていた。暗く、お互いの表情を読むことは難しい。

 

「神崎先生、これは?」

 

机に置かれた一つの企画書。表紙には秘の文字がある。青年が学校の書類仕事そっちのけで徹夜にて作成したものだ。

 

「理事長、音ノ木坂学院高校を救う唯一の方法です」

 

神埼先生呼ばれた、と青年が口を歪め笑った気がした。

 

「これが、唯一の・・・・・・」

 

ごくり、と南理事長はつばを飲む。尋常ではない覚悟を神埼総一郎から感じている。表情は読み取れないが、真剣なことは伝わってくる。

 

「廃校正式決定の時期までを逆算してスケジューリングしています。

予算案、市場規模、他校での実績を加味しています。達成の可能性は十二分にあると考えています」

 

パラパラとページを捲っていくと、まさに簡潔にまとめられた資料となっていた。時間がない中で、ここまでわかりやすく纏めてくるとは思ってもいなかった。彼女は自分の口利きで採用した青年がここまでやれるとは思っていなかった。音楽しかできないと、本人とその叔母もはっきりと言っていたから。

 

 

「そうね、とても面白そうだわ。予算も取れない額じゃないですし。しかし、アイドルをやる生徒が決まっているのですか?」

 

「まだ、計画段階ですが・・・・・・目星は付けています」

 

「わかっていると思いますが、部活動は生徒の物ですよ」

 

顔は見えないが、理事長の声が少し非難めいたものに変わった。

 

 

「わかっています。生徒の自主性を一番に、ですよね。もちろん無理矢理なんてしません。有志を募ります。廃校から音ノ木坂を救おうってね」

 

彼女は見た。青年の瞳の奥に炎が灯っていることを。

しかし、本当に学校のためを思っているのかはわからない。その思いがとても歪んで見えたから。

だが、彼に賭けてみたいと思わせるほど、彼から情熱があふれていた。

 

 

 




なんということでしょうか。
穂乃果達の他にもスクールアイドルを結成し、廃校を阻止しようとする勢力があるとは。
ここから彼のスクールアイドル計画が始動した。




*加筆修正するかもです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。