ラブライブ! きっと青春は聞こえる -情熱を紡ぐ物語-   作:コロロン☆

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本作の主人公

名前 神崎総一郎 (カンザキ ソウイチロウ)
性別 男
職業 音之木坂学院高校 音楽担当講師 3年目
年齢 25歳
特技 ピアノ、歌、作曲も少々、運動も得意。
苦手 家事全般。料理は壊滅的。お茶を美味しく入れる才能だけある。




第一話:廃校がスタート!?

桜咲く季節、春。新学期に向けて希望に満ち溢れた生徒たちの始まりの日。産毛の小鳥たちの小さいはばたきが始まる日。しかし、現実は無常である。小鳥達の産毛をむしり取ろうとしている。まさに鬼畜の所業である。

 

 

音楽室のピアノの前に一人の青年が座っていた。頭を抱え、最悪だ、と何度も絶望の言葉を発している。

青年の名前は、神崎総一郎(かんざきそういちろう)という。音ノ木坂学院高校・音楽講師である。3年目になり、ようやく学校、社会人生活に慣れてきたばかりであった。しかし、先ほど先日内定した廃校の知らせが彼の耳に届いた。

 

 

 

「最悪だ、人生至上最低最悪の新学期だ」

 

正式には、来年度より新入生の募集が定員を下回った場合の停止だが。このままいけば3年後に音ノ木坂は廃校というスケジュールとなる。その悪報の詳細が南理事長より朝の職員室で発表された。彼が就職した去年から、生徒数減少による統廃合の話は出ていた。いや、それ以前に音ノ木坂の廃校の噂は地元では有名な話であった。しかし、新学期一日目にそれを言うかどうかは別だが。彼にとってはショックすぎるできごとだった。

 

 

 

 

 

彼は今朝の悪夢のような職員室での朝礼を思い出していた。

 

 

 

「―――理事会の最終決定により、音ノ木坂学院は今年の入学希望者が定員を下回った場合、廃校とします」

 

「は、廃校……」

 

「神崎先生、何か?」

 

「いえ、南理事長。何でもありません。正式な発表はいつごろされるのですか?」

 

神崎総一郎は不満を顔に出さないよう表情を引き締めた。講師である彼は理事長の評価を落とすわけにはいかない。

理事長の友人である叔母のコネで入った彼には理事長の言葉は絶対だ。笑顔を絶やさず、常に機嫌を窺い、必ず生き残る。

なんともプライドのない人間であろうか。まあ、彼曰く、プライドでは飯を食えないとのこと。

 

 

 

「そうね、来週の始めの全校集会で発表するつもりです。では、先生方、このことは発表までご内密に。いらぬ混乱は生みたくありませんので」

 

理事長は一礼して、職員室から出ていく。いくら噂は出ていたとはいえ、急な決定に皆驚いていることだろう。

しかし、総一郎の予想とは真逆だった。他の教師は落ち着いたような表情をしている。やっぱりなくなるのは悲しいけどこれも時代の流れかねえ、なんて言っている始末である。公立高校なので正式な教師は次の働き口は自然と用意されるが、講師の神崎総一郎は言わずもがな。音ノ木坂がなくなる、つまり、ニートだ。

 

彼がニートになったとして、人より少しピアノが弾けるくらいのニートだ。音楽性のあるニートだが生産性は全くない。音楽大学を卒業し、大卒で教員資格持ちではあるが他に特筆すべき能力があるわけではない。無内定にて途方にくれていた大学4年の冬に彼の叔母と当校の理事長が旧知の仲であることを知り、コネで就職を果たしたのだ。本人曰く、人生一生分の土下座をしたという。

 

 

 

 

総一郎は今朝の悪夢のような出来事を思い出すのをやめた。今更、嘆いても仕方がない前に進まなければならない。椅子から立ち上がり、窓に向かって近づいていく。窓を開けると、風を感じる。暖かく、ほのかに花の香りがした。

 

 

 

「よし、決めた。やるしかない」

 

彼は決意した。自分自身の明るい未来の為に。3年後も、無事に職があるように。他が頼りにならないのであれば自分自身で動くしかない。そう決意した新学期の初日。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

一週間後、全校集会にて廃校の知らせが発表された。学内での廃校の知らせを受けて、生徒の反応は教師陣とあまり変わらなかった。

やはり自分たちが入学する年から、近々廃校の噂が出ていたせいか、皆やっぱりかーといった反応だ。それもそうだ、3年生は3クラス、2年生は2クラス、1年生は1クラス。年を追うごとに一クラスづつ減っている。誰かが意図してそうしていると疑うくらいに、綺麗に廃校への道を突き進んでいるのだ。

 

しかし、悲しむ人間がいないわけではなかった。3年間通っている3年生には思い入れが深い者が数多くいる。また、1,2年生にも廃校阻止の声が上がっていた。

そして、学内の人間だけでなく、地区の卒業生からも反対の声は多い。やはり伝統のある学校だけに卒業生も多く、その影響は計り知れない。

 

 

 

「やっぱり廃校になるのか……」

 

 

放課後、生徒はほとんど下校し、廊下には誰もいない。綺麗な夕焼けが廊下を赤に染めていた。

総一郎は学内掲示板に貼り出された一枚の紙を寂しそうに眺めた後、校内を歩きながら考えこんでいた。

 

 

先週、理事長より発表を直接聞いた彼であったが、こう文書で知らされるとなると、心臓にナイフを突き立てられるようだなと感じた。

音ノ木坂学院高校は、生徒数の激減により廃校となる。生徒数の減少原因は、少子化とドーナツ化現象だ。

それに加え、音ノ木坂以外にも高等学校は公私合わせて多数あり、ただの歴史のみが長所の音ノ木坂には不利な時代。

その象徴として、秋葉原にある最新鋭設備の整ったUTX学園が音ノ木坂の生徒を吸収している現実もある。

 

 

「ああ、一体どうすれば」

 

 

まだ良い案は浮かばない。今後の展開を考えながら、生徒会室のそばを通りかかった時。突如扉が開き、前方から強い力で引っ張られた。

 

 

「ちょっ、何だ!?」

 

時に、急にネクタイをを引っ張られ生徒会室に強制入場させられた。総一郎は突然のことに、対応できずに倒れるように部屋に入った。ガチャリと鍵をかける音がする。軟禁されたようだ。

 

 

「やっと見つけた!神崎先生!廃校ってどういうことですか!」

 

「そうちん、うちらそんな話聞いてないで!」

 

甲高い声が生徒会室に響いた。それを向けられた総一郎は思わず耳を両手で耳栓する。いつも聞きなれた声だった。ーーーああ、めんどくさい2人に巻き込まれたと総一郎は深く溜息をついた。

 

 

「お前ら…いきなりなんだ人を物みたいに。それと、もう少し離れろ、近いぞ絢瀬」

 

 

不機嫌そうな目でネクタイを引っ張り総一郎の顔を覗き込む金髪の美少女がいた。その後ろで、後ろに手を組みジト目を向ける巨乳の黒髪美少女。

総一郎は金髪碧眼・黒髪巨乳の女子高生に詰め寄られ、額に冷や汗を浮かべていた。しかし、金髪美少女からネクタイを取り返し、総一郎は手近にあった椅子に腰を下ろした。

 

 

 

「わわっ……!私は廃校の話なんて聞いていません。これはいったいどういうことなんですか?」

 

金髪碧眼の少女は総一郎から離れる。顔が真っ赤だ。彼女の名前は絢瀬絵里。彼女はこの音ノ木坂学院の生徒会長である。真面目な性格と持ち前のリーダーシップから教師からの信頼も厚い。ロシア人の祖母を持つクオーターである。彼自身も、一目置く生徒である。頑固すぎるのが玉にきずであるが。

 

 

 

「絢瀬。だから、来年度からの入学希望者が下回った場合の決定だって―――」

 

「―――でも3年後には廃校になるんやろ。一緒やん」

 

言葉を遮ったこちらの怪しい関西弁JK。スピリチュアル巨乳の持ち主、東條希。生徒会の副会長で、絢瀬絵里の親友。タロットカードでの占いが得意だそうだ。

総一郎が未だ理解できていない生徒である。

 

 

「いやはや、僕に言われても困るなあ…あはは」

 

「先生はなんでそんなに落ち着いていられるんです!学校が無くなるんですよ!」

 

絵里は机をバンと叩き、総一郎の言動に噛みつく。少女の情動を軽く受け流し、彼は笑顔で子供だなあと小さく呟いた。

 

 

「っ!私は子供じゃありません!」

 

「まあまあ、エリち落ち着いて。そうちん。理事長は何か言ってたん?」

 

 

希は興奮している絵里をなだめ、話題を逸らす。いつも通りの光景がそこにあった。生徒会長と生徒会顧問の痴話喧嘩だ。いや、喧嘩というよりも一方的に絵里が突っかかり、総一郎がのらりくらりとかわす。更に苛立った絵里を希がなだめて終わるという流れが日常だ。

 

 

「神崎先生だ、東條。いい加減にしなさい。いや、何も。この話は僕が入る前からの問題だったからね。数年前から廃校の噂はあっただろう?」

 

笑顔から一転、軽く睨みを効かすと東條希は笑いながら返事をした。はーい、神崎先生♪と彼女は言い、窓際に背中を預けた。全く反省していないようだ。総一郎も半ば諦めているのか、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

生徒会室に沈黙が流れる。窓の外には淡い桃色の木々が揺らめいている。桜だ。季節は春。普通は新学期に期待が膨らみ、将来への希望などに満ち溢れているはずであるがこの生徒会室には不穏な気配しかない。

 

 

 

絵里は下を向いて何か考えてるようだったのだが、何か思いついたのか顔を上げた。

 

「―――そうだ、定員を下回れば廃校なんだから、生徒会独自に生徒を集める活働を」

 

「絢瀬、良い方法があるのかい?先生たちが頭を絞ってここ1年活動してきたけど、今年の入学生は1クラス。この結果を踏まえての決定なんだよ?」

 

「だからって先生!何もしないわけには……。この学校に何も思い入れのない先生には私の気持ちはわかりません!」

 

「ちょっと、、エリち、言い過ぎやで。落ち着いて」

 

またヒートアップする絵里。それをまたまたなだめる希。今日の理事長の突然の発表がかなり頭にきているようだ。普段の冷静沈着な生徒会長像は一体どこに。碧眼には赤い炎を宿している。

総一郎はその様子を見て微笑んでいる。だが、その瞳はどこか冷えたようにも見えた。

 

 

 

絵里からすれば、祖母、母が通った学校を守りたい。今は彼女だけだが、来年には妹の亜里沙が入ってくる。彼女は自分だけではなく、過去そして未来も守りたいと考えている。いや、支配されているといった方がいいのだろうか。

 

 

 

「絢瀬、そう怒鳴って物事が解決するのかい?東條の言うとおり、少し落ち着きなさい」

 

「くっ、すみま…せん」

 

絵里は唇を噛み、再び視線を下に移した。自分でも言い過ぎたと思ったのかばつの悪い表情だった。

彼女はいつも総一郎に論破されている。いつも彼の言っていることは間違ってはいない。ただ自分が感情的にぶつかっていることを、絵里自身もよくわかっていた。だが、頭でわかっているが何故か感情を抑えることはできなかった。

 

 

 

 

再び重い空気が流れる。その空気を破ったのは朗らかに笑う青年だった。

 

 

 

「―――ってさ、僕が理事長に言われてね。いやー、参ったよ。怖かったよ、理事長。思いつきでなんとかしようって思って、理事長に直談判したら一蹴されてね」

 

 

彼のいつもの落ち着いた雰囲気とは少し違う、子供っぽい、冗談めいた笑顔で二人に微笑む。先ほどの暗い雰囲気をぶち壊すようにウインクで二人に笑かけた。

 

 

「何とかしようって思う絢瀬の気持ちは凄く伝わった。先生も凄く嬉しいよ。先生自身もさ、自分が働く学校を無くしたくないって思ってるからね。そこで、だ。

まずは僕じゃなくて絢瀬の気持ちを理事長に直接ぶつけないと。結果は僕がさっき言ったことと同じになるかもしれないけれど、行動するのと行動しないのでは全然違う。君の気持ちは本物だろう?」

 

 

行動を起こすことで運命を変えられる可能性が初めて生まれるはずだ、と青年が微笑むと、少女たちは生徒会室を後にする。 

―――先生、ありがとうございます、絵理が優しく微笑んだ。総一郎はそれを見て、可愛い顔もできるじゃないか、とふと思った。

 

 

 

「行ってらっしゃい」

 

 

総一郎の通った声が、彼女たちの背中を押した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

笑顔で二人を送り出した後、自分自身の顔が歪むのが分かった。ああ、また片頬が吊り上がってるな。いかんいかん、いくら生徒がいないからといってこんな邪悪な表情をしていたら嫌われるな。笑顔笑顔。俺は、神崎総一郎は生徒思いの優しい先生を演じなければならない。

 

 

 

「まったく…あの二人の相手は面倒だな」

 

 

しかし、絢瀬は面倒な生徒だが愚直で扱いやすい。いやここは素直と言っておこうか。彼女は常に誰かのために行動していて、周りが見えていない。自分が何を求めているか分かっていないのだろう。そんな人間のコントロールは容易だ。こちらから少しヒントをやれば答えに向かって突き進むだろう。まあ、そのヒントが正しいかどうかは分からないけど、ね。

 

 

しかし、東條は要注意だ。ふわふわとしているが案外曲者の予感がする。あの巨乳は伊達じゃないはずだ。いや、胸は関係ないか。

そして、絢瀬の親友とあって今の彼女の状態を良く思っていない。絢瀬を導こうとしているのか。俺の計画の邪魔にならなければ、別段構わないのだが。

 

 

 

「まずは、生徒会からか―――」

 

生徒会を使って廃校阻止の流れを学校内で作る。正直に言おう、俺一人でできることは少ない。いや、訂正しよう、まったくない。廃校は外的要因による所が大きいのだから、学校全体、地域も巻き込んだ活動を目指していくことが必要だ。正攻法は生徒会を使うとして、アピールポイントの足りない音ノ木坂にどうやって目を向けさせるか考えないとな。今時の女子生徒が何に惹かれ、何を求めているのか調査しなければならない。

 

 

 

「ふふふ、理事長。俺を本気にさせたことを後悔させてやる」

 

先日、理事長室に乗り込んだ際に一時間ほど懇切丁寧にお説教を頂戴した。無計画なこと、場当たり的なことをしても時間の無駄とはっきり言われた。プランの提示があれば、話は違うそうだが。

 

 

 

「絢瀬―――絶対に廃校になんかしないよ。安心して先生に任せておけばいい。賢い可愛いエリーチカは俺の掌で踊っていればいいんだよ。

理事長が動かないのであれば、生徒達をフル活用して廃校を阻止するだけだ!ふふふ…見ていろ理事長、教師達め!あーはっはっはっはっはっはっはっは!」

 

 

 

 

 

 

全てを利用し、必ず廃校を阻止する。俺の物語はここから始まった。

 

 

 




生徒や先生の前では猫かぶりな主人公です。
猫をかぶっている時は僕。本音の時はついつい俺口調になっちゃいます。

一人になると、ふははは!とか言っちゃう痛い主人公です。

私は悪役主人公が大好きです。
王道な感じではないと思いますがお付き合いの程お願い致します。



誤字脱字のありましたら、ご指摘よろしくお願い致します。

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