咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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他作品に浮気しまくった結果がこれだよぉっ!(直訳:書き方忘れた)






10-1

 

 準決勝第二試合当日の朝。

 咲たち清澄高校の面々は朝食を食べながら軽いミーティングを行っていた。

 

「さて、昨夜は茶番劇を繰り広げちゃった所為で、今日のことをあまり説明できてなかったわ。といっても、咲以外には一通りしてるんだけどね」

「なんかすみません……久様とお呼びすれば許してくれますか?」

「もしそんな呼び方で私を呼んだら絶交するわよ?」

「やだなぁー冗談ですよ部長ー。……だからそんな目で見ないで下さい、ちゃんと反省してます」

「本当かしら……」

 

 咲の扱いにも慣れてきた久は大事な後輩をかつてない眼力で見据えるが、当の本人にはあまり効果が出ているとは思えず溜め息を吐く。

 元から咲はタフな精神力を備えていたが、ここ数ヶ月でその分厚さは高まるばかりだ。極め付けに、昨日の会見を経て全てのしがらみを振り切った咲は、最早相手がヤクザであろうと正面切ってガン飛ばし合えるのではないかと思える程に開き直っていた。間違っても女子高生が持つ精神構造ではない。

 色々な意味で将来が心配な咲。久はもう天高く匙を放り投げていた。

 

 先輩の義務とか知らない。

 学生議会長の責務? 何それおいしいの?

 この子の面倒はお姉ちゃんに任せたと、一度しか会っていないこれまた扱いが難しそうな照に責任を押し付けると心に決める。

 

「まぁいいわ、今更咲が大人しくなったら気色悪いもの。ねぇ和?」

「そうですね。大人しいに越したことはありませんが、自爆するのなら一人で散ってほしいです」

「そこまで言うなんて……っ⁉︎ 京ちゃん、和ちゃんがおかしくなっちゃったよ⁉︎」

「うん、まぁ大体はお前の所為だけどな」

 

 親友(?)の乱心に咲はもう一人の親友である京太郎に助けを求めるが、どうやらこの場において咲に味方はいないらしい。優希とまこに至っては目すら合わせてくれないのだから。

 このままでは昨夜に続いて茶番が始まると危惧した久は、大きく手を叩いて注目を集めた。

 

「はいはいそこまで。咲、失った和の信頼はこの後で取り戻しなさい。その為に必要なことは判るわよね?」

「はい、相手校の情報整理ですね?」

「その通りよ。尤も、最善は研究からなんだけど、そんな時間はもうないわ。だから軽くだけど総確認するわよ」

 

 久から回される資料を各々が手に取り内容に視線を走らせる。

 一昨日対戦した宮守女子、今日初顔合わせとなる有珠山高校に臨海女子。今日当たる三校の情報が資料にはまとめられていた。

 一通り目を通した後、咲は真っ先に思ったことを口にする。

 

「私の対戦相手は分かってないことが多過ぎてなんとも言えないですね」

「そうね、そこは謝るわ。私も一応研究してみたんだけどね」

 

 咲の対戦相手は実力が謎、この一言に尽きる。

 宮守女子の姉帯豊音。彼女に関しては、咲の予測通りであるならば能力を六つ持っている。《先勝》《友引》《先負》《大安》《仏滅》《赤口》──《六曜》を司る変幻自在な対局が豊音の武器の筈だ。しかし、その詳細は二つしか判明しておらず、一度勝ち越したとはいえ油断は禁物である。

 そして、残り二人はどういう打ち手なのかがこれっぽっちも分からない。

 有珠山大将──獅子原爽。

 臨海大将──ネリー・ヴィルサラーゼ。

 二人は和のようなデジタル特化でもなく、咲や淡のような規則性のある能力も一見するとない。だが、それでいて凡夫の打ち手とは異なる異質さを備えた得体の知れない面がある。

 

 唯一分かっていること。

 それは、彼女達が強いということだけだ。

 

 麻雀は運に大きく左右されるとはいえ、相手を打倒するに一つも有益な事前情報がないのは普通なら痛手──なのだが。

 

「……ふふっ」

 

 咲はその事実を一笑に付した。

 

「部長、私としてはこっちの方が楽しめるので別に構いません。それに、やることは同じです。全員叩き潰すだけ、だよね、和ちゃん」

「はい、早速約束を果たしてもらいますよ、咲さん」

「もちろん、その点は任せといて」

 

 相手の打ち筋が分からない、対策の仕方が判明していない、そんなのは茶飯事である。

 分からないのなら正面から踏み潰せばいい。対策が立てられないのなら力尽くで押し潰せばいい。咲は疑念を持つことなくそう考えている。それを可能にする実力の高さと、どんな状況に追い込まれようとも屈しない精神が、咲の自己愛にも似た圧倒的自信を築き上げていた。

 和も和で勝負事に関しては冷淡な考え方をしている。勝つのが目的なのだから、全力を尽くすのは当然のこと。負けて挫折するのなら所詮はその程度だったのだと、仲間でない者に対してなら彼女はそう言い切れる人格をしていた。

 

「…………はぁー……」

 

 この子達の面倒見るのやだなー、と久は後輩二人の物騒な会話を聞いて心底思うが、ギリギリ口には出さない。このくらいアクの強い面子でなければ、全国優勝など取れないのだと久は何となく理解していたのだ。

 

「まぁ、大将戦に関しては咲に任せるわ。あとは他のメンバーだけど、正直情報の少なさは否めないわ」

「特に有珠山が大将以外がどうにもぱっとせんのぅ。隠してるのか地の実力なのかが判断できんわい」

 

 唸るまこに全員が頷いて同意を示す。

 データから判断するに、有珠山の戦法は中堅まで耐え、副将で持ち直した後に大将でひっくり返すといった逆転を前提としたものだ。率直に説明するのなら、前三人は大して強くない。特に、通常ならオーダーの中でも要となる先鋒と中堅が弱過ぎる。

 これが本当に実力なのか、それとも力を温存しているのか、それがオーダー故に判断が付かないのだ。

 

「咲、あなたはどう思う?」

「そうですね……私はこれがこの二人の実力なんじゃないかと思います」

「理由はあるのかしら?」

「これといったものはないですが……大将と違って興味が唆られないから、とかじゃダメですか?」

「んー……、咲の直感は馬鹿にできないのよねぇ〜。……っま、咲の言う通り目的は変わらないしね。それに、有珠山も懸案事項だけど、やっぱり一番は臨海だわ。……流石に粒が揃ってる」

 

 渋々といった様子で久は呟く。事実、ネリー以外にも臨海のメンバーは名だたる雀士が揃い踏みであった。

 先鋒──辻垣内(つじがいと)智葉(さとは)。昨年度の全国大会個人戦では宮永照、荒川憩に次ぐ第三位の実力者。

 次鋒──(ハオ)慧宇(ホェイユー)。香港出身の留学生で、アジア大会においては銀メダルを獲得している強者。

 中堅──(チェー)明華(ミョンファ)。フランスから特待生で、欧州選手権で魅せたその闘牌から『風神(ヴァントール)』の呼び名が付いた世界ランカー。

 副将──メガン・ダヴァン。臨海の選手の中で唯一全国大会に連続で出場し続けているアメリカからの留学生。昨年の大会では、今年の個人戦予選において咲すら手こずらせた覚醒状態の龍門渕透華を相手に巧みに立ち回った戦績がある。

 全員が全員、超抜級の力を誇る精鋭であった。

 

「ほんに厄介な相手やのー。ずっと思っとったけど、やっぱり反則じゃけん」

「確かに、ズルいとは思ってしまいますね」

「そうだじぇ、個人戦三位に当たる私の苦労を察して欲しいじぇ」

「あら、私なんて世界ランカーよ。面白そうじゃない」

「でも、みんなお姉ちゃんより弱いんでしょ?」

『あれより強いのはそうそういない』

 

 あとお前もな、という部員一同の心の声が響き渡る。咲と同様、昨日の対局で大暴れした照も(最初からそうだったが)人外認定されていた。

 ただ、実際対局したらどうなるのだろうという素朴な疑問はあったが、誰が勝つにせよ碌なことにはならないと咲以外は想像を打ち切った。

 

「それで、咲。これだけだけど臨海のメンバーの力について、何か分かりそう?」

「うーん、そうですね……」

 

 咲の分析力を見込んで久は問いを投げると、咲は顎に手を当てて思考に時間を割く。

 沈黙は約一分。咲は口を開いた。

 

「まず分かりやすいのは中堅の『風神』さんですね。見る限り自風牌が集めることができるのかと。ただ、それだけで世界ランカーっていうのも何だか拍子抜けなので、使ってない奥の手の一つや二つ持ってそうですね。……まぁ、土壇場でもなければ使う気はなさそうですが」

「どうして?」

「ここの留学生達は全員何かを隠してる、そんな感じがします。私と同じですよきっと」

「つまり、相手をナメくさってるってことですね?」

「言い方に棘しかないけどもうそれでいいよ、和ちゃん」

 

 どうやら和の直訳を咲はお気に召さなかったらしいが、否定するのも面倒なのでそういうことにしておいた。

 

 それでも咲は全力で叫びたい。

 

 ──舐めてるんじゃないよ、遊んでるだけだよ!

 

 ……言ったら最後な気がしたので止めておいた。

 

 こほんと咳払いをして咲は話を戻す。

 

「あとは……うーん、先鋒かな? この第三位さんは何て言うんだろう……相手の和了りを潰せば潰すほど調子が上がっていく感じがします」

「それはどういうことだじぇ?」

「ちょっと説明が難しいけど……この人、対局開始直後は配牌や自摸は大して良くないんだけど、場の誰かが一向聴や聴牌になると異様に有効牌を引く確率が高い気がする。それで、聴牌した相手から直撃を奪ったり、他人を利用して邪魔することに成功すると、次の配牌が前より大物手で帰ってくる……そんな感じかな?」

「…………なるほど……言われてみれば、確かにその兆候があるわね。咲に言われるまで気付かなかったわ」

 

 久は素直に感心する。よくもまぁ一試合分程の牌譜でそこまで考えが巡るものだと。慣れもあるのだろうが、やはりその観察眼は常軌を逸していた。

 とはいえ、いくら咲でも分からないことはある。次鋒と副将、加えて大将の牌譜としばらく睨めっこしていた咲だったが、諦めたように資料を手放した。

 

「他はよくわかんないですね。実際対局すれば違うと思いますが……」

「いえ、十分よ、ありがとね。……んー、ミーティングはこんなものかしら。みんなからは何かある?」

「……あっ、でしたら私から」

「なに、和?」

「臨海の大将、ネリー・ヴィルサラーゼさんなのですが……」

「和、あなた何か知ってるの?」

「いえ、知ってるというほどではないのですが、ネットで少し彼女についての言及がありまして。曰く『ネリー・ヴィルサラーゼは運命を操る』と」

「運命〜っ?」

 

 飛び出た突飛な言葉に久は素っ頓狂な声を出す。それも仕方ないだろう、運命などという崇高な言葉、日常生活で使うことなどまずないのだから。

 

「お前さんからそんなオカルトワードが飛び出るなんて、わしゃあ驚きだわ……」

「のどちゃんらしくないじぇー」

「……いつから麻雀は、そんなファンタジーな単語が飛び交う代物になったのかしら?」

「……俺からしたら、咲はファンタジーの塊なんですが……」

『それは否定しない』

「でも、面白い噂ですね。火の無いところに煙は立たないって言いますし。それに、その点を踏まえるとこの牌譜も案外説明が付きそうですよ?」

「アホ言んしゃい。そんなもんがアリなら、全部運命で片が付くっちゅうに」

「私としても全く信じてはいませんが、咲さんのような人もいるので一応」

『……そう言われると否定し辛い』

 

 真剣な顔で唸る咲以外。

 全員が咲をどう思っているか心中曝け出したそのタイミングで、トントンと扉のノック音が鳴り来客が現れた。

 

「咲ー! 迎えに来たぞー!」

「衣ちゃん! 龍門渕さんにハギヨシさんも、いらっしゃいませ」

「……全く、呑気に。貴方は面倒ごとを引き込み過ぎですわ」

「咲様、私のことはどうか気にせずに」

 

 一直線に咲の元へと駆け寄り咲に抱き着いたのは、ここしばらくお世話になりっぱなしの天江衣であった。続いて現れたのは衣の保護者役である龍門渕透華と超万能執事ことハギヨシの二人。

 彼女達が此処に来た理由は至極単純、清澄高校の面々を会場まで送り届るためだ。

 久は真っ先に立ち上がり透華とハギヨシに頭を下げる。

 

「龍門渕さん、ありがとうございます。うちのおバカの所為で此方まで御足労頂く羽目になり、本当に申し訳ないです」

「御礼は結構ですわよ、貴方の苦労も察していますわ。これは衣のお願いでもありますし、それに……貴方たちだけで会場まで辿り着くのは現実的ではありませんから」

「……そんなにですか?」

「えぇ、先程下見して来ましたが、あそこまで盛り上がるものかと私ですら驚きましたわ」

 

 辟易とした苦い表情を浮かべる透華。久は堪らず冷や汗をかいた。

 どうやら、現在の会場は「目立ってなんぼ」という思考を持つ透華ですら引く程の大観衆に覆われているらしい。想像したくない状況に小市民な面々は身体を震わせる。

 全ての視線が咲に突き刺さった。

 

「咲、衣達が出来るのは咲達を送ることだけだ。流石に会場入りに関してはハギヨシの手にも余る。突破の手立てはあるのか?」

「うん、一応考えはあるよ。なので部長、私が出張ってマスコミを黙らせますから、そこは安心して下さい」

「……はぁ、その点は咲を信じるわ。さて、もういい時間だし、みんな行くわよ!」

『はい!』

 

 景気良く返事をして、清澄高校は出陣する。

 微かな緊張を皆が携える中で、咲だけは薄い笑みをたたえていた。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 全国高校生麻雀大会。

 本日その全国大会の準決勝第二試合が行われる会場は、常にない熱気に包まれていた。

 会場外には多くの観衆とマスコミがひしめき合い、満足な移動すらままならない状況である。唯一開かれた会場入り口へ至る道も、人が二人横に並べるかという隙間しか空いてない。

 

 加えて、会場内も人で埋め尽くされていた。内部にはマスコミしかいない状況であったが、所狭しと人と機材が散らばっている為、物々しさは外を遥かに上回っている。

 混雑という言葉すら生温いそんな混み具合だが、会場内にいるマスコミは言わば勝ち組である。

 なぜなら、此処にいれば皆の目的である少女の姿を確実にカメラに収められるのだから。

 

「いやー、凄いことになってますね」

「本当にね。……まぁ、それも仕方ないでしょ、彼女──宮永さんの注目度は、今の麻雀界においてトップと言っても過言じゃないんだから」

 

 カメラを構える男性記者の呟きに女性──西田順子は端的に答えを返す。彼女の言は大袈裟でも何でもなく、今この時においては純然たる事実だった。

 此処に集まった人の殆どの目的は唯一人の選手、清澄高校大将である宮永咲なのだから。

 

「まさかとは思ってたけど、本当にチャンピオンの妹だったのね」

「自分の予想が当たってたってことっすね」

「そんなのは結果論よ。私だって少なからず思ってたわ。……編集長にどやされたのは予想外だったけれどね……」

 

 順子は大きな溜め息を零す。

 ずっと咲の側にいる選手、原村和を追っていた二人にとって、咲の真実は青天の霹靂であった。内心薄々そうではないかと勘繰ってはいたのだが、結局確証は得られず、気付けばこの大舞台でのお披露目と相成ったのだ。

 咲の正体に近くにいながら気付けなかった二人は上司から説教を喰らい、名誉挽回の為に日の出前から張り込んでいたという悲しい社畜背景があった。

 

「編集長も人使いが荒いですよね?」

「……まぁ、マスコミなんてこんなものでしょ。とはいえ、連続で説教はたまったものじゃないわ。なんとかほんの少しでもインタビューにこぎ着けるわよ」

「うっす」

 

 順子は両頬を軽く叩いて気を引き締める。

 弱った気持ちを立て直し、改めて気合いを入れ直したまさにその時。

 

 ざわっ……! と、外からどよめきが会場内まで突き抜けた。

 

「来たわね!」

「……なんつーか、緊張感が一気に高まりましたね」

「……これが一選手の登場ってことが信じられないわ」

 

 まだ姿すら見えていないにも関わらず、先程までの浮き足立った空気は既に押し流され、今は緊張に満ちた独特の雰囲気が場を支配していた。

 会場内のマスコミは散々チェックし終えた機材を再度確認し、目当ての人物の登場を今か今かと待ちわびる。

 順子も当然身構えて会場入り口を凝視するが、そこで少しの違和感を覚えた。

 

「……ねぇ、少し静か過ぎない?」

「……確かに、もっと歓声が聞こえてもいい気が……」

 

 同じことを思った人が数人以上いたのだろう。囁きは波紋を広げ、やがて騒めきへと変わる。

 動揺の波は一気に拡散し、只ならぬ空気が場に流れ始めた。

 

 何かおかしい。でも、それが何なのかが分からない。

 

 各人がそう思い、得体の知れない不安を解消しようと入り口へと目を向ける。

 ガラス張りの入り口の外側は人垣に埋め尽くされていた。未だ目的の姿も、清澄の制服も視界に映らない。そもそも、あの人混みをそう易々と潜り抜けられるのかが疑問であった──が。

 

 その疑問は即座に覆された。

 

 突如として、人垣が真っ二つに割れたのだ。

 

 あり得ない現象に全員が目を見開く。

 取材陣や観衆が有名人を一目見ようと集まったこのような場において、人的補助なく人垣が割れるなどあるはずが無い。間違いなくパニックが発生し、最悪の場合は収集が付かなくなることだって容易に想像できる。

 だというのに、外は歓声の一つもないまま入り口までの道が完成し──

 

 

 

 

 

 そして、彼女は堂々と現れた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『…………っ⁉︎』

 

 ──その場にいる全ての人間が息を飲んだ。

 

 風に逆巻く茶色の短髪。

 紅玉のように煌めく真っ赤な瞳。

 全身から迸る圧倒的な威光。

 

 覇王がそこにいた。

 

 彼女以外のものが視界から消え失せる。ただ歩いているだけだというのに、まるで吸い寄せられるかのように視線がずらせない。

 全員が惚けたまま、微動だに出来なかった。

 

 百を超える人を見ても、彼女は動揺一つ見せない。むしろ、周りが咲に魅せられ、言葉一つ発せない状態だ。シャッター音もフラッシュも一切なく、空気が止まったと錯覚するほどの静寂が訪れていた。

 王威を纏った彼女はその身に集中する視線を悠々と横切り、自然と横に割れる道をゆっくりと歩み進む。

 マイクとカメラを持って固まった取材陣。彼等の頭を占める想いは一つだけだ。

 

 天に座す生粋の王者。

 それこそが彼女の本質だと。

 

 今迄彼女の評価が『人並み以上程度』だったことが信じられない。目の前にいる彼女の存在感は、そこらにいる凡百の人間を遥かに凌ぐ。

 

 人々は畏怖を持って知った。

 

 これが、高校生一万人の頂点──現チャンピオン宮永照の妹にして。

 麻雀界に新たに認められた《牌に愛された子》──

 

 

 

 ──宮永咲‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ほら、上手くいったでしょ?」

『…………はぁああ〜〜…………、物凄く疲れた……』

 

 間も無く、準決勝第二試合が幕を開ける。

 

 

 

 

 









クッソイケメンな咲さんが描きたかった、それだけ。



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